鳴柱になりたいある少年の話   作:starred

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鬼殺隊士・月見里行楽

あの日……俺が「休暇」として街を練り歩いてから、俺はたまーに行楽さんと二人で街に出かけるようになった。表向きの理由としては食料の買い出しだの日用品の調達だの疲れた自分へのご褒美だの色々と作っているが、無論真菰とまた会えるかもしれないから。というのが本音だ。

……いや、行楽さんといるのが楽しくないとか、そういう話ではない。

やはり、女の子というのはそれだけで素晴らしい。これまで女の子と接したことがなく、免疫がなかったせいだろうか。今でも真菰のあの笑顔が、ふわふわとした声が、頭から離れない。

……ということを行楽さんにぼかしながら話したら、「お前、それは……いや、なんでもない」と非常に微妙な反応を返された。なんでだ。

そんなわけで、今日も俺と行楽さんで街に出てきていた。今日の名目もとい目的は、薪の購入だ。

「よし、これだけ買えば当分大丈夫ですかね」

「ああ、そうだな」

「ええ。……あの、行楽さん。さっきからかなり強く行楽さんに向けて手を振ってる方がいるんですが」

「俺にはお前に手を振っているように見えるぞ、お前の知り合いじゃないか?」

『おーい行楽!何無視してやがる!』

「……行楽さん、流石に無理があると思います」

「……」

はあああ、と深いため息をついた行楽さんとともに、その男性の下へと向かう。

「おう、行楽。相変わらず何を考えてるのかわからんような表情してんな」

「……お久しぶりです。国光さん。どうしてここに?」

「ちょっと可愛い弟弟子の顔でも見に来てやろうかと思ってな」

「……ならば、連絡してくれれば」

「いやいや、それだと手間だろう?そんな長話する気もないしな」

「国光……さん?」

どこかで見たことがある気がする名前だ。

「あ?あー……こいつが噂の『継子』君か」

「継子ではありません。俺は引退した身ですしそもそも柱ではない」

「何言ってんだ、柱になる資格を持ちながら就任を断った唯一の――」

「国光さん!」

「……あーわかったわかった。相変わらず冗談の通じないやつだな」

「……えっと、行楽さん?こちらの方は?そして今話していたことって……?」

「それはオレが答えてやるぜ。オレの名前は漆原国光(うるしばらくにみつ)。元鬼殺隊士・甲で、一応こいつの兄弟子だ。

……それで、お前は……新妻義勝、だったか?名前はこいつから聞いている」

漆原国光。思い出した。行楽さんが定期的に文を書いている相手だ。屋敷に行楽さん宛の文が届くことはたびたびあるが、その送り主のうちの一人は彼なのだろう。

「漆原さん……ですか。はい。俺が行楽さんの弟子の、新妻義勝です。……元甲ってことは、行楽さんと同じ……」

「ああ。まあ同じ甲ったって天と地ほどの差があるがな、なにしろこいつは――」

「国光さん!!!」

「何だ、どうせ入隊したらバレるだろ?何でそう隠そうとする」

「……」

「え、えーと、とにかくお二人は知り合いなんですね!」

一触即発の空気を破るため、空気を読まず二人の間に入り込む。

「……」

「お、おぉ……そうだ、な」

突然のことすぎて全く理解が追い付かない。だが、とりあえず、この人……漆原さんは鬼殺隊士の頃の、いや、育手の下にいた、鬼殺隊士になる以前の行楽さんもよく知る人物であることは間違いないようだ。

「しかし、本当に引退したんだな」

「……ええ、元々三十までのつもりでしたから」

「お館様は引き止めなかったのか?」

「残念そうにされていたとのことだが、あの方は基本的には他人の意志を無理やり曲げさせようとはしないからな」

「桑島さんには……何か伝えたか?」

「……」

漆原さんがその質問をした途端。再び空気が凍り付いた。

まずい。流石に俺には大の大人二人がバチバチとした雰囲気の中にいられるほど強くない。なのでどうこの場を収めてもらうか考えていると、行楽さんが俺の腕を掴んで、

「……弟子に稽古を付けなければならないので、失礼します」

「おい待て、失礼するな……っておい!」

漆原さんを無視して、俺の手を引いてとてつもない速度で屋敷に向かう行楽さん。いやちょっと待て、いくらなんでも早すぎるだろ。俺の霹靂一閃より少し遅いってくらいだぞ、移動の範疇ではない。

ほら、道行く人々がとんでもないものを見たような目でこっちを見てるじゃないか。

「ぎ、行楽さん?あのちょっとそれ以上は腕が、後買ってきた薪が。あの、漆原さんも追ってきてるわけではないですし……行楽さん!?」

結局、屋敷に着くまで引きずられた。薪と俺の腕は何とか死守した。

しかし、あそこまで行楽さんが自分の隊士時代の話を隠したがるのはなぜだろうか?無理に知りたいとまでは思わないが、気にならないと言えば嘘になる。

……よし、とりあえず後で聞いてみよう。多分答えてはくれないだろうが。

 

