錬鉄の赤龍帝   作:ら・ま・ミュウ

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聖剣使い

私が彼に出会ったのは十年前。

 

言わずと知れた奇跡の事故。

【駒王町の大厄災】と言われ、ガス会社から漏れでたガスによる十数万人に及んだ意識混濁の被害。半日や三日目覚めないような者もいたが、サーゼクス病院・セラフォール病院の全面協力の元、受け入れやスムーズかつ適切な処置もあって、奇跡的に今後の生活において支障をきたすような重度の後遺症を負ったものはなく、のちに奇跡と称された。

 

 

――あぁ。全く世界は嘘と欺瞞に溢れている。

 

 

己以外の誰が知っているだろうか。

 

あれが、人為的に起こされた茶番劇だった事実を。

 

「――お前はおれが守る!」

 

たった一人の私だけの英雄が無意味に踏みにじられた屈辱を。

 

 

 

 

 

「ま、全部僕のせいなんだけどね!」byマーリン

 

 

 

 

 

世界最大規模の宗教組織であるキリ■ト教

龍や精霊などの幻獣や神々が雲隠れしたといえど悪魔や堕天使の暗躍する未だ神秘色濃き時代。

信仰の影に隠れ異形・異端者狩りを主に活動し、その魂を神に返上するそのときまで戦い続ける神罰執行の代行者――それらが集う組織の名を聖堂教会という。

 

その末端に彼女が加わったのは【駒王町の大厄災】からほんの数ヶ月後のことだった。

変わり者?の教育係をつけられた彼女は、洗礼詠唱などの基本的なことに加え、実戦では武器が手元にない事が多いからと体術を学ぶ一環で八極拳を叩き込まれた。

……そう八極拳である。

まずそれを教えると言われたら時、私は思わず「は?」と口にしたのだろう。

気付いた時には地面に寝かされていた。

 

「ほぉ……。本能的に受け身をとったか。

よろしい、明日からは本格的な稽古を始めるとしよう」

 

八極拳。確か中国武術の一つだったと思う。

どうやら師は聖堂教会において八極拳の腕を名乗らせたら右に出るものはいない実力者であったらしく、師曰くイリナは彼の後継としてお眼鏡に叶ったそうだ。

あの一瞬で何を見極められたというのか。分からないが強くなれるのならと、当初はやる気であったイリナも胃がせりかえるような過度な訓練と、はぐれ悪魔狩りという師の任務に同行させられ、休みはなく身も心も死ぬような毎日には心にヒビが入る音が聞こえた。

それでも途中で投げ出さずに幼少頃から実戦経験を積まされた私はメキメキとその実力を伸ばして行き、幼くして数多の異端者、異形の怪物を斬りふせる実力者として教会から一目置かれるようになっていた。

 

『紫藤イリナ、貴殿はこれよりヴァチカンへと向かい、然るべき試練を乗り越えてまいれ』

 

ある日のことだ。

プロテスタントを信仰するイリナは上層部からヴァチカンに向かうことを申し付けられる。

――カトリックの総本山に何故プロテスタントである私が?

疑問には思うものの、上の意見に流されるがままヴァチカンへと渡ったイリナはそこで天使を見た。

 

『紫藤イリナ、貴方には十年前の真相を知る権利があります』

 

比喩ではなく事実、聖書の一つに刻まれるメタトロンと呼ばれる超常の存在である。

愕然とするイリナにメタトロンは苦笑し、寛ぐように言ったが、とてもそんな無礼なことは出来る訳がないと慌てて膝まづく彼女の目上でメタトロンは話を続ける。

 

『あれは現在の人類には過ぎたる知識でした』

 

メタトロンが語ったのは駒王町の大厄災の真相であった。

 

「」

 

「」

 

「」

 

 

「ゲームですか?」

 

私の言葉にメタトロン様は頷いた。

 

『そう、単なるゲームから悲劇は始まりました』

 

人払いを済ませた一室で紅茶を嗜むメタトロン様と、床につく私。

メタトロン様は悲しげな目をして切り出した。

 

『とある悪戯好きな夢魔が作成したゲーム、それは教会でもあまりの危険性とそれに見合わぬ脆弱性故に秘匿されていた人間による魔力生成の技術や神器の存在を仄めかすものなど、我々天使勢力のみならず悪魔や堕天使までもが包み隠したい情報が赤裸々に開示されていました』

 

「そんなものがあったのですか」

 

電子機器を弄くるよりも体を動かしていた時間の多かったイリナにはそのようなゲームが世に出回っていたことなど初耳である。

 

『過ぎたる力は身を滅ぼす。それだけなら自業自得と方がつくでしょう。ですが人類全てが見えない爆弾を抱えてしまうような最悪の事態があり得たのです』

 

「それが英霊召喚」

 

