週末にどんなに辛いことや楽しいことがあろうとやってくるのが恨めしい月曜日という存在である。
毎日が日曜日な人間もいるが金曜日以外はカレーじゃない日という人もいる。
その点では月曜日も愛されていると言えるのだろう。それはそれで腹立たしい。
まぁ私もその通りに、週末に朝比奈まふゆの仮面を見事に剥がすことに成功してしまい彼女と微妙な空気感があっても今日は月曜日なのだ。
まぁよしんば朝比奈まふゆが今日いたとしても対応は変わらない。
まぁもし仮面の剥がれた彼女に私の対応が切り替わったのだとしたら私に応対することがないだろう。
直近の危機的状況のことを考えながらも朝の準備は済ませていく。もうそろそろ時間的にもいつも通り家を出なくてはならない。
ガチャリとドアを開け、隣の朝比奈家を見る。
問題の根源が、そこにはいた。
「おはよう、朝比奈さん」
「・・・おはよう。」
どうやら私に対して仮面をかぶるのはやめたらしい。関係の進展ともとれるだろうか。
周りから見た感じではむしろ関係の後退が伺えるだろうが。
「じゃあ、行こう。」
「・・・わかった。」
静かに二人で歩き出す。ささやかな日々とはもう言えそうにない。
「あー・・・、朝比奈さん。昨日は悪かった。あのような試す真似をしてしまい、君の尊厳を考えていなかった。本当に、申し訳なかった。ごめんなさい。」
人との関係には謝罪がいる。
例え相手のためを思った行動でもそれ自体がこちらを思った行動である可能性もある。
とにかく簡潔に、何がダメだったかを謝る。
「・・別に。どうでもいいから気にしてないよ。」
「・・・どうでもいいっていうのは・・・?」
「昨日、私に味覚がないってことを試したこと、かな。」
「…なるほど。ありがとう。」
どうやら彼女から許しを得れたようだ。
これでまだ彼女のそばにいることを許されたことを安堵する。
その後の会話もなく、私ら二人は駅で別れて各自の学校へ向かう。
登校経路を通りながら私は昨日朝比奈まふゆが言っていたことを思い出す。
彼女はいい子を求められていると感じ、それに応じるうちに自らがわからなくなった。
彼女は落ち着ける時間ですら『いいこの朝比奈まふゆ』を求められた。時に親、クラスメイト、そして
たとえ本人たちが望んでいると考えていなくても人は与えられた他者から与えられたキャラ像を変えることに大きな躊躇いを持つ。
そして自分の立場が崩されることに恐怖する。
きっと彼女はそれを恐れて、流されて、やがて『自分』すらもどこかに流れて行ってしまったのだろう。
そして彼女は『自分』が流された結果、何も感じ取れなくなった。
味覚障害も何も感じ取れなくなるものの一種ではないだろうか。
世の中のスマホは便利である。ネットで調べればそういった症状を持つ病気は簡単に出てくる。「失感情症」というらしい。まぁ病名を知ったところで彼女を助けるにはどうにもならないが。
問題は彼女がこれからどうなるかであり、それを防ぐ有効法はあるか、である。
彼女は自己同一性が失われているいわば地に足がついていない状況である。
さらにそれに自らが気付き、おそらく数年は経っている。
周りに自分でない自分を求められ、かくいう自分は自分とは何かを確立できていない。
この先、良くて他者に自分でない自分しか求められないなら自我などいらないと自我の崩壊が起こり、物言わぬ人形か
最悪、疲れたから自殺する。
これはあくまで想像の域を出ないが演じるのに疲れ切り何もできなくなったら自殺するという人は何度か見たことがある。それだけは避けたい。
私には彼女が必要だから。
それに対する対処法であるが、これが何一つ思いつかない。
おそらく彼女は他者から押し付けられるイメージに拒否反応を起こすだろう。
彼女自身が自己同一性を確立するほか根本的解決はできない。
しかし親からすら求められた『朝比奈まふゆ』という像はその確立に当たり前のように阻害となる。
結果、私はきっと彼女との短い対話の中で彼女が自殺しないように、傀儡とならないように素面の彼女を他でもない「朝比奈まふゆ」であると受け止めるしかない。
何よりも自己同一性の確立の妨害を行っているのはモラハラ気味なご両親だ。
