命に嫌われた少年   作:まっちゃんのポテトMサイズ

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どうも皆さん。
明けましておめでとうございます。
冬休みも残りが少なくなってきました。
宿題が終わっておりません。
由々しき事態ですので、宿題が終わるまで少しばかり執筆を休止します。

まぁ、これは活動報告にも投稿しておきます。

では、本編どうぞ。


第4話 笑顔

目障りなほど眩しく光る太陽の日差しを目に受けて瞼を開け、上体を起こす。

 

ふと、隣に人の気配を感じ、そこを見てみると視界に寝間着姿のリサさんが映る。

 

何故この状況になったか、それが分からず、必死に昨晩の記憶を思い出す。

 

徐々に昨晩の記憶が蘇ってくる。

 

確か、ご飯を頂いた後、お風呂まで貸してもらって、それから…。

 

それ以上は思い出してはいけないと言うように俺の脳が痛みを発した。

 

「ん…ふぁぁ。おはよう、楓」

 

今井さんが目を覚まして上体を起こす。

 

…まったく、少しは危機感を持ったらどうだろうか。

 

そう思いつつ、彼女から顔を背ける。

 

起きたばかりの寝惚けた今井さんの髪を下ろした姿。

 

そして、表情はとても可愛らしく、直視が出来なかった。

 

「おはようございます」

 

俺がそう言うと、今井さんは頬を膨らませて、俺の顔を覗き込んできた。

 

「敬語は止めにしようって、昨日言ったでしょ」

 

「…そうだったね。おはよう、リサ」

 

そう言いながらベッドから出る。

 

一階からお義母さんの声が響く。

 

「もうすぐご飯できるから降りてきてー!」

 

「はーい!…そう言えば、楓はどこで着替える?」

 

そう問われ、自問自答を始める。

 

一瞬、この部屋で着替えるというものが脳裏を過ったが、頭を左右に振り、その考えを脳内から追い出す。

 

家族だとは言え、俺はあくまでも養子という立場だ。

 

その上、昨日新しく家族に加わっただけの他人。

 

同じ部屋で着替えるのは流石に羞恥心が働くだろう。

 

「…俺は、リサとは別の場所で着替えるよ。流石に、嫌だろ?」

 

「…うん」

 

リサは頬を少し赤らめながらそう言った。

 

「それじゃあ俺はお風呂場で着替えさせてもらうよ」

 

そう言って扉を開けて部屋を出る。

 

「おはよう楓。椅子に座っててね」

 

俺はお義母さんに「お、はよう」と返すと、言われるがままに席に着いた。

 

机を挟んだ向かい側には、お義父さんが新聞を読みながら珈琲を飲んでいた。

 

「おはよう。楓君」

 

お義父さんが新聞を読みながらそう言った。

 

「お、はよう。…ごめん。まだ、慣れて無くて」

 

「なぁに、これから慣れて行けばいい。それよりもリサはまだか?」

 

「もうそろそろ降りて来ると思うよ」

 

お義父さんは「そうか」とだけ呟くと新聞に視線を戻した。

 

暫くして、お義母さんが朝ご飯を置いている途中にリサが寝惚け眼をこすりながら降りて来た。

 

「おはよ~」

 

「おはよう。遅かったわね、もしかして二度寝してた?」

 

「うん。って、もうこんな時間!?やばっ、遅刻する!」

 

制服に着替えたリサはニュースが流れているテレビの液晶の左上を一瞬見てそう言った。

 

そして、急いで椅子に座り、朝ご飯を最低限口に入れて家を出ていった。

 

「珍しいわね。あの子が二度寝なんて」

 

お義母さんがリビングに戻ってきてお義父さんの隣の椅子に座って言った。

 

「そうなの?」

 

最後の白米の一塊を口に運びながら言う。

 

「ええ。いつもはもっと早い時間に起きてるのよ…あの子、確か前に誰かに追われている様な気がするって言ってたわね…」

 

「…分かった。大丈夫だよ、お義母さん。俺が守るから。それじゃ、ご馳走様」

 

そう言って席を立つ。

 

「はい、お粗末様」

 

「あ、着替えはどうしたらいいかな」

 

「ああ、それなら私のを使えばいい。丁度新しい物が届いたところだ。それを使えばいい」

 

