俺は白金さんの言う通りに後について行き、町の中心に建てられた教会の中に入ると最奥に設置されている講壇に立っている神父の姿が目に入った。
『あの人に話しかければクエストを受注できます。早速行きましょう(`・ω・´) 』
『はい』
彼に声をかけると彼は笑顔を浮かべる。
『おや、これはこれは。旅のお方、よくぞここに来てくださいました。私の依頼を耳にしてここに来て下さったのですよね?』
『はい』
『それはありがたい!…おや、あなた方はお二人で旅をしておられるのですか?』
『はい』
二文字で淡々と返事をしていると神父は町の裏山に視線を向ける。
『実は、そこに巨大なオークが住み着いてしまいまして。…近々ここで式を挙げる二人が安心できるように、彼を追いやってはくれませんか』
白金さんはその依頼を二つ返事で受け、神父は頭を下げる。
『ありがとうございます。神のご加護があらんことを』
『これでクエストを受注できたので、早速町を出ましょうヽ(゚∀゚)ノ』
白金さんはそう言って教会の外に出る。
俺も後に続き、彼女と共にこの町を後にする。
そうして平原に出ると白金さんは立ち止まって青いスライムを指さした。
『あそこにいるスライムで少し戦闘の練習をしましょう(`・ω・´) 』
『戦闘と言っても何をすればいいのか…』
『一先ずスキルが割り振られているキーを探してみてください。スキルアイコンの上に写っている筈です」
モニターの画面全体に目を通してみると下部分に横一列にアイコンが並んでいるのが見えた。
これが彼女の言っているスキルアイコンというやつだろうか?
その上に視線を移してみると数字がそれぞれに割り振られていた。
試しに『1』のキーを押してみるとそれに対応したアイコンが暗くなり、アバターがエフェクトを出しながら剣を振っていた。
『これがその【スキル】というものですか?』
『はい。その技を今度はあのスライムに当ててみましょう。慌てなくても大丈夫です(◯’ω’◯) 』
俺がそれに近づくとそれも俺に気付いたようで跳ねて身体をこちらに向ける。
先程と同じキーを押すと同じ技がスライムに当たり、その身体の真下に写っている緑色のバーが半減して黄色に変色した。
『敵の攻撃が来ます。気を付けてください!』
彼女のその言葉の直後にスライムが体当たりをしてきた。
画面右上のHPバーとやらが小さく削れる。
『右上のバーが無くなると戦闘不能になってしまうので気を付けてください。では、先程と同じ技を打って倒しましょう( 'ω’) /』
俺は白金さんの言う通りに同じ技でスライムのHPバーを削り切った。
すると明るいBGMと共に左上の数字が1から3に増えた。
『レベルアップおめでとうございますヽ(゚∀゚)ノこの調子でもっとレベルを上げていきましょう!』
どうやら今のがレベルアップというらしい。外見に関しては変化はないようだが、何か他にそうなったところがあるのだろうか。
良く分からないがとりあえずこのままレベルを上げてみよう。
俺は近くにいたもう一体の同じ種類のスライムに剣を振り下ろすとさっきよりもバーが多く削れたことに気が付いた。
つまりレベルを上げれば上げるほど敵に与えるダメージが多くなるということだ。
その仮説を信じて数分間ひたすらスライムを倒し続けた。
レベルは20まで伸び、スライムに与えるダメージも稀に一撃で倒せるほどに上がった。
溜息を吐き、椅子の背もたれに寄り掛かってヘッドフォンを首にかける。
「少し…休憩しましょうか…?レベルも…沢山上がりましたし…。休憩が終わったら…オークを倒しに行きましょう…!」
白金さんは俺と同じようにヘッドフォンを首にかける。
目頭を抑えながら「そうですね」とため息交じりに呟き、重い腰を上げてドリンクバーの前に立つ。
「しくった。白金さんに何飲むか聞いとけばよかった」
自分に行いに頭を抱えたくなる。
仕方ないので水を2杯持って戻ると白金さんはNFOを再び始めており、キーボードを凄まじい速度で叩いていた。
