4分33秒のソナタ   作:かしうり

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あの後、特に何の会話もなく朝比奈まふゆと別れ家に帰った。

衣服を脱ぎ、シャワーを浴びながら考える。

ついに彼女が自らの意思表示を行い始めた。
あくまでも他人に聞かれてから答える程度ではあるけれども。

後これからどれだけすれば彼女は感情を芽生えさせ、意思表示を行うだろう。

そうなる先は決して遠くないし、それまで私は付き添うと決意している。


しかし、それが終わった後私は彼女とどう接すれば良いのだろう。

ー願わくば、今と変わらず接して欲しいー
なんて考えるのはあまりにも弱気だろうか。

そう考えながら、私は眠りについた。


彼女の興り、または困惑

私には分からない。

人の感情も自分の感情も分からない。

 

いや、昔はわかっていたのかもしれないけれど今は分からない。

人に流されて、人の求める理想であり続けた結果、私は私を見失ってしまった。

 

『皆』の理想が『朝比奈まふゆ』(わたし)を型どっていた。

優秀であれ、ユーモアすらもあれ、親思いであれ、理想も高くあれ、と。

下車も自分で選べない人に塗装され過ぎたレールの上を進み続けている、ということだけが私の理解できていることだ。

 

そんな中で私の幼馴染たる彼だけは一切対応が変わらなかった。

 

小学生のころの私であっても、中学生になって、私が「私」を認識できなくなった時も。

そして何より今の私も。

 

どんな私であっても、彼からは私が朝比奈まふゆでしかないとでも言うように同じように接してくれた。

 

しかし、最近ではおそらく私の為に行動するようになった。

 

 

それが何よりも私をわからなくさせた。

 

 

彼に味がわからないことを見抜かれた時から、彼の前での私の演技は意味をなくさせた。

 

彼がセカイまで来て感情を私にぶつけて、感情というものがますますわからなくなった。

 

彼と一緒に遊びに出て、彼に歌う姿を見られて得体のしれない感覚に襲われた。

 

今でも彼が絵名や瑞希、奏と話しているときにも時々妙な気分になる。

 

わからない。

 

 

彼の実直な私への追及が、私に現実を突き付けてくる。

 

どうして暴いたのか、暴かれたのか、わからない。

 

 

彼の激たる感情が、私の消えたいという唯一の意思に亀裂を入れた。

 

どうしてそこまで私にするのか、わからない。

 

 

彼との時間が、私に恥ずかしさを覚えさせた。

 

何より・・・これが何かわからない。

 

 

自分を見つけるのに必要なものなのか、要らないのかすらもわからない。

 

でも明らかに感覚している以上、何かしらの感情なのは確かだ。

 

 

「見惚れてました・・・。」

 

彼の言葉を思い出す。それだけでなにかが痛む。

 

わからない。

 

「まふゆさん、またね。」

 

彼の言葉が繰り返される。

 

わからない。

 

「楽しかったって言葉が聞けて嬉しいよ」

 

「あぁ、もちろんだよ」

 

彼の笑顔が思い浮かぶ。

 

わからない。

 

「先輩~。」

 

「どうしたの暁山さん。」

 

瑞希たちと一緒に笑う彼の姿が思い浮かぶ。

 

 

やめろ。

 

 

わからない。わからない。わからない。わからない。

 

 

わからない。

 

 

自分でも理解ができない程の否定の感情。

 

ひたすらに彼が、ほかの人と笑っているだけなのに。

ただそれだけなのに。

どうでもいい事なのに。

 

私を見て。

 

君にとって大切な私を、見て。

今にも消えそうな私から、どうか目を逸らさないで。

 

自分が自分じゃ、わからなくなる。

 

この感情は本当に自分のものなのだろうか。

 

それとも誰かに植え付けられた『朝比奈まふゆ』(わたし)としての感情だろうか。

 

だとするならここにいる私は誰なんだ。

 

「・・・まふゆさん?大丈夫?」

 

その声に反射的に顔を上げる。

 

違うことを考えていたらすでに登校をしようとしていた。

 

彼が、森文人が心配そうに私の顔を覗き込む。

 

「・・・大丈夫。気にしないで。」

 

「・・・うん。わかった。それじゃあ行こうか。」

 

彼といつも通りに歩く。

 

彼とかわす会話は多岐にわたる。学校からニーゴの話、果ては最近の趣味の話まで。

 

こうして毎日気兼ねなく話せるこの時間が実は割と大切なのかもしれないと感じないと言ったら嘘になるかもしれない。

 

だからきっと違うのだろう。

 

彼と別れ、学校に着く。

 

おはようございます、と校門に立つ先生に挨拶を行い、教室へ向かう。

 

「あっ!朝比奈さん。おはよう。」

 

声をかけられた。同じ部活で元アイドルの日野森さんだ。

 

「日野森さん、おはよう。」

 

「朝比奈さん。私ね、今日は部活に出られそうなのよ~!」

 

「もう大丈夫なの?」

 

「えぇ。一通り落ち着いたところよ。」

 

「うん。わかった。じゃあ部活でまた会おうね。」

 

「えぇ!じゃあ!」

 

そういって元気そうに彼女は去っていった。

 

見た目は大人っぽい彼女からは到底考えられない程の天真爛漫さがある。

 

教室に入り、皆に挨拶をする。するとクラスメイトの一人が声をかけてきた。

 

「朝比奈さん、なんかいいことあった?」

 

「・・・いいこと?なぁにそれ。いつも通りだよ。」

 

微笑みながら返す。

 

すると他のクラスメイトが矢次早に言う。

 

「ウッソだ~!絶対いい事あったって。何があったの~?」

 

「う~ん。日野森さんが今日部活に出るって言ってくれたことかな?」

 

あぁ~。と周りは納得してくれた。

 

しかし実はそんなことなどどうでもいい。

 

それでも私はそんなにいいことがあったような顔をしているのかトイレで確認してもそんな風には見えない。

 

そのままトイレも済ませてしまおうと思い、個室に入ると先ほどのクラスメイトの声が聞こえてきた。

 

「実際に朝比奈さん何があったと思う?」

 

「彼氏じゃない?なんだかんだ言ってモテそうだし。」

 

「あ~でもこの前男の子と親しげだったとこ見たことあるかも。」

 

「えっ!嘘!?どんな感じだった?」

 

「えっと・・・神高の制服着た感じの普通めの人だったよ。」

 

思わず体が硬直した。見られていたのか。

 

「普通めの神高生かぁ・・・。変な男にでもひっかけられてるんじゃない?」

 

「うわ、ありそう。」

 

「まふゆいい子だしね。そんな感じの素振りあったら話聞いてあげよう。」

 

ふざけるな。

 

 

お前らに彼の何が・・・・

 

何故今自分は怒ったのだろう。何に怒ったのだろう。

 

幼馴染を馬鹿にされたこと?

そもそも彼女たちは文人くんがいることも知らない。

 

自分がいい子と言われたこと?

いつも通りだ。

 

ではなんで私は怒ったのだろう。

 

わからない。

 

わからないことがわからない。

 

・・・少し考え事をしていたら予鈴が鳴っている。

 

早く教室に戻らなければならない。

 

 

 

だから、今はもう少しだけこのわからないものには蓋をしていようとわからないながら感じ、教室に戻った。

 

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