もし雪ノ下雪乃に弟がいたら   作:黒い柱

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お久しぶりです。なんとか書き終えました


自己流解決策〜なんだかんだで助けようとする弟〜

 俺の僅かな憂鬱をよそにキャンプは進んでいく。昼食のカレー作りが始まるようだ。平塚先生が少し苛立った表情に見えたが、また比企谷先輩が余計なことを言ったのだろう。男子は火の準備、女子は食材の準備と分かれて仕事をすることになった。

 

「はぁ……雪姉のカレーが食べたいな」

 

 俺のぼやきに雪姉が答える。

 

「家に帰ったらまた作ってあげるわ」

 

「ありがとう、雪姉」

 

 そんな2人のやり取りを見ていた比企谷先輩が

 

「相変わらずのシスコンだな」

 

 と呟く。

 

「先輩だって小町ちゃんのカレー食べたいんじゃないですか?」

 

「そう思わなくはないけどな。どっちかっていうと母ちゃんが作るときの方が多いな」

 

「そうなんですか」

 

「ああ。うちのは厚揚げとか入ってたな」

 

 そこに戸部先輩が声をかける。

 

「あるある。竹輪とか入ってるべ、あれ」

 

 比企谷先輩が少し驚く。普段あまり喋らない人から急に絡まれたらそんなリアクションになるよな。

 

「ママカレーってそういうのあるよね。こないだも変な葉っぱ入っててさ」

 

 由比ヶ浜先輩が続ける。

 

「その入ってた葉ってローリエだったんじゃないのかしら」

 

「比企谷先輩、ロリコンとは違いますよ?」

 

「分かってるわ。ナチュラルに思考読むなよ……。どこで覚えられるんだよ、そのスキル」

 

 眉を顰める彼に俺は胸を張って答える。

 

「雪ノ下家長男ですから」

 

「それ言えば済むと思ってんだろ」

 

「先輩もできるじゃないですか」

 

 そう言うと比企谷先輩は軽く笑った。

 

 しばらくしてカレーは火が通るのを待つのみとなり、平塚先生から別の手伝いを命じられることになった。

 

 俺は雪姉と比企谷先輩と一緒に離れたところから眺めていたが、先ほど葉山先輩が声をかけた孤立しつつある少女に目が映った。

 

「カレー、好き?」

 

 またしても葉山先輩が声をかける。彼らしいやり方だ。だが、ここでは悪手に違いない。雪姉と比企谷先輩もため息をつく。

 

「別に……。カレーに興味ないし」

 

 そう言って彼女は離れていく。立場を考えればそう答えるしかないだろう。そんな彼女を横目に葉山先輩は気を取り直して小学生たちに声をかける。

 

「せっかくだし、隠し味でも入れるか! 何か入れたいものがある人!」

 

 小学生が口々に喋りだすなか、由比ヶ浜先輩も手を挙げる。

 

「はいっ! あたし、フルーツがいいと思う!

桃とか!」

 

 なんでそっち側にいるんすかね……。

 

「桃はないでしょう、桃は……」

 

「アイツ、バカか……」

 

 俺と比企谷先輩が呆れていると近くから声が聞こえた。

 

「本当にバカばっか……」

 

 先ほど葉山先輩が声をかけた少女であった。

 

「……まあ世の中は大概そうだ。早めに気づいてよかったな」

 

 雪姉が鼻で笑う。

 

「あなたもその『大概』でしょう?」

 

「あまり俺を舐めるな。大概とかその他大勢の中ですら一人になれる逸材だぞ、俺は」

 

「ま、その『大概』も道具としては便利なんですけどね。平気で切り捨てられるので」

 

「いちいち発想が怖いわ。俺、切り捨てられちゃうの?」

 

「先輩は大概から群を抜いてアレなので大丈夫っすよ」

 

「アレってなんだよアレって」

 

 そんないつものやり取りを繰り返していると、

 

「……名前」

 

 と少女が呟く。

 

「あ? 名前がなんだよ」

 