既に朝ご飯を食べ終わり、新しく淹れた珈琲を一口飲んで言った。

 

「ありがとう、ございます」

 

思わず敬語が出てしまい、思わず口を押える。

 

「…ありがとう」

 

「ああ。それじゃ、持ってくるから少し待っててくれ」

 

そう言って席を立ち、二階から紺色のジーンズとカットソーを持ってきた。

 

それを借りて二階に上り、リサの部屋で着替える。

 

「…おぉ」

 

試しに姿見の前に立つと、俺の性格とは裏腹に爽やかな青年がそこにいた。

 

そして、それから目を反らして一階に降りるなりお義父さんが「おお、似合ってるぞ」と言った。

 

「…ありがとう。それじゃ、少し散歩に行ってくるよ。この町の事もっと知りたいし」

 

「ああ。分かった。それと、それは楓君に上げよう」

 

「えっ、そんな、悪いよ」

 

「家族に悪いもあるか。良いから受け取っておきなさい」

 

「…分かった」

 

玄関に向けて歩いている途中、また一つの問題が浮き出て来た。

 

「…靴、どうすればいい?」

 

背後にいたお義父さんに問うと直ぐに黒色のスニーカーを差し出してきた。

 

「余っていた靴だ。私はもう使わないから君に上げよう」

 

「…分かった。ありがとう」

 

そう言ってスニーカーを受け取り、玄関に置く。

 

靴に足を入れて爪先を地面に叩きつけて踵を奥に入れる。

 

「それじゃ、行ってくる」

 

「ああ。行ってらっしゃい」

 

それを背中に受けて扉を開けて外に出る。

 

「行ってきます」

 

振り向きざまにそう言って扉を閉める。

 

「ははっ。行ってらっしゃい、か。久し振りに聞いたなぁ」

 

扉に背中を預けて空を仰ぐ。

 

「あの頃の思い出は、もう思い出したくないのにどうして思い出させるんだよ…!」

 

拳を握り締め、歯を食いしばりながら呟く。

 

父さんと母さんと共に過ごした日々が脳裏を過る。

 

まるでそれが俺の業だというように。

 

忘れてはいけないというように、刹那に流れていく。

 

「…クソッ、気分悪い。…さっさと行こう」

 

そう言って行く宛もなく歩を進めた。

 

十分位歩くと、何時の間にか俺は商店街に着いていた。

 

そこにいる人々の顔を見てみると、笑顔があふれていた。

 

それを見ていると俺も何故か笑顔になりそうになるが、目を反らしてそれを防ぐ。

 

そしてそのままその場から立ち去った。

 

これ以上ここに居たら危険だという信号を脳が発していたからだ。

 

そして、覚束ない足取りで彷徨っていると、何時の間にか学校に辿り着いていた。

 

看板を目の端で捉えると、この学校の名称が記されてあった。

 

如何やらここは花咲川女子学園というらしい。

 

それに興味を持たず、そのまま立ち去ろうとした時、何故か頭上からソフトボールが降ってきた。

 

俺はそれを左に避け、左足を軸にして右足でボールを飛んできた方向に蹴り飛ばした。

 

左足を捻り、激しい痛みが伝わる。

 

だが、歩けなくなる程では無かったので、そのまま手当てもせずに歩き出した。

 

少しすると、俺は寂れた倉庫の前に立っていた。

 

耳を澄ますと、倉庫の中から人の声がしているのに気が付いた。

 

俺は壁に耳を当て、中の会話を盗み聞きする。

 

「さて、今回の計画をもう一度確認するぞ」

 

鮮明には聞こえないが、一瞬、Roseliaという単語が聞こえた。

 

何かの暗号だろうか、そう思っていると、足が滑り、倉庫の壁に当たってしまった。

 

「誰だ!!」

 

俺は直ぐに走り出し、そこから立ち去った。

 

少し走ると、公園に着いた。

 

俺は幼い子供たちが戯れている昼間の公園のベンチに座り、背もたれに体を預け、空を仰いだ。

 

こうしていると、何だか睡魔に襲われてくる。

 

騒がしい黄色い声が飛び交う中、俺はそっと瞼を閉じて眠りについた。

 

瞼を開けると、何時の間にか俺は炎が燃え盛る平原に立っていた。

 

辺りにはまるで墓標のように無数に突き刺さる槍、屍のように積み重なる瓦礫。

 

