鳴柱になりたいある少年の話   作:starred

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最終選別・壱

「それでは、行ってきます」

「義勝」

「はい」

「必ず、生きて帰ってこい」

「……はい!」

最終選別の日の朝。俺はいくつかの荷物とともに家を出た。

まず、二日分の水と食料。そして野宿のための寝袋に、この日のためにと行楽さんが作ってくれた。方から背中にかけて黄色い稲妻の意匠が象られた茶色の羽織。そして、鬼の頸を斬るための刀、日輪刀。

これらの荷物をまとめて、藤襲山……最終選別が行われるという山に向かう。

……大丈夫だ、俺は絶対に七日間を生き抜いてみせる。そして、鬼殺隊士になるんだ。絶対に!

 

 

 

 

 

「今宵は鬼殺隊最終選抜にお集まりくださってありがとうございます」

二人の子供の声が聞こえた。

……二人の言うことは、基本的に行楽さんに聞いたものとほとんど同じだった。正直疑問のある点も多いが、なんにせよこれを突破しなければならないのだから、そんなことは考えていられない。

……ふと周りを見る。ざっと二十人ほどはいるだろうか?行楽さんの話によれば、この中の五分の一……四人も残ればいい方。全滅もざらにあるとのことだ。無論、全員が死んでるという訳ではなく、鬼への恐怖から逃げだす者などもいるらしく、そういった者たちの中には隠として採用される例も全くないわけではないらしい。……そうでもしなければ人手が全く足りないとかなんとか。

そんな参加者たちを見ていると、一人、狐のお面を付けた女の子がいた。

どこかで見たことがあるような……?いや、ここに来るような知り合いのあてはない。他人の空似だろう、きっと。いや、でも、うーん?

……どうでもいいが、日輪刀、みんな持ってるんだろうか……?

自分が聞き流しただけで貸し出しの話などあったりもしたのだろうか?

……ダメだ、これから命がけの試験なんだぞ?どうしてこう浮ついた思考を……

いや、だからこそか。やっぱり、怖いんだ。怖いからヘラヘラと逃げたくなる。でも、それじゃ進めない。

「――では気を付けていってらっしゃいませ」

現実逃避をしているうちに選別の説明も終わったらしく。あまりにあっけなく試験の始まりは告げられた。……頑張ろう。それしかない。

 

 

 

 

 

山に入って少しばかり歩いた。とりあえず、食料や水を補充できる場所を探さなくては――

「うわあああああああああ!」

……早すぎるだろう!?もう遭遇したのか!

声はかなり近くから聞こえた。きっとあっちの方に……いた!

見ればその鬼に襲われているだろう少年かなり動揺していて、呼吸を万全に使えていないようだ。

その近くには、……鬼の姿。

あまりよく見えているわけではないが、あれは間違いなくそうだ。明らかに大きな体躯に、異形と化しているからだ。……鬼……

――絶対に殺す。

自分でも驚くくらいの情念に駆られる。だが不思議と呼吸は乱れない。

いや、きっと無意識下で必死に制御しているのだろうが、今の俺はそんなことを感じる余裕もなかった。

……待ってろ、今助ける!

幸い鬼はこちらには気が付いてない。なら……

 

『雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃』

 

鬼に飛び掛かり、その頸を一直線に掻き斬る。

恐らく斬られたことすらも認識できていなかったであろうそれは……すぐに灰となって消えていった。

……できた。俺にも、斬れた……!やりましたよ。行楽さん!

「大丈夫か!?」

「は、はい!なんとか……」

「……呼吸が乱れてるな」

「……」

「一回落ち着いて呼吸を整えるんだ、君も生き残れると思っているから、ここにいるんだろ?なら自信を持って戦おうぜ」

「……はい!」

よし、これで大丈夫だろう。もともと育手に行けると判断されて送り出された者たちだ。本来の力が出せればそうやすやすと鬼に殺されたりはしないはず。

「それじゃあな。……また会おう」

「はい、ありがとうございました!」

助けた少年と別れる。

人を救えたこと。鬼を斬れたこと。そのどちらもが自分の自信を大きく高めてくれた。とはいえ、他の人を守りながら……なんて芸当ができるわけもないが。行楽さんにも刀や自分の疲労を鑑みて戦えと言われたし、正味鬼との戦闘は必要最低限に抑えたいところだ。

