しばらく2人で見合ったのち、比企谷先輩が言う。
「……なあ、ここで話すのもアレだから部室、戻らないか?」
「……そうっすね」
そうして俺と比企谷先輩は部室へ戻った。
「遅かったわね」
雪姉が比企谷先輩から野菜生活をひったくりながら言う。
「で、雪姉。話は終わったの?」
「ええ。今から家庭科室に行くわ。全員で」
「家庭科室に?」
比企谷先輩が訝しそうに言う。
「クッキー……。クッキーを焼くの」
と由比ヶ浜先輩。だあもう可愛いなあ、この先輩。
「由比ヶ浜さんは手作りクッキーを食べてほしい人がいるらしいのだけれど、自信がないから手伝ってほしいのだそうよ」
「手伝います。手伝わせてもらいます」
そう答えたのは俺である。その速度たるや、他の3人の口を挟む時間を一切作らなかったほどだ。
「そ、そう? んじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな……」
はにかみながら由比ヶ浜先輩が言う。
「星斗がそう言うならもちろん私も行くわ。ちなみに、比企谷くんに拒否権はないわよ」
「……分かったよ」
そうして俺たちは家庭科室へ向かうのだった。自分的には由比ヶ浜先輩の手伝いができるだけでも十分役得だ。
2人はエプロンに着替えて調理の準備をしており、比企谷先輩と俺はそれを待っている状態なのだが、俺の心の中はヤバいことになっていた。
制服エプロン姿の由比ヶ浜先輩と雪姉、可愛すぎるでしょ。
こんなん耐えろと言うのが無理だわ。ていうか、比企谷先輩はなんでエプロン姿の由比ヶ浜先輩と雪姉見て平気なん? 鋼の理性持ってるん? それともまさか下のアレ、ついてないの?
由比ヶ浜先輩は雪姉にエプロンの着方が良くないと言われ直してもらってるが、その姿もまた、堪らなくいい。ここは天国かよ。
「ねぇ、ヒッキー。家庭的な女子ってどう思う?」
何そのヒッキーってあだ名。めちゃくちゃ可愛いな。
「いいんじゃねぇの。男ならそれなりに憧れるもんだろ」
「そっか。……せーくんは?」
せーくん? 俺のこと? 可愛さで俺を殺す気ですか先輩。
「……最高でふ」
親指を突き立てて言う。それを聞いて由比ヶ浜先輩は袖を捲って気合いを入れる。
「よーしっ! やるぞー」
そして調理を開始する。しかし……
その腕前は暗澹たるものであった。大量のミスを重ね、しかもそれに気づかないまま進めているために、食材はとんでもない姿へと変貌していった。あまりの惨状に雪姉と比企谷先輩は顔が引き攣っている。
だが、待て。確かに由比ヶ浜先輩には料理スキルが絶望的に欠如しているかもしれない。しかし、その程度で由比ヶ浜先輩の可愛さが揺らぐものか。否、その格闘する様でかえって俺の気分は高まっていくのだ。
つまり、何を言いたいか。料理は結果ではなく過程こそ重要だということだ(由比ヶ浜先輩に限る)
そんなことを考えているうちに完成したようだ。
「な、なんで?」
由比ヶ浜先輩は唖然としながら作られた暗黒物質を見ている。
「……食えないものは入れてないはずだから、大丈夫なはず」
俺は意を決して、クッキー的物体に手を伸ばす。が、それを雪姉が遮った。
「星斗、ここは先輩たちに任せなさい」
どうやら俺の身体を案じて言ってくれているようだ。しかし、その誘いに乗るわけにはいかない。
「なら、4人で同時に食べるのはどうだ?」
と比企谷先輩。それに雪姉と由比ヶ浜先輩、俺は頷いた。そして、せーので口に放り込む。
強烈な苦味や不味さが口の中で暴れ始めた。だが、由比ヶ浜先輩が作ってくれた手料理だ。不味いなんて思っても、顔に出すわけにはいかない。
由比ヶ浜先輩と雪姉は今にも泣きそうな顔になっており、比企谷先輩も顔を顰めている。俺は笑顔で食べようとしているが、不味さで掻き消されてしまって、結局無表情になってしまっている。ていうか泣きそうな由比ヶ浜先輩もまた可愛すぎてヤバい。
どうにか食べ終えたのちに、俺は言う。
「うーん、なんて言うかなぁ。独特な味っすよね。それぞれ好みはあるとは思うけど、俺は嫌いじゃないっす。こういうのもアリだと思いますよ」
それを聞いた3人は俺をヤバいものを見る目で見てきた。だって冗談でも不味いなんて言えるかよ、好きな人目の前にしてさ。
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