ウォータースライダーを滑りながら叫んでいるリサ達の悲鳴を聞きながら俺はその滑り口にあるボートに腰を下ろす。
ウォータースライダーに乗るのはこれが最初だが、激しいコーナーが何度もあり、中々にスリルを味わえそうな構造になっていた。
「まあ、こんなカーブだったら仕方ないか」
彼女達が下のプールに到着した数秒後に、店員さんがボートごと俺を押し出す。
最初はゆっくりと流れて行っていたが、沢山の激しいコーナーに差し掛かると、急激に加速しだした。
内心驚きながら風を感じる。
「こんな激しい勢いだと何時かボートから振り落とされて転落事故でも起きても可笑しくないだろ…」
俺は苦笑いを浮かべながら背後を振り向き、プールサイドまでの高さを視認する。
激しいコーナーが沢山あるところを抜けると、ゆっくりとしたコースを流れる。
随分と長いコースだなと思いながら、これから流れるだろうコースを背筋を伸ばして覗く。
すると、最後には急角度になったコースがあった。
…これでは、白金さんは気絶してても可笑しくないと思うのだが。
俺は白金さんに同情しながら、最後のコースを滑り落ちていく。
「これも悪くない、な」
不意に出たその言葉に驚きながら、密かに笑みを浮かべる。
勢いよくプールに着水すると、目にかかっている湿った髪をかき上げて溜息を吐く。
そして、プールサイドに上ってリサ達の元に近づく。
こちらに気づいたあこが駆け寄ってきて「楽しかった?」と尋ねて来た。
俺はあこから視線を逸らして「ああ。…楽しかった」と言った。
「本当!?良かった~」
あこはホッとしたようにそう言った。
「…何でそんな事を?」
「だって楓兄、滑っている間ずっと無表情だったんだもん」
「…もしかしたら叫んだ方が良かった?」
「当たり前だよ!」
俺はあこの気迫に驚きながら、「そ、そうか」と言った。
あんな公衆の面前で叫ぶのは気が引けたが、叫んでも良いのか…。
「まぁ、随分と楽しませてもらったよ。…出来れば」
「出来れば?」
あこが俺の事を見上げて首を傾げる。
俺は「いや」と言って彼女の傍を通り抜ける。
出来れば、母さんとも行ってみたかった。
もし、母さんともっと悔いの無いように生きていれば…。
俺はその考えを頭を振って外に追い出して前を向く。
可能性の話はしないようにしたじゃないか。
結局のところ、俺は今を生きているのだから。
「…それで、次はどこに行くの?紗夜」
「流れるプールですね。人気の場所ですので、素早く行ってしまった方が良いと思います」
あこはそれを聞くなり白金さんを連れてさっさと行ってしまった。
その後をリサ達が付いて行く。
俺はその背を見ながら紗夜と歩く。
「…随分と詳しく調べている様だな」
「ええ。…このようにRoseliaの皆と出かけるのは、初めてですから」
俺は「そうか」とだけ言って彼女から視線を逸らす。
すると、彼女は移動して俺の視界に入ってきた。
彼女の水着が視界に入り、俺はすぐさま視線を逸らす。
「何で私の事を見ようとしないんですか」
「…何でもない。気にするな」
「何でもないなら質問に答えてくれてもいいでしょう」
「…男に水着をじろじろ見られるのは嫌だろ」
「…別に波谷さんになら良いですよ」
俺は驚きのあまり、彼女の事を見つめてしまった。
彼女は赤面しながら俺の事を見つめていた。
俺はふっ、と息を吐く。
「な、なんですか」
「別に何でもない」
俺は彼女に背を向け、「さっさと流れるプールに行くぞ」と言った。
彼女は渋々頷いて歩を進める。
「…まったく、男にそんな事を言うものじゃないぞ」
俺は彼女の背後で顔に熱が籠っているのを感じながら呟く。
暫くして、人が密集している流れるプールに着き、リサと合流する。
そして、人が流れてこないタイミングを見計らってプールの中に入る。
冷たい水に急に触れた所為か、一瞬だけ筋肉が硬直した。
「…危ない。やっぱり、準備運動はするべきだったか」
そうぼやきながらプールの流れに身を任せようと身体中の力を抜いた瞬間、「あっ…!!」という白金さんの声が背後から聴こえてきた。
俺はその声が聴こえてきた視線を送り、白金さんの様子を確認する。
白金さんは苦悶の表情を浮かべながら、片足で何とかプールの底を歩いていた。
俺は直ぐにプールサイドに上がり、白金さんの腕を掴み、一気に引き上げる。
彼女はプールサイドにへたり込む。
「大丈夫ですか?」
「は、はい…。少し足が吊ってしまっただけなので…」
彼女は安堵した表情を浮かべてそう言った。
「そうですか。…なら良かったです」