見たところ、食べ物の方は果物類などでいくつか食べられそうなものがあった。水は……わからないが、山の中であれば川はあるはずだ、早くそこに出よう。

 

 

 

 

 

……夜明けか。

これほど朝日が昇るのを待ちわびたこともないだろう。日光を感じなが、俺はその場に倒れるように寝っ転がった。

……疲れた。ただ、ひたすらに。

あの後、川の近くの開けた場所に出たので、そこで休みながら鬼が来ないか一晩中見張っていた。

正直、きつい。ただ一晩中起きるというだけならともかく、鬼が来るかどうか緊張しながらでは休んでいてもまったく休まらない。

結局あの後鬼は来ず、俺に感知できる範囲で他の参加者が鬼に襲われることもなかった。

……仕方ない、このまま少し眠ろう。朝昼にはある程度視界も良好なので地形の確認や周囲の探索をしたいところだが、それで夜の鬼との戦いで支障をきたしては仕方ない。

行楽さんが言うには、()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。体力は残しておくに越したことはない。

基本的にそうした鬼と遭遇したら逃げろと言われたが……そうできない場面もあるだろうしな、誰かがそんな鬼と戦っていたりしたら、それを見捨てて逃げることなんてできないし。

……とりあえず寝る。この固い地面と差し込む朝日のまぶしさから、昼過ぎには起きるだろう。そうしたら昼間の行動を考えよう。

そう考えながら俺は、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

……寝すぎた。起きてすぐに、俺はそのことを理解した。空は赤く染まり始めている。もう夕方と言って差し支えないようだ。

くそ、まさかこんな固い地面で……いや、固くない。そう、固くないんだ。むしろ柔らかい。

「……起きたのなら、無視はしないで欲しいかな」

そして間近に、狐の面を顔の横にかけた女の子のふくれっ面。かわいい。

……じゃなくて!

「……真菰?ここで、何を」

人間はあまりに困惑すると、かえって冷静になるようだ、再会の喜びだとかそういったものより先に、こんな発言が出てくる。

「何を。って……最終選別以外にないと思うけど」

あっ、やっぱり全然冷静じゃないわ俺、そんな考えれば一瞬でわかることを……いやいや!

「真菰って、鬼殺隊士の入隊希望者だったのか……」

「うん、言ったでしょ。私、結構強いから。って」

「……なるほどな」

そう考えればあんなところを一人でふらついていたのも、俺と簡単に食事に行こうとしたのも頷ける。そりゃ、普通の奴が真菰に何かよからぬことをしようと考えれば一発で再起不能にされることだろう。

「まさか義勝もそうだったとは、思わなかったけど」

「こっちのセリフだよ、まったく……それで、だ、俺に何をしていた?」

「何をって……膝枕だけど」

「いや、そんな何を当たり前のことをって顔されても困る。もっとこう、なんというか、恥じらいというようなものは……」

「……?」

「ああ、もう……なんでもない」

この様子だと、男としての認識すらされていないようだ、異議を申したいところだが、時間を無駄にするわけにはいかない。

立ち上がりながら、

「なあ、何でそんなことをした?真菰が俺を見つけたのがいつかは知らないが、俺にそんなことをしている時間があるならもっと有効に――」

「約束」

「え?」

「約束、したよね?私が義勝を守るって。だから、一緒に行動しようと思って」

「約束って……そんなもん、今果たさなくても良いだろ。今は自分のことを……」

「自分がしたいからするの。それに、一日一人で過ごしてみて、一人でいるのには限界があると思ったから。誰かと行動したくって」

「それは……」

……ぐう、それを言われてしまうとそうだ。俺もすぐ起きるつもりだったとはいえ、初日が終わってすぐ倒れるように寝てしまった姿を見せている。返す言葉もない。それになんだかんだで……嬉しかったし。

「……わかったよ。一緒に行こう。……いや、一緒に来てくれ、真菰」

「うん」

そう言うと彼女は朗らかに笑った。かわいい。

……でも、膝枕する必要はなかったよな?

