……お疲れ様、エレン。
調査兵団本部から六人が訓練兵団の学舎に帰り着いた時は、既に辺りは真っ暗だった。
「すっかり暗くなっちまったな」
「結構距離あったからね」
「私、お腹すいちゃった……」
「あたしもだ。何か残ってるかねえ……」
「……料理長に聞いてみる?」
「ダメもとになるけどね」
色々あって疲労している六人が食堂に入ると、中でだべっていた同期たちが一斉に視線を向けた。
「皆、た、ただいま……」
「おいエレン!何でてめえらまで調査兵団の服を着てんだ!?」
エレン、ミカサ、アルミンの三人も調査兵団のジャケットを羽織っていたため、思わず突っかかるジャン。アニは片手を前に突き出し、彼を制止した。
「はい、ストップ」
「アニ……」
「これは必要なことだったんだ。……また今度、改めて話すよ」
ジャンや、何か言いたげだった同期たちは言葉を詰まらせた。アニは微笑むと、夕食の残りを貰ってきたアルミンから自分の分を手に取り、自分の部屋に戻っていった。
アニはその夜、夢を見た。
気が付くとアニは、海上を進む船の上に居た。
「……ここは、アズマビトの?」
「―来たか」
ばっと振り向くと、そこに居たのはエレン・イェーガーだった。―ただし、地鳴らしを起こしたエレンだが。
「エレン……どうして、あなたが?」
「悪いな、アニ。お前に伝えなきゃいけないことがある」
「……?」
「お前、俺たちの物語の記憶を持っているな?」
「……!」
アニは己の秘密をあっさり言い当てられたことに動揺したが、すぐに納得した。……始祖の力を持つ彼ならば、自分の記憶を覗くぐらい朝飯前だろう。
「……それが何?」
「ただ、最後の記憶はない。だろ?」
……確かにそうだ。自分には135話までの記憶しかない。残り四話分の記憶はないのだ。知らないのだから。
「……ああ、そうだよ」
「それを、お前に伝える」
「……どうして、私に」
「この世界の運命を変えられるのが、お前しかいないからだ」
「……」
エレンはそれから完結に、残り四話で起きた事象を簡潔に伝えた。アニは驚いた後、涙を浮かべながら苦笑した。
「……ほんと、馬鹿じゃないの……死に急ぎすぎだよ」
「……俺は、間違ったとは思ってない。ただ……」
そこで言葉を切ったエレンは、涙を流した。
「叶うなら、ミカサと一緒に居たかった。皆と、一緒に生きたかった……」
アニはそれを見て苦笑し、エレンの手を取った。
「……分かったよ、エレン。その想い、私が受け取った。この世界のアンタは、私が守る。茨の道だとしても関係ない……巨人なき平和な世界は、私が、私たちが作る」
エレンははっと固まった後、嬉しそうにしてアニの手を握り返した。
「……頼んだぞ、アニ・レオンハート」
「……頼まれたよ」
エレンの姿は段々と薄らいでいき、消滅した。……彼は最後まで、笑っていた。
「……さようなら、エレン・イェーガー。あなたのことは忘れない」
ヒストリアもまた、夢を見ていた。
ヒストリアは気が付くと、牧場に居た。
「牧場……?」
戸惑う彼女の前に、エレン・イェーガーが現れた。
「……よう」
「あなた……もしかしてエレン?」
「そうだ。……一つ、聞きたい」
エレンの口調から重要なことだと察したヒストリアは、表情を引き締めた。
「お前に、背負う覚悟はあるのか?始祖の巨人を受け継ぎ、巨人の恐怖から世界を解放するために立つ覚悟が」
「……正直に言えば、怖い。私も、フリーダ姉さんみたいになってしまうんじゃないかって」
「……」
「でも……私は一人じゃない。皆一緒に居るんだから……それに、始祖ユミルも解放してあげたいの。彼女も、私たちも巨人の呪いに囚われてしまっているから」
「……そうか」
「だったら何も言わねえ。……俺に見せてくれ、巨人なき平和な世界を」
「……分かった。約束する」
エレンはヒストリアの顔を見て満足げに笑うと、ヒストリアに背を向けて立ち去っていく。ヒストリアはエレンの姿が見えなくなるまで、彼を見送った。
「バイバイ……エレン。元気でね」