調査兵団第十三代団長エルヴィン・スミスは己の最も信頼する同僚であるリヴァイ兵長、ハンジ分隊長と共に調査兵団の本部への帰路についていた。王都で先日リヴァイが入手したイルゼ・ラングナーの手記について報告するためである。何とかギスギスした報告会を終えた三人は若干疲れた顔をして、慣れ親しむ本部に帰還しようとしていたのである。
「はー……お偉方の相手はいつも疲れるねえ……。でもやっとこれで研究が進められるよ……」
「おい、一体どうやって巨人が喋ったことを証明するってんだ?」
「それは現物を捕獲しないと何とも……でもユミルの民だとかそうゆうことに関してはウォール教の連中が知ってるかもね……」
「……だがこれは大きな一歩だ。巨人の秘密について、これで一歩前進した」
そうして会話をしながら三人が路地の前を通りかかると、その奥から彼らに声を掛ける者が。
「……調べるまでもありませんよ」
「「「!」」」
路地の奥から姿を現したのは、訓練兵団の制服を纏った一人の金髪の少女だ。その後ろにはさらに二人の女子の訓練兵が。三人は足を止めたエルヴィンたちの前で立ち止まると、心臓を捧げるポーズを取った。
「不躾に声を掛けて申し訳ありません。私は南部開拓地訓練兵団第104期生、アニ・レオンハート。後ろに控えているのはクリスタ・レンズとユミル。貴方たちにお伝えしたいことがあり、昨晩無断で抜け出して参りました」
「……御託は言い。さっさと用件を言え」
若干不機嫌そうにアニに発言を促すリヴァイ。エルヴィンとハンジも表情を硬くした。アニはそれにピクリと反応するも、三人を揺るがす事実を告げた。
「はい。……私は貴方たちが求めるものを全て知っています。後ろの二人は、その裏付けとなる者です。私とユミルは……壁の外から来ました」
「「「!?」」」
「どうか、私たちの話を聞いていただけませんか?」
「……いいだろう」
「おいエルヴィン……」
「止めてくれるな、リヴァイ。……君は、全て知っていると言ったな」
「はい」
「嘘偽りはないな?」
エルヴィンはアニに顔を近づけ、彼女の瞳を覗き込む。アニは若干身震いするも、動揺を顔に出さず飽く迄冷静にエルヴィンを見返した。
「……勿論です、エルヴィン団長。この心臓に誓って」
「ついて来い、私の執務室で聞こう」
エルヴィンは顔を離すと背を向け、本部に向かおうとした。アニは遠慮がちにそんな彼をを呼び止める。
「ありがとうございます……あの、申し訳ありませんが人払いをお願いします。私の話を聞くのはこの六人のみにして下さい。根底から揺るがされる話なので、王都の貴族やウォール教の者に漏れるのは……」
「……リヴァイ、部下たちにしばらく私の部屋には近づくなと厳命しろ」
「……分かった」
リヴァイは不服そうに頷いた。その隣ではハンジが目をキラキラと輝かせ、今にもアニに話しかけそうなのを必死に自制していた。
(リヴァイ班長達、遅いなあ……)
ペトラは副班長のエルドと共に溜まった書類を書簡室で片付けていた(オルオとグンタは他の仕事で不在)。先日行った壁外調査の報告書やその後始末のための書類を現在王都に報告に行っているエルヴィン団長らの代理として出来る範囲の職務代行を行っていた。ペトラはエルヴィンに同行して王都に行っているリヴァイを心配してその手が止まり、エルドがそれを咎める。
「おい、手が止まっているぞ」
「ご、ごめんなさい。……班長たち、遅いわね」
「仕方がないだろう、我々の活動について王都に報告を入れるのは義務だからな」
「それは分かってるけど……」
「……少し休憩しよう。そろそろ昼食の時間だ」
「そうね」
ペトラの気持ちを察したエルドの提案で作業を中断し、二人は部屋を出て食堂に向かう。二人が食堂に入るのと入れ違いで出てきたのはエルヴィン団長やリヴァイ班長、ハンジ分隊長……それから、三人の女訓練兵だった。
「リヴァイ班長、戻られたんですか!?」
「今しがたな」
「エルヴィン団長、ハンジ分隊長もご苦労様です。……その訓練兵たちは?」
ペトラとエルドはアニたちに訝しげな視線を向ける。……本来ここには居るはずのない訓練兵が何故ここに?
「……情報提供者だ。オルオとグンタは外か?」
リヴァイの質問にペトラは背筋を伸ばし、彼の質問に答えた。
「はい、仕事で外に出ています」
「二人と他の団員たちに伝えろ。団長の執務室にしばらく誰も近づくなとな」
「え……?」
ペトラとエルドはその言葉に思わず困惑の表情が浮かぶ。……それは、つまり……。
「……班長、誰も近づくなとはもしや……」
「そういうことだ。近づく馬鹿がいたら容赦なく引き戻せ。いいな!」
「「は、はい!」」
直立不動の姿勢で返事をした二人に頷くとリヴァイは、自分の分の昼食を抱えながら先んじて執務室に向かった五人を追って去って行った。ペトラとエルドは彼を見送った後、顔を見合わせた。
「……一体、何が起こるのかしら」
「……分からん」
少なくとも只事ではない……そう二人は確信した。
リヴァイが執務室に到着すると、エルヴィンは自分の定位置に座り、ハンジは来客用のソファで干し肉をもぐもぐしていた。その反対側のソファには三人のまだ幼さの残る訓練兵の女子三人組が寄り添いながら座り、ふかした芋を熱がりながら食べている。リヴァイはどすりとハンジの傍に座り、外から来たと言った金髪の少女―アニ・レオンハートの表情を観察した。
……一見すれば、ただの少女にしか見えない。今もなお火傷するまいとふーふーしながら芋を頬張り、両隣に座る二人と楽しそうに会話している。だがリヴァイは、アニが只者ではないと見抜いていた。
(……他二人は普通の訓練兵だが、こいつは違う。ガキの頃から鍛えられた身体だ。しかも、生半可な訓練じゃねえ)
その体格からアニが只者ではないと感じ取るリヴァイ。だが、彼が最も気になったのはその瞳だった。
(目が普通の奴とは違う。まるでエルヴィンやハンジのような……何かを見据えている目だ)
干し肉を齧りながら鋭い目つきで観察を続けるリヴァイにクリスタは若干怯え、ユミルもまたリヴァイの強さを肌で感じていた。そして視線を浴びているアニは、しっかりとリヴァイを見返していた。少し空気が重くなり、緊張感が漂い始めたその時、エルヴィンが口を開いた。
「さて、アニ・レオンハート。君の話を聞かせてくれ」
調査兵団の主要幹部三人からの視線を集めたアニは、遂に己が知るこの世界の真実を語り始める。
「では―」
To be continued......
と、いう訳で連日投稿。
リヴァイ班のエルドとペトラをカメオ登場させました。オルオとグンタは留守。また何処かで会おう!
今回は導入で、次回から本格的な説明回です。お楽しみに。