前にリサと共に来た羽沢珈琲店で俺は紗夜と机を挟んで席に着く。
そして、暫くして届いたアイスコーヒーにストローを刺す。
「…それで、何の用かな?本を買ってくれるって言うから付いてきたけど」
「その…ですね。波谷さんに頼みごとがありまして…」
俺はストローに口を付けてアイスコーヒーを飲みながら頷く。
「実は、宿題で分からないところがありまして…」
「…勉強はまぁまぁ出来る程度だけど、それでも良いのだったら教えるよ」
そうして、紗夜は荷物入れに入れた鞄を足元から取り出し、その中から数学のテキストと参考書を出した。
俺は勉学に於いては秀才では無かったが、それでも常人程度の成績だけは取っていた。
だが、中学校以降は勉学にはあまり励んでいなかったために、紗夜に勉強を教えられないとは思いつつも、紗夜の依頼を断るのは胸が痛んだために俺はそれを承諾してしまった。
机に置かれた参考書と、紗夜が解けていない問題を眺めてみると、案の定理解が出来なかった。
はて…どうしたものか。
そう悩んでいると、紗夜の、俺の顔をジッと見つめている視線に気づいた。
「…ん?どうした、紗夜。俺の顔に何かついてる?」
「い、いえ。何でもありません」
紗夜は顔を赤らめながら俺から視線を逸らした。
俺はその仕草を気にも留めず、直ぐにテキストに視線を落とした。
…どれほど時間が経っただろうか。未だにその難問は解けておらず、その上、俺は既に疲弊しきってしまっていた。
「…息抜きに甘いものでも食べたらどうかな?紗夜も疲れただろう」
「そう、ですね」
俺はその返答を聞くと、羽沢さんにフレンチトーストなるものを注文した。
そして、椅子の背もたれに体重をかけて溜息を吐く。
ふと、一瞬だけ見えた、紗夜が分からなかった問題の前ページ以降の事が脳裏を過る。
俺には分からない問題が正解を示す赤丸で埋められており、俺はそれを見て感嘆の声を漏らした。
「全く、紗夜は本当に凄いよ。勉強とバンドを両立させて」
「い、いえ。そんな事はありません。ギターも日菜に比べたらまだまだで…」
「そうかな…。俺には日菜さんがどんな音を奏でるのか分からないけど、紗夜は俺から見たらとても凄いと思うよ」
瞼を閉じて、初めて彼女達のバンドの演奏を聞いた時の事を思い浮かべる。
あの感動はすさまじいものだった。あれ以上の感動は人生で数える程しか感じられないだろう。
「…ありがとうございます。ですが、日菜の隣に立てるようになるにはまだ努力が必要ですから」
「…そっか。君がそう言うんだったらそれで良いんだ。ただ、無理はしないで」
俺は姿勢を正し、紗夜を見つめてそう言った。
根の詰めすぎは体に毒だ。最悪の場合、過労で死に至る可能性もある。
そうなってしまっては俺の所為だ。だからこそ、そうなる前に念押しをしておくのだ。
俺の為なんかじゃない。残された人の為だ。
残された人の気持ちは、自分自身じゃ分かりやしない。
「ええ。そんな事、言われずとも分かっています。波谷さんこそ、あまり無理はしないでくださいね」
「…無理はできないさ。リサがそんな事を許すとでも?」
紗夜は口元を押さえて笑うと、「それもそうですね」と言った。
…ああ、御霊。君が生きていたらこんな風に笑いあえたのかな。
…駄目だな。こんな事を思ってしまってはいけない。
突如、店内に風が吹いた。
窓は開いていないはずだが、何故…。
「…もう、良いのかい?」
一人の神が響に向けてそう言った。
響は悲しそうな笑みを浮かべながら頷いた。
「ああ。アイツにはもう俺は必要ない。それに、もう直ぐでこの身体も消える。そうだろ?」
「…そうだよ。生者に関与するという禁忌を犯した以上、君の魂は消える」
神は残った仕事を終わらせながらそう言った。
響は悲しそうに息を吐き出すと、こみ上げて来る涙を押し殺した。
「いやぁ、良い人生だった。友に恵まれ、最期までその生き様を見届ける事が出来た。…さ、神様。早く俺を消してくれ」
「…うん。きっと、私は君の素晴らしい行動を忘れる事は無い。たった一人の友の為に自らを犠牲にした、その生き様を。それがたとえ、偽善だと言われようとも」
神はそう言って響を消し去った。
前に、彼は魂が消えるときには楓に会いたいと神に言っていた。
だが、彼は最期にその願いを叶えようとはしなかった。
その願いを叶えてしまっては、楓に後悔を残してしまうような気がしたから。
そう、彼は最期の瞬間まで友を思っていたのだ。
だから、彼はこの結末を望んでなどいなかったが、間違えでは無かったのだと、そう、言えるだろう。
更新が遅れてすみませんでした!
時間にして約1ヶ月…。
その間の出来事を話すと長くなるのですが…。
まあ、要約すると、時間が取れてなかったんですね。
まあ、これは所詮は言い訳なので無視してくださって結構です。
久しぶりにバンドリを書いたので、キャラ的に可笑しい部分とかあると思います。
そんな部分は感想でダイレクトに伝えて下さって結構です。
では、また次回