数分ほどしたところで階段から俺は立ち上がった。
「星斗くん、もう大丈夫なの?」
一色が聞く。
「ああ、心配かけてすまんな。そういや、お前って奉仕部と初対面だったっけか」
「うん。てか、あの場に置き去りにするのは勘弁してほしいんだけど。先輩たちも変な空気になってたしさ」
「分かったよ。あとでちゃんと自己紹介でもするか。幸い時間もあるしな」
そう言いながら俺たちは奉仕部の部室に戻った。
「ごめんなさい、少し雪姉に言うことがありまして」
俺の声に比企谷先輩が聞く。
「そうか。それで前から気になってたんだが、その人は……?」
「俺の友達の一色いろはって奴っすよ。ケーキ作りを作ってもらったんすよ」
一色が頭を下げる。
「一色いろはです。よろしくお願いしますね、先輩♪」
このあざとさは俺も見習わなきゃいけないな。ま、性格を知れば知るほど残念になってくるんだけど。
「よろしくね、いろはちゃん」
「……おう」
2人も頭を軽く下げる。ちなみに雪姉には一色のことは以前話している。
それからしばらくして雪姉が戻ってきた。
「なあ、雪ノ下。今日の部活はこれで終わりでいいんだよな?」
雪姉が座ったのち、比企谷先輩が聞く。
「そうね。このあとは由比ヶ浜さんの誕生日を祝うわけだし、奉仕部としての活動はできないわね」
「あのー、結衣先輩。私も行っていいんですかね……?」
一色がおずおずと聞く。
「もちろん! 初対面だけど来てくれると嬉しいし!」
由比ヶ浜先輩、本当に優しいなぁ……。天使に近い存在だからしょうがないね。その姿を見た一色が俺に小声で言う。
「笑顔が眩しいわ。星斗くんが好きになるのも分かる気がする」
「だろ? 俺の初恋の相手は本当に可愛いんだ……。ってお前もしかして俺が由比ヶ浜先輩好きなの気づいてた?」
「さすがに分かるよ。だって星斗くん、結衣先輩の方ばっかり見てるし」
「マジか……。俺ってそんなに分かりやすいやつなんだな」
「分かりやすいってわけじゃないけど、星斗くんの結衣先輩を見る目が普段と違ったからね」
そうしたところで雪姉が声をかけてきた。
「ねぇ、星斗。あなた、もしかして……」
「ごめん。雪姉。隠してたつもりはなかったんだよ。想像通り俺は由比ヶ浜先輩が好きだよ。このタイミングで伝えることになったのは少し不本意だけど」
てか、なんで俺は由比ヶ浜先輩に公開告白してるんですかね。さすがに恥ずかしいんですが。
「やっぱりそうだったのね」
「比企谷先輩には自分で伝えたんだ。協力者がどうしても必要だったから。一色は……。なぁ、なんでお前気づいたの?」
「何その、気づいたらダメみたいな言い方」
文句を言う一色を放っておいて俺は続ける。
「由比ヶ浜先輩には今は答えを求めてない。3人には3人の人間関係があるだろうから。それが片付いたときにまた聞くつもりだったんだ」
雪姉は小さく頷く。
「……なるほどね。少しスッキリしたわ。星斗って何も話そうとしてくれないから」
比企谷先輩も続ける。
「それな。少しは話してくれってときどき思うわ」
「悪かったですよ。それじゃ由比ヶ浜先輩、そして皆さん行きましょうか」
俺の声に笑顔で由比ヶ浜先輩が頷く。
「うんっ!」
マジで可愛いわ本当(語彙力喪失)
その後カラオケには小町ちゃんと比企谷先輩が大興奮で頼み込んだ戸塚先輩、そしてなぜだかついてきた材木座先輩の計8人で向かうことになった。
「着きましたね」
自動ドアが開くと中には小町ちゃんが待っていた。
「おお、小町。先に来てたのか」
「久しぶりだね、小町ちゃん」
「どうもどうも。今日はお招きいただきましてありがとうございます」
「こっちこそ、来てくれてありがとうね」
「いえいえ、結衣さんの誕生日って聞いたら来るしかないですもん」
由比ヶ浜先輩は羨ましそうに小町ちゃんと比企谷先輩を見る。
「こういう妹いたら楽しいだろうなぁ……。あたしの妹にならないかなぁ……」
「弟ならいますよ。雪姉と由比ヶ浜先輩が結婚すれば戸籍上は弟になりますよ」
俺が言うと一色が真顔で答える。
「何トチ狂ったこと言ってんの、星斗くん。ちょっとキモいよ」
事実だけど少しはオブラートに包めよ。
「包んだわよ」
何ナチュラルに俺の思考読んでんですかね、この人。エスパーか何かか。てか、包んでそれかよ。
「それより受付ってまだだよな。ちょっと行ってくる」
「あ、あたしも行く!」
「我も行こう。なぜなら今の我には居場所がないからな」
材木座先輩、先輩より初対面だらけでもっと居場所がないやつが俺の隣にいるんですが。
そんな憐みを覚えながら俺は小町ちゃんに声をかける。
「小町ちゃんと会うのは川崎先輩の一件以来だっけ?」
「はい、そうですね! お変わりないようで何よりです。ところで、そちらの方は……?」
「俺と同級生の一色いろはだよ。最近なぜか俺の思考をトレースすることにハマってるちょっとヤベェやつ」
冗談めかしてそう言ったらめっちゃ怖い顔で睨まれた。
「先輩の妹さんでいいよね。よろしくね、お米ちゃん」
「……お米?」
「小町ちゃんだからお米ちゃん。いいじゃない、可愛くて」
ドン引きした小町ちゃんが俺の方を向く。
「うっわー。この人マジでヤバくないですか?
