錬鉄の赤龍帝 作:ら・ま・ミュウ
「――
午後の二時。魔術を使うのに一番調子のいい時間帯にて俺は全身に意識を集中させていた。
――魔術回路の本数を二十七に固定。
――神経に同化。魔力の作成を開始。
――魔術回路の作成に体力の半分を消費。
淡々と式を読み上げるように工程を整理し、目先の目標である身体強力を獲得するべく生成した魔力を回路の中に流し込む。
――循環開始。
時にウロボロスの輪とは己の尾を噛んで輪を描いた蛇や竜のことを言うらしい。
一つの線が円となる。だがそれは永遠に変わらないものでなく尾を噛んだ蛇や竜は何れそれを飲み込んでしまうという話だ。
沸き上がる力がある。
血液の循環のように青い稲妻が躯を走り抜け、兵藤一誠は一巡のスピードを調整し、魔術回路の負荷を感じ取る。
――魔力損失20%
――一巡まで0.5秒。
――魔力の回転を減速。
――魔術回路の負荷3%
ウロボロス、今の一誠はそれに似ていた。
管に蓋をして永遠と魔力を注ぎ続ければ、理論上無限に強化出来るなどと自惚れたが、生成より損失が大きく、たった0.5秒で限界の底が見える始めるなど笑い話にもなりやしない。
上昇した身体機能は斜め下へと減衰していく。
最初は一分持てばいいと思っていたが、これでは十秒持ちそうになかった。
―――魔力損失13%
――一巡まで二秒。身体強力の性能ダウン
――魔力回転の維持を開始。
――魔術回路への負荷0%
一誠はギリギリまで魔力回転の速度を落として魔力生成に集中を割いた。
先ほどよりも大分出力は落ちたが安定させることに成功し、目を開けた一誠は試しにスチールの空き缶を握りつぶしてみた。
「―――おお」
まるで紙細工のような手ごたえである。
一誠は続けて、十キロダンベルを親指と人差し指で摘まむように持ち上げてみた。
「―――おお!」
発泡スチロールほどの重さも感じない。
性能は満足のいく結果になった。
一誠はこの状態をどれぐらい維持出来るか測ってみたが、
戦闘可能時間が九分。
何もしない状態で一時間。
完全に解除せずインターバルを挟みなから強化し続けると三時間持続させれることが分かった。
「一日でどうにかなるものでもないと思っていたけど、思いの外すんなり形になったな」
まだまだ荒削りで、発動時間や出力調整とやることはあるが、一先ず目安となる身体強化を身につけた。以降はこれを元に魔術鍛練に勤しんでいけばいい。
「そう決まればもう一度、」
タイマー時計がアラームを鳴らした。
「その前にジョギングかな」
丁度午後のジョギングの時間である。
「お袋ー、今からジョギングにいくけど何か買ってきてほしいものとかあるかー?」
「あら、だったらお味噌買ってきてくれる。ついでに料理雑誌も。余ったお金はお小遣いにしていいから」
「料理雑誌って何のやつだよ」
「アンタが食べたいって思えるようなやつが載ってるやつでいいわよ」
「りょーかい!」
(調味料だけでなく料理雑誌まで買うとなると、少し大きめのスーパーの方がいいな。ジョギングコースにはコンビニぐらいしかないから少し変えるか。)
一誠はいつもとは違うコースを走ることにした。
「」
「」
「」
『――――――――――――』
ひどく冷たい手のひらで私を愛撫する、
『―――――――――――――』
ひどく冷淡な物言いで私を陵辱する、
『―――――――――』
ひどく耳障りな声、男の奏でる不協和音。
『――――――――――――――――――――――』
い、いや!死にたくナッ
ドチャリッ
「……あー。弾けとんじゃいましたか」
魔術師らに比べレイナーレは終始優勢であったが、どこか弱者をいたぶることに愉悦を覚える難儀な性癖の持ち主であったらしい……その慢心が命取りになるとは知らず、気づいた時には何もかもが遅かった。
アーシアの神器の治癒の光は可視化されているが、科学や魔術という外法を用いれば見せないことも可能である。
アーシアは戦いの最中、幻と本物を入れ換えていた。
彼の手下の一人のように早々に逃げ出していれば命だけは助かっただろうに、最後まで自分の勝利を疑わず…手遅れになって、恐怖に顔を歪め、彼女に死にたくない、助けてくれなどと、泣いてすがりながら風船のように肉体が膨れ上がって爆発した。
アーシア・アルジェントは廃教会に四散する肉塊と赤い色を眺めてクスリと笑う。
ハイライトのない瞳でアーシアは何を見ているのか、やはり目の前で爆発されるとけっこう汚れてしまうんだな……と、真っ赤に染まった衣服を投げ捨ててバタリと長椅子に倒れこむ。
「流石に無理をし過ぎました……」
体が燃えるように熱い。
長年回復用として使っていた神器を戦闘で使っているのだ。その負担はかなりのもので、一誠のそれとは違い悪魔から魔力を流用した簡略の魔術といえど敵に違和感を覚えさせることなく発動させられるように費やした時間は疲労となって押し寄せる。
このタイプの異常は自分の神器ではどうしようもない。
諦めて長椅子に寝転がるアーシアは、熱くて熱くて仕方がなくてこのまま焼け死ねたらどれだけ気持ちいいんだろうかと考える。
「私は、あとどれだけ…罪を重ねればよいのですか、主よ」
思ってもいない言葉が口から溢れて、頬には止めどない涙が伝う。
神にすがっても助けてくれないのは身に染みて理解しているのに、あの方に尽くすことこそが唯一の救いであると教えてられてなお、どうしようもなく辛くなった時に祈りを捧げる己の脆弱さに彼女は吐き気を覚えた。
急造の魔女