怨念のように燃え盛る炎は更に勢いを増し、俺に向かって近づいてきた。

 

それを避けようと足を動かしたが、動いた筈のそれは平原から伸びた手に押さえつけられ、動かなかった。

 

そして、さらに勢いを増した怨念は俺に直撃した。

 

身体の皮膚が剥がれる様な痛み、肉が焼ける様に突き刺さる痛みが伝わる。

 

そして、無数の槍が地面から抜け、俺に刃を向ける。

 

その直後、無数の槍が一斉に胴体に突き刺さった。

 

不思議な事に口から血は出ず、傷口からも出なかった。

 

傷口から誰かの言葉が流れ込む。

 

『お前が、お前が殺したんだ!!』

 

黙れ。

 

『君って、ほんっとに変わらないね。いつも周りの人を殺す』

 

黙れ。

 

『…そうやって、いつも自分を責めない為に逃げる』

 

黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!

 

そんな俺の思いとは裏腹に、怨念は俺の皮膚を更に炙り、槍は言葉を流す。

 

そんな中、誰かの手が伸びて来た。

 

こんな怨念の中、手を中に入れるのはほぼ不可能に近い。

 

それが出来るのはとんでもない精神力を持つ者にしかできないだろう。

 

そのようなものを持つ者は俺の知り合いの中にはいない。

 

…だが、それでもいい。

 

この地獄から、救い出してくれるのなら。

 

そう思った途端に俺の夢は終わり、瞼を開けた。

 

空は橙に染まり、幼い子供たちはもう既にいなくなっており、昼頃の騒々しさがまるで嘘のように静かになっていた。

 

特にすることも思いつかない為、ベンチから立ち上がり、覚束ない足取りで彷徨い始めた。

 

そうして辿り着いた先は何時しかのライブハウスだった。

 

俺は何かに誘われるかのようにそこに入った。

 

中に入ると、何故かそこにいたリサたちと目が合ってしまった。

 

「あっ、楓!」

 

リサはそう言って近づいてきた。

 

俺はあの怨念が脳裏を過り、思わず、一歩後ずさりそうになった。

 

「…どうしたの?その足」

 

リサは俺の左足を指さしながら言った。

 

「…別に、何でも無いよ。ちょっと怪我しただけ」

 

「…噓。だって足が震えてるよ?」

 

そう言われ、俺は左足を見下ろす。

 

リサの言う通り、俺の左足は震えていた。

 

「なっ…!?」

 

俺は驚き、無駄だとは知りつつも左足の震えを止めるために両手で握る。

 

あの夢と捻った痛みで足の疲労が蓄積されているのだろう。

 

「止まれ。…どうして、だよ」

 

俺の左足は皮肉なもので、先程よりも震えが激しくなっていた。

 

すると、いきなりリサが屈みこみ、自分の手で俺の左足を手の上から両手で優しく握った。

 

「リサ…?」

 

「…アタシも恥ずかしいんだから」

 

そう言ったリサの顔は少しだけ赤みを帯びていたように思う。

 

「…そっか。でももう大丈夫だよ」

 

「そう?なら良かった!」

 

リサはそう言って俺の足から手を放し、立ち上がった。

 

俺の足は震えるのを止めていた。

 

…どことなく、リサの手は母さんの手に似ていた気がする。

 

あの温かさ、間違いなく母さんの手だった。

 

それ以上は思い出してはいけないとその思いを頭から追い出す。

 

「ありがとう。…リサ」

 

「ううん。アタシは何もしてないよ。…あっ、そうだ!楓、アタシ達の練習見に来る?」

 

「えっ?」

 

一瞬何のことか分からなかったが、ライブハウスにいる団体と言えばバンドしかないだろう。

 

つまるところ、リサたちの練習を見に行くという訳だ。

 

「…まぁ、迷惑じゃなければ」

 

「ゆ~きな!ねえ楓も一緒に練習見に行っても良いかな?」

 

「ええ。勿論よ」

 

そうして、皆が使っているスタジオに入り、俺はそこら辺にあった椅子に座り、彼女たちの演奏の準備が整うまで待つ。

 

リサたちのバンドの名前はRoseliaというらしく、結構実力が高いらしい。

 

「準備が終わったから始めるわね。…聞いてください。『Neo-Aspect』」

 