初対面でいきなりおかしなあだ名つけられたんですけど」
「本当、マジヤベェよな。そういうとこだぞ、一色」
「うるさい」
その声とともに俺と小町ちゃんは沈められた。マジでなんなんだ、この人。
そんな中、雪姉と戸塚先輩が小町ちゃんに話しかける。
「小町さん、こないだはありがとう。助かったわ」
「いえいえ、雪乃さんのお願いですから、いつも兄が迷惑かけてる分、小町でよければお手伝いしますよ」
てか、この子立ち直り早いわ。さすが比企谷先輩の妹。
「なんの話、かな?」
戸塚先輩が声をかける。本当に可愛いよな。一色と中身入れ替えたらさぞモテるだろう。あ、でも戸塚先輩の中にこの人入るのはヤベェわ。戸塚先輩が汚されて比企谷先輩が怒り狂ってしまう。そんなことを考えてたらまた沈められてしまった。解せぬ。
「いえ、こないだ兄と雪乃さんと3人で結衣さんのプレゼント買いに行ったんですよ」
約1名の沈められたクズを横目に小町ちゃんが答える。
「ああ、そうなんだ。ぼくもみんなでお出かけしたいなぁ……」
「兄なら大喜びしますよ。にしても、お兄ちゃんが変な方向にいきそうで心配っ!」
「よく分からないけど、あなたも大変ね。同情するわ……」
「かくなる上は雪乃さんと結衣さんにかかっているのです……」
この2人なら比企谷先輩を真人間に育ててくれそうではあるよな。まあ、あの人なら否定するに違いないが。
そうして受付に向かっていた3人が戻ってきて、俺たちはカラオケルームに入った。
とりあえず各々席に着いたもののなかなか始まりそうにないので、俺が乾杯の音頭を取る。まあ、この場で俺より適任なやつはいないだろう。
「それじゃ、由比ヶ浜先輩。お誕生日、おめでとうございます!」
俺に続きみんながおめでとうを叫ぶ。由比ヶ浜先輩は、
「みんなありがとーっ! じゃ、ロウソク消すね。ふーっ!」
その声に再び歓声と乾杯が上がる。楽しそうでなによりだ。一頻り盛り上がったところで沈黙が訪れる。
「え!? な、なにこの空気!?」
「なんだかお通夜ではしゃいじゃったみたいな気まずさが……」
由比ヶ浜先輩は驚き、小町ちゃんは不安そうになる。
「ここにいる人たちってそもそも誕生日会とか行かないようなメンツなんですよねー。特に比企谷先輩」
「おい、なんで俺を真っ先に引き合いに出すんだ。まあ、事実だけども。でも、それを言うなら雪ノ下だってそうなんじゃないのか?」
「否定はしませんが、その分俺がフルパワーでお祝いしておりますので」
俺の声に雪姉が頷く。
「そうね。いつも感謝してるわ」
比企谷先輩がボソッと呟く。
「なあ、一色。俺のシスコンは許されないのに、コイツのシスコンはなんで認められてんだ……?」
「私にそんなこと聞かないでくださいよ。てか、先輩、やっぱりシスコンだったんですね」
おお、クズコンビが初対面なのにちゃんと会話してる。そんな風に思っていたら一色から脛を蹴られた。痛い。
「材木座先輩は……。失礼ですけど、言うまでもないですかね……」
「うむ。我はそもそもこういうのには誘われん」
とんでもなく悲しい意見が響いた。俺はその空気を変えるために再び由比ヶ浜先輩に聞く。
「えっと……。それじゃケーキ切り分けます? そろそろお腹も空いてきた頃ですし」
「うん、そうだね。あたし、切ろうか?」
「それには及びませんよ。俺とあと1人誰かが手伝いますので」
「それじゃ、僕切ろうか?」
戸塚が聞く。ウェディングドレス着せてケーキの入刀みたいなイメージが脳内によぎる。おっと比企谷先輩みたいな思考になりかけてた。危ない危ない。
「星斗、お前こそわざわざ作ってきてくれたんだろ? なら切るくらい俺がするよ」
と謎の積極性を出した比企谷先輩が立ち上がる。
「そうですか? そう言ってくれるなら今日くらいお言葉に甘えましょうかね」
この先輩、戸塚先輩を取られまいと慌てて立ち上がったみたいだな。
