鳴柱になりたいある少年の話   作:starred

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育手と弟子

慣れない布団の中で目を覚ます。

ここは……どこだったか。

未だあやふやで覚醒しきっていなかった夢心地の意識が、

「起きたか」

その言葉だけであっさりと現実に引き戻される。

「月見里……さん」

声の主はこの屋敷の主でもある月見里行楽さんだ。昨日鬼に襲われていた俺を助けてくれた命の恩人でもある。

「そっか……昨日のことは」

「受け入れられないだろうが、紛れもなく現実だ」

心のどこかで、「朝起きれば今までの出来事は夢で、何事もなかったかのように母さんと父さんが笑いかけてくれるのではないか」などと考えていたのだが、どうやら世界はそんなに優しくないらしい。

両親を喪った。その事実が否が応でも俺に突き付けられ、昨日一度は引っ込み下らない嫉妬だのなんだのに心の片隅を預けていた怒りと悲しみが、改めて自分の中で湧き上がってくるのを感じた。

涙を流しそうになり、必死でこらえる。

昨日あれだけ泣いたのだから、今日はせめて泣かずにいよう。そんなささやかなプライドによるものだった。

「……大丈夫か?」

そんな自分の様子を見て月見里さんが心配そうに覗き込んでくる。

「……とりあえず飯にしよう」

「はい」

あまり心配をかけないようにしよう。少なくともいつまでも鬼殺隊士である月見里さんに手を煩わせるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

月見里さんが作ったらしい、米に味噌汁に漬物という質素ながら安心感のある食事を平らげる。

ふと外を見ればもう太陽はかなり高いところに昇っている。どれだけ寝ていたのだろうか?

当然それだけ何も食べていなければ腹も減るわけで……

二人前より少し多めに用意されていたであろうそれをあっという間に食べ終えてしまった。

「ごちそうさまでした」

「ああ」

「とても美味しかったです」

「それは良かった」

「……」

「……」

なんとも言えない雰囲気になる。さっきも昨日のことを気にする様子を見せてしまったし、気を使ってくれているのだろうか。

ありがたいのだが、なんとも気まずいのも事実だ。

「それで、えーと、あ、月見里さんは、昼間は普段何を」

「義勝君」、

「鬼が、憎いか」

「…………え?」

「……」

「鬼、ですか」

憎くない訳がない。そう即答したかったが、その言葉は口から出てこない。

「それとも、やはり怖いか」

「……はい。と言っても、憎しみや怒りはそれとは別に確かに強くあります。それでもやはり……」

「そうか」

「……月見里さんは、鬼が怖くないんですか?」

「怖いさ」

「え?」

「余程の事情がなければ、誰だって自分の命は可愛いものだ。自分の命を奪おうとするものに恐怖を感じないわけがない」

「なら、どうして」

「それが、俺のやるべきこと()()()からだ。力ある者が戦わなければ、力なき者は守れない。俺は鬼への恨みはないが……そうやって自分を奮い立たせてきた」

「力……」

それを聞いてはっとする。確かに俺が強かったら、父さんは……いや、母さんも守ることが出来たのかもしれない。

そう考えると、鬼に全て向けられていたこの感情の矛先が少し自分の方にも向いたのを感じる。

――お前が弱かったから。

「月見里さん」

「ん?」

「俺、強くなりたいです。ですから、その、月見里さんの知ってる育手の紹介をお願いしても……」

その言葉を聞いた月見里さんは、ほんの一瞬驚いたような顔をしてからすぐまた真顔に戻り、

「その必要はない」

「え……」

一世一代の決断だったのだが、それはあまりにも呆気なく、何でもないようにあしらわれ却下されてしまった。

「どうしてですか!?確かに俺は武術の経験とかも無いですし、呼吸法って奴も詳しくは知らないですけど。それでも……」

「違う。育手を紹介する必要はない。というより、俺にはできない」

「どういう、ことですか」

「俺が、義勝君、君の……いや、義勝。お前の育手になる」

「えええええええええ!?」

俺の驚きの叫びは、屋敷中に響き渡った。

 

 

 

 

 

「それで、どういうつもりなんですか?」

育手についての話は昨日聞いた。確か、引退した鬼殺隊士がその技術を後進に伝えるための制度だったはずだ。

鬼殺隊士になるには基本的には育手に稽古をつけてもらい、そして藤襲山という山で行われるらしい最終選別を受けるという流れが一般的らしい。

しかし問題が一つある。そう、基本的に育手は『引退した隊士』がなるものである。

「鬼殺隊士・月見里行楽は本日付で引退し、育手になった。それだけだ」

「いえ、だからそれがわからないんですが」

「……?」

「いやその『何が言いたいのかわからない』みたいな顔やめてください。ついさっき言ってた力ある者は力なき者を守るって話どこ行ったんですか」

「もう齢も三十になる。体力も無くなってきたし動きも落ちてきていた。……力なき者に、自分がなったからだ」

「でも、昨日はあの鬼を……」

「あの鬼がお前に気を取られていたから出来たことだ。あの程度なら真正面からでも倒せたかもしれないが、あれ以上のを真正面から斬り続ける自信は、ない。

……昨日のあの霹靂一閃も、全盛期に比べたら半分の速度も出ていない」

「そんな……あんなに速かったのに……?」

「いや、それは冗談だ」

「随分わかりにくいですね!?」

真顔で真剣なトーンでそんな現実味のある事を言わないで欲しい。

しかし、昨日は考える余裕なかったけどこの人、結構天然な人なのではないか……?

「それに、何も鬼狩りに貢献する方法は隊士として戦うことしかない訳ではない。こうして育手となることでも、間接的にではあるが世のため人のために働ける」

「いや……月見里さんの育手を紹介するとかは」

言いながら、ついさっき彼がそれはできないと言っていたことを思い出す。

「先程も言ったが、それはできない。半ば破門されたような身だからな」

「破門……?」

「……いや、何でもない。忘れてくれ」

昨日も見せた明らかに何かあると言わんばかりの話の切り方。

「それで、お前はどうしたい?」

イマイチ要領を得ないところはあるが、月見里さんの意志は固そうだし、そもそも本人と隊との間での合意の下引退している以上は、隊士でもない自分が口を挟んでいい話でないことも事実なので、しぶしぶではあるが食い下がる。

そもそも、上位の階級にいたほぼ現役の鬼殺隊士が直々に戦いを教えてくれるというのだ。少なくとも俺にとって悪い話ではない。

「……わかりました、それでは、月見里さん。これからご教授の程よろしくお願いします。」

「ああ。こちらこそよろしく頼む。義勝」

握手のため差し出した手を、ほのかに微笑んで握ってくれる月見里さん。

そうだ、何はともあれ俺は強くなる。そして、みんなを守るんだ。絶対に!

 

 

 

――こうして、弟子としての日々が始まった――!

 

 

 

 

 

 

 

 

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