ステージの上に立ち、湊さんがマイクを片手に言った。

 

宇田川さんがカウントをして演奏が始まる。

 

俺はその演奏に圧倒された。

 

正確無比な氷川さんのギター、観客を沸かせるような激しい宇田川さんのドラム。

 

美しく、儚げな音色を奏でる白金さんのキーボード、重みを帯びている湊さんの歌声。

 

…そして、全てを包む様な温かい音色を奏でるリサのベース。

 

何時の間にか演奏は終わっており、少しの沈黙がスタジオ内を支配した。

 

皆は息が上がっており、まるで今の演奏に全てを出し切ったようだった。

 

「…凄かったよ」

 

「そう?良かったぁ~」

 

リサが安心した様に溜息を吐く。

 

そして皆がステージから降りて休憩した頃、宇田川さんが口を開いた。

 

「そういえばさ、楓兄は何か演奏できる?」

 

「あっ、それアタシも気になる~」

 

宇田川さんとリサにそう問われ、昔の事を無理して思い出させる。

 

何故か母さんが俺にバンドの楽器全般を習わせていたのを思い出した。

 

確か、母さんの好きなバンドでベースが他の楽器を使いこなしていたから、だったか。

 

だが、俺は結局一番できたのはベースだけで他はまぁまぁ出来る程度だった。

 

「…俺はベースですかね」

 

「それじゃあ、アタシと同じだね!やった!

 

リサが何故か笑顔を浮かべて飛び跳ねながら言った。

 

「でも、多分他の楽器もできるかと」

 

リサがそれを聞くと少し残念気味に「えっ、そうなんだ…。それじゃあさ、何か演奏してみてよ」と言った。

 

「…分かった。すみませんが氷川さん。ギターを貸していただいても?」

 

氷川さんにギターの許可をもらったので、それを借りてステージの上に立つ。

 

「では、聴いてください。『命に嫌われている』」

 

 

楓のギターはとても正確な筈なのに、何処か中身が無いような音を出しているように聞こえた。

 

それを演奏している楓の顔は何だか、とても辛そうな顔をしていた。

 

アタシはどうして楓があんなに辛い顔をしているのかが分からなかったけど、無理をしているという事だけは分かった。

 

 

弦を弾く度に出る音と共に脳内に過去の記憶が流れ込んでくる。

 

それに耳を塞ぎ込みそうになるが、自分の身体に鞭を打ち、演奏を続けた。

 

まだ動ける。耳を塞がなくとも、この程度なら。

 

その思いとは裏腹にギターの弦はプツンと切れてしまった。

 

そして、それと同時に演奏に紛れて感じられなかった怨念が一気に流れ込む。

 

「うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさい」

 

一斉に流れ込んできた怨念に俺は耳を塞ぎ、屈みこんだ。

 

楓?

 

どこかから何者かの声がするが、そんな事を気にする余裕も無かった俺はそれを無視した。

 

「…俺が、殺したのか?いや違う。俺じゃない。俺じゃないんだ…」

 

「楓!!」

 

漸く聞こえた聞きなれた声を出したものに向かって俺は飛びついた。

 

「きゃっ!!」

 

「怖い。怖い怖い怖い怖い怖い」

 

気づけば俺はリサを押し倒していたが、それに構わず口から思いを吐き出していた。

 

「楓…?」

 

「何で。僕の周りの人は」

 

そう口にした瞬間、僕はリサに抱きしめられていた。

 

「リ、サ?」

 

「…」

 

リサは抱きしめる力を強くしながら「何があったか、アタシには分からないから、こうする事しかできないけど…」と言った。

 

彼女の抱擁は俺に付き纏っていた怨念をかき消すような温かさを持っていた。

 

それに心までも解けてしまいそうになるが、その前に離れた。

 

「ありがとう。リサ」

 

俺はお礼を言ってから立ち上がり、俯いている宇田川さんの所に向かった。

 

「楓兄?」

 

俺を見上げるその眼は恐れを含んでおり、俺に怯えているようだった。

 

その怯えを加速させないように敬語ではなく砕けた言葉づかいで話す事にした。

 

「…怒って、無いの?」

 

「うん、勿論。何処に怒る理由があるの?」

 

「で、でも!!あこが演奏してほしいって、頼んだから…」

 

