もし雪ノ下雪乃に弟がいたら   作:黒い柱

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お久しぶりです


奉仕部の夏休み〜僅かな憂鬱のあるサマーキャンプ〜

 試験を終え、由比ヶ浜先輩の誕生日会の余韻も冷めやらぬまま夏休みに入ることになった。雪ノ下家の夏休みは両親の仕事のためか少々特殊な部分もあるが、基本的には一般の学生と同じである(少なくとも自分は)。

 

 そんなこんなで夏休みの宿題を爆速でやっていると雪姉が声をかけてきた。

 

「ねぇ、星斗。少しいいかしら?」

 

 俺はシャーペンを置く。

 

「どうしたの、雪姉。そんな改まって」

 

「星斗、あなたと父さんのやってる仕事を少し手伝わせてもらえないかしら?」

 

 俺が現在やっているのは父が表立ってやりにくい裏の仕事である。県議会議員であるためか、怪しい人たちとの関係が不本意ながら取り沙汰されてしまう立場であるためその方面の処理を俺が行うことになったのだ。こんな大事な仕事を高校生に任せていいものかと思う者も多いだろう。俺もそう思う。が、断るのも居心地が悪いので手伝っているのだ。

 

「ありがたいんだけど、難しいかもしれないかな。俺のやってることは良くも悪くも危険なことだから。まだ陽姉の手伝いの方が雪姉には合ってると思うんだけど……」

 

「そうかもしれないけど、私は星斗を手伝いたいの。それじゃダメかしら?」

 

 雪姉が上目遣いでこちらを見る。やめてください、その可愛いさは俺に効く。

 

 雪姉がそう言ったのは俺を手伝いたいという気持ちももちろんあるだろうが、陽姉や両親に成長したところを見せたいというところが主だろう。

 

「上手くいくか分からないけど、とりあえず父さんには相談してみるよ。ただあんまり期待しないでね」

 

 俺がそう答えたところで携帯が鳴った。しかも俺と雪姉ほぼ同時にである。

 

 平塚先生から送られてきたメッセージに目を通して、俺は雪姉に聞く。

 

「千葉村ボランティアか……。雪姉、どうする?」

 

「見たところ奉仕部は強制参加みたいね。行くしかないでしょうね」

 

 小学生と合同で行われるこのイベントは合宿やキャンプのようなものらしい。ただのボランティアというなら問題はないが、なんとなく一筋縄ではいかない気がしてしまう。まあ、奉仕部でやった依頼で一筋縄でいった依頼などほぼないが。

 

「ねぇ、雪姉。このイベント、本当に行かなきゃダメかな」

 

「仮病使って休むとか言うつもりかしら?」

 

「そこまでは言わないけどさ。でも、なんとなく嫌な予感がしてさ。ただのキャンプならいいけど、どうしても厄介事の匂いがしてしまうんだよ。いかんせん奉仕部絡みだし」

 

 そうは言ったものの、今の段階で俺がどうこうできるという訳でもない。仕方なく俺は明日に向けて準備をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして土曜日になり、キャンプの日を迎えた。俺たちは少し重めの荷物を持って千葉駅に向かった。

 

 駅前では由比ヶ浜先輩が待っていた。薄手のTシャツとホットパンツを着ている彼女の私服姿を見て俺のテンションは大きく跳ね上がる。昨日ごちゃごちゃ考えていたが、それももうどうでもいいわ。こんな可愛い先輩と過ごせるなら忘れていいか。

 

「あ、ゆきのん、せーくん! やっはろー!」

 

「やっはろーです、由比ヶ浜先輩!」

 

「こんにちは、由比ヶ浜さん」

 

 笑顔で手を振る由比ヶ浜先輩。夏休み中はまだ会ってなかったが、やっぱり可愛いものは可愛いな。

 

「せーくん、元気してた?」

 

「はい。先輩こそ元気してましたか? 久しぶりに会えて嬉しいです」

 

「ありがと。ゆきのんはどう?」

 

「ええ。特に問題はないわ」

 

 雪姉がそう答えたときバスロータリーに止まっていたワンボックスカーのドアが開いた。中には平塚先生がいた。

 

「やあ、君たち、久しぶりだね。比企谷はまだみたいだがね」

 

「ご無沙汰してます、平塚先生」

 

 俺の声に平塚先生は満足したように頷いた。

 

「あいつも君みたく素直ならまだいいんだがな……」

 

 そうしたところで比企谷先輩と小町ちゃんが来た。小町ちゃんに引っ張られてる辺り、騙されて連れて来れられた可能性がありそうだ。

 

「比企谷先輩、こんにちはー!」

 

「よう、星斗。てか、奉仕部みんななんでいるんだよ」

 

 平塚先生がため息をつく。

 

「やれやれ、やはり君はメールを見てなかったか。我々も千葉に行くんだよ。奉仕活動としてね」

 

「はぁ?」

 

 比企谷先輩は携帯を取り出してメールを確認しているようだ。

 

「先生、メンバーはこれで全員ですか?」

 

「いや。あと一人来る。もう少し待ちたまえ」

 

 そうしたところで可愛い姿がこちらに向かってくる。戸塚先輩である。

 

「八幡っ!」

 

 笑顔で比企谷先輩に手を振る。比企谷先輩は何とも喜びに満ち溢れた表情に変わる。戸塚可愛い。略してとつかわいいとか考えてそうな顔だ。

 

「戸塚も呼ばれていたのか」

 

「うん、人手が足りないからって。でも、ぼく行っていいのかな?」

 

「いいに決まってるだろ!」

 

 比企谷先輩が今日イチの大きな声で叫んだ。

一気にテンション上がってんなあ。

 

「材木座は?」

 

