吹き飛んだ剛田の方に歩いていくと、個性を使って衝撃を抑えたのか、すでに立ち上がってこちらを睨んでいた。俺が想像したよりも硬度はあるようだ。一応これを言っておこう。
「.....仲間二人は捕まった。大人しく降参しろ」
「ふざけるな...!クソガキが、俺たちの計画を潰しやがって...!」
うん、知ってた、ここでおとなしく捕まるわけがないって。まあこれで言ったという事実は作れた。なのでこの後やることはただ一つ、
「.....そうか、なら」
こいつをねじ伏せるだけだ。
「俺の親に危害を加えたことを後悔させてやる」
肉体強化と瞬間移動を使い、剛田の後ろに移動して回し蹴りを放つ。
「グァ....!」
ドガーン
...当たったらすごい勢いで飛んでったんだけど。威力の制限も無いからただの蹴りでもすごい威力だ。考えて使おう...。影で剛田を引きずりながらそう思った。
「こんの..!」
「.....来ないのか?」
俺の発言に切れた剛田は岩のような腕で殴り掛かってくるが、
キイイン
「!?」
無駄なんだよ...無駄無駄...
攻撃が一方通行に跳ね返され剛田が驚いている間に、懐に潜り込み鳩尾に重い一発をズドンとかます。剛田は立っていられなくなったのかへなへなと座り込むがこのまま終わらせる気はない。
「.....立て。降参しないんだろう?」
剛田の頭を掴んで立たせ、続けさせる。
「ハァ、ハァ、おら!」ブン!
さっきと同じように殴ってくるが、威力も速度も落ちている。なので普通に右に避け、また一発入れる。その後立たせて殴ってを4,5回繰り返すと、顔が原型をとどめていないぐらいボロボロの剛田が座り込むので、同じように立たせるために手を伸ばす。
「.....まだだ。こんなもんじゃ全然足りなーー」
ガシッ
「!?」
しかし、突然両隣から取り押さえられたのでそれは叶わなかった。誰だと思い俺を取り押さえているやつを見ると、
「もうやめてくれ...!俺たちは大丈夫だから....!」
「...お願い..、もうやめて...!このままじゃあなたが....!」
「ーヴィランになっちゃう...!」
悲痛な面持ちで俺を説得している両親だった。
銀行にいる人々は目の前の光景を信じられなかった。先ほどまで自分たちの命を握っていた銀行強盗を、突然現れた子供が倒してしまったのだから。そして何より、
「...なんだよ、あれ...」
「いや..!悪魔...!」
「えぇ~ん!怖いよぉ~!」
子供から感じるプレッシャーが凄まじいのだ。子供は全員泣き出し、大人でさえ腰が抜けるほどのとてつもない圧に場を支配されている。この場にいる者全てが、”子供の皮を被った何か”と錯覚に陥ってもおかしくなかった。
少しすると子供が剛田に対する拷問を始めた。時間的には拷問というほどの長さではなかったが、その光景はまさしく拷問だった。一発で意識を消し去るほどの威力を持つパンチを入れ、剛田が座り込むと無理やり立たせてまた同じパンチを入れる。その行為が4、5回繰り返されたのだ。人質だったはずの人々は、彼が助けてくれたということを忘れ、人質だった時よりも強くヒーローと警察を求めた。彼らの目には、子供はヴィランよりもはるかにヴィランのように映っていたのだ。
しかしこのとき、二人だけ例外がいた。
「...早く、止めないと...!」
「..えぇ、あの子をヴィランにするわけにはいかない...!」
子供の親である二人は、自分たちのためにあんなことをさせてしまったという罪悪感と、これ以上あんなことをさせないためにも、絶対に止めるという覚悟を持って、子供の方に歩いて行った。
「もうやめてくれ...!俺たちは大丈夫だから....!」
「...お願い..、もうやめて...!このままじゃあなたが....!」
「ーヴィランになっちゃう...!」
苦しそうにそう言う二人を見てハッとして周りを見回すと、この場にいる全員が怯えた表情をしていた。
俺を見て
....あー、やっちまった。威圧をほったらかしにしてたし、人前で能力も使っちまった。しかも中継されてるから多くの人に見られてるだろうし、二人も俺の親だとバレたし、これからいろいろ言われるかもしれないな...。
「.....ごめん」
