ジークリンデの中身が戦車になったようです   作:三段腹肉之介

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今回の推奨BGM・相州戦真館學園八命陣<超獣帝国>


第六話

 

 

 

 抉り取られた天井。まるで見えざる巨人の手が成した様な出鱈目で作られた大穴、その中心にいたのは一人の女性だった。

 余分な装飾など無く、ただ、裸体を隠すためだけのラバーのような質感を持った黒のスーツ。頭部には目元を隠すための黒いマスクが取り付けられていて、僅かに開いた口元から、透き通るような白い肌を持っていることがうかがえる。そして、その頭部から延びる銀色の長髪が、風になびき揺れている。

 まるで、人形の如き見た目の、女性だった。

 そして、そんな見た目の女性が、抉り取った天井をその細腕で、しかも片腕で保持している現状は、性質の悪い前衛芸術の様な光景であった。

 

 

――――疑問は多々ある。

 

 

 瞬時にデバイスを展開し、バリアジャケットを纏ったジークとシグナムの脳裏には、数々の疑問が浮かび、そしてそれらを平行に処理しつつ頭上の正体不明存在に対して拳を、刃を向けていた。

 まず、何故ここを、多数のベルカ騎士が常時駐留している教会騎士団を襲撃したのか。

 それも単独で、だ。

 如何に並外れた魔道と戦闘の技量を持とうが、単独で一組織を相手取ろうという発想そのものが正気の沙汰ではない。

 仮に、何がしかの陽動、本命の行為に対する目晦ましの手段として、襲撃を選択したのだとしよう。

 それならばわざわざ本拠地を襲撃する必要はない。時空管理局も、教会騎士団も、それぞれ広範囲にわたって活動している以上、末端の部隊や小規模な拠点などいくらでもある筈なのだ。それに、

 

 

――――何故ここに至るまで察知されなかったのか。

 

 

 ここには勿論、対物、対魔力両面にわたっての警戒網が敷かれている。砲撃・射撃術式による超長距離狙撃であるならまだしも、何一つ察知されずにこうして奇襲が成功するなど、通常は考えられない。

 つまり、頭上の相手は思考と技量、共に尋常ならざる存在だということ、シグナムとジークは言葉に出さずとも、共にその結論に行きつき警戒レベルを引き上げた。

 

「――副腕、デバイス展開。――面制圧、開始」

 

 その一瞬の思考、警戒の強化が差となって、先手を取ったのは襲撃者の方だった。

 感情の籠らぬ声が引き金となり、その周囲の空間が揺れ、背景に映る雲に歪みが現れたかと思うと、そこから大量の魔方陣が描き出されていく。指揮官に付き従う歩兵の様に、或いは、翼を広げる怪鳥の様に。

 十や百などでは効かない、もしかすると千に届いているのではないかと思わせるほどの大量の魔方陣、それを起点として現れるのは、剣、槍、杖、銃、鎚、弓、ありとあらゆる形をした武装――それも魔法術式を行使するためのデバイスだ。形状も形式も用途も、ありとあらゆる要素がバラバラの武装群、唯一統一されている点は、その全ての武装には、眼下に撃ち落とされんとする術式が込められているという、ただ一点のみ。

 その術式でさえ、統一性という物がない。炎が、氷が、雷光が、真空の刃が、土塊の礫が、解き放たれるその一瞬を待ち望んでいる。

 

「――シグナム!!」

「応っ!!」

 

 その物量、まさに千に値する。しかし、ここにいるジークリンデとシグナムも、間違いなく一騎当千の強者と呼べる存在だ。

 恐れず、震えず、互いに名を呼び合うだけでやるべき事を理解して、解き放たれた鏃の如く一直線に、頭上の襲撃者に対して突撃を掛けた。

 ここに至り、まだ周囲には多数の人員がいる。騎士団の本部であるが故に戦闘能力を持つ者も多数いるが、無論のこと多数の非戦闘員もいるのだ。

 既に展開された大量の術式、それらを全て防ぎきるにはあまりにも出遅れている、迎撃は不可能。ならば、賭けになるが頭上の存在をとにかくこの場から引き離すこと、それが被害を少しでも少なくするために二人の出した結論だった。

 

「――目標、変更」

 

 黒色と桃色、二つの弾丸が空へと駆け上がる。それに呼応して、襲撃者の優先目標が二人へと切り替えられ、数多の攻撃術式の照準が二人へと向けられる。

 

「遅い、堕ちろ」

 

 しかし千に届く、その術式群の照準を変更すれば隙が出るのは必至。これほどの数を制御しているにはあまりにも小さな隙であったが、その隙を見逃すジークではない。

 この世界に生まれ落ちて初めての、全霊、加減無しの拳が振るわれる。

 敵の命の考慮など、全くされていない拳は襲撃者の胸元に過たず命中していた。例え非殺傷設定が働いていたとしても、並みの魔導師ならば間違いなく心臓が破裂していただろう、そういう一撃である。