 比企谷先輩が平塚先生に聞く。

 

「彼にも声をかけたが、断られた」

 

 一色も誘うべきだったかな。いや、あいつのことだし何かと理由をつけて断ってくるに違いない。

 

「さて、そろそろ行くか」

 

 平塚先生に促され俺たちはワンボックスカーに乗る。

 

 比企谷先輩は早々に平塚先生に助手席に連れて行かれ、小町ちゃんと戸塚先輩が真ん中の席に、雪姉、俺、由比ヶ浜先輩が後部座席に座った。この右に姉、左に好きな人の並びってハーレムみたいだな。少し比企谷先輩に申し訳なくなった。

 

「星斗、さっきから鼻の下がやたらと伸びてるわよ」

 

「仕方ないでしょ。姉と好きな人の2人に挟まれてるんだしさ」

 

「せーくん、不意にそういうこと言うのやめてってば。恥ずかしいし……」

 

 そう言って顔を背ける由比ヶ浜先輩。そんな表情されたら、ますます俺の鼻の下が伸びてしまう。

 

「本当に……可愛い先輩ですね」

 

「ああ、もうせーくん! その言い方やめて!」

 

 彼女は俺から少し離れる。そうは言っても大して離れられるわけではないのだが。

 

「星斗、その辺にしなさい。由比ヶ浜さん、困ってるでしょう」

 

 雪姉にそう言われたら引き下がるしかない。

まあ、俺もそれなりに恥ずかしい訳ではあるが。

 

「仕方ないですね。由比ヶ浜先輩、お菓子食べます?」

 

「……うん、食べる」

 

 俺が袋を開けると由比ヶ浜先輩はぽりぽりお菓子を食べ始めた。

 

 車はいつの間にか都会の喧騒から静かな山の中へと進んでいった。しばらくははしゃいでいた由比ヶ浜先輩も俺の肩にもたれかかって寝ているようだ。ていうか、そんな無防備な寝顔見せないでください。

 

「……星斗ったら、本当に由比ヶ浜さんが好きなのね」

 

 そんな俺を見ながら雪姉が少し呆れたように呟く。

 

「やっぱりそう見えるかな」

 

「ええ。姉としては少し複雑な気分だけれど」

 

「もしかして嫉妬? お可愛いこと」

 

 某有名漫画のセリフで俺は答える。

 

「……そういうところは姉さんにそっくりね」

 

「雪姉は可愛いからね。照れてるところも嫉妬してるところも」

 

 俺は雪姉の頭を軽く撫でる。彼女は気持ち良さそうに目を細めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからまもなく千葉村に到着し、俺たちは車を降りた。綺麗な山々にみんなそれぞれ感動しているようだ。かく言う俺もあんまりこういうところに行く機会はないので、憧れはそれなりにある。

 

 憧れに想いを馳せていると、もう一台の車が止まった。自分たち以外にも協力者がいるようだ。

 

「やあ、君たちも来てたのか」

 

 その声とともに車から降りてきたのは、葉山先輩を中心とするリア充グループである。葉山先輩と三浦先輩、あとは戸部先輩、海老名先輩だったかな。普段絡みがないのでかなりあやふやだ。

 

「どうも、葉山先輩。評点狙いですか?」

 

 軽く頭を下げて俺は聞く。

 

「鋭いな。星斗もいい夏休みを過ごしてるかい?」

 

「ええ、それなりに」

 

 ここで平塚先生が号令を出して、俺たちは荷物をまとめてコテージに運び込む。その後、今回の合宿に参加する小学生に対し挨拶をし、オリエンテーリングが始まることとなった。

 

 ワイワイとはしゃぐ子供たちの姿を見て、思わず舌打ちが出そうになる。いや、出ていたのかもしれない。葉山先輩が声をかける。

 

「やけに嫌そうな顔だな」

 

「子供のお守りが嫌ってわけじゃないっすよ。ただ、あの年頃の子供は少なからず厄介ごとを引き起こす。それが面倒臭いだけです」

 

「……君らしいな」

 

「先輩にも心当たりがあるでしょう?」

 

 俺の言葉には答えず、彼は他の生徒に呼ばれたらしく俺の前から姿を消した。

 

 適当に子供たちの手伝いをしていると、やけに大人びた黒髪の少女が一人でいるのが見えた。普段なら気にすることはないが、彼女の姿がかつての雪姉に重なって見えた。それに気づいたのは俺だけではなかったようだ。

 

「……どこにでもこういうのはあるのね」

 

 そう呟くのは雪姉。俺がなんと答えるか迷っていると少女に葉山先輩が声をかける。

 

「チェックポイント、見つかったかい?」

 

「……いいえ」

 

「そうか。じゃあみんなで探そう。名前は?」

 

「鶴見瑠美」

 

「俺は葉山隼人。よろしくね」

 

 彼はそう言って案内していった。その姿を見た比企谷先輩が呟く。

 

「見た、今の? あいつ超ナチュラルに誘ったぞ。さりげなく名前聞き出してるし」

 

「あなたには一生かかってもできない芸当ね。けれど、あまりいいやり方とは言えないわね」

 

 まだなお輪に加われない瑠美ちゃんを見て雪姉が言う。

 

「本当、反吐が出るな」

 

 俺の珍しく乱暴な呟きに比企谷先輩が驚いてこちらを見る。

 

「……意外だな、お前がそこまで怒るなんて」

 

「別に怒ってないっすよ。呆れてるんです。小学生でもやっぱりあるのかと」

 

「小学生も高校生も変わらないわよ、同じ人間なのだから」

 

 そう言う雪姉の目はどこか寂しげであり、俺が最も見たくない目であった。

 

 

 

 

 




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