雑多な感情を抱えた状態で時刻は夜1時を回ろうとしていた。
ついに朝比奈まふゆは自らの感情における喜びを発現した。
それ自体はとても嬉しい。
表情こそ何一つ変わらなかったが彼女がこうして感情の表現をしてくれたことが何よりも進展である。
ようやく人間らしくなってきたななどと自分でも失礼だと思うような事柄を考えてしまい、頭を振ることでその思想を消す。そんなことを考えるのは誰であっても失礼だ。
こうやって外との関わりを持ち続けることで朝比奈まふゆの感情が一つ一つ思い出されていくならどこへでも連れていきたいとも考えがちだ。
とはいえいつかは朝比奈まふゆのご両親(特にお母さん)のことはどうにかすべきだろう。
あそこまで朝比奈まふゆを追い詰めたことに対して何の気付きもなく、さしたる興味も示さないというのは流石にどうかしている。
朝比奈まふゆの母親は彼女のことをどう見ているのか、まったく理解できない。
当面の課題はそこだろうなと考えつつ今日もニーゴでの活動が始まる。
「ねぇ雪、ここなんだけどさ。」
Kが雪に物を問う。
「あぁ、そこ?ここはね~」
それに対して雪が答える。
明らかにいつもより調子が明るかった。
「・・・なんか今日雪機嫌よくない?」
とえななんが不気味だとでも言いたげに聞く。
「そうだね。なにか良い事でもあったんじゃない?MOB?」
と少しにやけ気味にAmiaが私に対し矛先を向ける。
「なんかあったの?」
えななんからも矛先が向く。
「あー・・・。なかったとは言い切れないけど大したことじゃないと思うよ。」
「それがアイツにとっては重要なことかもしれないでしょ。話しなさいよ。」
にべもなく躱す先をつぶされる。辛い。
「いや雪が転びそうになったのをどうにか防いだだけで本当に大それたことはしてないよ。」
と返すと急に誰も発言を返さなくなった。
「雪。今のほんと?」
とえななんが雪に聞く。
「うん。そうだけど。」
と少しだけ嬉しそうな口調で彼女は返した。
「う、うわぁ・・・。」
とAmiaが変な声を出していた。
「なんだい、うわぁって。」
そんな変な声を出されては聞くしかないだろう。
「いや、想像の十倍くらいにはMOBって鈍いんだなぁって。」
「いや、どうしてこっちに矛先が飛んできた・・・?」
「そういうとこね。」
「うん、そういうところだと思う。」
「そういうところだね。」
えななん、K、Amiaから一斉砲火を受ける。
雪からの援護も追撃もない。
これは手厳しい。
「まぁ、わかっても気まずいだけだからいいけど。」
とAmiaから慰めの一言が送られてくる。
解せない。
訳の分からない話をしながらも夜は更け、活動が終わる。
今日はなんだか疲れてしまってミクに本を届けないくてもいいかなんて考えているところに携帯への通知が無機質に響く。
誰からかを確認するためにロックを解除すると朝比奈まふゆだった。
『明日時間ある?』
『あるよ、何かあったの?』
『うん。セカイだと誰か来るかもしれないから話しづらい』
逆に前までの行動は別にみられても良かったのかなどと考えつつ返信を考える。
『わかった。何時くらいに出てくればいい?』
『こっちから呼ぶ』
こっちから呼ぶ、この言葉が少し前の朝比奈まふゆから出ただろうか。
ここ最近で彼女が目覚ましい発展を遂げたことの成果がありありと現れるのは嬉しかった。
少なくとも他者に興味を持つことができるようになったのは大きい。
それを少し嬉しく思いつつ、了解と返信しベッドに潜らんとするとさらに通知が鳴る。
今度は暁山瑞希だった。
『今からセカイにこれる?』
暁山瑞希に呼ばれてセカイについでに本を持ってやってきた。
「お、来たね。」
横から声がかかり、そちらを見ると暁山瑞希がいた。
ミクは見当たらない。
「どうしたの?セカイに呼ぶなんて珍しいけど。」
「いや、さ。話したいことがあって。」
歯切れが悪かった。どうにも言うことを躊躇っているようだ。
