4分33秒のソナタ   作:かしうり

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とりあえずここでおそらくひと段落です。




覚悟、および夜明けの兆し

昨日の今日で中々寝付けなかった。

結局寝たのは3時半で、起床時刻という名の今は9時を示している。

 

良く寝た感じが醸し出ているが実質的睡眠時間は5時間半なのでまぁそう大して寝ては居ない。

 

昨日から朝比奈まふゆ・・・いや、まふゆのメッセージや昨日の暁山の発言などが頭の中に残っている。

しかし、どちらも今は手を出す方法がない。

あちらから行動が示されない以上、今はこちらは受け身になるしかないことがとても歯がゆい。

朝の準備を行い、まふゆを待つ。

 

30分後くらいにインターホンはなった。

 

「・・・はい。」

 

「こんにちは。朝比奈まふゆです。文人くんは御在宅でしょうか?」

 

対応に出るとヴェールを被ったまふゆが出た。

どうにも対応しづらい。

 

「玄関先までとりあえず出るから待ってて」

 

「わかった。」

 

親に少し出てくると話し、靴を履いて外に出る。

 

外に出るなりまふゆは私の手を掴んだ。

 

「こっち。」

 

そう言うと彼女は駆けだした。

 

つられてこちらも駆けだす羽目になる。

何か文句の一つでも言ってやりたいが走ることに精いっぱいでなにも言えることがなかった。

少し走って着いたのは誰も知らないような寂れた公園だった。

この日曜の昼という子供が遊ぶには絶好の時間にも関わらず、人っ子一人として誰も見つからない。

その光景に妙な気分を覚えつつ、まふゆは私の腕から手を離すと私の眼前に立った。

その顔はいつもよりも張りつめていて、何を言い出すかわからない。

 

・・・というかこの状況、今更気が付いたがまるで『告白』のようではないか?

色々な小説を読みはするがこの状況は何かを打ち明ける告白に違いない。

彼女が順調に外界の事に対して興味を持つ中で悩みなど幾らでも出てくるだろう。

さて、どんとこいと思いつつ彼女の目を見返す。

 

「何か悩み事?」

 

と聞くと彼女の瞳が揺れる。

何かを戸惑っている。

 

特に言葉のなく、彼女が発する言葉を待つ。

無理に焦らなくていいなど声をかける方が逆に急かしてしまう気がした。

 

数分経って、彼女の口はようやく開いた。

 

「・・・わからない。」

 

「・・・じゃあ嫌な事でもあったの?お母さまに何か気がかりなことを言われた、とか。」

 

「・・・違う。」

 

「うーん・・・。どの辺がわからないとかもわからない?」

 

こうやって彼女がわからないことを私に打ち明けているということは曲がりなりにも私へのSOSなのだろう。

しかしそれが私にしか打ち明けられないというのも変な話だ。

 

「・・・よくわからない。」

 

「そっかぁ・・・。」

 

手詰まりである。

まさかこんなに早く詰むとは思ってもみなかった。

 

「・・・でも。」

 

「うん?」

 

話には続きがあるらしい。

 

「文人がいつかどこかに行ってしまうことが不安で仕方なくて、他の女の人と一緒にいるところを見るだけでも気持ち悪くて、でもそんなことも文人の近くにいれば貴方はここにいてくれると感じれて安心できるのに・・・それが苦しい。」

 

「そ、それは・・・。」

 

雲行きが怪しい話になってきていた。

先ほどまでどんとこいなどいっていたが心は急にNGを叩き出す。

彼女に愛を囁かれることが、何よりの問題点だった。

決して彼女が嫌いなわけではなかった。

 

ただ、覚悟が決まっていないだけなのだ。

踏ん切りがつかないと言った方がいいだろうか。

好きと言われないことで自分だけの平穏は守られる。

しかし、そこに関わったら平穏が崩されてしまう。

平穏が崩されることを止めるには元の問題を解決するか、蓋を閉ざすかのどちらかである。

その勇気が、踏ん切りが未だ私にはなかった。

 