「待ちなさい。比企谷くんだと綺麗に切り分けれないでしょうから、私がやるわ」
雪姉が言う。
「ならよろしく頼む」
「否定しないんですね……」
まあ、雪姉は几帳面だからこういうのを任せるのは一番ふさわしいだろう。
「お前、よく綺麗に八等分できるな」
「別に大したことでもないでしょう」
その姿に驚いた由比ヶ浜先輩と比企谷先輩に俺は言う。
「まあ、さすが雪姉ですね。この何でもできるところとか魅力としては最高ですね」
「うん。ゆきのんってもしかしてA型?」
「何を根拠にそんなことを……」
「だってめっちゃ几帳面だし」
「雪姉はB型っすよ。ちなみに俺も同じです」
「血液型占いに信憑性が出てきたな。お前ら揃って傍若無人じゃん。納得しちゃったわ」
「先輩はどうなんです?」
「兄はA型ですよ?」
小町ちゃんの声にみんなが驚く。
「意外ですね。Aだけはないと思ってました」
「そうね。比企谷くんのおかげで血液型占いのすべてを否定できたわね」
雪姉が微笑みながら言う。
「やめろ。傷ついちゃうだろうが」
「あら、ごめんなさい。もしかしたら複雑な家庭環境があって血液型を偽ってる可能性もあるものね」
「実の妹がいる前でそういうこと言うなよ。実妹じゃねぇってわかったらどうかるかわからんだろ、俺が」
シスコンを撒き散らす比企谷先輩に俺が答える。
「気持ち悪いって言いたいけど、言えないわ。完全ブーメランだし」
「星斗はそのままでいいのよ。ただこの男は変態だけれどね」
「まあ、小町的にはそれもアリなんですけどね。あ、今の小町的にポイント高いかも?」
「良くも悪くも兄妹とかって似ちゃうもんだなぁ」
「小町と兄は血液型こそ違いますけど、性格は割と近いですから。やっぱり育ってきた環境なんじゃないですかね」
小町ちゃんをなんとなく見た感じ、この子も相当比企谷先輩が大好きらしい。
「あ、そうだ! 今度比企谷先輩の家行っていいですか?」
「どうした急に」
「先輩の家って猫いるんですよね。雪姉に会わせたくって」
「まあ、そのうちな」
「ですって。良かったね、雪姉」
「そうね。お邪魔させてもらうわね、小町さん」
「ぜひぜひ、遊びに来てください!」
由比ヶ浜先輩が2つのケーキを口に運びながら言う。
「それにしても、ゆきのんとせーくんの手作りケーキ、おいっしー!」
「俺のはまだまだですよ。さすが雪姉って感じの美味しさですね」
「星斗のも美味しいわ。よく短時間でこれほど作れたわね」
「雪乃先輩、すごいですね。星斗くんはいつもこんな美味しいの食べてるの?」
と一色が聞く。
「今は一緒に住んでるから料理も2人で協力してやってるよ。小町ちゃんは料理とかするの?」
「うちは両親共働きなんで小町が作ってますね。でも、昔は兄が作ってたんですよ」
「ヒッキーがぁ!?」
由比ヶ浜先輩が驚く。
「まぁな。小学6年生レベルなら家事全般できる。いつでも専業主夫として嫁ぐ覚悟はできてるんだ! 絶対働かない! 働いたら負けだ!」
比企谷先輩が高らかに宣言する。
「そうは言っても先輩、なんだかんだ文句言いながら電車の中で目を腐らせて通勤してる先輩の姿が俺は余裕で想像できちゃうんですが、どう思います?」
「やめろよ。マジでそうなりそうだろ」
そう呟く比企谷先輩の目は早くも腐りつつあった。
その後全員が各々プレゼントを渡すことになった。一色と材木座先輩は急に来たこともあり、準備ができていなかったが。
「みんな、ほんとありがとー! 今までで1番嬉しい誕生日かもしんない」
「それは良かったです。自分、飲み物無くなったんで、ちょっとドリンクバーまで行ってきますね。みなさん、何か飲みたいものとかありますか?」
それぞれが飲みたいものをあげていく中で、比企谷先輩が俺に、
「俺も行く。さすがに8本は一人じゃ無理だろ」
と言う。