『はい、過去の英雄を使い魔(サーヴァント)として召喚し、使役する魔術。

現代でこそ落ち着きましたが、神代に生きて活躍した英雄の多くは半神であったり、神々の寵愛を受けることもあれば、神器の元となった武具を扱いこなす逸脱者ばかり。

時代によっては神や魔王に匹敵するものも多くおりました』

 

英雄と言われてイリナの頭にまず思い浮かんだのは有名所であるアーサー王やギリシャのヘラクレスだ。

 

修行を重ねて日本にいた頃よりも格段に強くなった彼女といえど、竜や巨人を切り裂いたアーサー王や数多の魔獣を屠り去る豪腕とどんなものでも射抜くという卓越した弓術、そして不死性までもったヘラクレス相手に戦えと言われても勝てるイメージがしなかった。

 

アーサー王やヘラクレスがただの一般人に使役出来るようになれば、悪用された時の事を思うと薄ら寒いものを感じる。

 

『ミカエル様の見解ではゲームにある術式を用いて召喚されるのは英雄の影法師。本来の英雄の一側面を押し出した存在だと言います』

 

「それはつまり、不完全ということでしょうか?」

 

『えぇ、ですが低く見積もって戦闘機一機分の強さを誇ると天界では考えられています』

 

戦闘機一機分。人一人が所有するにはあまりに強大な話だった。

 

『日本国内サーバー内限定だったことが幸いでした。我々は、一時的に悪魔・堕天使陣営と停戦協定を結びそのゲームの削除や大規模な記憶操作の術式を展開したのち、夢魔がその身を寄せたという駒王町へと赴いて、人に姿を変えるという夢魔を炙り出す為に、堕天使総督アザゼルが開発したとされる人工神器で街の人間を―――』

 

 

「昏睡状態にさせたのですね」

 

 

ぎりと奥歯を噛みしめ、下を向く。

そうしなければ私の殺意に気付かれると思ったから。

――私はその時、メタトロン様を殺したいほど憎んだ。

人類を救うという大義の為に一人の少年が犠牲になった。それを正義などと言われたら今すぐにでも殺していたかもしれない。

 

聖堂教会の一人としては失格だろう。

けれど、私『紫藤イリナ』の今があるのは兵藤一誠の勇気があったからであり、彼を()()()怨敵にいつかその手で復讐してやりたいと聖堂教会の門を潜った私からすれば寝耳に水の話であった。

 

ふわり。

温かな包容が私を包む。

 

『イリナ、私達は貴方と彼に償い切れない過ちを犯しました』

 

何を今さら。罪の意識でイッセー君や彼が救われるものか。

 

微睡みを誘う心地よい包容から私は離れて距離をとった。

メタトロンはそれを悲しそうに見る。

 

その哀れむような瞳はイリナの神経を逆撫でした。

 

「何が過ちを犯しただ!加害者の癖に被害者面をして、イッセー君がどれだけ頑張ったかも知らない癖に!」

 

『確かに我々のとった行動は軽率でした。

一時とはいえ街一つの機能を完全に麻痺させ、あまつさえ倒れ付す人々に目もくれずに狐を炙り出すことを率先するなど。

……悪魔の悪辣さを侮っていたのです』

 

―――ッゥ。

 

私はメタトロン様を押し倒して剣を突きつけていた。

 

「……分かる?

私がこうして悪魔に犯されそうになった時の恐怖が?」

 

「それを救ってくれたイッセー君が、何度も殴られて。貴方達は傷を治したというけれど、イッセー君の記憶は失われてしまった!」

 

天使や堕天使達が夢魔を捜索するなかで、一部の悪魔はそれに従わずに運よく昏睡から免れた人間を弄んだり、好みの人間を強制的に眷属へ加えるなどという蛮行に走った。

 

イリナは運よく昏睡から免れた一人であり、悪魔は何が面白いのか幼いイリナを痛め付けて楽しんだのだ。

―――助けて!

 

イリナにとって最悪の不幸とは、イリナの横で昏睡していた筈のイッセーが彼女の叫びで目を覚ましたことである。

彼は悪魔に体当たりをかましてイリナを逃がすと一人残ってその悪魔と対峙した。

 

ただの子供が悪魔に敵う筈もない。

イリナが近くにいた天使を連れて戻ってきた時には悪魔は姿を消していて、そこに残されていたのは腕や足をありえない方向に曲げて血を流す変わり果てたイッセーの姿だった。

 

その後直ぐに駆け付けた堕天使の一人が持っていた『フェニックスの涙』で一誠の外傷は全て治癒された。

だが、精神的な傷までは治癒出来なかったのだろう。

目覚めた兵藤一誠は記憶を失っていた。

 

『…………』

 

紫藤イリナが今というこの瞬間まで信仰を失わなかったのは、それが全て悪魔によってもたらされた不幸であり、イッセーを救うという願いこそ聞き届けられなかったものの、彼の命だけは助けてもらったからだ。

