4分33秒のソナタ   作:かしうり

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第4楽章、沈黙破る心
終演、および喧騒のファンファーレ


その後、何事もなく家に帰ってきた。

 

母にいったい何の話をしていたのか聞くと、

 

「治療費の話だよ。こういうのは紙に残しておかないとなんだかんだ後で面倒になるからね。これの為にアンタについていったと言っても過言じゃない。」

 

とあっけらかんと答えた。

私たちを追い出したのはどうにも何かありそうだがきっとその理由は教えてくれないのだろう。

 

そんなことを考えながらいつも通りに戻った生活を行い、いつも通りに自分の部屋へ篭る。

 

0時前と時間にかなりの余裕がある。

 

久しぶりにゲームでもしようか、なんて考えつつスマホを開くと―

 

『今大丈夫?』 

 

まふゆからメッセージが送られてきた。

 

構わないと返事を返すとじゃあ数分後にセカイに来てとの旨のメッセージが返ってきた。

 

 

セカイに着くと、すでにまふゆもミクもいた。

 

「やぁ。まふゆ、ミク。」

 

「文人。」

 

「こんばんは、文人。」

 

ミクはいつも通りだったが、まふゆの方はなんだか全体的にそわそわしていた。

落ち着きがないというべきだろうか。

全体的に緊迫感があった。

 

「・・・どうしたの?こんな時間に。」

 

「あ、あのね。お願いがあって。」

 

彼女からの頼みというのも珍しい。

いや、彼女から頼みごとをそもそもされたことなんてあっただろうか。

 

以前公園に呼び出された時くらいだろうか。

 

「・・・何でも聞くよ。」

 

意を決して了承する。

さて、蛇でも出るだろうか。

 

「・・・観賞用の魚を買いに行きたいの。それで、どういうのがいいっていうのイマイチわからなくて・・・。」

 

意外と普通だった。

そういえばいつか水槽に魚を入れるなんて話をしていたな・・・と思い出す。

 

・・・。

いやそれよりも問題視するべき所がある。

 

彼女が魚を買いに行かないのは物事への関心が薄いことや現状の自己への投影なのかなとうっすら考える事もあったが、そのまふゆが他の物事に興味を示した。

 

これは少なからず他の物事への関心が生まれたことに由来すると考える。

 

「あぁうん。もちろんいいよ。」

 

生返事ではあるが一応そう返す。

いつ呼び出されてもどうせ暇だからだ。

 

「あ、後、部活で使ってた消耗品の備品も買いたいからそれにも付き合ってくれないかな。」

 

「いいよ。」

 

「ありがとう。今週末でいいかな?」

 

「わかった。」

 

「うん。じゃあ楽しみにしてるね。」

 

会話が終わってもまふゆはセカイから帰ろうとしない。

 

私の頭は唐突過ぎて処理がうまくいっていない。

 

目の前のまふゆが今この短時間で大きく変化を遂げていた。

 

いや、変化の兆しはあったしあとは何かきっかけさえあればいくらでも変わったのかもしれないがそれはそれとしても関心を持ったのは大きな変化である。

 

「・・・?どうしたの文人。」

 

「あぁいや、なんでもないよ。うん。」

 

変わったなとは言えない。

変えたのは他ならぬニーゴの存在だろう。

 

「まふゆ。」

 

「・・・?」

 

「興味あるものってある?」

 

「今日、夕飯を食べたらなんとなくだけど味がわかったの。」

 

味覚障害すら回復しようとしているらしい。人間の神秘だろうか。

 

「だから、色んな食べ物とか食べてみたいなって。」

 

「なるほど。」

 

「だから、文人。」

 

「うん?」

 

「これからも一緒にいてほしい。」

 

彼女はいつの間にか真剣な顔でまっすぐに見据えてそう私に言い放つ。

 

 

彼女は見事感情を取り戻した。

自我すらも新たに自分を理解しなおした。

彼女は他者に対する興味を再び取り戻した。

これにより彼女は感情の欠如した人間ではなくなる。

 

 

ここに、彼女を取り戻すことは成功とされた。

 

 

だから、私は―

 

 

 

「あぁ、もちろん。好きだよ。まふゆ。」

 

面と向かって彼女に好意を伝えることができる。

 

きっとこれからも色々と起きるだろう。

数多い困難や苦悩が私達を襲うことになると思う。

 

でも、それにすら抗い、毅然と現実と向き合うことで希望はきっとどこかに見える。

私は少なくともこの短い期間の中ニーゴにいたことで学んだ。

彼女たちの力強い生き方(抵抗方法)だ。

 

「…うん。私も好きだよ。」

 

 

伝えた後の彼女の顔は、何の曇りもない一つの絵画になるような笑顔だった。

 

 

少し後に時計を見ると時刻は12時50分を指し示していた。

 

「まふゆ、もうすぐ一時だよ。戻らないと。」

 

「うん。名残惜しいけどじゃあ、またナイトコードで。」

 

互いに曲の再生を止め、自室へと戻り、サークルの活動準備を始める。

 

 

 

ここに、様々な沈黙を続けた音楽(4分33秒)はフィナーレを迎えた。

 

これから迎えるのは喧騒の讃美歌である。

 




風呂敷の畳み方があまりにも雑な気はしますが、一応これで完結です。
たった2~3か月ほどの更新ではありましたが、たくさんのご愛読ありがとうございました。

とはいえ、アンケート的にはえななんのイベントを書く方が多いっぽいのでそっちを今のところおまけ要素として書こうかなと思っています。


さて、この次の投稿ですが、個人的所用により1週間近く更新が空くかもしれません。

もし更新できそうだったらまた2日後にでも更新します。

では、最後までありがとうございました。

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