約束の日曜日になり、お義父さんから預かった財布をポケットに入れ、白金さんとの集合場所である駅前に向かう。外に出ると、爽やかな風が俺の脇を通り抜けていった。今日は夏にしては少し気温が低く、半袖で肌寒いぐらいだ。「寒いなぁ…」と愚痴を零しながらかれこれ10分程度歩き、集合場所に到着すると、噴水の周りにあるベンチに座りながら周囲をキョロキョロと見回している白金さんを見つけた。
俺が彼女のもとに向かうと、向こうも俺に気づいたようで、ベンチから立って周囲を気にするように見回すと、小さくこちらに手を振る。
「ごめんなさい。お待たせしてしまいましたね」
「い…いえ…そんなことは…。時間…丁度ですし…」
彼女はいつもの白と黒を基調としたワンピースではなく、紺色のワンピースを着ていた。
俺は羽織っていた黒いシャツを脱ぎ、白金さんに差し出す。
「寒くないですか?良ければ使ってください」
「あ…ありがとう…ございます」
白金さんは微笑んでそれを受け取り、肩を狭めて羽織ると、少し頬を赤らめた。
「ふふ…楓さんの…匂い…」
「…?」
意味ありげに笑い声を小さく漏らした白金さんを訝しむも、そんなことは頭の片隅に追いやる。
「そ…それじゃあ…早速、行き…ましょう」
俺は頷くと、白金さんの側に立ち、彼女について行く。
ネカフェに行くまでの道中、俺と白金さんとの間には気まずい沈黙が支配していた。その上、彼女は何とか話題を作ってくれようとしていたが、視線を合わしてくれない。
何かしてしまったのだろうかと悩んでいると、白金さんが口を開いた。
「あ、あの」
「どうしました?」
「そ、その…波谷さんは…ゲームとか…あまりやらない…んですよね?」
「ええ。まあ、そういうものに触れる余裕がなかったと言いますか」
「そ…そうなん…ですね」
「慣れてないので今日は迷惑をかけるかもしれません」
少し苦笑を浮かべると、白金さんは「誰にでも…初めてはありますから…私と一緒に、頑張りましょう…!」と言って手を後ろで組んで微笑んだ。
「ええ。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく…お願いします…。あっ、もう着きましたね…」
振り返ると、オレンジ色の看板を入口に設置しているネカフェが目に入った。
白金さんは直ぐにその中に入り、俺も慌ててその後に続く。
彼女は少し覚束無い手つきで受付を済ませると、パソコンが大量に二列に並んでいる場所の席に着く。俺はその隣に座り、キーボードのEnterキーを押してホーム画面をつける。ホーム画面にはゲームのアイコンが
左側に大量に表示されている。
「あの、どのゲームやるんですか?」
肩をつついて白金さんに尋ねると、彼女は「は、はい!」と言って驚いてしまった。
そして赤面して俯き、気まずそうに小声で「NFOというゲームで…」と言った。
俺はそのタイトルのアイコンを見つけると、彼女に感謝を伝え、それを起動する。
「ログイン画面が出たら…アカウントを作って…ログインしてください」
「はい」
彼女の言う通りにしてログインすると、紺一色の背景に人型のアバターが映し出される。
俺は何も考えずに初期設定のままアバター設定を終わらせる。
すると、画面が暗転し、突然「始まりの町」と言わんばかりにレンガ造りの家や鍛冶場が建てられている場所に放り出された。
「あっ…アバター設定まで終わったら…そのまま…そこで待っていて下さい…直ぐに迎えに行きます」
俺はキーボードから手を離し、椅子の背もたれに寄りかかると、白金さんが「大丈夫…ですか…?」とこちらを向いて尋ねてきた。
「ええ。今のところは」
微笑んで頷き、背筋を伸ばすと、身体のあちこちが音を鳴らす。
息を吐いてキーボードに手を置く。
「それより、もうすぐ着きそうですか?」
「はい…もうすぐ…」
俺はモニターに視線を飛ばすと、画面右端から白金さんのものかもしれない女性のアバターが現れた。
『こんにちは(*^^*)』と送ってきたので、それが白金さんのものだとわかった。
俺も同じように『こんにちは』と送るつもりだったが、『konnichiha』と送られてしまった。
何故英語表記になっているのか分からず、キーボードを片っ端から押していると、白金さんが横から「半角/全角 漢字」というキーを指さして「これを押せば…ローマ字表記に…なるはずです…」と言った。
それを押して『こんにちは』と入力すると、その通りに送られた。
『何とか送れたみたいですね('ω’*)』
『はい、ありがとうございます』
『いえいえヽ(*゚∀゚*)ノそれで、NFOに誘った理由なんですが、今ジューンブライドイベントが開催されていて、そのイベントで貰える限定装備が欲しくて…』
『分かりました』
「それじゃあ、早速イベントを受注しに行きましょう(`・ω・´)私についてきてください』