4分33秒のソナタ   作:かしうり

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遅れてすみません。

今回は若干の流血描写があります。苦手な方はご容赦ください。


吐露、およびストレスの関連性

さて、全員が席に着いた状態の第2ラウンドの開始である。

とはいえど議題は変わらないだろう。

 

「じゃあとりあえず、お茶をいただきましょうか。」

 

「あぁ。」

 

まふゆのお母さま先導によりまずは一服するらしい。

本当にまふゆのお母さまは私が持ってきたお茶を入れたのだろうか。

 

「・・・うん。」

 

「・・・っ!?」

 

「ぐぅっ!?」

 

「・・・あぁうん。」

 

上からまふゆ、お母さま、お父さま、私の順の反応である。

これは間違いなく家から持ってきたお茶である。

何を隠そう持ってきたお茶はかのまふゆの味好み実験の際に余ったあの苦いお茶である。

どうやら例えどんな人が入れてもこれだけ苦くなるらしい。

 

「ちょっと!?森君!?ふざけるのも大概にしてくれる!?」

 

「・・・?何もふざけちゃいませんよ。うちではこれがスタンダードです。うちは平凡なのでこれで間違いはないと思っていたのですが・・・粗相があったようなら申し訳ないです。まぁ、確かにちょっと味はアレですけど。」

 

一口お茶を飲む。普通に苦い。

そして当たり前のように嘘である。

開けてなかったから日ごろの恨みとして詰めた。

あとはさっき言われたただの平凡という表象への意趣返しである。

 

「・・・そ、そうなの・・・。」

 

まふゆのお母さまは憐れむような眼でこちらを見る。

まぁそんなことはどうだっていい。

 

「さて、今お茶を飲んでもらいましたが一人だけ明らかに取るべきでない反応を取る方が居ました。」

 

そう話を切り出すとご両親は訝しげな眼をこちらに向ける。

 

まふゆがはっとしたようにこちらを見る。

 

「そう、普通に考えればこのお茶、飲みなれてなければ苦いと言います。なんなら1か月くらい飲まなければその感覚を忘れてもう一度叫ぶ程度には苦いです。」

 

「それがなんだって言うんだ。」

 

「えぇ、この中で唯一、まふゆだけが無反応で二口めまで手を付けました。この意味、医者であるお父様なら理解が出来ませんか?」

 

そう言うとまふゆのお父さまは急に震えだし、ガタっと椅子の音を大きく立てて立ち上がる。その顔は真っ赤に染まっていた。

 

「ふざけるのも大概にしろ!!まふゆがそんなはずないだろう!!!」

 

「お、お父さん落ち着いて。」

 

「あぁいえ、これだけでは信じていただけないのは理解できます。しかし話はまだ終わってないです。座りなおしていただいても?」

 

軽く煽りつつ宥める。

彼は渋々といったように椅子に座りなおした。

 

「まぁここはひとつ落ち着いてお菓子でも食べましょうよ。」

 

そうまふゆのお母さまが私が持ってきた菓子折りを一つ手に取る。

それぞれ皆が手に取り、向いて皆が食べる。

 

「・・・こっちは普通なのね。」

 

「・・・。」

 

「あぁ。普通だ。」

 

皆がそう感動して食べ進める。

 

しかし、まふゆは浮かない顔をして食べている。

 

「・・・まふゆ?大丈夫?」

 

「・・・あ、ううん。気にしないで。」

 

「で、どうかなまふゆ。味は。」

 

「・・・うん。甘くておいしいよ。」

 

「っ!?」

 

「まふゆ・・・?」

 

まふゆのご両親が驚く。外れだからだ。

このお菓子は以前まふゆに苦いお茶と同時に出した全く同じ形をした別のお菓子である。

こちらはコーヒー味であり、甘いというよりどちらかといえば苦いほうに先に答えが出る。

人の感性はそれぞれというが、お父様にはすくなくとも意見が一致しないと把握できてしまったのだろう。

 

「さて、お父さま。まだやりますか?」

 

「・・・まえは・・・・・・ゆが・・・っぱい・・・・・・というのか・・・!」

 

お父さまが何かをブツブツ言いながらわなわなと体を震わせる。

どうにも完全に地雷を踏み抜いたらしい。

 

「なんて言いました?」

 

「お前はまふゆがッッッッ!!!!!失敗作だとでもいうのかッッッッッ!!!!?!???」

 

失敗作。彼は確かにそう言った。

半ば半分期待通りの言葉が出たことに成功した達成感とまふゆをそんな目で見ていたんだなという失望で感情が染まる。

そこに『優等生』を作り上げた父親の顔はなかった。

 

「お、お父さん落ち着いて・・!?」

 

思わずまふゆが立ち上がりそう宥めようとする。

 

「落ち着いてなどいられるか!!!まふゆ!コイツはうちの顔に泥を塗ったんだぞ!!??」

 

「あの、誰もまふゆが失敗作なんて言ってないんですけど。」

 

「言いぶりはもはやそうだっただろうが!!!!」

 

「誰も失敗作だなんてお父さましか言ってませんし、何なら話には続きがあるのですが。」

 

お父さまがハァハァと息を切らせ、その後唾を飲み込んでハッとする。

 