 

 

 

 

「行楽さん、今日漆原さんに言われたことについてなんですが」

作戦決行だ。という訳で、夕食時の逃げられないタイミングで聞いてみるときにした。稽古中も考えたが、貴重な時間を無駄にしたくはないし、何よりその話題を出した途端本気を出してボコボコにされそうで怖いからだ。

「……」

「無理に話してくれなんて言えませんが、俺はどうしてその話をしたがらないのか不思議なんです。行楽さんは強いし、俺の命を救ってくれた恩人です。そんな立派な人が、どうして隊士としての自分を――」

ドン!!

そこまで言ったところで、行楽さんにお盆を叩かれ遮られる。

「……取り乱してすまない。悪いが、今日はイマイチ食欲が湧かない。先に休ませてもらう」

「行楽さん!」

「……」

そのまま退出して行ってしまう行楽さん。

俺はその背中をただ見守るしかなかった。自分が何らかの失言をしたことは理解できたが、何が失言だったのかはわからない。

……怒らせてしまった、か。そんなつもりはなかったのに。てっきり、いつも通り無言を貫かれるか「自分で考えろ」と言われるかだろうと思っていた。

まさか、こんなことになるとは思いもよらなかった。どうする。どうすればいいんだ?

いくら考えても答えは出なかった。

……翌日からも、何もなかったかのように稽古をつけてくれたのは、せめてもの幸運だった。

 

 

 

 

 

仕方がないので、こちらとしても無かったことにして稽古に励むしかない。こればっかりは、俺の意志とかは関係なく、行楽さんが話す気になってくれないとどうしようもない。漆原さんに聞くにしても、あの人普段からあそこにいるかわからないしなあ、真菰を探すのと同様に、そううまく見つかるとも思えないしな。

結局。死ぬほど自分を鍛える。それしか、今の俺にはできないってことだ。

 

 

 

 

 

『雷の呼吸 弐ノ型 稲魂』

 

「……っ!?」

いつもよりさらに速く感じる五連撃。だが回避できた。重要なのはここからだ。

 

『雷の呼吸 肆ノ型 遠雷』

 

……来た。この遠距離攻撃を迎撃し、前に出る。それがこの勝負で一本を取る最低条件……!

 

『雷の呼吸 陸ノ型 電轟雷轟』

 

四方から向かってくる攻撃を全て叩き切る。まだ未完成ながら、雷の呼吸で一番の攻撃範囲を誇るであろうその技は行楽さんの遠雷をほとんど捌ききる。そして残った向かってくる剣気を走って避け前に……出られた!

……活路が見えた……!

 

『雷の呼吸 参ノ型 聚蚊成雷』

 

そのまま行楽さんに切りかかる。当然のように木刀で防がれるが、聚蚊成雷は相手の周囲を移動しながらの連続攻撃。一度防げばいいものではない。右。左。上。下。斜め。あらゆる方向に移動して攻撃を繰り返すが。一向に一撃は与えられない。

隙が全くない……!

結局一撃も与えられないまま後ろに飛びのく。この好機を逃したのは痛い。元の間合いに戻った今。攻撃を行うには再び行楽さんの攻撃を捌くか危険を承知で自分から踏み込む必要がある。

「今の攻撃までの流れは良かった」

「結局一撃も与えられてないですけどね」

実戦中に行楽さんが話しかけてくるのは珍しい。それほど今の俺の動きは良いものだったのだろうか?

先程は迎え撃っての反撃でダメだった。それなら、自分から打って出るしかない。

 

『雷の呼吸 肆ノ型 遠雷』

 

逆にこちらから仕掛けるが……ダメだ、牽制としても効果が薄い。型すら使わず捌かれている。

……だが、止まるわけにはいかない。

 

『雷の呼吸 弐ノ型 稲魂』

 

踏み込んで仕掛ける。行楽さんの攻めとは真逆に、遠距離攻撃を仕掛けた後に距離を詰める。高速の五連撃を放つが、それは難なく刀で防がれた。まだだ、まだ止まれない。

 

『雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷』

 

稲魂の上方向を中心にした斬撃に対処している間に、強烈な切り上げを放つ。この型は範囲がそこまで広くない分。かなりの威力を誇る。防ぐのではなく、躱して対応してくるはずだ……!