「確かにそうですね。それではお願いしますね」
そうして俺と比企谷先輩はドリンクバーへ向かった。
その最中、比企谷先輩が俺に呟く。
「てか、お前、思いの外あっさり由比ヶ浜に告ったな」
「言われてみればそうですね。でも、まあ初手に比企谷先輩に言った以上時間の問題だとは思ってましたし」
「俺から見ても少し恥ずかしかったぞ。由比ヶ浜に至っては顔真っ赤だったしな」
「自分的には思ったより恥ずかしさはなかったですね。むしろこれからは迷いなく奉仕部内でも猛アタックできるんで、スッキリしたくらいですよ」
「由比ヶ浜は誕生日プレゼントと同時にとんでもないものを貰ったみたいだな……」
比企谷先輩は腐った目を光らせて苦笑いした。なお、ジュースを運びながら戻っていく際に平塚先生の姿が見えたような気がしたが、平塚先生の名誉のためにもこれには首を突っ込んではいけないと本能的に気づいたので、比企谷先輩を連れて素早くその場を去った。
「ところでです。比企谷先輩。先輩はいつ雪姉と付き合うんですか?」
俺の声に比企谷先輩がかなり驚く。
「バカ、お前、なんで俺と雪ノ下が付き合うことになるんだよ」
「雪姉って可愛いし、優しいからそんな人と一緒にいて惚れないはずがないんですよ」
「優しいってのは疑問が残るな。お前、アイツが俺に対しての言葉の鋭さ知ってるだろ?」
「雪姉なりの照れ隠しですよ。先輩も優しいからあの人は甘えちゃうんです。心当たり、あるでしょう?」
「……まあ、なきにしもあらずってところだな。だが、それが雪ノ下を好きということに繋がるわけじゃないだろう」
比企谷先輩は絞り出すように答える。
「ま、先輩の性格上、俺みたいに好意を伝えられないでしょうし、この辺にしときますかね。でも……たぶん雪姉は待ってますよ」
「待ってるって何をだよ」
「さあ? それは先輩の想像にお任せします」
「お前本当にいい性格してるよな……」
てか、この会話雪姉に聞かれたりしてないよな。雪姉の恥ずかしがる姿は是非とも拝みたいところだが、先輩の人間関係を代償にそれをするのはあまりに性格が悪すぎる。
そうして俺たちはドアを開ける。幸い、俺と比企谷先輩の会話は聞こえていなかったらしく、何事もなかったように俺たちはジュースをみんなに配った。一口飲んだ後、由比ヶ浜先輩が雪姉に話しかける。
「ゆきのん、一緒に歌おうよ。一人だと恥ずかしいし」
「絶対嫌」
その声に比企谷先輩が煽る。
「よせよせ由比ヶ浜。雪ノ下は歌に自信がねぇんだよ。察してやれ」
「そうなの?」
「別に歌うこと自体に抵抗はないわ。ただ、一曲歌いきる体力があるか自信がないのよ」
「でも、俺は雪姉の歌声聞きたいなぁ……」
「星斗に言われたら仕方ないわね。由比ヶ浜さん、一曲だけ付き合ってあげるわ」
由比ヶ浜先輩が喜ぶ。うむ、可愛い。
小町ちゃんは戸塚先輩と歌うようだ。この2人のデュエットとか比企谷先輩的には堪らないものがあるに違いない。
「……もしかして、これ2人で歌う流れ?」
一色が呟く。
「そうみたいだね。一緒に歌うか」
「星斗くんとか……。まあ、他の人、初対面だし仕方ないか」
なんでこの人こんなに嫌々なんですかね。比企谷先輩は材木座先輩とアニソンを歌うようで、「せめて戸塚か星斗と組ませてくれ!」とか叫んでいた。
由比ヶ浜先輩と雪姉がマイクを取る。可愛い2人の動画を撮っていたら一色と比企谷先輩から「こいつ、ヤバ……」と言わんばかりの目で見られた。こんな永久保存版の映像を逃す手はないというのにもったいない。
癒されながらふと思う。由比ヶ浜先輩の誕生日は最高のものになったに違いない。これからもその笑顔を幸せを守り続けよう。由比ヶ浜先輩大好きマンである俺は改めて誓った。
お待たせしました。原作の3巻まで終了しました。この小説的には第1章が終わったところだと思っていただければ幸いです。今後もよろしくお願いします