「まぁそこにもつながる話なのですが、ここまで味覚に異常があるとなると何かストレスを彼女自身が抱えていると思うんです。何か彼女に変化とかありませんでしたか?」

 

「・・・知らん。うちのまふゆは学校関係でも円満だ。問題はない。」

 

「そうね。その通りよ。私たちのまふゆに何も問題などないわ。」

 

・・・・そういうところだろと心の中で思いながら淡々と次に移る。

 

「じゃあ、まふゆ。この味がしなくなったのはいつからかな。」

 

「・・・え?」

 

まさかこちらに話を振られるとは思っていなかったのだろうか。

なんならここからまふゆにはちゃんと味覚があると証明するには少し難しい。

正常なご飯をレシピなしで鼻と口を使わずに作れというようなものだ。

何より、これはまふゆの話だ。重要な部分はまふゆに絶対に投げる。

自分のことを他人には決して投げてほしくなどなかった。

 

「だいたいでいいよ。」

 

「・・・中学生くらいかな。」

 

「でも、中学の頃にもまふゆは学校でも円満だと自分で言っていたわ?」

 

そう鼻息でも出そうな勢いでお母さまが自慢げに語る。

 

「じゃあ、あとまふゆがかかわっていたコミュニティなどはありますか?」

 

「ないわ。」

 

「じゃあ、家庭の問題じゃないですかね。」

 

さらっと答える。消去する選択肢を消したのは自分たちだ。

少なくとも私は悪くない。

 

「じゃあ、まふゆに、何か強いてしまうこととかありませんか?」

 

「そんなものあるわけないでしょう!!!!????」

 

机をバンとたたき、こちらへと鋭い視線をまふゆの母親は向けてきた。

たじろぎそうになるが手の甲を抓ってとどまる。

 

「では、まふゆの意見も聞かずに決めつけたことは?」

 

「ないわ!!!あなたの言いそうなことは全て在りえません!!!!!だって!!まふゆは!!!!!」

 

「まふゆは?」

 

「優等生だもの!!!!!」

 

「・・・それなんじゃないですかね。」

 

「はぁ!?」

 

「そうやってまふゆが優等生であり続けることを呪う。それが彼女を重度のストレスによる味覚障害を引き起こしているんじゃないかって言ってるんです。」

 

「そんなことはないわ!!!!私たちの言うことをまふゆは自分の意思で聞いてくれてる!!!!その方が正しいとわかってくれているから!その方が彼女らしいと理解している!!!」

 

「そうだ!むしろお前がそうやってストレスを与えているんじゃないのか!?この家に来るなり変なことを言ってやって!!!!お前のそういった行動がまふゆに過度なストレスを与えたんじゃないのか!?」

 

これが本性なのだろう。

 

両親が一気に攻め立てる。

深呼吸する。怒った方が負けだ。冷静に対処しよう。

 

「本当にそうなんですかね。そのわかってくれているというのは本当にまふゆは理解したうえで自分のやりたいことを抑えきれているんですか?それと、登下校しか一緒にいなかったのに。ですか?それで味覚障害を引き起こすほどのストレスを与えるのですか?どうぞやってみてください。暴力以外でできるものなら。」

 

「そんなことまふゆにしかわからないでしょう!?」

「そんなことまふゆにしかわからないだろう!?」

 

「・・・じゃあ本人ここにいますし聞けばいいじゃないですか。」

 

「「どうなの!!!まふゆ!!!!」」

 

2人の血走った視線がまふゆへと注がれる。

まふゆの肩が大きく震えた。最早ヴェールを保てなくなる直前の顔をしている。

彼女が壊れる前のような。

このままじゃいけないと思い、声をかける。

 

「まふゆ。ゆっくりでいい。でも、できればでいい。本心で答えてくれ。」

 

「そうよまふゆ。遠慮なんてすることはないわ。」

「そうだ。お父さんたちは応援するぞ。」

 

そう両親が続けて答える。

 

「私は・・・私は。」

 

まふゆがぽつりぽつりと言葉を発する。

彼女の顔が無表情に変わる。

 

「私はね、お母さん。本当は医者じゃなくて看護師になりたかったんだ。」

 

そう答えた。

 

「ま、まふゆ・・・?」

 

「でもね、お母さんたちが医者になったほうがいいっていうからずっとそうしようと思ってた。学校の友達も似合ってるって言ってくれたからそれでいいと思っていたの。」

 

「・・・。」

 

「だけどね。それで過ごしてたら私何にもわからなくなっちゃった。」

 

「そ、そんな・・・。なんでそんなこと言うのまふゆ・・・?」

 

「・・・私はどうしたらいいかわからないけれど、そんなときに文人と奏たちが助けてくれた。だから・・・。」

 

ゴン、と突然自分の後ろから鈍い感触がする。

 

地面に倒れながら後ろを確認すると椅子を持ったお父さまがいた。

 

フローリングの床に倒れこむ。

 

後頭部を触るとぬちゃりと生暖かい感覚がした。

 

「ハハハハッ!やったぞ母さん!不純物を排除した!」

 

そうお父さんが笑っている。

ちくしょう、立ち上がらなければ。

そう思いながら体に力を入れようとしても入らない。

悲鳴が聞こえる。誰のだろう。

誰だっていいか。

 

 

ぶつり、と思考が途切れ―

 

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