夢を見ていた。
見たこともないが、確実に誰もがデジャヴを感じてしまうような部屋に私は立っていた。
白いベッドに木のローテーブル。それの延長線のように置かれたテレビ。部屋の隅奥にはちゃんとした机が置いてあった。
窓の外を確認しても全てが白い。ただ白い地面が地平線まで伸びていた。
「・・・死んだのかな。」
記憶ははっきりと覚えている。
朝比奈まふゆの父親に後頭部をぶん殴られて倒れた。
不意打ちなので防ぐことすら難しかった。
ここがどこかもわからない。
『死んではいないよ』
機械的な声が部屋を満たす。
いつの間にかテレビの電源が付いている。
ローテーブルを挟んでベッドのふちを背もたれにしてテレビの前に座る。
映っていたのは映っていない。ただ白い画面が映っている。
「こんにちは、文人。」
「私はまだ生きているのか?」
テレビに映る状態であってもここが夢ならば相手に通じるだろう。
確証はないがそう思えたので一人で呟く。
『もちろん。あんなので死ぬほど人間は弱くはないよ。』
どうにも通じるらしい。
「じゃあ、ここから出るのは?」
『できるけど、少しだけ私の話を聞いてほしいかな?』
まぁきっと今無理に戻ったところでもう既に手遅れかもう済んだかどちらかだろう。
「少しだけなら。」
「ありがとう。話っていうのはね。・・・まふゆのことだよ。」
「まふゆのこと・・・?」
「きっとこのままじゃ彼女は正しく自分を取り戻せない。しっかりと自分の意思と向き合えなかったから。」
「・・・それをこんな状態の私がどうすればいい?」
策がなかったらこんな話わざわざ私にしてくるはずがない。
集合的無意識なんていうものは存在するらしいがそれを受け入れても利点を感じない。
「まふゆを、もう一度ご両親と向き合わせるんだ。」
「・・・それで元に戻るのかな?なにより、もうあの人のお父さんは・・・。」
「そんなことはやってみなきゃわからない。あとの話に関しては君の度量によると思うよ。」
結局全部丸投げである。とにもかくにもいいからどうにかしてもう一度やり直せと言うのだろう。
正直、あの父親への恨みは決してないわけじゃない。こうして大けがを負い、意識を失った。なによりも関わりの薄い私を殴ったあたりに倫理観の欠如が伺える。
だが、それ以上に私の復讐よりまふゆの方が大事だ。
だから私は―
辺りが眩しくなり、思わず目を閉じる。
目を開けると、病院の天井だった。
まふゆがこちらを見つめている。
「・・・おはよう。まふゆ。」
「・・・もうこんばんはだよ。文人。」
そう返す彼女は少し寂しそうに笑った。
「・・・倒れてから何日?」
「一応丸一日くらいかな。・・・心配したんだから。」
「お父さまたちとの話し合いはどうなったの?」
「文人が倒れてからそれどころじゃなくなっちゃった。」
「そっか・・・。」
まふゆは目覚ましい発展を遂げたようにも思える。自分の感情を素直に表現し、ヴェールとはまた違う素の彼女も伺えるような態度に変わっていた。
これが本来の彼女なのだろうか。
「・・・でも、もういいの。」
「・・・え?」
「あんな人達より、奏たちと居た方がよっぽどいいから。」
まふゆは確実に今までだったら言わないようなことを言い出す。
「・・・まふゆは本当にそれでいいの?」
「うん。大丈夫。やれって言われたことは今まで通りこなすから!」
なら何故。
何で君はそんなに辛そうな顔をするのだろう。
今にも泣きそうで、壊れてしまいそうなほど辛そうな表情をするのだろう。
「だから私は大丈夫。じゃあ、私はそろそろ帰るね。」
医師と警察が来たことに気が付いたように彼女は病室を出ていく。
絶対このままで良いわけがない。
・・・だが今の私では彼女を追えない。
拳を握りしめ、彼女と親にこれからもなおどうにか仲裁を如何にするかを考える暇は目の前の医師と警察はくれそうにない。
「えぇ・・・と。森文人くん、で間違いないかな?」
目の前の警察官の格好をした人がそう問いてくる。
「えぇ。そうです。」
「さて、今回の怪我なんだが、ここの病院では事故による怪我とされているが本当かい?」
「・・・?・・・あぁなるほど。」
事故による怪我。どうあがいても今回の怪我とは全く関係ない話をされていると思っていたが、どうやら違う。
流石は大人とでも言えばいいのだろうか。
正直に言うべきだろうか。
「・・・違うのかい?」
「あぁ、いいえ。家の中で事故を起こすとかアホ臭いことでここまで大ごとになってるなんてなぁと思って少しぽかんとしてました。えぇ。『事故で間違いありません』。」
「・・・ふむ。少し場所を移そうか。立てるかい?」
「目覚めたばかりなのでわかりません。多分出来ます。」
そう返して布団から出てスリッパに履く。
少し平衡感覚に難があるがあまりどうってことはないだろう。
「行こうか。」
そう行って移された場所は会議室だった。
座らされた机の向かいにはまふゆのお父さまがいる。
こちらを見て怯えたような表情をする。
怯える目をするのはこちらだと思いながら平静を保ったふりをして見返す。
「さて、森君。加害者はこの人で間違いないかい。」
先ほどの事故だなんだとは打って変わりまるで加害者を特定したような言い分だ。
「ち、ちがう!私が場所を移動しようとしたら急に森君が倒れてだな!」
「おめぇにゃあ聞いてねえんだよ。あぁ?」
「ヒィッ!」
「森君。正直に話していいんだよ。この後君かかる圧なんてないのだから。」
・・・だいたい状況がわかってきた。
つまり、警察としてはもうまふゆのお父さんが加害したということは目星がついていて、私からの被害報告さえ行えば勝手に捜査が進んでいくのだろう。
そして、私を殴った彼は見事因果応報に牢屋行きだ、と。
だが、そうした場合。あの家族はもっと離散するだろう。その時まふゆをかばってくれる人は?まふゆ自身は。まふゆがもし死んだら私は何を目標に生きればいい?
