もし雪ノ下雪乃に弟がいたら   作:黒い柱

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お久しぶりです。今回は原作にはない弟の日常編となります。


番外編〜弟の華麗なる日常〜

 愛しの由比ヶ浜先輩とのクッキングタイムのあった週の日曜日、俺はいつも通り雪姉の家で過ごしていた。

 

 自分は家族と確執があるというわけではない。むしろ、かなり愛されてるレベル。雪姉の家での外泊が許可されているのも、両親が雪姉を心配しているからである。

 

 さて、今は朝の6時半だ。休日なためもあってか、雪姉はまだ夢の中だ。一方、俺は可愛らし過ぎるその寝顔から断腸の思いで離れて朝食の準備をしている。なぜこんなことをしているのかと言うと、雪姉の笑顔が欲し過ぎるのと休日くらいは休ませるべきと思ったからである。もちろん、これは内緒である。正直に言ったら、絶対にやらなくていいと言われるからだ。

 

 とりあえずフライパンに油を敷き、卵を入れる。あまりホテルのような器用な朝食は作れないため、とりあえず目玉焼きハムサンドでも作ってみることにしよう。

 

 トースターに入れていた食パンが焼き上がったところで雪姉が起きてきた。

 

「……おはよう、星斗」

 

 寝ぼけ眼で挨拶してくる姉が可愛すぎて昇天しそうだ。それを隠しながら俺は答える。

 

「おはよう、雪姉。朝ごはんそろそろできるから待っててね」

 

 そう言ってフライパンから目玉焼きをレタスを載っけた食パンの上に載っける。その上にハムとマヨネーズをかけてもう一枚の食パンを載っければ完成である。非常に簡単なのでぜひ試してみては(なんの話だ)

 

 テーブルにご飯を置いて言う。

 

「はい、できたよ。それじゃあいただきます」

 

「いただきます」

 

 未だに寝ぼけ眼の雪姉と手を合わせて食べ始める。

 

「別にいいのに、わざわざ作ってくれなくても……」

 

 申し訳なさそうに雪姉が言う。

 

「いいんだよ。俺がやりたくてやってることなんだから。それに住まわせてもらってるんだから、朝食くらい作らないと。雪姉のやつには遠く及ばないだろうけど」

 

「そんなことないわ。私としては星斗が作ってくれただけで、どんな朝食よりも優れていると思うわ」

 

「弟冥利に尽きるありがたい言葉だね。テーブルがなかったら、抱きしめに行ってたよ」

 

 それに対して雪姉は可愛く笑う。

 

「もう、星斗ったら。ところで、日曜なのにやたらと早く起きたみたいだけど、このあとどうするの?」

 

「せっかくだし近くをランニングでもしてみようかな。雪姉だってブクブク太った弟の姿は見たくないでしょ?」

 

「運動不足でブクブク太って情けない姿になってても星斗は素敵よ?」

 

 あくまで我が姉は弟を全肯定するつもりらしい。

 

「でも、ほら、雪姉には一番かっこいい姿を見てほしいし。そのためだったら、朝6時だって起きるよ」

 

 我ながらシスコンだなぁ。けど、これは一生治らないだろうな。

 

 朝食を片付けて、スポーツウェアに着替えて外に出る。その姿に笑顔の雪姉が手を振ってくる。即興の目玉焼きハムサンドは雪姉にはとても嬉しいものだったらしい。あの姉なら、由比ヶ浜先輩みたいなご飯作っても喜んで食べそうだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 軽く準備体操をして、走り始める。あんまり走っても疲れるだけだろうから、2、3キロで十分だろう。

 

 穏やかな朝の空気を吸いながら俺は走る。何も飾り気のない単純作業だが、こういうのは結構好きだ。頭を空っぽにしてかえって思考がまとまるのを感じることもあるからだ。

 

 住宅街を抜けて小さな公園に近づく。お爺さん方がゲートボールとかに興じているところにおはようございますと挨拶をし、走り抜けようとしたところで思わぬ人物に出会った。

 

「あっ、せーくんじゃん、おはよ〜」

 

 犬を連れた由比ヶ浜先輩だ。朝から愛しの先輩に会えるとか早起きは三文の徳どころじゃない徳が降ってきてるんですが。

 

「おはようございます、由比ヶ浜先輩。お散歩ですか?」

 

 駆け寄ってきた先輩に言う。

 

「うん、そう。せーくんは?」

 

「朝のランニングですよ。ほら、体育の授業とかでカッコ悪い姿見せる訳にはいかないんで」

 

 嘘である。この男、雪姉や由比ヶ浜先輩から好かれたくてやっているだけである。

 

「でも、せーくん、そんな運動苦手な風には見えないよ?」

 

「そう言ってもらえると嬉しいです。まあ、今朝は天気も良いので、走ってて気持ち良さそうって思ったのもありますね」

 

