ジークリンデの中身が戦車になったようです   作:三段腹肉之介

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第一話

 

 

 エレミア、という一族がいる。

 それはかつて数多の次元世界に混乱と破滅をもたらした戦争、その発端となった古代ベルカ文明において、徒手空拳による格闘術――引いてはそこから発展して殺傷技術を追求し、歴史の中にその武名を以ってその名を残した一族である。

 拳打による格闘、投げ技、関節技、魔力弾による近接射撃、独自の術式を付与し、絶大な破壊力を齎す一撃を持組み合わせたそれは、現在にまで続く幾多の魔法格闘術の源流となった、とも言われている。

 それはただ一人の人物が成し遂げたものではなく、いくつもの世代を重ねて積み上げられた結晶であった。――――血と涙と汗と、そして命で作り上げられた結晶だ。

 しかし、それは武力を追求する集団にとっては極々当然のことであり、エレミアが他と異なっていたのは、経験の継承に非常に特異な手段を用いていたことだ。

 書物、口伝といった、ある種あやふやな手段では、コピー機で複写するようにどうしても避け得ない劣化を生み出してしまう。

 戦闘の術理という物は、例えどれほどの武器、得物を用いようとも人間の五体を駆使して行うものであり、口先だけ、机上だけではどうしてもその本質を理解しきれない部分がある。

 必然、出鱈目な天才でもない限り、次代の物が先代に並ぶまでには相応の修練と経験が必要になる。それを非効率的だと考えたエレミアの一族は、その為に自身の遺伝情報に、肉体の設計図だけではなく、経験と記憶を書き込む技術を習得したのだ。

 結果として、文字通りエレミアの一族はその身に数多の戦闘経験を蓄積し、技を研鑽し続けていった。

 

 

――――奇しくも、そうした一族の積み重ね、想定通りの機能こそが、数百年の時代を経たある時に異端を生み出す結果になるなど、当のエレミアの一族すら想定していなかったのだ。

 

 

 精神とも魂とも呼べるあやふやな存在への情報の上書き、自我の確立していない時点で肉体が自動的に施すそれは、輪廻転生の果て、天文学的確率の果てに流れ着いたとある魂にしてみれば、想起する筈の無い永劫の戦いの記録を呼び醒ます切欠にしかならなかった。

 言ってみれば本来肉体から精神へと流し込まれる情報の流れに、逆流が起こってしまったのだ。

 エレミアの一族にとって、真に想定外だったのはその一点。それほどまでに強度を持った精神――魂を持って世に生まれる存在を想定していなかったことだった。

 

 

                  ■■

 

 

――ベルカ領のとある森

 

 

 一見すると小さな、華奢とも言える拳が空を打ち抜く。

 一度ならず二度、三度と、撃ち方を変えて多種多様な拳撃を空に放っていく。

 それを行っているのはまだ年端もいかぬ少女であり、その点だけを見るならば、子供の遊びにすら思えるだろう。しかし、そこにはその幼さに付随して然るべきぎこちなさや、粗削りな部分などが一切見受けられない。

 まるで、熟達の武芸家が、既に生態の一部となった修練を機械的に行っている、そんなふうにも感じられる。――端的に言えば、年齢に合致していない。見るべきものが見れば、年相応の人物がわざわざ変身魔法で幼子の姿を纏っている、そう言われる方が信じるだろう。

 

 

――少女の名前は、ジークリンデ・エレミアという。

 

 

 ベルカの名家、エレミア家の直系である。一般へ然程名が知られているわけではないが、その武名を以って魔導師たちの間では、それなりの知名度を得ている家名である。

 当然、その血が受け継ぐ魔道と、エレミアをエレミアたらしめている経験の継承も、少しばかりその道に詳しい者なら当然知っている。

 そこで大抵の者ならばこう思う、――あぁ、エレミアだからか、と。

 故にその違和感は違和感としてみなされず、周囲からはただ、そうした特殊な存在なのだ、自分たちとは文字通り元が違うのだと認識されていた。

 その認識は視点の違いとなり、少女は生まれてこの方、異物を見るような視線ばかりを注がれていた。

 本来ならば、それは感受性豊かな子供には精神を狂わせる無色の猛毒、緩やかに、そして大きな歪さをもたらす筈であった。

 しかし、そうはならなかった。

 いや、或いは生まれた時点で既に、少女は致命的なまでの歪さを背負っていたと言えるだろう。

 

 

――興味を引かれはしなかった、そんな煩わしいものに。

 

――そのような真っ当な衝動は、既に摩耗して消え失せている。

 

――己の唯一の目的は既に、那由他の永劫、その果てに成就している。

 

 

 そもそも彼女は、エレミアではなかった。

 確かに肉体と、それに付随する各種の素質はエレミア特有のものだろう。

 しかし、その肉体というハードを駆動させるソフト、中身が致命的に違っていた。

 エレミアという情報に適応する自我が確立される前に、既に鋼鉄の強度を持った自我が確立されている。高々数百年蓄積された情報など、永劫を潜り抜けたそれを犯すにはあまりに質量が小さすぎた。

 

 

――聖槍十三騎士団黒円卓。

 

 

 ベルカともミットチルダとも、時空管理局が認識しているいずれの世界とも違うとある世界で、鉤十字を掲げた軍勢が引き起こした戦争があった。その裏で蠢動していたとある集団がいた。

 それは黄金の獣と水銀の蛇、二人の怪物に率いられた魔人の集団であり、少女のかつてはそれに属する者の一人であった。

 

 

――――黒円卓第七位・ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン。

 

 

 死せる英雄。黒騎士。鋼鉄の腕。幕引きを司る者。そのように呼ばれ恐れられた男が、今現在ジークリンデ・エレミアという名を持つ少女の中身である。

 

