4分33秒のソナタ   作:かしうり

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今回なるべく一気に終わらせようと思ったんでいつもの倍くらいあります。実質二話分です。


抗告、および生に至れない病

時間的には放課後になった。この時間までそこら辺のカフェで手紙とスマホで文章を書き、とりあえず自分の家まで戻る。

部屋で私服に着替え、自分の家の前で朝比奈まふゆを待つことにした。

 

外に出てみると彼女のお母さまがいた。朝比奈まふゆのシンセサイザーを持って。

昔お父さんに買ってもらってと自慢していた覚えがある。

 

「こんにちは、朝比奈さん。」

 

「あら、文人くん。帰りが早いのね。これからお出かけ?」

 

「いえ、朝比奈さんとお話ししようと思い、朝比奈さんを待っています。

ところで、そのシンセサイザーは・・・?」

 

「あぁ、これ?もうまふゆにはいらないから捨てちゃおうと思って。」

 

やはり思う。この母親は歪である。愛情が歪んでいる、というより自分の子供を()()()()()()()()()()()()()()()()()考えていない。

このような態度ではそうとしか思えなかった。

 

朝比奈まふゆの意思を聞かずに彼女のパーソナルスペースに土足で踏み入り、これは必要ない、これは必要を勝手に選別し、無理やり彼女の心を制圧し彼女の未来を縛る。

これでは()()()()()()()()である。

 

「ちなみにまふゆさんはそれを捨てることに対して賛成したんですか・・・?」

 

反論しても無駄だしどうせろくな答えが返ってこないってわかっていても聞かずにはいられなかった。

 

「え?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

こいつ一回心療内科にでも行った方がいいんじゃあないか。

世論というのは君じゃないか、なんていう言葉を有名な作家が作品内で残していたがそれよりも酷い。お前の人生は俺のものというジャイアニズムと同等である。

何たる毒親か。

 

「一応ご本人に許可を取ったほうがよろしいのではないでしょうか・・・?」

 

「やーねぇ。貴方もそうだけどあの子ももうすぐ受験でしょ?なら不純物はなるべく早く捨てたほうがいいのよ。」

 

貴方もそうしたほうがいいわよ。と続けて行ってくるこの人(アバズレ)にはもうきっと何も届かないだろう。というか無駄である。間違いなくこの人がまふゆの失感情に悪影響しているのは確かだった。

 

「・・・お母さんと文人くん?どうしたのこんなところで。」

 

渦中の本人(朝比奈まふゆ)のご登場である。

母親も隠す対象なのか、顔色は悪いが微笑みを絶やさず、声も演じている。

 

「あら、まふゆ。お帰りなさい。ちょうど玄関先で文人くんと会ってね。お話してたのよ。」

 

「やぁ朝比奈さん。今ちょうど君の話をしていてね。ただそれだけなんだ。」

 

「私の事・・・?え?お母さん。このシンセサイザーどうしてここにあるの?」

 

どうやら彼女もこのシンセサイザーについて気が付いたようだ。

 

「さっきまふゆの部屋を掃除してたら見つけたの。使わないのに部屋にあっても邪魔だと思って。明日には回収してもらうからね。」

 

朝比奈まふゆの微笑みが揺れる。彼女の守りが崩れかけている。

とっさに、防がなければならないと思った。この言葉の続きを聞くには今の朝比奈まふゆでは脆すぎる。

 

「あれ、やっぱりご本人に確認とっていらっしゃらないんですね。それにこんなシンセサイザー捨てるなんてもったいないですよ。もう少し考えてもいいんじゃないですかね?

