鳴柱になりたいある少年の話   作:starred

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雷の呼吸

俺が月見里さんの弟子になって、三月程経っただろうか。

そんな俺が今している過酷な修行とは……体力作りだ。

まあ、当たり前の話である。

何もしていなかった少年である俺がいきなり戦えるようになるわけもない。

基礎を固めるところから始めるというのは、至極当然の段取りであると言える。

朝起きたら食事をして、軽く腹筋や木刀の素振りなどをしてから、屋敷から近くにある山で上り下りの往復運動をする。

結構斜面が急な山で、それなりに高度もあるので、最初のうちは一往復するだけで日が暮れるまでかかっていた有様だったが、道に慣れてきたこともあり最近は昼過ぎには屋敷まで帰ってこられるようになった。山の上の方は空気が薄いので、呼吸の無駄をなくすことが重要だと最近気が付いた。

()()()()()()()()()()()()()()()こと。そのためには呼吸を整えることが必要不可欠である。

と、そんなことを考えているうちに山のふもとが見えてくる。最近ではこうやって無駄なことを考えながらでも上り下りできるくらいに余裕ができた。こんなこと言ったら()()()()に怒られるかもしれないが……

そしてそのまま屋敷へと向かう。

「今日は早かったな」

「そうですかね?」

「ああ。今は丁度昼時だ」

「あれ、まだそんな時間ですか」

思っていた以上に早く着いていて、自分でもびっくりしてしまう。

「そろそろ次の段階に進むべきかもしれないな」

「次の段階……ということは」

「ああ。午後は剣術と……呼吸について教える」

「よっし!」

つい右手を突き上げて喜んでしまう。

「……あまり調子に乗るな、呼吸法はあくまで鬼殺隊士への入り口に過ぎないことを忘れるな」

軽く頭を殴られて怒られる。痛い。

「少し体を洗って来い。とりあえず、昼飯にするぞ」

「はい!」

少しずつでも良い。とにかく、強くなるんだ。そのために俺は頑張らなければならない。辛くても怖くても、それであの日の俺のような誰かを救えるのなら、俺はきっと頑張れる。

もう大切な人が目の前で殺されるのは見たくないし、誰かにそれを味あわせたくもない。

 

 

 

 

 

昼食を取った後、俺達は屋敷にある道場に来ていた。本格的な剣道や柔道の試合なども出来そうなもので、改めてこの屋敷の立派さとこんなところに一人で住んでいた行楽さんの謎を実感した。前聞いた時には『いずれこうして育手になったときのために設備を整えていた』とのことだが、流石にそこまでするものなのだろうか……?

まあ気にしていても仕方ないか。今日はいつもやっている剣術――と言ってもほぼ素振りだけだが――の指南に加え鬼殺隊の呼吸について教えてくれるというのだ。心してかかろう。

 

「ではまず全集中の呼吸だ、と言っても、これは普段お前が山でやっていることに近い筈だ」

「え?」

「お前は空気が薄い山中にあって、どのように呼吸をする」

「それは出来るだけ空気を多く取り入れて、なおかつ無駄な力が入らないように……」

「そう、それだ。それが全集中の呼吸の基礎の基礎。肺を極限まで膨らませ、血により多くの酸素を行き渡らせる」

「なるほど、それであの山登りの修行を……」

単純な体力の増強にもなるし、理にかなったものだったんだな。

「ああ。だから、お前は呼吸の基礎は出来ているはずだ。今ここで、山中のように呼吸してみろ」

「はい!」

……すぅーー……っ!?

一瞬体が熱くなったように感じ、少し苦しくなってきたので息を吸うのをやめるとすぐに消えていった。今のは……?