魔が差し、コップを彼女の頬に当てると何も言わずにビクッとする。
あまりにもいい反応をするので思わず笑ってしまった。
「…白金さん?」
黙ったままの彼女の様子を伺うように顔を覗き込むと目に涙を浮かべており、慌てて謝る。
「ごめんなさい」
「い、いえ…お気になさらないで…ください…」
彼女はそう言って涙を拭うと微笑む。
申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらもコップを彼女のデスクに置き、椅子に腰を下ろす。
NFOのチャット上でも謝罪の言葉を送ると白金さんから直ぐに返信が来た。
『大丈夫です(`・ω・´)』
視線だけ白金さんの方に向けると彼女と目が合う。
彼女は焦った様に視線を一度逸らすと顔を仄かに赤らめながら微笑む。
怒っていないのだと分かり、ホッとして自然と笑みが零れる。
「良かった…」
そう呟くとモニターに視線を戻し、キーボードに手を置く。
チャット欄に視線を飛ばすと白金さんから感謝の文が送られる。
『お水ありがとうございます(◯’ω’◯)』
『いえ』
『それでは、オークを倒しに行きましょう!('ω’*)』
白金さんは先導して件の裏山へと向かう。麓のモンスターはレベル上げのお陰でそこまで苦戦せずに倒して進めたが、頂上付近となると話は変わってきた。
俺一人では太刀打ちできないようなものも現れ、その時には白金さんに手を貸してもらう事もあった。
彼女の力を貸してもらいながら進むとオークが住まう頂上に到着する。
まるで戦闘するのを想定したかのような、平らに整地された円形のステージの中央に鎮座している、緑色の肌をした巨体を持つオークが視界に入る。
『あれが今回のボスです!強力なスタン攻撃をしてくるので気を付けて戦いましょう!』
それはこちらに視線を送ると腰を上げ、雄叫びを上げて向き直る。
一秒にも満たないスタンを受け、戦闘が開始する。
彼女からバフを貰い、それとの距離を詰めようとするもオークはその手に持つ刀を薙ぎ、こちらを近づかせない。
それを幾度となく繰り返し、攻めあぐねているとオークは飛び掛かり、目の前で刀を振り下ろす。
それが眼前に迫り、命中するかのように思われた攻撃は白金さんの攻撃で弾かれる。
『刀は私が魔法で弾くので波谷さんは攻撃を続けてください!』
俺はその指示に従い、レベル上げの際に何度も使ったスキルで攻撃する。
オークのHPは5分の1ほど減少し、勝てるという実感を得る。
そのクールタイムを通常攻撃で凌ぎ続けていれば確実に勝てる。
その攻撃ではオークのHPは碌に削れやしないが繋ぎとしては十分だ。
彼女に背を預け、スキルを打っては通常攻撃を打つのを繰り返しているとオークのHPバーは黄色に変わる。
『ここから先は任せてください!(oゝд・o)ノ』
彼女は自身にバフをかけると俺と入れ替わるように前に出て魔法を至近距離で放ち、オークを討伐する。
『これで討伐完了ですね!あのモンスターはHPが半減するとステータスが大幅に上昇して初心者では太刀打ちできなくなってしまうので行かせていただきました。
良いとこどりになってしまってごめんなさい( ´^`° )』
『いえ。お気になさらず。それらしい戦闘を出来て満足です』
彼女は『すみません…』と送るとこちらの様子を伺うように視線を何回も送ってくる。
そんな彼女の様子に笑みが零れる。
『気にしてませんよ。お優しいんですね』
そう送り、彼女に視線を移すと彼女は赤面して俯いたまま動かなくなっていた。
そんな彼女の頬を人差し指でつついてからかってみる。
「顔、赤いですよ」
彼女はハッとすると両手で頬を覆う。
「さ、早く終わらせてしまいましょう」
「は、はい…」
放心状態の白金さんと共に町に戻ろうとするも彼女は何でもない木に直進したり、町とは違う方向に向かってしまったりしたが、数十分かけて何とか到着出来た。