朝比奈さん的にはどうなんだい?」

 

今の私にはこれが限界だ。朝比奈まふゆに判断を任せ、目配せをするが彼女はまだ動揺している。

 

「私は・・・これは私にとって・・・。」

 

「いらないでしょう?まふゆ。後回しにするとずるずると先延ばしになってしまいますからね。さっさと捨てる方がいいのよ。」

 

じゃ、私は買い物に行ってくるからお留守番よろしくね。と言いまふゆのお母さま(元凶)は去っていった。

 

思わず朝比奈まふゆの方を見るが彼女の目からは生気が失せ、今にも崩れ落ちそうだった。そのまま家に入っていく。

 

「このシンセサイザー、運ぶね。」

 

私は捨てられそうになったシンセサイザーを持ち、彼女の部屋までもっていくことにした。

 

彼女の部屋までシンセサイザーを持ちあげ、彼女の部屋のドアを開ける。

そこに広がっているのは何とも殺風景な部屋だった。

清潔なのはいいことだが、彼女の意思で置かれているものが何一つとしてない。そんな気がした。

 

 

何より、確かに部屋に入ったはずの朝比奈まふゆはそこにはいなかった。

 

 

おかしい。確かに彼女は部屋に入ったはずだ。窓のカギは締まっている。

失礼ながらクローゼットも開けたがいなかった。

彼女はどこに消えたのだろう。

ただ彼女がいた痕跡は残っていた。

机の横にかけてある彼女が持っていたであろう鞄。そして先ほどまで来ていた制服がかけられていた。

 

ただ一つ不審点があるとするならばPCがつけっぱなしになっている。

そこには再生中の音楽フォルダがある。名前が「Untitled」。

これが何か関係しているのか。そう思い不躾ではあるが緊急時だから仕方ない、何かの手掛かりになるなら利用させてもらおう。そう言い訳しながら曲データのコピーを取り、スマホに転送する。

 

そして再生すると、私はスマホから出るまばゆいばかりの光に包まれた。

 

 

―今回は特別だよ。彼女たちが来るまで、耐えて―

 

 

目を開けていられないほどのまばゆい光が止まり、少し薄暗く感じる。

 

目を開けるとそこは白と灰色で構成されたセカイだった。

それ以外には何もなかった。

 

「なんだ・・・?ここは・・・?」

 

何もなかった。物として認識できるのは尖って地面に突き刺さっている破片のような何か突き刺さった鉄柱と灰色の地面。それが地平線先は靄のように見えず。

 

朝比奈まふゆの姿は見当たらない。だがもしここにいるとしたら今が彼女に思いを伝える絶好のチャンスかもしれない。

 

消えてほしくない。その一心で走り回る。

少し走ったところに不揃いのツインテールをした白髪の少女と共に彼女はいた。

 

「朝比奈さん!!!!!」

 

叫びながら彼女の目の前で止まる。

全力疾走するのは久しぶりで呼吸を整える。

 

彼女がこっちを見る。

「・・・どうして・・・ここに?」

 

彼女は無表情だった。声に感情も載っていなかった。

もう無駄かもしれない。 正直それでもよかった。

 

「君と、どうしても話したかったんだ。君がもし今すぐ消えるってんならなおさらに君に伝えるべきことがあったんだ。」

 

「・・・私に貴方へ用はないよ。どうやってここに来たかわからないけれど、ミク。返してあげて。」

 

ミクと呼ばれた存在が私に手を伸ばしてくる。

このままじゃ何も言えずにつれ戻される。とっさに朝比奈まふゆの手を取った。

 

「少なくとも今は帰らない。今返されるんなら君も一緒だ。それくらい今日の私はめんどくさい。」

 

「・・・離してよ。」

彼女が腕を振り払おうと力を籠める。抑えられるように抵抗する。

 

「嫌だね。君が消えるなら消えられた側の言葉の一つでも聞いてから消えてくれよ。そのあとは自由だ。何をするでもなく伝えきったら私はこの場から立ち去ろうじゃないか。」

 

「・・・まふゆ。」

 

ミクと呼ばれる少女が彼女の名を呼ぶと彼女は黙り込んだ。無駄だから言わせるだけ言わせてやろうということか。上等だ。

 

「朝比奈さん。君が自分が自分じゃわからないといったね。そして自分を見つけたいって言っていたね。それで君は本当に自分でできたかい?」

 

朝比奈まふゆが口を開くが発言を許す気はない。

「あぁいや答えなくていい。こんな状態になっている時点でわかる。詰まるところ君は見つけることができなかった。自分が何かを。自分が何が好き嫌いを。そういった自らの感情を。君は見つけることはできなかった。それもそのはずだよ。

 

自分の本当の顔は自分じゃ見れないことぐらい子供にだってわかるだろう?