狙い通り、行楽さんはこの攻撃を避けた。

「今の流れも良くつながっていた。だが、少し前のめりすぎだ」

……()()。そのまま振り向きざまに叩かれ、今日の試合でも結局一撃を与えることはかなわなかった。

確かに、上下、左右は封じたつもりでいたが、前後の動きへの意識が散漫だった。正確に言うなら、後ろに跳ぶことしか意識していなかった。

「……はあ、あそこまでやってダメか」

どっと疲れを感じた。今の自分が出せるものはほとんど出し切ったが、それでも到底及ばない。あと何年かけたら追いつけるのかなあ……

やはり、行楽さんはとても強い。

「……俺が育手……桑島さんから一本を取ったのは、習い始めて一年は経ってからだ」

「え……?」

「まだ半年だ。ゆっくりと修練を積んでいけ」

「い、今育手さんの名前」

「……そろそろ夕食にしよう」

「あ、ちょっと、待ってくださいよ!」

……結局、それ以上のことを行楽さんは話してくれなかった。

相変わらずこの人が何を考えているのかはわかりかねるが、それでも、悪い兆候ではない。そう思えた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

『月見里行楽が、鬼殺隊士を引退する』

その知らせを聞いたのは、もう半年ほど前か。前々から区切りのいい歳になったらやめて、後進を育てるなんて言っちゃあいたが、まさか本当に三十できっぱりやめちまうとはな。

兄弟子としては、可愛い弟弟子が五体満足で引退したのは喜ばしいことではあるんだが……同時に複雑でもある。

オレは、度重なる型の使用による負荷と鬼にやられた負傷が重なって、脚が再起不能になって引退した。その時には行楽も一緒になって悲しんでくれてたな。

あれから五年近く経って、日常生活には問題のない状態にまでは回復したが……現役復帰なんて、到底考えられない。

だからこそ。未だ現役で『準柱』なんて呼ばれるほどに戦えるあいつの引退という報は、嬉しいながらも受け入れられるものではなかった。

それでも、後進を育てるという意気込みの下、多くの弟子を取って奔走してるのかと思っていた。

しかし、あいつからの手紙を読むに、どうも弟子は一人だし、そいつが特別ずば抜けた才能を持つってわけでもないらしい。剣術も呼吸も筋は悪くないらしいが、正直その程度ならつきっきりになる必要はないだろう。むしろ歳や実力の近い弟弟子でも取って、切磋琢磨させた方が良くなりそうなもんだが……

色々と問いただしたくなったので、オレはあいつの住む屋敷……に行くと居留守を使われるだろうから、あの屋敷の最寄りの街に行くことにした。生きていく以上買い出しはしなければならないし、街でなら無視も簡単には出来ないはずだ。

その目論見は、あっさりと成功した。しかも、噂の弟子も一緒にいる。好都合だ。

笑顔で少し過剰なくらいに手を振ってやる。……お、弟子の方が気づいたな。行楽に何か言っているのが見える。

しかし、何か認めないようなそぶりだ、面倒だな……よし。

「おーい行楽!何無視してやがる!」

そう言ってやると……行楽が観念したかのようにこちらに歩いてきた。

その後行楽の弟子……義勝君も交えて本当に軽ーく話をしたが、行楽のやつは本当に何を考えているんだ。

あいつ、自分の本当の実力を弟子に教えてねえ。

全く……()()()()()()()()()『甲』なんて、前代未聞だろうに。

十二鬼月は強い。俺も一度任務で下弦の参と交戦したことはあるが、頸を斬ることは出来ず、炎柱様の到着まで時間を稼ぐことしかできなかった。……まあ、それだけ強かった下弦も、炎柱様は一瞬で頸を斬ってしまったのだが。

十二鬼月の討伐は柱になる条件でもある。行楽は柱になる条件である鬼五十体の討伐と十二鬼月討伐。どちらか一方を達成すればいいそのどちらも達成していた。

だが、柱にはならなかった。なれなかったのではなく、ならなかったのだ。

理由を聞いても、「俺には、柱になる資格はありません」の一点張り。当初はお館様も屋敷や金の斡旋などの柱になる恩恵を説いて説得しようとしていたが、あまりにも行楽が固辞するもんだから最後には諦めてしまった。

それでもせめてということで、屋敷だけは作ったそうだが……

正直、理解できなかった。それだけ強いのにというのもそうだが、何より、柱は鬼殺隊士全員の憧れなのだ。その柱に就任できるというのに辞退するなんてことは、考えられなかった。

義勝君の実力の程だったり、引退の件を俺たちの育手……桑島さんに引退の件の報告をしていないことだったり。

まだまだ話さなければならないことは多くあったが、行楽はそのまま逃げるように帰ってしまった。いや、逃げたといった方が正しいなありゃ。

……負い目は感じてるようだが……よくわからんな。

……また、お邪魔する必要がありそうだなあ、あの様子じゃ。

そう思ったオレは、弟弟子の弟子の指導もしたいし、あいつの屋敷に正式な訪問をしたいという旨の文を出すことにした。

さて、あいつが素直に了承してくれるかね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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