「……驚いた。本当に基礎はほとんどできているな。肺活量さえ鍛えていけば、常中の体得もそう遠くないかもしれない」

「常中……?」

「ああ、全集中の呼吸・常中。平たく言うのなら、ずっと全集中の呼吸を続けるということだ。それにより、飛躍的な身体能力の向上が見込める」

「へ?ずっと続けるって、なんとか一筋三十年!みたいな?」

「違う。比喩でなく、実際に全集中の呼吸を維持し続ける」

「ええええええええ!?」

素っ頓狂な声を出してしまった。今のでも結構辛かったのに、その精度を上げて更にずっと続ける?いや無理だろそんなの。

「まあ、肺活量を鍛えていけばいずれ、の話だ。すぐにという訳ではない。短く見積もっても一年はかかるだろう。それでも十分速いが」

そんなにかかるのか、いや、正直それだけかかってもできる気がしないけども。あれ、でも、ということは……

「……行楽さんは、出来るんですか?」

「出来る。()()()()()()

そう言われてみれば確かに、随分と呼吸の音が聞こえるような気がしてきた。なるほど、甲の隊士ともなるとこのくらいは基礎技術になってくるものなのか……

しかし。

自分がおそらく一年以上かけて覚えるであろう技術を何でもないように言われると、少しイラっと来る。

無論行楽さんと自分では年齢も経験も比べ物にならないし、実際一年余りでの習得はかなり早い方だという彼の弁も正しいのだろう。ひょっとしたら行楽さんも苦労して習得したのかもしれないし……

「どのくらい時間をかけて習得したんですか?」

「む、そうだな……常中の存在を教えられてからは……大体半年ほどだったか」

決めた。当面の目標は常中とやらの習得だ。半年とは言わないが、何としても一年以内に終わらせてやる。

まあそもそも、まだ全集中の呼吸そのものを習得しきったわけでもないので時期尚早ではあるが……まずは何よりも。

「さて、無駄話はやめるか。呼吸が出来るなら丁度いい。お前の呼吸への適性を見る」

そう、今自分がしたのはただ空気を多く含む呼吸をしただけ。肺活量は十分あると示しただけである。実際に鬼と戦うときには、戦闘のための動きが必要だし、それに応じて呼吸法も変えなければならない。

この戦うための呼吸にはいくつかの流派があり、行楽さんが使っているのは『雷の呼吸』だ。

あまりよく覚えてはいないが、五つある基本の流派のうちの一つであるとかなんとか聞いたっけな。

「さて、とりあえずは雷の呼吸からだ。これなら俺が手本を見せられるからな。見よう見まねでやってみろ」

行楽さんはそう言いながら木刀を手にして、少し離れたところに立つ。そして居合の構えを取る。その呼吸に注目する。

シィィィィ……

というような音が聞こえた。おそらく聞こえやすいようにあえて大きな音での呼吸をしてくれているのだ。これが恐らく雷の呼吸における呼吸の音なのだろう、そして行楽さんは居合の構えからそのまま……

 

『雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃』

 

 

真っすぐに超高速で走り込み、そのまま木刀で何もない空間を両断する。

その速さ、キレ共に、あの日見たそれとほとんど違いはなかった。

……これが、(元)鬼殺隊士の力か。

確かに、とてつもないものだ。それにこの霹靂一閃が「基本」だっていうんだから恐ろしい。

 

 

 

 

「……今のが雷の呼吸の原点、霹靂一閃だ」

「……とんでもない速さですね」

「そういう呼吸だからな。その分脚への負担はかなりのものがあるから、むやみやたらには使えない。……それで、どうだ?」

「どうだ?なんていきなり言われましても……でも、頑張って見ます」

実際にできるかより、できたとしてその後のほうが怖い。減速できるのだろうか、壁にぶつかったりはしないか、と。

幸いにも道場はかなり広い。なんとかなると信じ……られるか?

「刀は持たず動きだけやってみろ」

「はい」

抜刀術なんてできないからな。適性を見るという話だし、実際に型として覚えるのは剣術をもっと習ってからだろう。

道場の端の方へ向かい、出来るだけ距離がある方へと向く。

そしてあたかも刀を持っているかのように居合の構えを取る。持ち方がこれで正しいのかはわからない。多分間違っている。

呼吸の音を思い出す。実際どのような呼吸なのかはわからないが、少しでもアレに近付くように……

シィィィィ……

よし、良い感じな気がする。後は体中、特に足に酸素を集めるように……いやどうやるんだよ。

……あまり変なことは考えず、呼吸を続ける。まだいける、まだ……

あっ、ちょっとヤバいかも……なら、今だ!