「だから、ああなったって?そんな訳無いよ。あれは俺が弱かったから、あこは何も関係ない。悪くないんだ」

 

そう言った瞬間、あこは泣き出してしまった。

 

「あこが、悪い、って責められる、と思ってたから…」

 

「そんなわけないだろ。俺に君を怒る権利も無ければ、君も、怒られる筋合いが無いんだよ」

 

あこは一際大きな声を出して俺に抱き着いてきた。

 

「…まぁ、仕方ないか」

 

俺はそれを受け止め、涙が止まるまであこの背中を撫で続けた。

 

 

いきなり抱き着いたのに楓兄はあこを優しく受け止めてくれた。

 

泣き止むまで背中を撫で続けてくれた手はとても優しくて、思わず寝てしまいそうになるくらいだった。

 

でも、その中には何かとても大きな闇が潜んで居そうでちょっとだけ怖くなった。

 

 

「…そろそろ泣き止んだかな?」

 

「うん!ありがとう楓兄!」

 

俺の身体から顔を放し、見上げてあこは言った。

 

「それならよかった。…それじゃ、俺は先に帰るね」

 

リサにそう伝え、スタジオを出る。

 

その間際。

 

ほんの一瞬だったが、何者かがスタジオから出る俺の写真を撮ったような気がした。

 

「…何か嫌な予感がする。いや、まさかね」

 

ポツリと零した言葉は誰の耳にも届くことは無く、空しく消えていった。

 

 

「クソッ、誰だよアイツ!」

 

無駄な写真を撮ってしまった。

 

Roseliaのメンバーの全てを撮るには数少ない容量を無駄にしたことで気を悪くしたのだ。

 

「まったく、駄目じゃないか…。僕以外の人と会っちゃ」

 

カメラに収めてある写真のデータの一枚一枚に写るメンバーの身体をを隅々まで舐めるように眺める。

 

やはりこの子たちは綺麗だ。

 

数か月間練りに練ってきた計画がいよいよ今日実行できる。

 

醜い笑みを浮かべながら舌なめずりをしていると、ポケットの中にあるスマホが震えだした。

 

「もしもし?」

 

電話の相手は今回の計画を手伝うこと手筈になっている従犯だった。

 

『俺らはあいつらを襲えばいいんだな?』

 

「あ、ああ。その後は…分かってるね」

 

言わずとも女を誘拐するとなれば襲うという他無いだろう。

 

『久しぶりの女だ。存分に楽しませてもらうよ。では、約束の19時に』

 

「ああ」

 

そう言って通話を切断する。

 

今の時刻は18時45分。

 

彼女達が出て来るのは18時50分頃だ。

 

彼女達の帰路の中には人目に付かないところが幾つかあり、その中でも家に近い所で誘拐する事にした。

 

そして、その場所に着く時間が19時丁度だという事だ。

 

「待っててね、皆。もう直ぐで幸せにしてあげるから…」

 

 

CIRCLEを出て帰路に就く。

 

何か後ろからつけられている様な気がする。

 

それを察しているかのようにあまり口を開かず、静かになっている。

 

「…ね、ねぇ皆」

 

その静寂を裂くようにアタシが口を開くと、皆は一斉に振り返った。

 

その顔は何かに怯えているようで少しだけ歪んで見えた。

 

「何か、後ろからつけられている様な気がするけど…気のせいかな?」

 

その瞬間、背後から耳元で男が「気のせいじゃないよ」と囁いた。

 

そして、アタシの口を薬品を染み込ませたハンカチで覆った。

 

抵抗しようとしたけど、その男の力は強くて歯が立たなかった。

 

そして、アタシの意識は沈んでいった。

 

 

「…よし、後はあの倉庫に連れて行くだけだ。車に乗せるぞ」

 

部下たちは手際よく女たちを抱え、トランクに放り入れた。

 

俺は部下たちが女全員を乗せたことを確認して車のエンジンを起動した。

 

部下たちが乗ったのを確認して町はずれにある寂れた倉庫に向けて車を発進させた。

 

倉庫に着き、女の身体を予め用意しておいた椅子に括り付ける。

 

「…よし、もう良いか」

 

ポケットからスマホを出してアイツに電話をかける。

 

「終わったぞ。もうそろそろ来やがれ」

 

『わ、分かった。今行くよ』

 

少ししてアイツは来た。

 

