獅子の娘は心臓を捧げる   作:ASNE

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獅子の娘は語り始める(Part2)

「では―」

アニはそう言いながら自分の手から指輪を外し、そっとテーブルの上に置いた。

「指輪?」

「はい、ハンジさん。その指輪は―私が巨人に変身するために必要な物です」

三人の反応はそれぞれ異なっていた。ハンジはその瞳をキラキラと輝かせてよだれも垂らさんばかりに興奮し、エルヴィンは両瞳を細め、リヴァイは念のため装備していた剣を抜いて立ち上がり、切っ先をアニの喉元に向けた。

(流石、躊躇がない……!)

アニは冷や汗をダラダラ流し、ユミルは怯えるクリスタを自分の隣に引き寄せて抱きしめた。

「リヴァイ、よせ」

「剣を置きなよ、リヴァイ。彼女は指輪を置いたってことは、自分は変身するつもりがないってことだ」

「……ちッ!」

二人に静止されたリヴァイは舌打ちして乱暴に剣を仕舞い、どさりとソファに腰を下ろしたが剣の柄に手を掛けたままだ。

「……助かりました。ですが、兵長の反応はごもっともです。……私たちは、貴方方にとって憎むべき仇敵でしょうから」

「仇敵?」

「……五年前に出現した二体の特殊な巨人を覚えていますか?」

「ああ!もっちろん覚えてるよ!壁の高さを優に超える巨体を誇る超大型巨人と、壁を容易に破壊した鎧の巨人!突然煙と共に姿を眩ませた……」

勢いよく語り出したハンジが突如として何かを察したかのように言葉を止めた。

「……その二体の巨人は、人間が巨人に変身していたもの。名称はそのまま、超大型巨人と鎧の巨人。超大型は高熱の蒸気による破壊的な大量破壊兵器のような力を持ち、鎧の巨人はその名の如く全身を硬化させて刃ををも通しません。……彼らには無垢の巨人を誘導する力はありません。実は壁に接近する直前までもう一体の巨人が無垢の巨人をおびき寄せ、誘導していた巨人が居ました。……『女型の巨人』。それが、私の正体です」

アニはそう言って俯いてしまった。壁内出身の四人は改めてアニの話に衝撃を覚えた。彼女こそが、四年前に壁内に入り込んだ巨人を誘導した張本人だ。リヴァイが再び柄に手を掛けようとしていた正にその瞬間、エルヴィンが口を開いた。

「ならば何故敵である私たちに正体を打ち明ける。聡い君ならば、自分が殺される可能性が高いことぐらい分かるだろう」

「……それでも、打ち明けなければなりませんでした。元々私は反対していましたし、それに仲間たちと過ごしている内に罪悪感がどんどんどんどん増してきて……。決定的だったのは、とある訓練兵に接触した折に未来の記憶を得たことです。もし私たちがこのまま任務を続行すれば、大勢の人間が命を落としてしまうでしょう。私の同期……ユミルもそうです。……そして、エルヴィン団長やハンジ分隊長も、命を落としてしまうのです!」

「エルヴィンとハンジが死ぬだと!?てめえ、でたらめ言ってんじゃねえだろうな!?」

リヴァイはアニの胸倉を片手でつかみ上げ、反対の手でアニの首筋に刃を当てた。エルヴィンとハンジは衝撃を受けながらもリヴァイを制止しようとしたが、それよりも早くクリスタが立ち上がり、怯えながらもリヴァイの腕を掴んだ。

「ほ、本当です!私たちもこの目で見せてもらいました!」

「そいつは嘘を言ってない。離してやってくれ」

ユミルもリヴァイの腕を掴み、アニを離すように伝えた。リヴァイはしばらくそのまま固まっていたが、やがて乱暴にアニを離して刃を収めた。リヴァイが強く掴んでいたせいで首が締まりかけたアニは両ひざをついて片手で首を抑え、二人が背中をさする。

「ッ、ゲホッゲホッ!」

「アニ、大丈夫!?」

「おい、大事ないか?」

「ありがと、大丈夫……」

アニが落ち着いて三人がソファに座り直すのを待ってから、話を再開させた。

「それで、見せてもらったというのはどういうことだい?」

「……彼ら二人は特別な存在なんです。ユミルは私と同じく、巨人化能力を持つ者。『顎の巨人』。元々は私たちと共にこちらに潜入する筈だったマルセル・ガリア―ドを捕食して、その力を得ました。そしてクリスタ……ヒストリア・レイスは真に王位を継ぐ資格がある本来ならば始祖の巨人を継ぐべき存在です。彼らは巨人の力と強く関係があるので、未来の記憶を垣間見ることが出来たのでしょう」