「謝るな...俺たちの方こそ、すまない...!」
「...ごめんね..!」
?何で二人が謝るんだろう?悪いのは俺なのに...まあなんにせよ、
俺は抱き締めてくる二人の背に手を置き、少し力を入れながら一番思っていることを伝える。
「無事でよかった」
『...!!』
その言葉を聞いて何か思うことがあったのか、二人の抱き締める力が強まった。ヒーローと警察が来るまで、俺たちはお互いに抱き締め合ったままだった。
俺は少し落ち着いてから、”この事件を見た人は俺が能力を複数使ったことを忘れる”という上書きをした。人の記憶を勝手にいじるのはあまり気持ちのいいものではないので、必要最低限にした。しかし、事件を見た人全てという不特定多数の記憶を上書きしたため、規模がデかったせいか初めて一回で一週間の寿命が消えた。少しショックだったがこのデメリットはどうにもならないし、人前でミスをした罰として割り切ろう。それに今回の上書きのおかげで(記憶
絶賛現実逃避中だからです。
目の前を見ると警察とヒーローが数人ずついて、全員が俺を見ている。しかも皆表情が険しいという全く嬉しくないおまけつき。やだなー、怖いなー怖いなー。
「...さて、なんであんなことをしたのか理由を教えてもらえないか?」
目の前にいる男の人が聞いてくる。俺は最低限の上書きしかしていないので、俺が銀行で暴れたり銀行強盗をボコボコにしたりしたことは、皆ハッキリと覚えているのだ。なので、俺は現在事情聴取中なのである。
「.....両親が危なかったので」
「だからって君が行く必要はなかった!場合によっては君も危なかったんだぞ?」
「.....俺が行った方が早かったので」
「だとしても君はまだ子供だろう!おとなしく警察とヒーローに任せた方が賢明だった!」
警察の人の意見に周りの人たちも大きくうなずいて賛同している。へー、つまり、
「.....なるほど。つまり俺があそこでとるべきだった行動は”自分の親を見殺しにすること”だと、あなた方はそう言うんですね?」
『!?』
そういうことなのだ。俺はギリギリまで待ってから突入したが、あれ以上待っていたら母さんは確実に殺されていた。つまり、この人たちの言い分だと見殺しにしろと言っていることと同じなのだ。
「いや、それは....」
「.....それに、警察もヒーローも来たのは事件が終わってから。その場にいない人たちに何をどうやって任せろと?.....自分はちゃんと待ちましたよ。それこそ、母さんが殺されそうになるまで。..だけど、そんなときになってもヒーローも警察も来なかった...」
『......』
誰も何も話さないが、気になったことがあったので近くの人に聞いてみる。
「.....剛田は以前に人を殺してますか?」
「!?...え、えぇ...二年前に二人...」
「.....やっぱりか...」
「や、やっぱりって?」
一人で納得しているとさっき俺が聞いた人が聞いてきた。これも理由の一つだから話した方がいいか。
「.....あいつの目には迷いが感じられなかった。人を殺した人間は、まともじゃないやつの場合、”一人殺したら何人でも一緒だ”と考えることがあります。そしてあいつはそのケースに当てはまっていた。だからこそ思ったんです。このままじゃ確実に殺されるって。」
『......』
何でずっと黙ってるんだろう?独り言みたいでちょっと恥ずかしいんだけど...。
「.....別に責めてるわけじゃないんです。ヒーローは遅れてやってくる、当然です。情報をもらってから動くんですから。ただ、今回はそれじゃすまない状況だった。だから自分が動いた。それだけです。
その場にいなかった人たちに、後からやってきて注意される筋合いはありません」
『っ.....!』
俺の言葉が刺さったのか、それぞれ苦虫を潰したような顔をする。やべ、責めてないって言ったのにめっちゃ責めてるような言い方しちゃった。突っ込まれる前に早いとこ退散しよう。
「.....もういいですか?表に親を待たせているので」
「...ああ、行っていいよ。ありがとね...」
「?.....失礼します」
部屋を出てから振り返ってみると、皆さん通夜の時のような顔をしていた。大丈夫?