汗だくで走ってきたのだと理解する。

 

「そんなに急がなくとも女は逃げねーよ」

 

内心苦笑しながらアイツに向けて言う。

 

少し休憩してアイツはゆっくりとした足取りで女に向かって歩いて行った。

 

「…取り敢えず起こそうぜ」

 

俺はそう言って女どもの身体を揺らす。

 

「おーい、起きろー」

 

 

 

誰かに起こされて瞼を開けると、アタシは何時の間にか倉庫にいた。

 

「お、起きた?」

 

背後から男の声がして体が竦む。

 

後ろを振り返ってみると、毎回ライブに来てくれる人がそこにいた。

 

「よ、横を見てみなよ」

 

そう言われて恐る恐る横を見てみると、そこではアタシ達を襲った男が友希那達を襲ってた。

 

衣服は既に脱がされていて下着だけになっていた。

 

そして、その顔は恐怖で歪んでおり、涙を流していた。

 

「だ、大丈夫だよ。僕は優しくするからね」

 

「い、いや」

 

そう言って抵抗するも、手足が椅子に括り付けられていて逃げられなかった。

 

「そ、それじゃ、脱がすね。き、気持ち良くしてあげるからね」

 

そう言ってその人はゆっくりとブラを脱がした。

 

「い、いや、助けて」

 

「こ、ここには誰も来ないから、無駄だよ」

 

そう言われてアタシは絶望した。

 

「…誰も、来ないの?」

 

「そうだよ。だから、ゆっくりと楽しもうね」

 

そう言ってその人は舌なめずりをした。

 

その瞬間、倉庫の扉を蹴り飛ばして中に入ってくる人影が見えた。

 

その人の姿は暗くてよく見えなかったけど、直ぐに分かった。

 

「アンタら、何してんだ?」

 

 

町はずれにある倉庫に走って向かう。

 

昼間に聞こえたRoseliaというあの単語。

 

あれはリサたちの事だったと今更ながら気づく。

 

少しすると、昼間に来たあの倉庫に到着した。

 

耳を澄ますと、中からはリサたちの悲鳴が聞こえた。

 

俺は倉庫の扉を蹴り飛ばし、中に入る。

 

「アンタら、何してんだ?」

 

「楓!!」

 

「…ちっ、邪魔だな。おい、やれ、てめぇら!!」

 

リーダー格の男が白金さんに触りながら部下たちに命令する。

 

それに従い、部下たちは鉄パイプを持ってオレに殴りかかってきた。

 

部下の一人の手首を蹴り、鉄パイプを落とさせる。

 

それを拾い上げ、手首を抑えている部下の頭に力を込めずに振り下ろす。

 

部下は気絶して倒れ込んだ。

 

オレはリサの方に目を移すと、部下とは違う男がその体を舐めまわしていた。

 

それに完全に頭に血が上ったオレは鉄パイプを部下に投げ付けそのまま蹴り飛ばす。

 

そして、残りの部下の鳩尾に拳を叩きつける。

 

男どもはまだ気絶していなかったようでその場に倒れ込んでいるのみだった。

 

それだけでは物足りず、オレはその男のうち一人の頭を蹴り上げた。

 

吹き飛ばされた男は倉庫の壁にぶつかり、気絶した。

 

それを確認すると、もう一人の髪を掴み、顔面を一気に寄せながら膝蹴りをする。

 

何発も打ち付けると、そいつは鼻血を出して気絶したのでそのまま壁に向かって投げ付ける。

 

そして、最後の一人の首を掴み上げ、地面に叩きつける。

 

それを何度も繰り返し、気絶するのを確認してまた壁に投げ付ける。

 

オレの周りは血まみれになっていたが、オレは返り血一つ浴びていなかった。

 

そして、リーダー格の男に向かって歩き出す。

 

すると、そいつは白金さんから離れ、ナイフを取り出して俺に刃先を向ける。

 

俺もその意思に従い、構えを取る。

 

そして、男はいきなりそのまま突進をした。

 

オレはそれが届くよりも先に相手の腹部に蹴りを叩きこむ。

 

男はよろめきながら腹を抑えて後ろに下がった。

 

オレは男が体制を整える隙も与えずに肩を掴み、腹を寄せつけながら膝蹴りをする。

 

男は吐血してその場に尻から倒れ込む。

 