 

                  ■■

 

 

「――――名を呼んでくれ、戦友」

 

 その光景、永劫の果ての刹那を覚えている。これ以上ないほど明確に。

 望まぬ生、望まぬ戦場を押し付けられながらも、ただ一つの決着を求め、そうして得た真実だ、忘れよう筈もない。

 いや、そうして戦友と肩を並べて戦い抜いたのであれば、そもそもあの時の記憶と人格が残っているのがおかしいのだろう。あそこまで辿り着いたのならば、黄金の獣と水銀の蛇、この二つの神格を必ず打倒している筈だと彼女は信じている。

 ならばこそ、今この世はあの黄昏の女神の統治下である筈であり、自分が永劫回帰の中の記憶を自覚していることが、何より不可解な点であった。

 

「……エレミア、か」

 

 かつてとはあまりに違いすぎる華奢な掌に視線をやりながら、ジークリンデは今の己の名を呟いた。

 その名に思い入れは無く、その名に掲げる矜持もなく、ただ自分から浮遊している感覚だけが付き纏う。

 彼女、ではなくあえて彼と呼ぼう。彼はもう満足していた。きちんと己が前世を清算し、新たな生を歩む黄昏の法の下ならまだしも、永劫回帰を駆け抜けた記憶と感覚が残ってしまっている現状では、最早目的が一欠片も残ってはいなかった。

 恐らくこの現状は、自分という魂と、エレミアの血が混じって起こしたバグの様な物。そこに水銀の様な悪辣さは感じられず、どこかの誰かが悪いわけでもない。端に色々と間が悪かった、そういう風にしか片付けられない

 かと言って、自死を選ぶなど論外極まる。生きる目的がない、ならば死のう。そんな安易な考えは死も、そして生も侮辱する考えだ。

 そうなれば必然、自身が許容できる選択は一つきりしかない。生きる気概という物を欠落させてしまっていても、できる限り誠実に生きていこう。

 その結論が、死ねずにいる死者というべき彼の魂に軋みをもたらすものだとしても。

 

「そうだ、――――今の俺はジークリンデ・エレミアだ」

 

 今すぐにでも、自分の手で己が心臓を引きずり出してしまいそうな誘惑にかられる。

 そう、彼は死者だった。故に気を緩めればすぐにでもその精神は死へと傾いてしまう。

 さながら、海の魚が湖に住まうが如く。

 だからだろうか、整ったその顔立ちは常に人生の全てに倦んだ老人の様であった。

 そんな表情のままに、機械的に修練をこなす様は、例え彼女がエレミアであると理解しているものから見ても異常だった。

 

「――――フンッ!!」

 

 そうして修練の締めとばかりに、ジークリンデはそこらに点在していた巨岩の一つ――直径3m程はあるだろう――に己が拳をぶつけた。

 瞬間、森の中に轟音が響き渡った。まるで間近で爆弾が爆発したかのような、それほどまでの轟音であった。

 周囲の木々は揺れに揺れ、鳥や小動物、昆虫の類が我先にとその場から飛び立っていく。

 それを成した原因は、ジークリンデの体に流れるエレミアの一族の特性。<殲拳(ガイスト)>と呼ばれる、高密度の魔力を拳に纏う一族伝来の技だった。

 その高密度の魔力は、対象を消し飛ばす<イレイサー>と呼ばれる魔法に近しい現象を引き起こし、絶大な破壊力をその拳にもたらすのだ。

 現にそのような一撃を叩きこまれた巨岩は文字通り消滅し、ただ、その余波でえぐり取られた地面だけがその場に巨岩があった痕跡だった。

 それは無意味な破壊などは好まないジークリンデには珍しい、苛立ち交じりの八つ当たり、なのかもしれなかった。

 

 

                  ■■

 

 

 そんなふうにとりあえず、平穏な毎日を過ごしているジークリンデであったが、割と切実にどうにかしたいと思っている悩みがあった。

 エレミアという家系は古代ベルカから連綿と続く名家であり、ジークリンデはその直系。いずれは当主となるべき立場であり、身だしなみにも気を配らなければならない。

 加えて何より問題なのがジークリンデはれっきとした女の子であるということだ。

 

「せめて男に生まれたかった、というのは贅沢、か」

 

 自室の姿見の前で身だしなみを確認するジークリンデの姿は、仕立ての良い服に身を包み、長い黒髪をツインテールに纏めたものだ。これ以上なくしっかりと女の子然とした姿である。

 自分がそんな恰好をしていることに羞恥心がわくほど真っ当な情動など当に枯れ果てているジークリンデではあるが、それでも違和感と面倒くささが入り混じったその感情をもてあましていた。

 

「……全く、難儀なものだな」

 

 そうして、身だしなみを整えるときには決まって漏れるジークリンデのその呟きは、ほんの僅かばかりとはいえ感情の色をうかがわせるものだった。

 

 

 

 

 

 




 そんなわけでマッキーを、ジークリンデにぶち込んだのがこの作品です。
 だってしゃあないやん!! イメージカラーが黒で、得物が籠手で、しかもそれの名前がよりにもよって鉄腕で、更にはそれが一撃必殺の破壊力を秘めているので、どうしてもあの鉄腕解放のシーンで「人世界 終焉変生」と叫ぶジークリンデを想像してしまったんです。

 一応予定としては、Vividキャラ、特にヴィクターとの絡みをメインで書いていこうと思います。創造に関しては、現状使えない、という設定で行こうと思います。

……しかしリリカルなのはには、今まで多数の人死にを出していて、その悪名が大きく広まっていて、しかもユニゾンデバイスというエイヴィヒカイトにもってこいな設定のキャラがいるんですよね。
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