誰かに楽しそうと言われたり好きなんだねと言われて初めてわかる。

そのためにも他人という視点は必要なんだ。

それを理解せずに自分だけでやること自体に間違いがあったんだよ。」

 

「・・・前にも言ったでしょう!?私はもう絶望したくないの。変に希望を与えられて、あぁこの人でも見つけられなかったって。失望したくないの! ・・・・もう疲れたんだよ。」

 

「じゃあ君にはその失敗を重ねる度にその絶望を癒した人がいるんじゃないかな。違うかな。」

 

彼女は少女の方を見る。

 

「ほら、やはり君は一人じゃあないんだよ。彼女がもう少し頑張ってみようってそう思わせてくれたのだろう?このように絶望だけを与えてこない人間もいるわけだ。そんな人間もいるのに君だけ消えるのかい?この子の為にももう少し探してみようとは思わないのかい?」

 

「・・・もういい!何も聞きたくない!何なの!?貴方は何がしたいの!?私はもう消えたいの!!!!人の心に土足で入り込んでわかった風な口を聞いて!何もわからないんでしょう!?だったらほっといてよ!出てってよ!」

 

彼女の腕に力がこもる。強い。だがまだ返されるわけにはいかなかった。

 

「なにもよくない。まだ出ていけない。わかるさ、君の事ならね。君が消えてしまうならこの際全部言ってしまおう。

・・・お前はそんなことで逃げるのか朝比奈まふゆ。

自分の意見も誰かに満足に言えずに消えていくのか?そんな勇気もないのか?

衝突を恐れて逃げて閉じこもって。そんな生き方だから何一つ楽しいと感じないんじゃないのか?どうせ死ぬならせめて1回全力で当たって砕けてから消えても遅くないと思うぞ。

 

後な。小学生の頃の君のように目的のために全力で物事に取り組む。そんな君の姿が好きだった。それからはなんだ。望まれているから演じていた、だ?

 

ふざけたことを抜かすなよ。 私は君に確かに褒められる才色兼備の朝比奈まふゆを求めていたかもしれないがな。

それ以前に私は幼馴染である君を必要としていたんだ。

幼馴染だから送れるあの登校の時間だけのささやかな会話が毎日君のようにはれないが君の隣に立つのが恥じない人間になるという指針の支えだったんだ。

君に私は必要ないかもしれないがな。私にとって君はかけがえのない幼馴染であり、絶対に必要な人だ。

だから死ぬな。ほかに自分を見つけられそうな協力者がいないなら私が何人でも見つけ出そう。私の伝手もそんなにないかもしれないが君のためなら地の果てからも探し出して見せるよ。その気があるなら消えずに私とまたお茶でも飲みながら話そうじゃないか。

 

・・・っとこんなものかな。」

 

後で読んでみてくれ、と言いながらあらかじめ書いておいた手紙を朝比奈まふゆのもう片方の手に握らせる。

どうせ無駄だろうけど一応渡しておこう。

 

彼女からそっと手を放す。言いたいことは言いつくした。

これで彼女が戻ってこれないんだったらあとは誰かに託すしかない。

きっとこの空間にアクセスできる人間はほかに何人かいると思う。そんな気がするだけだけど。

 

彼女はこちらを一瞥すると少女に向かい口を開いた。

 

「・・・終わり?じゃあミク。連れ帰して。」

 

「・・・わかった。」

 

「あぁ。終わりだとも。願わくばもう少し考えて消えないことを祈っているよ。朝比奈さん。」

 

「・・・うるさい。早く出てって。」

 

ミクと呼ばれる少女の手が迫る。

あぁやっぱダメか。まぁ十分言えたしいいかな。なんて思いながらそれを待つ。

どこかで聞いたような声で雪という名を必死に呼びかける女性の声が聞こえた気がしたが、まばゆい光に目を閉ざした私にはそれを確認することはできなかった。

 

 

 

―ありがとう。―

 

光に包まれてから、感謝を言われた気がした。

 

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