「始祖の……巨人」

「真の王位だと?おい、それはつまり……」

「今の王は偽者で、貴族たちによって祭り上げられた存在です。偽の王が即位している理由は……今の王家が始祖の巨人を失ってしまったから」

「始祖の巨人?それは一体何だい?」

ハンジの疑問に答えるよう、アニはエルヴィンに断って備え付けの黒板を使い、絵と言葉を用いて『九つの巨人』に関する説明を始めた。

「そもそもの始まりは今から1800年ほど前、我々の先祖ユミル・フリッツが『大地の悪魔』と呼ばれるものと契約を結び、巨人へと変貌する能力を手にしました。ユミルの名前はそこから取られたのでしょう。そしてユミル・フリッツの死後、娘三人『マリア』『ローゼ』『シーナ』が彼女の肉体を捕食。力を受け継ぎました」

アニはユミル・フリッツの名前の下にマリア、ローゼ、シーナと横並びに書き記し、それぞれをユミルと繋いだ。

「その名前は……壁の名前と同じだな」

「はい、団長。そこから受け継がれてゆき、今現在九つまで分化しています。その力を使ってかつてのエルディア帝国、即ち我々の祖先が世界を支配していました」

アニは四人の名前を消すと、今度は巨人の顔と名前、変身者について書き記し始めた。

「まず初めに、最も強力な始祖の巨人から。これは代々エルディア王家……すなわちレイス家に受け継がれていたものです。その力は他の八体と比べても一線を画す力を持ちます。その能力は全ての無垢の巨人やユミルの民、エルディア人への干渉。記憶や身体の構造まで書き換えてしまう強力なもの。真価はそれではありませんが……今は第145代エルディア王、すなわち初代レイス王が『不戦の契り』という契約を始祖ユミルと結び主だった特殊能力は封印されています。代々王家に受け継がれ、かつてはフリーダ・レイスが継承していました」

アニがそう言って始祖の巨人の顔の下に書いたのは、ヒストリアの異母姉フリーダの顔(アニの絵は普通なのでご安心を)。その似顔絵を見たヒストリアの脳裏に、白いワンピースの女性と彼女と遊ぶ幼き自分の姿が映った。

「ッ……」

(今の記憶は……私は彼女を知っている?)

ヒストリアは左手で頭を抑え、ユミルは彼女の右肩にそっと手を置いた。その一方でハンジはノートに興奮しながら猛スピードでメモをどんどん取り、リヴァイはハンジに呆れながらも興味深そうに黒板に鋭い視線を送っていた。

「大丈夫か?」

「うん……ありがとう」

アニはヒストリアを気遣うように手を止めていたが、視線を黒板に戻した。

「ですが……グリシャ・イェーガーによって強奪され、現在は私たちの同期、エレン・イェーガーによって継承されています」

アニは始祖とフリーダの顔を消すと、今度はエレンの顔と記憶に基づいた進撃の巨人の絵を描いた。

「そこに至るまでの過程は後でまとめて説明します。『進撃の巨人』は特異な戦闘能力はありませんが……歴代の継承者の記憶を過去未来問わず見ることが出来るという唯一無二の力を持ちます。限定的ならば過去への干渉も可能」

「「「!」」」

「か、過去への干渉だって!?そんなこと、本当に出来るのかい?」

アニはハンジに向かい合うと、はっきりと頷いた。

「出来ます。但し、過去の事象を現在の歴史に繋げるよう働きかけるぐらいです。未来への干渉は記憶の覗き見だけです。……多分、干渉はもうないと思いますけど」

「何故だ?」

「……私の存在です。私は『女型の巨人』という別物でありながら未来の記憶を得、自分がする筈の選択を放棄しました。多分それで完全にその未来とは分岐したと私は考えます。いえ、私が絶対にさせません」

アニはエルヴィンを見据えながら、はっきりとそう言い切った。

「今の彼は継承した弊害で受け継いだ記憶を失っています。後で知らせますが……彼には重い話になるでしょうね。色々……込み入っているので」

アニは目を瞑り、何かに耐えるようにした後、目を開いてその右隣に新たな巨人を書き始めた。

「現在マーレ……私たちの祖国が持っていないのは今上げた『始祖』と『進撃』のみ。後は全てマーレの手に落ちました。その筆頭が……『戦槌の巨人』。今影からマーレを支配している『タイバー家』が管理しています。継承者はラーラ・タイバー」