 会話してるだけで心臓バクバクが止まらない。朝から幸せすぎてヤバい。それを誤魔化すために由比ヶ浜先輩と再び歩く。

 

「そうだ、ゆきのんに改めてお礼言ってて。この前は助けてくれてありがとうって」

 

 この前、というのは、金曜日の昼休みに由比ヶ浜先輩の友達が由比ヶ浜先輩を責めていた時に、比企谷先輩と雪姉が庇ったことを言っているのだろう。由比ヶ浜先輩はあのときありがとうは言ったようだが、彼女にとってはそれだけでは足りなかったらしい。

 

「全然いいっすよ。自分も雪姉に友達ができたみたいで嬉しいっす。ていうか、そのゆきのんって呼び方可愛いっすね」

 

「ホント? ゆきのんはあんまり嬉しそうじゃなかったから、ダメなのかと思ってた」

 

「それはアレっす。照れ隠しってやつですよ。16年過ごしてきた自分が言うんだから間違いないです」

 

 と言ったところで足元に犬がすり寄ってきた。

 

「これもまた可愛いっすね」

 

「サブレって言うんだ〜。可愛いよね。そうだ、せーくんって犬派?」

 

「よほどのやつじゃなきゃ、動物全般好きっすよ」

 

 本音を言うと、由比ヶ浜先輩が一番好きっす。

 

「へぇ〜そうなんだ。どうりでサブレが懐いてるんだね」

 

 まあ、昔から動物には好かれるんだよね。人にも割と好かれる方だけど。

 

 ていうかこうやって歩いてると、他の人から見たら、夫婦かカップルみたいじゃね。そう思ってたところで、由比ヶ浜先輩が叫んだ。

 

「あ、ヒッキーじゃん、おはよー」

 

 現れたのは比企谷先輩だ。運動着のような姿を見ると、こちらもランニングのようだ。それに気づいた先輩はゆっくり近づいてくる。

 

「や、星斗と由比ヶ浜じゃねーか。お前らも散歩か?」

 

「うん、私はサブレの散歩」

 

「俺は普通にランニングっす。先輩もですか?」

 

「まあな。ていうか、その犬、サブレっていうんだな……」

 

「うん、可愛いでしょ?」

 

 由比ヶ浜先輩がサブレを抱えて比企谷先輩に近づく。むっ、羨ましい。

 

「まあ、そうだな。ていうか、アレだ、お前らそうやって歩いてると、なんかカップルみたいだな」

 

「ちょっ、ヒッキー!」

 

 爆弾をぶつけた比企谷先輩に対して、由比ヶ浜先輩が少し顔を赤らめて言う。それに対して、びっくりした俺は先輩に訳の分からないことを口走る。

 

「先輩! 恥ずかしいっす。その腐った眼球スプーンでくり抜いて神棚に飾りますよ!」

 

「なんか失礼なのか敬ってるのか分からない罵倒だな!」

 

「すいません、びっくりして雪姉の真似をしてしまいました」

 

「いや、アイツならくり抜いてやつをゴミ処理場に持っていってしっかり燃やすところまでやりそうだな」

 

「あーそれは確かに。ていうか、ヒッキーごと燃やすとか言い出しそう」

 

 3人揃って比企谷先輩の扱いの雑さが明らかになったところで、

 

「それでどうする? この辺りで解散する?」

 

 と由比ヶ浜先輩。

 

「せっかく会った訳ですし、しばらく歩きましょうよ、お喋りでもしながら。なんなら喫茶店でも入ります?」

 

「こんな時間から空いてる喫茶店とかねぇよ」

 

 と言いつつ比企谷先輩も満更ではなさそうに頷く。

 

「そうだね。じゃあ何話そうか」

 

「いざ何話すかって言われてもな。まあ、思いついた話題、適当に話せばいいんじゃね」

 

 と比企谷先輩が言う。それからしばらく、テレビの話や俺の姉自慢など、さまざまなことを話した。その間、思ったのが3つある。

 

 1つは由比ヶ浜先輩が可愛すぎることだ。これは言うまでもない事実であり、もはや読者でそれを分かっていない人はいないはずだ。

 

 2つ目は比企谷先輩の話が意外にも面白いことだ。ボッチでコミュ症だと思いきや、話し始めるとボキャブラリーがかなり多くて分かりやすく感じた。

 

 3つ目は雪姉も来ればよかったということだ。持久力が低いためか、ランニングなどはあまり好きではないと言っていたが、こんなに楽しいならもっと強く誘うべきだったと、少し後悔した。

 

 こうやって穏やかな朝の風に吹かれながら、俺の日曜の朝が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書くのが思いの外楽しくて、字数がいつの間にか膨らんでました。
また、しばらくしたら続きも投稿するので、楽しみにしていてください。
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