しかしもうまふゆの話をこのタイミングで止めるなんて言うことは人として信義則に反する。気がする。

 

「これが好きという感情なら、きっと私は文人のことが好きなんだと思う。」

 

「そ、そっか・・・。」

 

思わず後ずさってしまう。

言わなければ、気が付かなければ気にせずにいられたのに。

ぐるぐるとめまいのような感覚が自分を襲う。

 

「ねぇ。文人は・・・どうなの?」

 

まふゆは距離を詰めてくる。

思わずそれにそって後ずさる。

 

ついには鉄棒の棒に背中が当たり、逃げられなくなった。

まふゆと私の物理的距離はきっと1メートルもないだろう。

 

「ねぇ、なんで逃げるの・・・?」

 

「いやぁ・・・ハハ・・・。」

 

乾いた笑いが口に出る。

言い訳の一つすらできない。

もう、逃げる術が見つからない。

 

「でも・・・これで逃がさない。答えて?」

 

私が寄りかかっている鉄棒を彼女がつかむ。

横へ逃げることはできなくなった。

 

彼女の目を見ながら思考する。

 

ここでまふゆに対し付き合えないという返答はどういう意図につながるか。

それはおそらく私もいつかはなれる人間の一人にすぎないという解釈がなされる可能性がある。これでは彼女が逆戻りになる可能性だってある。

なによりまふゆに離れないと誓ってしまった。

だから、そんな選択はできないのはわかっている。

 

逆に付き合うという選択肢はどのような結果を生むか。

親というのはそういった事柄に機敏である。

最近感情を会得した彼女なら十中八九バレるだろう。

彼女は今までの生活の中で恋愛感情を抱いたことがおそらくない。

 

そんな人間が好きという感情をたった今と言っていいほど発現し、人から隠そうする。

どう足掻いたってバレる事だ。

なにより相手が私であるということをまふゆのお母さまはよく思わないだろう。

互いにそんなに好きな人種じゃないということを気が付いている。

その為の対立する覚悟が必要だった。

 

それは今決断し、その覚悟を得なければならない。

 

それと同時にかのまふゆのお母さまという押し付けられる環境をどうにかしなければならない。

恋人関係を公表することと彼女に感情がないことを公表することでまふゆの異常性を示し、環境の即時変化を求めることを要求できるのではないだろうか。などとは考えるが実際に行えるか、成功するかなど誰もわからない。

 

しかし彼女を、いや彼女の環境ごと清潔なものに変えるにはそれくらいすべきだろう。

 

どうすればいいかの思考を完了させ、まふゆの顔を再度見る。

その顔は少し曇っており、不安が伺える。

 

「まふゆ。」

 

口を開く。まだ、覚悟が決めきれなかった。

 

「・・・なに?」

 

「もう一回、言ってくれないかな。」

 

「・・・好きだよ、文人。」

 

もう一度、彼女から後押しを貰う。

協力者なのにこっちが引っ張られてるななどと考えてクスリと自然と笑みがこぼれた。

 

「・・・?」

 

覚悟を決めよう。

なによりこれらすべてを始める前から決めていた。

私にできる事なら、彼女をできる限り解決に導く、と。

 

「・・・あぁ、私も大好きだよ。まふゆ。」

 

そう言って抱きしめる。

するとまふゆは抱きしめ返す。

 

「・・・ありがとう。私もだよ。」

 

そう発言した。

 

抱き合いながら、好きだと言い返し続けお互いの気持ちをお互いの口で確認しあう。

 

この時間が永遠と続くわけがないことも、問題はここからであるということもわかっている。

だがせめて今は。今だけは彼女の温かさを感じるだけでいたい。

 

 

ここから、私たちの自分らしく生きる事への闘争が始まることを理解しながら。

 

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