由比ヶ浜先輩のクッキー(?)を試食したのち、雪姉が作ってくれた紅茶を飲みながら反省点を話し合うこととなった。
「どうすれば、いいかな……」
由比ヶ浜先輩の声に比企谷先輩が答える。
「一番簡単なのはアレだ。由比ヶ浜が料理をしない、そうすればいい」
「比企谷くん、それは最終手段よ」
と雪姉。その言葉に由比ヶ浜先輩が叫ぶ。
「それで解決しちゃうんだ!」
それに雪姉と比企谷先輩が頷くためか、
「うーん、やっぱり才能ないのかなぁ」
と由比ヶ浜先輩が項垂れたところで、俺は手を挙げた。
「あのー、先輩。少しいいですか?」
3人の視線が俺に集まる。
「さっき、俺はあのクッキーがそんなに嫌いじゃないって言ったじゃないですか。あれって先輩に気を遣って言ったんじゃなく、どちらかというと本心なんすよね」
「……マジで?」
と比企谷先輩。まあ、そらそうなるよな。
「マジですよ。由比ヶ浜先輩がさっき作ってくれたクッキーは確かに味に癖がかなりありました。それでも、俺は嬉しかったんです。先輩が作ってくれたという事実が。それさえあれば、自分には何もいらなかった。という訳なんです」
軽くあざとい笑顔を浮かべて言う。大概の女子(年上は特に)はこれでグッとくるはずだが、由比ヶ浜先輩にはどういう訳か効き目がなかった。
かといって、自分としてもこれ以上するのは心臓に悪い。今はこのまま引き下がることしかできない。
「てなわけで、あとは雪姉と比企谷先輩にお任せしますね。俺が言えるアドバイスは以上です」
俺が言うと、雪姉が頷いた。
「なら、私から言えることがあるとすれば、努力あるのみ、よ」
「それ解決策って言えるか?」
「あら、努力は立派な解決方法よ。正しいやり方をすればね」
雪姉らしい答えだ。このある意味脳筋なところも愛らしく感じる。
「由比ヶ浜さん、あなたさっき才能がないって言ったわね?」
「え。あ、うん」
「その認識を改めなさい。最低限の努力もしない人間には才能がある人を羨む資格はないわ。成功できない人間は成功者が積み上げた努力を想像できないから成功しないのよ」
雪姉の正論が静かな家庭科室に響き渡る。彼女らしい。弟としてはそんな風に正論を言えるところがまたいいのだが。
「で、でもさ、こういうの最近みんなやんないって言うし。……やっぱりこういうの合ってないんだよ」
由比ヶ浜先輩は作り笑顔で言う。惚れた男としては由比ヶ浜先輩にはそんな笑顔はやめてほしいと思ってしまう。彼女には心からの笑顔を見せてほしいのだ。そこに雪姉の容赦ない正論が突き刺さる。
「……その周囲に合わせようとするのやめてくれるかしら。ひどく不愉快だわ。自分の不器用さ、無様さ、愚かしさの遠因を他人に求めるなんて恥ずかしくないの?」
普通ならここで涙を浮かべて「帰る」と言ってしまうところだろう。でも、俺にはそれをしないだろうという確信があった。
「……か、カッコいい……」
「「……え?」」
雪姉と比企谷先輩は由比ヶ浜先輩の答えに唖然とする。が、これは自分には予想通りの展開だ。いや、仮にこの雪姉の毒舌でへこたれてしまうようなら、それはそれで弱った由比ヶ浜先輩を優しくして距離を詰めるという展開を作れる。つまり、雪姉にバトンを渡した時点で、どう転んでも自分の得になるのだ。
雪姉は初めての反応に戸惑っているようだ。
「な、何を言っているのかしらこの子……。話聞いてた? 私、これでも結構きついこと言ったつもりだったのだけれど」
「ううん、そんなことない! 確かに言葉はひどかったし、ぶっちゃけ軽く引いたけど……」
彼女は雪姉を見つめて続ける。
「でも、本音っていう感じがするの。ヒッキーやせーくんと話しているときも、ひどいことばっかり言い合ってるけど……ちゃんと話してる。あたし、人に合わせてばっかりだったから、こういうの初めてで……」
そして言葉を切って、雪姉にさらに近づく。
「ごめん。次はちゃんとやる」
その真っ直ぐな瞳に雪姉は言葉を失ってしまう。まあ、あんなに真っ直ぐ見られたらそら何も言えなくなるだろうなぁ。自分の場合は好きな人だというのが大きいからかもしれないが。
「……正しいやり方っていうのを教えてやれよ。由比ヶ浜もちゃんと言うこと聞け」
空気を読んだ比企谷先輩が言う。それに続けて雪姉も、
「一度お手本を見せるから、その通りにやってみて」
と言って再び教え始める。こうして、由比ヶ浜先輩もそれを真似して依頼終了……とはいかなかった。そんな中で黙っていた彼が打開策を生み出すのだ。
だいぶ間隔空きましたが、またぼちぼち再開していきたいと思います。
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