4分33秒のソナタ   作:かしうり

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彼女の糾弾、または処置

目の前で、文人が血を流して意識を失うところを私は何もせずに見ていた。

いや、体が動かない。文人がこんなになるとは思ってもみなかった。

 

「ハハハ!ハハ・・・え?」

 

父のうるさい高笑いが止む。文人の現状を見て驚くような表情が次第に引き攣る。

 

「あ、あなた・・・。」

 

「・・・ち、違う!これは僕じゃない!僕は殺してない!あいつが当たりに来ただけなんだ!」

 

お父さんが何か喚いている。そんなことよりも、文人の容態の方が気になる。

体は動けるようになり、文人へ近づきしゃがむ。

何の知識も持っていない私には何もできない。

 

・・・でもできることはきっとある。

軽く肩を叩くが、反応がない。

彼の口へと耳を近づけ、呼吸を確認する。

正常に呼吸していた。

でも出血は止まらない。

教科書に書いてあることを思い出す。

 

「お母さん。タオルと氷を持ってきて。お父さんは救急車を呼んで。」

 

なりふりなど構っていられない。笑顔も何もなく、お父さんとお母さんに言う。

今までこんなことした事がなかった気がする。

 

「あぁでもまふゆ・・・」

「僕は・・・!僕はやってない・・・!」

 

この切羽詰まったときに言う言葉ではない。

少し胃がむかむかとする感覚を感じた。

 

「早く!文人を本当に殺したいの!?」

 

「「はっはい!」」

 

少し大きな声で言うとお母さんたちは正気を取り戻した。

お母さんが持ってきたタオルを傷口に当てて、文人の頭を膝に乗せることで止血をする。

膝に生ぬるい感覚がするがそんなことはどうだっていい。

 

「まふゆ!救急車を呼んだ!うちの病院に連れてこさせるから大した時間はかからない!!」

 

そう返事が返ってくる。

 

「わかった。」

 

救急車が来るまで、私は必死に傷口を抑える。

 

文人は私に誓ったのだ。私を見続けると。

 

「・・・離れないって言ったじゃない。」

 

確かに彼はそう約束したのだ。

 

「こんなところで死なれても困るの・・・!」

 

押さえつける手の甲に自分の顔から雫が落ちる。

 

汗は一つもかいていない。

じゃあいったいどこから出ている?

 

わからない。理解ができない。

 

「・・・まふゆ?貴方泣いているの?」

 

何故・・・私は泣いているのだろう。

 

涙が止まらない。感情が混ざり続ける。ごちゃごちゃになった感情が余計に気分を悪くさせる。

 

ピーポーと無機質なサイレンが聞こえ、救急隊員が担架を抱えて家へと入ってくる。

 

「まふゆはここで待ってて。」

 

私も行くとは言えず、腕を掴もうとした手は空を切る。

 

担架に乗せられた彼と父と母が乗った救急車はガチャンと閉じ、病院へと走り出していった。

 

 

電気もつけずに自室で呆然とする。

彼はどうなっただろうか。

これからどうすればいいのか。

 

彼に強制的に親の前で仮面をはがされてしまった以上、これ以上仮面を被る意味などないのだろうか。それともそうであっても『優等生』でいなければならないのだろうか。

わからない。

いや、どうでもいいのかもしれない。

 

「・・・ミクに会おう。」

 

誰でもいいから、今は気心の知れた人に会いたかった。

 

 

セカイに来て、ミクを見つける。

ミクは文人が持ってきた本を読んでいた。

 

近づくと彼女は気づいて顔を見上げる。

 

「・・・ミク。」

「・・・まふゆ。」

 

しばらくミクに文人が来ないと伝えたら、どう思うだろう。

やはり悲しいのだろうか。

 

「・・・しばらく、文人は来ないかもしれない。」

 

「・・・どうして?」

 

疑問をぶつけられた瞬間、先ほどの事がフラッシュバックする。

 

気分が悪くなる。・・・吐きそうだ。

 

「・・・ごめん。」

 

気分が悪くなったことを感じ取られてしまった。

 

「・・・ううん。いいの。きっと悪いのは私だから。」

 

ミクの隣に座ってそう答える。

 

突然、ミクから抱きしめられる。

 

「・・・ミク?」

 

「こうしないと、まふゆがどこかに行きそうだったから。」

 

「・・・よくわからない。」

 

でも、少し安堵した。

 

 

20時前には父も母も帰ってきた。

言い争っている。

 