そのまま男の髪を掴み、リサに触れている男に向けて放り投げる。

 

リーダー格の男はリサに触れていた男の上で気絶して倒れ込んでいた。

 

リサの身体を見ないようにカットソーを脱ぎ、リサの身体をそれで覆い隠す。

 

「か、楓。もう良いよ」

 

リサからそう言われるが、耳に意識が向いていなかったオレはそれを無視してリサに触れていた男に向かって歩き出す。

 

「おい」

 

「ひえっ!!ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

男はオレに怯えながら涙を流して平謝りをしていた。

 

「…あっそ。その程度でオレが許すとでも?」

 

オレはリーダー格の男が持っていたナイフを奪い取り、リサに触れていた男に刃先を向ける。

 

「いや、嫌だ。やめてくれ、やめてくれ」

 

「うるせえよ。…死ね!」

 

そう言ってナイフを振り下ろそうとした時、誰かがオレの腕を掴んだ。

 

『駄目だぜ、楓。そしたらお前まで犯罪者に成っちまうぜ』

 

「御霊…?」

 

俺が親友の名字を呟くと、彼は光を放って消えた。

 

その時にはすでにナイフは地に落ちており、男は気絶していた。

 

「ありがとう。俺を止めてくれて」

 

俯いたまま涙が一筋流れていくのを感じながら礼を呟く。

 

涙を拭い、リサたちの拘束を解く。

 

すると、いきなりリサたちは俺に抱き着いてきた。

 

一斉に来たため、俺は耐えきれず、後ろに倒れ込んでしまった。

 

「怖かった、怖かったよ…」

 

リサは強い力で抱きしめながら涙を流してそう言った。

 

俺は何も言わずに抱き締め返しながら頭を撫でた。

 

「ありがとう、ございます。その、嬉しかったです」

 

氷川さんは嗚咽を上げながら抱きしめた。

 

意外だった。

 

氷川さんはこんな事しないものだと思っていたからだ。

 

そのギャップを知れたことに少しだけ嬉しく感じながら抱き締め返した。

 

「ありがとう、かえ、で」

 

その一言だけを言うと一際大きな嗚咽を上げて抱きしめて来た。

 

肩に涙が零れ落ちて流れていくのを感じて、この中でも一番怯えていたのだろうと思う。

 

「ありが、とう、ござい、ます」

 

白金さんは静かに涙を流しながら抱きしめて来た。

 

あこは鼓膜が破れそうなほどの声量で嗚咽を上げて抱きしめて来た。

 

その力も強く、思わず苦笑いをしてしまうほどだった。

 

「もー!なに笑ってるの!」

 

リサが頬を膨らませて更に力を強めて抱きしめた。

 

「ご、ごめん。…その、取り敢えず服着ようか。何処かにある筈だから」

 

俺がそう言うと、リサ達は一気に離れて、赤面して胸を隠した。

 

俺は倉庫の外に止めてあった車のトランクからリサ達の洋服を持ってきて渡した。

 

俺はリサから裸体を隠すために渡したカットソーを着て倉庫の外に出た。

 

そして、空を見上げながら「…俺、笑ってよかったのかな」と言った。

 

少しすると、リサ達は出てきて何事も無かったかのように帰路に就いた。

 

その倉庫から離れる瞬間、空から『お前は、笑っていいんだ』と、御霊の声が聞こえた様な気がした。

 

そうして、家の前に着いたのだが、何故かそこまで氷川さん達は付いてきた。

 

「えっと、何でここにいるの?家の人が心配するんじゃない?」

 

そう言うと、氷川さん達は口をそろえてこう言った

 

「…今日は、その、帰りたく、無いです」

 

俺はそれを聞き、唖然としてしまったが、あんなことがあった後だ。

 

少し怯えているのだろう。

 

そう思い、お義母さん達に許可をもらってから氷川さん達を家に招き入れた。




はい。今回はここまでです。

評価バーに色が着きました。

ありがとうございます。

これからもこの小説をよろしくお願いします。

そして、ここで少しだけ宣伝に付き合ってくれると嬉しいです。

まあ、宣伝と言っても、もう一つのバンドリの小説を読んでいただけると嬉しいかな、というだけですが。

因みに、それの第九話目ぐらいまでは文章力が無く、とんでもない事になっています。

では、感想、評価お待ちしております。

また次回。
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