「名前聞いてんの。普通さっきので分かるでしょ?」

 

「人に名前を尋ねるときは、まず自分から名乗るものよ」

 

 雪姉が睨みつけると、少女は小さな声で答える。

 

「……鶴見留美」

 

「私は雪ノ下雪乃。彼は弟の雪ノ下星斗よ」

 

 俺は頭を下げる。

 

「俺は比企谷八幡だ」

 

「なになに? どったの?」

 

 そう言って近づいてきたのは由比ヶ浜先輩だ。

 

「んで、こいつが由比ヶ浜な」

 

「鶴見留美ちゃんだよね? よろしくね」

 

 彼女は由比ヶ浜先輩に頭を下げたのち、比企谷先輩と雪姉を見て呟く。

 

「なんか、そっちの2人は違う気がする。あの人たちと。私も違うのあの辺と」

 

 まあ、分からんでもない。この2人の先輩がリア充の如く騒いでるイメージとかなさそうだし。

 

「違うってどんな風に?」

 

「みんなガキなんだもん。だから、別に一人でもいいかなって」

 

 由比ヶ浜先輩が答える。

 

「で、でも小学校のときの思い出とか大事だと思うなぁ」

 

 留美ちゃんは空を眺めて答える。

 

「思い出とかいらない。……中学に入ったら他所から来た友達と仲良くすればいいし」

 

「そういう強がりはそんな寂しそうな目で言うものじゃないよ」

 

 彼女の目からなんとなく寂しそうなものを感じ取ったので、思わず声が溢れた。

 

「そう見えるかな」

 

「ええ。それにあなたを仲間外れにしてる子も同じ中学校に入学するのでしょう? だったら同じことが起こるだけよ」

 

 雪姉の言葉には重みがあった。中学にいたあのとき、俺は何もできなかったからだ。学校が違った1年間、俺はなす術がなかった。雪姉のあのときの悲壮感のある後ろ姿は目に焼きついて離れない。

 

「やっぱりそうなんだ。ほんと馬鹿みたいなことしてた」

 

 留美ちゃんが呟く。

 

「何かあったの?」

 

「誰かをハブるのは何回かあったんだけど、それもそのうち終わるし、そしたらまた話したりもする。いつも誰かが言い出してなんとなくそんな雰囲気になるの。そんなことしてたら、いつの間にか今度は私がそうなってた……。別に何かしたわけじゃないのに……。中学でもこんな風になっちゃうのかな……」

 

 雪姉と比企谷先輩が彼女を眺めているのを見て、これは彼女を助けるのが依頼になるだろうと確信した。悲しいかな、俺の予感は当たってほしくないと願えば願うほど当たるもののようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、カレーを食べ終えたのち、由比ヶ浜先輩が小さく呟く。

 

「大丈夫……かなぁ……」

 

 その浮かない表情を見た平塚先生が声をかける。

 

「ふむ、何か心配ごとかね?」

 

「ちょっと孤立しちゃってる子がいたので……」

 

「可哀想だよねー」

 

 葉山先輩と三浦先輩が答える。確かに孤立してはいるが、あれは悪意によるものだろう。

 

「それで、君たちはどうしたい?」

 

「俺は出来れば可能な範囲でなんとかしたいと思います」

 

 葉山先輩の答えに異を唱えたのは雪姉だ。

 

「可能な範囲で……ね」

 

「あなたには無理よ。そうだったでしょう?」

 

 それに対して葉山先輩は俯く。数年前幼馴染を助けられなかったというのを思い出しているようだ。確かにあのときの手は悪手だったが。

 

「雪ノ下、君は?」

 

「これは奉仕部の合宿も兼ねているとおっしゃいましたが、彼女の案件も活動内容に含まれますか?」

 

「林間学校のサポートの一環としてはその範疇に入るだろうな」

 

 雪姉がはっきりと言い放つ。

 

「そうですか。では、彼女が求めるならあらゆる手段を使って解決に努めます」

 

 平塚先生はタバコを吸いながら言う。

 

「助けは求められているのかね?」

 