『俺は教会に行ってきますが白金さんはどうしますか?』
『私は外で待ってます。色々ご迷惑をおかけしそうなので…(、._.)、』
彼女は隣で溜息を吐きながら肩を落とす。目に見えて落ち込んでしまっている。
『それぐらいならどれだけかけてもらっても構いません。ですから一緒に行きましょう。受け取りたいものがあるんですよね?』
『ありがとうございます…(´;ω;`)』
彼女は奇行をせぬよう慎重になりながら俺の後ろをゆっくりと付いてくる。
その姿がまるで小動物の様で、可愛らしさを感じながら教会に入る。
オークを討伐したことを神父に伝えると安心したかのように胸を撫で下ろす。
『ありがとうございます。これで新郎新婦共々安心して式を挙げられることでしょう』
彼は講壇から青い箱を2箱机の上に取り出すと滑らせて差し出す。
『これらをあなた方に。今回の報酬です』
遠慮なく受け取り、片方を背後にいる白金さんに渡すと教会を後にする。
アバターを通路の真ん中で停止し、ヘッドフォンを外して背もたれに寄り掛かりながら水を一口飲む。
『このアイテムが欲しかったんですか?』
受け取ったアイテムの中にあったものの詳細を眺める。
その効果は何もない。特別な効果がある訳でも、ましてやレア度が高い訳でもなかった。
ただの空欄がそこにあった。
『はい!このアイテムはこのイベント限定のもので、特殊な入手条件なのでどうしても欲しかったんです('ω’*)』
彼女がそこまで言うのなら、ただの普通のアイテムだったとしてもレア度以上の価値があるのかもしれない。
ただ、それに見合うほどのその特殊な入手条件とやらが気になったが、視線を彼女に向けるとそれを聞く気が失せてしまう程の満面の笑みを浮かべていた。
彼女のその可愛らしい笑みは思春期の男子高校生にはあまりにも魅力的だった。
勿論、俺もその例に漏れなかったが何とか視界の外に追いやる。
一瞬でも見惚れてしまった自分を隠すようにコップに入った水を一気に飲み干し、冷静さを取り戻す為に落ち着いてパソコンの電源を落とす。
ゆっくりとマウスのカーソルを4つの正方形が集まっているマークに合わせ、左クリックすると突然肩をつつかれる。
「うわっ!」
驚いて思わず間抜けな声を出してしまい、白金さんが口元を抑えながらクスクス笑っている姿が目に入る。
顔が熱くなっていくのを感じる。それが恥ずかしい所を見られたせいか、あるいは彼女に見惚れているせいなのかは分からない。
でも、彼女の笑っているのを見ると思わず「可愛い」と言ってしまいたくなる。
「…え?」
何があったのか、彼女はそう言うと席を離れ、パソコンの電源も落とさずに急ぎ足で会計に向かってしまった。
心なしか彼女の顔が赤くなっていたような気がする。
…口に出てしまっていたかな。
俺はそうに違いないと決めつけ、反省しながら自分のと白金さんのパソコンの電源を落として彼女の後を追う。
あの短い時間で会計は全て済まされており、自分の分まで支払ってもらった不甲斐なさと共に店の外に出ると彼女は直ぐ傍の電柱の下で顔を両手で覆って立っていた。
「白金さん」
彼女の手を顔から離す。驚いてこっちを向くかと思ったが、彼女は俯いて俺と目を合わせようとしない。
「帰りましょう」
折角の帰り道、何も話さない上に互いの顔も見ないのでは寂しいので彼女の手を握ってみる事にした。
すると俺の思惑通り、白金さんは勢いよくこちらを向く。
「ようやくこっち向いてくれましたね」
そう言って笑ってみる。正直、柄でもない事をして顔が熱いが夕日に照らされてるお陰でそれはバレてないようだ。
「…っ」
彼女は今にも泣きだしそうな顔をすると立ち止まる。
どうしたのかと振り返ると一言。
「…好きです」
「…え?」
彼女の潤んだ瞳は俺を捉えて離さない。
「私、波谷さんの事が…好きです…!」
編集履歴
「私、波谷さんの事が…好きです…!」
の一文を追加
やっぱりんりん可愛いね