「あ、あぁ・・・?どうにも今日ははっきりしないね?」
「まぁ、言いにくい事だからね。本人がいない中話すのも気が引けなくはないんだけど」
「・・・まふゆの事だったりする?」
思い当たる関わる人間がそれくらいしかいない。
なにより今日一番話題に上がった人物だ。
なにより暁山瑞希とはサークル以外の関係はほとんどない。
学校で会うことは殆どないしあってもちらりと挨拶をする程度だ。
「あぁうん。そうなんだよ。まふゆのご両親の事って言えばいいかな。」
朝比奈まふゆのご両親という先ほどまで考えていた厄ネタが出てくる。
皆なんだかんだで朝比奈まふゆの事を思っているのだなと少し心が落ち着いた。
「まふゆのご両親がどうかした?」
「あれが・・・もし・・・」
「もし・・・?」
暁山瑞希は躊躇い続けていた。
発言を選んでいるのかもしれない。
「まふゆを元通りにするどころか、二度とセンパイと会わせないってなったら、どうする?」
元通り、という言葉にまず詰まる。それはつまり今うまくいっている朝比奈まふゆの感情が逆戻りしてここまでの事がなかったことになる。ということだろうか。
なによりそれを親が行う。教育としても、人道としてもそれは合ってはいけないことだ。
本当に朝比奈まふゆにそのように教育するなら、感情があるからこそ品性や感性は磨かれるというのにそれをあえて潰している教育を朝比奈まふゆに施しているということになる。
私に会えなくなること自体はまだよかった。
ただ、こうして知りえた辛い境遇を生き抜いていく仲間に会えないのはきっと彼女にとってあまりにも辛いだろう。
いや、辛いどころではない。今度こそ彼女は―
「なにをどうしても、朝比奈まふゆを確立させる、かな。」
「・・・というと?」
「朝比奈まふゆの感情をなくすようにもし教育を施しているのならいくら親とすれど子供の権利を不当に奪っているのと同じだ。まずそんなことは人道的に許されたもんじゃない。 でも、朝比奈まふゆは・・・まふゆはそんな彼らのベースにより人格の形成を行ってきている。彼女が親元から離れることは絶対にとまでは言い切れないけどないと思う。そうなるなら、彼女に対し彼女なりに生きることを促して、攻撃されても揺るがないような防御を始めに確立させるべきだと思う。・・・どうかな。」
「それが無理なら?まふゆが素を曝け出すところをご両親が見てしまったのなら?」
「・・・家では無理かもしれないけど。私がまふゆを守るよ。私がどうあっても。」
数刻、暁山瑞希とにらみ合う。
何か手が出るわけでもないだろうが微妙な緊張感が己を襲う。
「・・・わかった。とりあえず、センパイがまふゆの事大好きなのはわかったよ。」
「・・・大切だとは思ってるぞ。」
今の状態で彼女に恋愛関係を求めようとするのは無理があると理解している。
だから、好きと口に出すわけにはいかなかった。
「あー・・・そういうのいいから。」
と呆れながら言いつつそろそろ寝ると告げられる。
こちらも帰ろうと思ったが、ミクに本を渡すのを忘れていた為その為に再度歩こうとする。
「そういえばセンパイ。」
急に暁山瑞希に呼び止められた。なんだろう。
「普段は名前呼びなのに心の中ではフルネーム呼びにするの、たまに反応でバレるので気を付けたほうがいいよ!」
と、威圧を交えて発言したのちじゃあねーと光に包まれて戻っていった。
あれは暗にやめろといっているというか普通にやめろと言っている顔だった。
直せるかどうかはどうにか気を付けようと思いつつ、ミクを探して本を渡し、明日に備えて寝ることにした。
なんとなく、明日は波乱の1日になる気がした。
記念枠もしくはイベント部分について
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記念枠(内容は今のところ決めてないです)
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えなイベ