あ、そういえば俺小四じゃん。すっかり忘れてた。あんなズバズバ言う小四嫌だわ。
義昭が出た部屋の中には、暗い顔をしている大人たちがいた。大人たちはお互いに思ったことを、沈んだ声で伝え合っていた。
「....先輩、あの子すごいっすね...」
「...あぁ、ぐうの音も出なかった。小学四年生とは思えないな...」
「えぇ、特に殺人犯の考え方の話の時はビックリしましたね。どうやってあの考えを出したんでしょう....?」
「...さぁな...」
その後も少し話してから仕事に戻るが、彼の言い方が、まるで経験したことがあるようにも聞こえることと、話している時の表情に感情が感じられなかったことは、誰も口に出さなかった。
帰ってきたぜ!マイハウス!いや~疲れた疲れた、もう今日はやることやって早く寝よう。そうしよう。
一刻も早くベッドにダイブするために脱衣所に向かう。あ、ベッドは小学校に入学したときに父さんが買ってくれた。
「義昭、ちょっと来て」
すると、親からお呼びがかかったので声のする方に向かうと、真剣な顔をした二人がいた。何だろう?
「.....何?」
「...あのね、今日みたいなことはもうしないで欲しいの。もちろん、あなたの個性が強いのは分かってるわ。でもね、あなたに何かあったらと思うと心配なのよ...」
「義昭が助けてくれたことには感謝してるんだ。だが、親としてはなぁ...」
....そうか。俺はまた心配をかけてしまったのか。反省しないと。
「.....分かった。それじゃあせめて、」
パチンッ
俺は2人に意識を向けて個性を使う。
「?今何かしたの?」
「何も変わってないような...」
2人は俺が何をしたか分からず、キョロキョロしながら戸惑っていた。しかし見えないだけでちゃんとあるのだ。
「.....見てて」
俺はそう言いながら、近くにあった物を母さんに向かって投げた。
キイイン
「キャ!...え?」
目の前で攻撃が跳ね返ったことに驚く母さん。父さんも何が起こったのか分からないという顔をしていた。
「.....俺が常時展開している能力を二人にも発動した。これで大体の危険なものは反射されるから」
「...ありがとう」
「ありがとな」
二人はお礼を言ってくるが、二人の安全が最優先なので問題ない。寿命が少し縮んだけどこれで二人の命が守れるなら安いものだ
「.....うん、それじゃあ、お休み」
『お休み』
お礼が欲しくてやったんじゃない。俺は二人が無事ならそれでいいのだから。さ、風呂入って寝よう。
翌日
あんなことがあった次の日だが、学校は普通にあるので行かなきゃならない。めんどいよ、パトラッシュ...
「行ってらっしゃい」
「.....行ってきます」
学校に着いたのだが、何かがおかしい。登校してからずっと視線を感じるのだ。そんな怖い顔してんの?俺。
結局教室の前についても視線は消えなかった。逆に増えた。何故だ。
ガラッ
シーン...
俺が教室に入ると静まり返り、大半の人が怯えが混じった表情で俺を見てくる。残りの人は何故かニヤニヤしているが、時々黒板をチラチラ見ているので俺も黒板を見てみる。
五十嵐は化け物
その言葉が大きく書かれていた。
あ、俺か。