「それは分かりません」

 

 由比ヶ浜先輩が口を挟む。

 

「ゆきのん。あの子さ、自分も同じことしたみたいだし、助けてって言いにくいんじゃないかな。たぶんみんな話したくても話せない環境なんだよ……」

 

 それに対してみんな黙り込む。

 

「雪ノ下の意見に反対な者はいるかね?」

 

 反対者はいない。もちろん俺も黙ったままだ。ただ、それはこの場でという条件がつくが。

 

「よろしい。では、どうするか君たちで考えたまえ。私は寝る」

 

 立ち去ろうとする平塚先生に俺は声をかける。

 

「先生、このあと2人で話したいことがあるんですが、よろしいでしょうか?」

 

「この場ではダメなのかね?」

 

「はい。その代わり時間はあまり取りません」

 

 平塚先生が仕方なさそうにため息をつく。

 

「ついてきたまえ」

 

「ありがとうございます。みなさん、先に話し合っててください」

 

 俺はそう声をかけて平塚先生の後ろ姿を追うのだった。

 

 先生は人気のないロッジの裏に向かった。なるほど、ここはタバコを吸うにはちょうどいいところだろう。

 

「それで、話とはなんなのかね?」

 

「お騒がせしてすみません。なぜ、あの依頼を受けたのですか?」

 

「……今更説明が必要かね?」

 

「奉仕部の依頼として、というのは嘘ではないと思いますよ。でも、それだとリスクが高いのではないのかなと思いまして」

 

「リスク……?」

 

「はい。万が一、失敗してしまって彼女の孤立がより深まってしまったりしたら、その責任は先生にもある、ということです。もちろん、俺たちにも少なからずありますがね」

 

「君は何を望むのかね?」

 

 平塚先生が怪訝そうにこちらを見る。

 

「簡単です。その責任を俺に押し付けちゃってください。つまり依頼を取り下げた上で俺に一任させてほしい、ということです」

 

「どうしてそのようなことを?」

 

「俺にはちょうどいい解決策があるんですよ。ただ、そのやり方がたぶん却下されると思うので、1人で片付けてしまおうかなと。もちろん、先生も反対するでしょうからお話しするのは避けさせていただきます」

 

 平塚先生はタバコの煙を再び吐いて答える。

 

「君は私がこの依頼を認めたのは奉仕部の活動だから、とだけだと思っているのかな?」

 

「その聞き方だとそれだけではないのでしょうね」

 

「その通り。この活動を通じて何か学び取ってほしいからだよ」

 

 俺は小さく頷き答える。

 

「なるほど。さすが教師らしい答えですね」

 

「それを生徒に言われるとはな。それよりそろそろ戻らなくていいのかね?」

 

 確かに少し長く話し過ぎたかもしれない。向こうの話し合いがどの程度進んでいるのかも気になってきた。

 

「そうですね。そろそろ戻るとしましょう。さっきの俺のやり方は最後の手段です。ですから、先輩たちがまともなやり方を考えついたようだったら当然それを実施します」

 

「そう聞くと君のやり方はまともではないと聞こえるな」

 

「だから言わなかったんですよ。それでは失礼します」

 

 実際、まともかそうでないかと言われたら微妙なラインだ。それを改めて判断するためにも、平塚先生に会釈をしてこの場を後にした。

 

 そうして俺は話し合いの方に戻ったが、どういうわけかそこでは激しい口論が展開されていた。雪姉と三浦先輩との間でだ。

 

「比企谷先輩、何があったんすか」

 

「三浦が雪ノ下に食ってかかってな……」

 

「なら先輩が止めてくださいよ」

 

「無理だろ。あの2人に割って入るとか俺にはキツいわ」

 

 まあ、それもそうだろう。ということで、俺は2人に声をかける。

 

「三浦先輩も雪姉も落ち着いてください。その代わりと言っちゃなんですけど、俺から一つ提案があるんですが、いいですか?」

 

 そう言ってこちらを見る雪姉と三浦先輩に俺はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 




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