居合の構えから床を蹴って踏み出し、全身の力を爆発させるように前に進む……!

その瞬間、自分の体は猛スピードで先程の行楽さんのように突撃する。

空を舞う……ってほどではないが、滑空するようにひたすら前進していく。

……できた、勿論行楽さんの物と比べたら精度は天と地ほどの差があるが。

それにしても凄い速さだ、先程の行楽さんに近しい速度が出ている気がする。呼吸法というのはこれほど……あれ、何か忘れているような?

次の瞬間、速度を殺し、着地先を整えることを忘れていた俺は正面から道場の木製の壁に激突した。

 

 

 

「いってええええええええ!!!!」

「……何をやっているんだ、お前は」

呆れたように行楽さんが手当道具を持ってくる。ありがたい。

最後にわずかばかり速度を緩められたのと腕を前に突き出せたので顔面からぶつかることは避けられたが、その代わり壁にぶつかりそうになる俺の体重を腕二本がもろにくらってしまった。

幸い血は出ていないが、ちょっと信じられないくらい両肘から先が痛い。いやまあ、かなりの負荷かけたし、折れてないっぽいだけマシですらあるのだが……

とりあえず腕はあまり動かさないようにしておこう。

「いや、だって呼吸と踏み込みで頭いっぱいだったんですもん」

実際はこれらと速度の制御に加え鬼の攻撃をかわしながら斬る動作も行わなければならない。なにそれこわい。

「……全速力で突っ込むだけでは、障害物や鬼の攻撃がある場面では役に立たないし、鬼を斬った後の対応に不便だ。次からは自分で抑えられるという確信を持った速度で跳べ。それと突進中の無駄な動きが多い。あれでは速度も殺されるし刀も当たらない」

「う……」

「全く……少し休憩したら、弐から陸の型を見せる。その腕のこともあるし、今日の修業はこれ以上は行わないが、とりあえずは見るだけ見てみろ」

「え?」

「何を驚いているんだ」

「いや、でも、今の話を聞くと俺やっぱ才能ないのかなって」

「才能がない者はそもそも呼吸法は使えない。お前の呼吸は確かに雷の呼吸のものだったし、薄くもなかった。十分だ。それにあの速度、制御出来てはいないがかなりのものだ。お前は間違いなく霹靂一閃の……いや、雷の呼吸の才能を持っているはずだ」

持ちあげ過ぎではないかというくらいに褒めてくれたことで、少し恥ずかしくなってしまう。そんな俺を見てか、行楽さんは何か言おうとしたそうにしていたが、結局休憩が終わるまで特に何も言うことはなかった。、

その後、俺は雷の呼吸の残り五つの型を見せてもらった。

 

神速の五連撃を放つ弐ノ型・稲魂(いなだま)

相手の周囲を高速で回りながら切る参ノ型・聚蚊成雷(しゅうぶんせいらい)

剣気で刀の射程外の物を切る(らしい)肆ノ型・遠雷(えんらい)

強烈に切り上げて攻撃する伍ノ型・熱界雷(ねっかいらい)

周囲に無数の斬撃を放つ陸ノ型・電轟雷轟(でんごうらいごう)

 

これらは刀を持って実際に振るわないとならない型であるため、怪我を差し引いても今の俺では無理だという話になった。

明日からは体力作りは続けつつ、剣術についてを重点的にやっていくらしい。しかし……

「行楽さん、雷の呼吸以外の俺の呼吸の適性は見なくて良いんですか?」

「その必要はない」

「なんでですか、ひょっとしたらもっと適性のある呼吸があったり……」

「義勝」

「な、なんですか、急に改まって」

「お前には、鬼殺隊の鳴柱になってもらう」

「………………は?」

「聞こえなかったか?お前は鬼殺隊の柱になれ」

「はあああああああ!?」

本日三度目の俺の絶叫に、行楽さんは何を言っているのかというような表情でこちらを見てきた。

それ、こっちのセリフです。

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