「だいたいお前がここまでまふゆに強いらなければこうはならなかったんだ!」

「貴方が森君を殴ったのが悪いんでしょう!?」

 

・・・うるさい。

 

「自分の教育の事を棚に上げるのか?」

「私はまふゆにその方がいいと期待をかけただけよ!強いてなんていないわ!」

 

うるさい。

 

「それが強いているんだろう!?」

「貴方だって賛同したじゃない!」

 

そんな醜い言い争い聞きたくもない。

 

心の奥底からどす黒い感情が湧き出る。

激情と憎悪。この二つが絡み合った淀みしかない感情だ。

 

「「お前がちゃんとしていれば「二人とも。」・・・まふゆ?」

 

「うるさい。静かにして?」

 

親の前に出る際に出る笑顔が張り付く。

それでいて自分の物とは到底思えないほど憎悪にまみれた声が出た。

 

「ヒッ・・・ま、まふゆ。今までごめんね・・・?」

 

そう母が答える。

 

「なにが?」

 

「え、えっと。今まで私たちがまふゆの将来を強いてしまったこと・・・かしら?」

 

「どうでもいい。」

 

「え?」

 

「どうでもいいよ。そんなこと。今更。」

 

「そ、そんなことって・・・。」

 

「それよりもお父さん。文人は大丈夫?」

 

「あ、あぁ・・・。親御さんにもある程度誤魔化して事情を伝えた。とりあえず命に別状もないし大事に至ることもないだろう・・・。」

 

「そっか。ならいいや。明日お見舞いに行くから帰りは少し遅くなるね」

 

「ま、まふゆ・・・?どうしたんだそんなそっけなくなって・・・。」

 

「どうしたもこうしたも・・・これが私だよ?お父さん。」

 

「ッ・・・!?」

 

お父さんの顔が引きつる。

捻じ曲がり、消えかけ、仮面と最も近くなった答えが「コレ」だ。

 

「あ、大丈夫だよ。もちろんお医者さんの免許は取るから安心して?お母さんたちの顔に泥は塗りたくないから。」

 

だから、少しばかり放っておいてほしい。

 

部屋へと戻る。

 

落ち着かなくてPCに向かって思い付いた詩を一心に打ち込む。

 

25時前には今日という想いの丈を集めた納得の詩がそこにはできていた。

 

 

25時になって、ナイトコードのボイスチャンネルに参加する。

 

「あ、やっほー雪。あれ、珍しくMOBが一番最後かな?」

 

「いや、この感じだと遅刻ね。どうせまたセカイにでも入り浸ってるんじゃない?」

 

「・・・。」

 

「MOBは今日は来ないよ。」

 

私の発言の後、全員が無言になる。

 

「え、えーとサボりだね!うん!」

 

「本人からの連絡がないからね。そういうことにしておきましょう!」

 

「・・・うん。」

 

そう言って作業が始まる。

 

 

「明日も学校だから早く寝るね。」

 

そう伝える。

 

「あ、雪。」

 

Kが声に声を掛けられる。

 

「・・・どうしたのK。」

 

「今からセカイに来れる?」

 

「・・・いいよ。」

 

 

セカイに行くと、みんな集まっていた。

 

奏が私の前に一歩進み出る。

 

「まふゆ。教えてくれないかな。今日、文人に何があったか。」

 

「・・・わかった。」

 

今日あったことをある程度誤魔化して話す。

 

「・・・なるほど。そんなことが。」

 

「うん。とりあえず明日お見舞いには行く。」

 

「・・・それで?ご両親との話し合いはどうなったのよ。」

 

絵名がそう聞いてくる。

 

「文人が倒れたからそれ以降はパニック状態になって話は有耶無耶になったよ。」

 

「そっか・・・。」

 

「・・・それ、もう一回話し合った方がいいんじゃないかな。」

 

「・・・そうかな。でも、とりあえず文人が回復するまでやらないと思うよ。」

 

そういうと周りが即座に閉口した。

 

「じゃ、おやすみ。」

 

そう言ってセカイを去り、ベッドで寝た。

 

 

いつも通り学校をやり過ごし、お父さんの病院へ向かう。

 

お父さんが指定した病室の一番奥に向かうと文人が眠っていた。

 

「文人・・・。」

 

彼の手を握る。暖かかった。

早く戻ってきてほしい。

そう思いながら少し強く手を握る。

 

 

彼の目がゆっくりと開いた。

 

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