昔からの付き合いなのであのご両親の事はなんとなくわかる。
子供を自分たちのニューゲームと考えているタイプだ。
一度傷害沙汰を無理に起こさせて警察に突き出してやろうか。
しかし環境は変えられない。下手に環境の変化を起こして彼女にストレスを与えるべきではないからだ。
これはとても難しい。たかが高校生の男子一人がやれる範囲をとうに越えていると考える。
しかし、原因の緩和を決意した以上やるしかない。
明日からの身の振り方を考えつつ私は重い足取りで学校へ向かう。
待つもまたずも翌日である。
昨日の帰りはこれからの朝比奈まふゆへの身の振り方についてひたすら考えていた。
そのため学校の玄関で定時制の生徒とぶつかったりしたが些事だ。
「・・・おはよう。」
「おはよう、朝比奈さん。」
今日も朝比奈まふゆはいた。
無言で互いのことを確認すると駅へ歩き出す。
「さて、朝比奈さん。」
「・・・なに?」
今日も無感情は絶好調らしい。
「これから話すことは一方的なエゴだ。だがなるべくそうしてくれると私が助かる、という話ではあるけど。」
朝比奈まふゆはこちらをじっと見ている。何か口を挟むわけでもないようなので続ける。
「・・・君がこの関係にどう思ってるかはわからないが、私たちは幼馴染だ。少なくとも私はそう認識している。もちろんそれ以上でもそれ以下でもないというはわかっている。
だけど、辛く痛ましい君を見るのは私は嫌だ。かといってそれを隠してほしくはない。」
「・・・わがままだね。」
「あぁ、わがままだとも。私のエゴだからね。だからこそ、君の不安を、恐怖を、痛みを私にも分けさせてはくれないかな。怒りだろうが、不満だろうがなんだっていい。誰かの愚痴だっていいんだ。少しでも君の助けになりたいんだ。」
「・・・
「ハハ、そこは痛いところだね。おそらく君が変化したことには気が付いたがそれ以上には気が付けなかった。だから君を見ることしかできなかった。全く滑稽な話だよ。」
あぁ、本当に滑稽だ。あの日変化について一つでも述べていれば彼女はこうはならなかったのだろうか。
「で、どうだろうか。やってみてくれないだろうか。確かに今更かもしれないが、私は君が困っているなら君を支えてあげたい。そういう性分でね。頼む。」
頭を誠心誠意下げる。
彼女の顔は変わらない。
。
「・・・もうどうでもいい。ほっといてよ。」
残念だが当たり前の解答である。そこまで関わってこなかった奴が今更かかわろうなど虫が良すぎる。
だがこちらも引きさがるわけにはいかなかった。
「そういう訳にもいかない。今の君は見るに堪えがたい。このまま見過ごせない程に」
「じゃあ見なくていい!一人にしてよ!・・・・構わないで。」
彼女の苦痛な叫びは最もである。だが、嫌なのだ。
「一人で自分を見つけられるのか?自分が自分じゃわからないのに自分を見つけるのか? 面白いことを言うね朝比奈さんは。」
「見つけられるの・・・!見つけなきゃいけないの・・・!もうだれにも頼れないなら自分で探すしか・・・!」
あくまで冷静に、通常通りに。
「まぁまぁ少し深呼吸でもしながら考えてみてくれ。そこまで藁に縋りたい程なら私を鏡として使ってみるのはどうだい?自分を見直すには自分の行動を見直さないと無理じゃないかな、と思うんだけど。」
「っ!知った風な口を聞かないで!なにも理解できない癖に!」
返されたのは幼稚な拒絶だった。
耐えられなくなったのか彼女は走り出した。
彼女の腕をつかもうとした手は空を切った。
走っても間に合わない。正直スプリントは彼女のほうが早い。伊達に完璧美少女をしていないからだ。
幸い、彼女が叫んでいる声は周りの人間には私が悪い感じになっているらしい。それならそれでいいか、と思いながらここから一人で登校することにした。
その後おおよそ2週間ほど、彼女が私の前に姿を現すことはなかったけれど。
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記念枠(内容は今のところ決めてないです)
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えなイベ