俺は彼女に背を向けて、「…本当に良かった」と、彼女に聞こえないような声量で呟く。
もし、彼女が死に至ったとまで行かずとも、意識を失ってしまっていたら、俺はまた自分を嫌ってしまっていただろう。
そうなれば、また同じく自殺をしてしまっても可笑しくない。
「…さて、白金さん。何処か痛めた場所はありませんか?」
振り向いて彼女に問う。
行き成り腕を引っ張ってしまったのだから、何処か痛めてしまっているだろう。
しかし、彼女は「は、はい…」と言って立ち上がった。
「…そうですか。それなら良かったです。…行き成り腕を引っ張ってしまってすみませんでした」
彼女にそう言ってから背を向けて、休憩をしようとベンチに歩を進めた。
何故か彼女は俺に付いてきて、俺の横に腰を下ろした。
「…何で付いてきたんですか?」
「あっ…その…す、すみません…」
彼女は顔を俯かせて、膝に手を置きながらそう言った。
明らかに落ち込ませてしまった。
彼女は極度の人見知りである上に、俺とはあまり話したことも無い。
そうなると、ちょっとした言葉でも傷ついてしまう。
「…すみません。落ち込ませてしまったようですね」
「い、いえ…」
「ただ単に、俺に付いてきた理由を聞きたかっただけなんです」
俺は俯いたままの彼女の顔を覗き込むようにして、笑みを浮かべた。
彼女は意を決した表情で、顔を上げて言葉を紡ぐ。
「波谷さんとは、あまり話したことが無かったので…」
「話してみたかった、と」
「は、はい…」
「…良いですよ。少し休憩がてらお話しましょうか」
そうは言ったものの、何から切り出せばいいのか分からない。
彼女が勇気を出して俺と話そうとしたのだから、何か話題を切り出さなければ…。
そう思って思考を巡らせていると、彼女が口を開く。
「あの…波谷さん」
「はい、何ですか?」
「波谷さんは、何か…趣味、とか有りますか…?」
当たり障りのない質問だったが、何も話さないよりかはマシだと、そう思いながら心配そうに俺を見つめてくる白金さんを見つめ返す。
彼女はハッとすると、頬を赤らめて俺から視線を逸らす。
「俺の趣味は読書です。…特段何かある訳では無いのですが、ね」
「そう、なんですね。私も、読書は好きです…」
「そうですか。読書は楽しいですよね」
「…はい」
彼女はそう言って俯いてしまった。
そして、また膝に手を置く。
緊張しているのか、その手を握り締めていた。
俺は彼女の様子を見て、どうしたものかと空を見上げる。
「…あの、波谷さんはゲーム、とかに興味、ありますか…?」
「ゲーム?…そうですねぇ、少しだけありますね」
「でしたら…来週の日曜日、一緒にネットカフェで…ゲームしませんか…?」
俺はその誘いを断る理由も無く、直ぐに承諾した。
すると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「…さて、そろそろ戻らないと彼女達が心配しますね」
俺はそう言って立ち上がり、リサたちの元に向かう。
彼女は俺に釣られるように直ぐに立ち上がり俺の後ろに付いてきた。
それから、暫くして日が暮れた頃、俺たちはトコナッツパークの外に出た。
目の前で皆が談笑していながら歩いているのを背後で眺める。
「今日は楽しかった。…だから、もう二度とこの幸せを失わせない。…たとえ、俺が死のうとも彼女達の幸せだけは守り抜く」
俺は赤い夕陽から顔を俯かせて、握り拳を作る。
「楓、どうしたの?」
そう言いながら俺の顔を覗き込んでくるリサの顔に驚きながら後ずさる。
俺は「何でもない。大丈夫」と言って、心配そうに見つめてくるリサの頭に手を置く。
「…えっ」
リサは頬を赤らめながら、俯いていた。
俺はその姿に疑問を抱きながら、微かに残るリサの髪の質感に、彼女の頭を撫でてしまったのだと気づく。
不意に出たその動作の羞恥心からか、顔がどんどん熱くなっていくのを感じ、彼女から顔を背けて「…行くぞ」とだけ言う。
彼女は「…うん」と言って俺の服の裾を掴みながら背後を歩く。
その動作に胸が苦しくなるのを感じる。
「…その手を離してくれ」
「…こういう事、あまり好きじゃなかった?」
俺はその問いに何も答えないまま、口を手で隠しながら、無言で皆の元に向かう。
その間は数分間だけのものだったのかもしれないが、俺にとってはコンマ以下の時間に感じられた。
約二か月間明けの投稿…。
白状します。
確りゲームをしてサボってました。申し訳ありませんでした。
これからは投稿ペースを上げれたらいいなと思っています。
では。