 

「貴方達超常の存在は私達人間をいつも軽んじる」

 

それもメタトロンの言葉で砕け散った。

唯一神の行動が悪魔の蛮行の一因であるというのならば、私はここでこの天使を殺して、教会に反旗を翻す。

 

『紫藤イリナ―――』

 

果たしてメタトロンが最後に言った言葉は何だったのか。

紫藤イリナはその日、ヴァチカンから『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』を盗み出し、

さらにプロテスタントから『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』を奪取すると、最低最悪の『はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)』として教会から追われる身となった。

 

「」

 

「」

 

「」

 

どしゃ降りのなか、私は傘も差さずに歩いていた。

返り血を洗うには丁度いいくらいだと思う。

――また、汚れてしまった。

もう彼の手を握ることなど出来ないだろう。握れば彼の手にまで血の匂いがついてしまうに違いない。

 

紫藤イリナが教会を去ってから早五年。

教会からの追っ手や物珍しさに眷属にしてやろうなどと笑みを浮かべる悪魔、神器保有者を殺そうとする堕天使を、その聖剣で切り裂いていく中で、彼女は自身の感情が段々と死んでいくのが分かっていた。

 

それを補う為に重ねた努力のせいで、無駄に演技だけが上手くなって――たまに暴走してしまうのが最近の悩みである。

 

「ただいま」

 

先日、堕天使の襲撃によって住んでいたアパートを破壊された。

今に思えば兵藤一誠を殺した場合の辻褄合わせをしようと記憶を弄くる積りだったのだろう。まさかイリナが悪魔祓い(エクソシスト)だと思わなかったに違いない。

家を破壊されるという失態は犯したが、自身とアパートの住人に怪我はなく、堕天使も片付けた。

 

これでも、討伐する悪魔や堕天使に懸賞金が掛けられていることがあるので金だけはあるのである。

 

今回の件で集合住宅に己のようなものが身を置く危険性を知ったイリナは兵藤宅からそれほど離れていない古い武家屋敷を買い取った。

 

「……ふぅ」

 

少し欲張り過ぎてしまっただろうか?

私と一誠君が二人……いや、子供が五人はいても平気なくらい大きな屋敷だ。

 

一応、居間と台所の掃除は済ませたが、如何せん部屋数がばかにならない。

離れには剣道場や土蔵などがあった。

 

まだ全然本格的な掃除を始められていないせいか、どうしても屋敷全体が埃っぽく、今度一誠君に屋敷の掃除を手伝って貰えるよう頼んでみようと思う。

 

キュ。シュワー。

雨に打たれてすっかり冷めてしまった体をシャワーのお湯で温める。

 

――そういえば私、一誠君に友達居ないのよね。

 

かつての同朋とも縁を切ってしまったし、私が学園に通うのは一誠君が居るからだ。

一誠君を見守るのに障害にしかならないから学園での友人はあえて作らないようにしていた。

 

これでいいのだろうかとたまに考えることはあるが、もう普通の日常を送るには知らなくていいことを知りすぎてしまったし、罪を背負い過ぎた。

 

別にそれを悲しいことだとは思わない。

私にとっての幸せは一誠君が自分を犠牲にして誰かを救おうだなんて思わない、ちゃんと自分を労れる人になれること。

 

イッセー君を襲った悪魔に復讐をして、

私と一誠君を狙う全ての敵を返り討ちにして、

 

それが全部済んだら、一誠君と結婚して子宝に恵まれ争いのない余生を過ごせたらいいなと思う。

 

「欲張りだなー、私って」

 

自嘲するように呟いた。

 

 


紫藤イリナ

魔術回路/質-

魔術回路/量- 

魔術系統/-

神器(セイクリッド・ギア)-

武装

破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)

擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)

 

人類としては英雄の領域にある少女。

代行者としての経験もあり、悪魔祓いを大の得意としている。

八極拳を極め、洗礼詠唱を高速詠唱しながら二振りの聖剣で敵を封殺する戦闘スタイル。

 

過去の事件から悪魔や堕天使を憎悪するようになり、メタトロンとの会合を経て三大勢力全体へと対象が変化した。

仮に絶体絶命の中、天使になるか死ぬかを迫られたら喜んで死を選ぶ。

 

まだ表だって敵対していないので悪魔社会からは勝手にはぐれ悪魔を狩ってくれる便利人としてみられている。

堕天使からは認知されいない。

教会からは、たまに思い出したかのように下級の執行者が送られて来るのみで大概は蹴散らすか、身ぐるみを剥いで追い返している。

 

兵藤一誠との仲は拗れまくり。ただ、結婚してくれなどと面を向かって言われればイエスと即答するほど好意を寄せている。

 

最近の悩みは自身の才能の限界。

 

一度、禍の団(カオス・ブリゲード)[英雄派]からスカウトされて秒で断った。

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