アニが書き記した戦槌とラーラの顔。恐らく彼女が、アニたちがマーレを止める上で最大の障害となるだろう。

「その能力は他のマーレの六体と比べても強力なもので、硬質化した物質を地面から生やしたり、硬質化した武器を作ったりとかなり破壊力があるものです。巨人は例外を除いて空を飛べないので、かなりの強敵です」

そしてその隣に書き始めたのは、始祖・進撃と同列で世界の命運を握る獣の巨人、そしてジーク・イェーガーの似顔絵であった。

「『獣の巨人』。同じ巨人でも歴代の継承者に影響を受けるので外見に差異があるのですが、この巨人だけは大幅に外見が異なります。その名の如く獣、即ち動物にそっくりな外見をしているのです。そのため過去の継承者には鳥なども居た……と思われます。全ての継承者を知っているわけではないので……確証が持てません。現在のこの外見は我々人類と先祖が共通の『猿』ですね。その長い手から繰り出される投石は非常に厄介です。継承者はジーク・イェーガー。エレンの異母兄に当たり……実は王家の血を引いています」

アニが次に描いたのはジークと組んでいるピーク・フィンガー―『車力の巨人』。

「『車力の巨人』。九つの巨人の中でこの巨人とユミルの『顎』のみが小柄です。他の巨人とは比べ物にならない変身継続時間がその強みであり、他の継承者が体力回復に時間を取られるのに対して車力は瞬時に再変身が可能。背部に銃座などを設置して戦場を駆け回り、支援に特化しています。変身者はピーク・フィンガー」

そして次に、似たような体躯をした『顎の巨人』とユミルの絵を描き始めるアニ。

「『顎の巨人』。小柄な分小回りとスピードはあるものの力がないため、他の巨人化能力者との戦いは絶対的に不利。その硬化された顎と鋭い爪が特徴……のはずだけどユミルの場合は顎が普通」

「悪かったな」

ぶすっとした顔で茶を飲むユミル。アニは苦笑しながら、ユミルをフォローしようと試みた。

「でもそれは、他の巨人の何かを取り込むことで発現出来ると思われます。例えば……全身硬質化の鎧の巨人とか」

「取り込む?」

「そうだよ、ヒストリア。巨人化能力者は、他の巨人の血液や脊髄液などを取り込むことで能力の一部を取り込める。汎用性が高い私の『女型の巨人』や『進撃の巨人』は『鎧の巨人』の硬質化をそれで発現できた」

「さて、後は私たち三人の巨人だ」

アニは一気に『女型』と自分、『鎧』とライナー、『超大型』とベルトルトの似顔絵を描き終えた。その絵を見たヒストリアは口元に両手を当て、ユミルは舌打ちした。

「そんな、ライナーとベルトルトが……」

「ちッ……やっぱりあいつらかよ……」

「『女型の巨人』。その能力は先程も述べた通り無垢の巨人の呼び寄せと鎧から得た硬質化で、変身者は私。『鎧の巨人』。全身を硬質化させ、並大抵の攻撃は通しませんが関節が弱点です。変身者はライナー・ブラウン。『超大型巨人』。高熱の蒸気による爆発と、その巨躯は並大抵の攻撃を寄せ付けない。変身者はベルトルト・フーバー。……以上が、『九つの巨人』の説明になります」

アニは一気にしゃべると自分の席に腰を下ろし、乾いた喉に水分を補給して休憩を取った。ハンジは猛スピードでメモを取り終えてほっと息を吐くと、水分補給をしてから気になっていた疑問をアニに聞いた。

「ふう……ゴク、ゴク。ぷっはー……アニ、巨人化能力については概ね分かった。後で細かいことは質問させてもらうけど、取り敢えず一個質問をしたい。……なら、君が言う『無垢の巨人』……我々の宿敵は一体何なんだい?」

ハンジの疑問にはっと突かれたような顔をした後、沈痛な表情で顔を伏せるアニ。

「……気分のいい話ではありませんよ。それを語るには……まずこの世界の血塗られた歴史を語らなければなりません」

「構わない。教えてくれ……多くの犠牲を出してきた我々は、真実を知る必要がある」

「……では、お言葉に甘えて」

 

 

 

次にアニ・レオンハートが語るのは……悲しく残酷なこの世界の真実。……『エルディア』と『マーレ』の話だ。




今回は『九つの巨人』の能力説明。ガッツリネタバレしているので、原作未読の方やアニメ勢はお気を付けて。
……今回の進撃アニメもえげつなかった。次回、サシャが……。
次回は歴史のお勉強です。
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