 

 

 

 

 

結局その後はわずかばかりながら残った時間で周囲の探索を行うことにした。ひょっとしたら怪我人や俺たちのように協力者を求めている人がいるかもしれないからだ。

その道すがら、俺は真菰と色々な話をしていた。

「そういえば、そのお面どうしたんだ?」

彼女の持つ狐をあしらったお面を指で指す。

「これは、厄除けの面。鱗滝さん……私たちの育手が作ってくれたものだよ」

「へぇ……見たところかなり出来が良いけど、その鱗滝さんってそういうのを作るの得意なの?」

「うん。ずっと自分で作った天狗の面を付けて生活してるから」

「へ?」

「うん」

育手にも色々な人がいるんだなあ、他の育手の人達とも、いつか会ってみたいな。

「……そういえばさ、前言ってた『やるべきこと』って、最終選別のことだったのか?」

「違うよ」

「違うのか?」

「うん。と言ってもまあ、近いと言えば近いかな」

いや、どっちだよ。口には出さず続きを促す。

「鱗滝さんが私に出した最終選別に参加するために試験のことだよ。私の背丈より大きいくらいの岩を切れ、って」

「……はい?」

そんなこと、人間に可能なのか?……いや、まあ、行楽さんや漆原さんを見るにやってできないことはないんだろうが、それをこの目の前の少女が行ったということには驚愕を隠せなかった。

「なかなか切れなかったんだけど、錆……いや、()()()()の指導もあって最近切ることができたんだ」

「そうなのか……」

「義勝はそういう課題はなかったの?」

「うーん、そうだな、俺の所は実戦形式で――」

こうしたなんてことない会話をするだけで、昨日よりも随分と気が楽になる気がした。

だからって気を抜くわけではないが……

そうしているうちに日が完全に沈み始める。二日目の夜が、始まる。

 

 

 

 

 

夕方にわずかばかりながら周囲の地形を確認できたので、昨日よりは動きやすい。

それに隣には相方がいる。これなら交代で眠る時間を取ったりもできる。

ただ、今日はあまり動かずに水辺にいることにした。

ここを拠点のような形にして、夜に移動する範囲は昼にも言ったところにしようということに真菰と決めた。

今日はあまり遠くまで探索に行けなかったため、当然夜もおとなしくしておく。

……っと。こちらに向かってくる影が見える。この場所は場所柄他の生存者が来ることもあるが、あれは多分鬼だろう。

「真菰」

「わかってる。義勝、いける?」

「勿論だ。俺から出る」

「うん、任せた」

こちらに気づいているなら霹靂一閃は有効ではないだろう。ならまずはこちらからどんどん鬼に近づく。

それに今は二人。俺が無理する必要はない。それならば――

 

『雷の呼吸 弐ノ型 稲魂』

 

五連撃を放ち、鬼の四肢をバラバラにする。本来であればこれは致命打にはならないが……

 

『水の呼吸 壱ノ型 水面斬り』

 

綺麗な水平斬り。真菰の持つ日輪刀によって鬼の頸は斬られ、灰になって消えていった。

……しかし綺麗な太刀筋だ、そして何より速い。鱗滝さんという育手も、真菰も、高い技術を持つことがうかがえる。

水の呼吸。基本の五つの呼吸流派の一つ。高い対応力を武器とする受けの型で、そういう意味では俺の使う攻撃特化の雷の呼吸とは反対の位置に属するとも言える。基本に忠実な流派。使い手の最も多い流派でもあったはずだ。

「それが、雷の呼吸なんだ。初めて見た」

「ああ、俺も水の呼吸を実際に見たのは初めてだよ」

基本的に育手と自分の剣技しか見ない以上、異なる流派の剣士の型を見る機会は少ない。

……しかし、良いな、長く戦うのには適さない雷の呼吸だが、このように先制攻撃を与える役割としてはうってつけだ。

「……ここらまでだな、そろそろ水辺まで戻ろう」

「そうしようか」

夕暮れ時に進んだあたりまでは確認し、元来た道を引き返す。

その後は特に鬼の襲撃にはあわず、水を求めに来た他の参加者と情報の交換を行ったり、逃げてきた怪我人の傷を応急処置したりしながら、真菰と交代交代で睡眠をとった。

何やら、山の西の方に参加者が集まっているところがあるらしい。明日からはそれを探してみても良いのかもしれないな……

そうこうしているうちに、二度目の夜明けが近づいてきた。どうやら俺たちは、二日目を無事に終えられるらしい。

さて、明日は昼間は多少動けそうだな。

……ああ、このまま最終日まで何もおかしなことなく行ければいいんだけどな……

 

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