獅子の娘は心臓を捧げる   作:ASNE

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獅子の娘は思案する(前編)

『地鳴らしを阻止する』という目的を定め、マーレとの決別を決意したはいいものの……アニは途方に暮れていた。彼女一人では出来ることが限られているというのもあるが、壁内勢力においても複雑に力関係が絡み合い、下手に動けなかったのだ。それに加えて、この世界の真実に深く関わる繋がりを持つ仲間たちを危険が伴うかもしれないことに引き込むのは気が引けたのである。それぞれが抱えるものも、決して軽いものではないのだから。

(ほんと、どうしたもんかね……)

アニは座学の授業の時間を使って考え事をしているのだが、一向に答えは出ず、教官に気付かれないようそっと溜息を吐いた。そんな彼女の様子を遠目で見つめ、直ぐに視線を逸らしたのはライナーとベルトルト。数日前にアニから叩きつけられたことが今もまだ尾を引いているのだ。ライナーはさらに己が兵士なのか戦士なのかが分からなくなってしまい、ベルトルトは想い人に拒絶されたショックで目に見えて落ち込んでしまっていた。同期たちも三人の間に流れるただならぬ空気を察したものの、触れてはならない話題だと気づいて遠巻きに見守ることしかできなかった(それでもクリスタやエレン、アルミンといった特に親しい面々は気にしているが)。

 

 

その週の休息日。未だ答えが出せずモヤモヤしているアニは、宿舎の廊下をパーカーに手を突っ込みながらあてどなく歩いていた。

「……」

すると、廊下の先から大声で騒ぐ声が。

「おい、止めろサシャ!また教官にどやされちまうぞ!?」

「止めないで下さいコニー、私を待つ食料たちが居るんです!」

「いやお前のことは待ってねえよ!?」

(あのバカ共……何やってるのさ……)

声の正体を察したアニは呆れたように頭に手を当て、廊下の壁に寄り掛かった。廊下の先で騒いでいるのはまあ予想通りというか……サシャとコニーである。先日食糧庫から肉を盗み出して折檻されたにも関わらずまた突撃しようとしているサシャを、コニーが背中から羽交い絞めにして必死に止めているようだ。

「……はは……」

アニはバカ騒ぎをする同期たちの様子を眺めていると自分で抱え込んで悩んでいたことが少しバカらしくなり、思わず苦笑を漏らしてしまった。

その声でサシャとコニーは、彼らを見つめているアニの存在に気付いてそちらを向いた。

「アニ!ちょうどいい、こいつ抑えるの手伝ってくれ!またやらかしたら俺たちも連帯責任取らされちまう!」

「アニじゃないですか!どうしたんですか、こんな所で」

「……別に何もしてないけど……。サシャ、我慢しな。やらかしてここ追い出されたら洒落にならないだろう?」

アニの指摘にその可能性を察したサシャの動きが固まり、コニーはほっと息を吐いて腕を離した。

「サシャの気持ちを分からないでもない。けど、苦しいのはアンタだけじゃない。皆同じだ」

アニはポンとサシャの肩を叩き、微笑んだ。

「サシャ、もしアンタが訓練を真面目にやって上位に入ればより良い道を選べる。出世すればするだけ暮らしは良くなるけど、そのためにはそれ相応の振る舞いがある。わかるね?」

「……はい、わかります……」

ガクリと肩を落としてあからさまに落ち込むサシャ。アニはそんな彼女とコニーの腕を取り、走り出した。

「ア、アニ!?」

「おい、何処に……」

「今したのは大分先の話だ。今日はアタシがパイを奢ってやるから我慢しな!」

アニはサシャの方を向いて今度はにっと明るく笑う。その笑顔を見たサシャとコニーも、釣られて笑顔を浮かべた。

 

 

 

アニはサシャとコニーを伴って街に繰り出し、パイのお店に向かう。すると、その店には思わぬ先客が。

「あれ、アニ?」

「珍しいね、アンタが敬語女と馬鹿禿と一緒に居るの」

「うっせ!」

そこの店の列に並んでいたのは、クリスタとユミル。ユミルに揶揄われながらも三人も列に並び、無事にゲット。二人を加えて五人で空いていたベンチに腰掛け、パイを頬張る。

(素朴だけど、美味しい……)

甘いものが好きなアニは幸せそうにもぐもぐパイを頬張り、味を楽しむ。

「……思ってたよりも大丈夫そうだね」

「ん?」

アニはがつがつパイを頬張るサシャを尻目に、右隣りに座るクリスタと話し始めた。

「皆心配してたんだよ?ライナーとベルトルトと、何かあったんでしょ?」

「あからさまだったからな。馬鹿でも分かる」

「……ゴメン」

クリスタとユミルの言葉にアニは俯き、懺悔するように謝罪の言葉を述べた。サシャとコニーもアニの言葉に込められた感情を察し、彼女に視線を向けた。

「大したことじゃないんだ。大した、ことじゃ……」

アニは何とか言葉を続けようとしたが、叶わなかった。その瞳から大粒の涙が次々流れ、俯いた顔から地面にぽたぽた垂れてゆく。その手から食べ終わったパイを包む紙袋が零れ落ち、アニはそのまま涙を流しながら嗚咽を漏らす。クリスタはそっとアニが泣き止むまで背中をさすり続け、他の三人もその場にとどまり続けた。

 

 

 

 

 

 

そして、アニが記憶を受け継いでから三週間が過ぎた。

 




アニの心は現在、大きく揺れ動いています。彼女自身も、自分一人で止められるとは微塵も思っていません。他の人の力を借りなければ世界を救えないことは理解しています。ですが、彼女が守りたい、背負わせたくないと願っているクリスタやエレンの力を借りなければ世界を守れないという事実に、アニの心は押しつぶされそうになっているのです。



次回、あらすじ回収。お楽しみに。
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