ニーゴの活動は。
・・・私はどちらを選べばいい?復讐か?それとも目を逸らし、まふゆの平穏への一抹の希望か?
・・・馬鹿らしい。
そんなことの答えはとっくに決まっている。
「・・・違いますよ。まぁ確かにお父さんが持っていた椅子に後頭部からスピードを付けて思いっきりぶつかりましたけど。お父さんは少なくとも叩いてないです。」
平静を装い、何もないようにそう答える。
考える事はただ一つ。全てこれが真実である。ただそれだけだ。
「森君。嘘をつかなくていいんだy」
「嘘なんかこの状況でつくものですか?普通にそれはヤバい奴じゃないですか。」
お前が言うなとも思うがそんなことは言ってられない。
こんなところでまふゆの感情のない無表情を毎日見続けたことによる技量が発揮されるとは思っていなかった。
「・・・君は本当にそれでいいのかい?」
「うるっさいなぁ、うちの息子がそう言ってんだ。それじゃダメなのかい?」
聞き覚えがあるが聞かないだろうと思っていた声が聞こえる。
振り返るとやはり我らが母親であった。
「で、でもですよお母さん!どう足掻いても朝比奈さんはあなたのご子息を」
「でももへちまもないだろ。それ以外の証拠、まだ挙がってないんだろう?なにより、なんで起きてすぐのコイツを連れまわすんだい。いくら公的組織とはいえどあんたらが被害者を危機的状況に仕立て上げる気?」
「・・・滅相もない!そこまで考えが及んでいなかっただけで!」
「じゃあ今日は帰りなよ。」
「・・・っ。じゃあそうさせていただきます。ご協力ありがとございます。」
そういうと足早に警官たちは帰っていく。
すれ違いに母が会議室に入ってきた。
「よう平凡ドラ息子。事故ったっていうから見に来たが全然生きてるね。」
「・・・ありがとう。母さん。」
「馬鹿言え。子供に対処できない面倒ごとを払うのは親の役目だよ。」
そういうと私の背中をバンバンと叩く。
「・・・痛い。」
「生きてる証拠だ。なにより大事に至らなくてよかった。医者の腕がいいおかげだね。」
そう母は言うとまふゆのお父さまの方を向く。
「・・・息子をどうもね。」
「・・・い、いえ・・・。」
そう返されるとフンと鼻を鳴らし会議室の出口へと母は向かう。
「じゃ、いつ帰るか決まったら連絡してね~。」
そう言って母は出て行った。
残されたのは二人だけである。
「・・・森君。今回は本当に」
「・・・治療費負担とプラスアルファを呑んでくれるならそっちに従いますよ。謝る気はないし、面倒くさいので。」
なんだかんだ私も対応が雑になっている気がする。
「・・・・な、なにかなプラスアルファって。」
「セッティングはこっちがするのでまふゆともう一度話し合いませんか?」
そう言うと彼の顔が凍り付く。
「そ、それは・・・。」
「簡単なことですよ。できないんですか?」
ここぞとばかりにあおり散らしてみる。
「で、でも今のまふゆは無理だ!きっともう私たちの声すら聞かないだろう!一度も反抗されなかったのに!完全な拒否をされたんだぞ!」
・・・腹立つなこいつ。
「あーだこーだうるさいですね。やってみなきゃわからないでしょう?ついでに元はといえばあんたらのせいだろうが。それをなんで他の家の俺がやってやってると思う!?それほどこっちにとっちゃまふゆは大事なんだよ!あんたにとってまふゆはそんなもんか!?」
目の前の人は唖然とする。
数分して、我を取り戻し口を開きなおす。
「わ、わかった。条件を呑ませてもらいます。」
「はい。」
そういうと会議室を出る。
とりあえず退院しなければならない。
頭痛に耐えながら、病室へと戻った。
記念枠もしくはイベント部分について
-
記念枠(内容は今のところ決めてないです)
-
えなイベ