 

「カートリッジロード、――――シュランゲバイゼン・アングリフ(Schlangebeißen・angriff)!!」

 

 轟音と爆砕、それに紛れシグナムの持つ片刃剣型アームドデバイス<レヴァンティン>の柄元がスライドし、小さな音と共に魔力が込められていた空薬莢が排出される。薬莢に込められていた魔力は<レヴァンティン>の刀身を駆け巡り、その身を幾多の刃が連なった鞭状に変化させていく。

 さながら連結刃とも言うべき形状になったそれから、シグナムが放つのは中距離用魔力付与斬撃。それで襲撃者を絡め取り、遠方へと絶大な加速を付けて投擲したのだ。

 目標地点は騎士団本部に併設して建造されている、騎士団専用の演習場。周囲への被害を抑えるために設定されたその目標へと、さながら隕石の如き勢いで襲撃者の体が投擲させていく。

 着弾時に起こった轟音と爆発は、先のジークの一撃に勝るとも劣らない凄絶な物。果たして、この二連撃をまともに喰らって命があるかどうか。

 

「手応えはあったか?」

 

 連結刃を通常形態に引き戻しながら、シグナムはそう問いかけた。しかし、先に一撃を見舞わせたジークは、未だ戦意を解いてはいなかった。問いかけたシグナムの方も、未だ土煙がもうもうと立ち昇る着弾地点に険しい眼差しを向けている。

 それは二人ともが、今の二連撃に致命の手応えを感じていない証左であった。

 

「……ともかく、引き離すのには成功した。このまま押し込めるぞ」

「フッ、了解した。遅れるなよ、ジーク」

 

 故に二人は演習場へと即座に向かう。闘志を絶やさずに。

 

 

                    ■■

 

 

「――――さて、どう出るかな、君は。確かに今の一撃は素晴らしい。しかしそれでは届かぬよ。継ぎ接ぎに等しい代物だが、故にその物量は目を見張るものがあると自負している。君はどう立ち向かうのかな、これに」

 

 静かな狂乱。血塗られた知識欲に狂奔する狂人が、どこか遠くの地の底の穴倉で、静かに、舐る様に戦いを見つめている、一欠片の事象も見逃さぬように。

 

 

                    ■■

 

 

「――――修復開始、術式は問題なく稼働。戦闘行動の一切に支障なし」

 

 

 そう、剛腕を撃ちこまれ、地に叩きつけられた襲撃者は、些かの衰えも負傷も負ってはいない。

 からくりは至極単純。ジークとシグナムの一撃の前に等しい強度しか持たない自動防護障壁を、しかし、千を超す尋常ならざる枚数分重ねがけしていただけのこと。そして、それでもなお負ってしまった負傷を、同じように尋常ならざる回復術式の重ねがけで修復しているだけのこと。

 呆れるほどの物量。

 相手が一騎当千の強者であるのなら、二千の物量で圧殺する。

 物量の権化。

 この襲撃者はそういう代物であると、演習場に降り立ち、無傷で立ち上がる襲撃者の姿を見たジークとシグナムは理解した。

 

「目標再確認。殲滅を再開する」

 

 無機質な声。

 再び展開される千を超える武装群。

 行われるのは真正面からの数に任せた圧殺だ。

 その制御をどうやっているのか、それだけの魔力をどこから引っ張っているのか。そんな疑問に浸る間もなく、戦場全てを支配する火力が解き放たれる。

 

「おい、どうする」

 

 降り注ぐ鉄風雷火。現存するありとあらゆる魔法術式を片っ端からぶち込んだような、しかし、一定の制御の元に放たれる弾幕の嵐、その悉くを切り捨てながら、シグナムはジークに問いかけていた。

 撤退はできない。まだ周囲の人員の退避はほとんど行われてはいない。無為に引き下がれば被害は天井知らずに増すだろう。

 増援は呼べない。個人で戦争を具現する様な出鱈目に対し、生半可な力量の人員を投入したところで、牽制役にしかならないだろう。この戦場に立ち入ることが許されるのは、この物量に対し、抗うことのできる質を持つ者のみ。

 

「とにかく、凌ぐしかあるまい。あれだけの再生能力を持っているのだ、無為な突撃は徒労に終わる可能性が高い」

「退避が終われば、もう少し打てる手も増えるか」

 

 先に見せた防御能力、再生能力を見る限り、致命の一撃が致命ではない可能性が高い。全霊を込め、必殺を見舞ってもそこに待つのは恐らく、それを意に介さないカウンター。

 そのことが容易に想像できるからこそ、二人は守勢を選択していた。

 命を賭けた一撃を繰り出せる二人だが、それは確たる勝算があってのこと。犬死、無駄死になどはもってのほかだ。

 結果として、二人は守勢に回らざるを得ない。同時に、少しでもこの正体不明の襲撃者の戦力の程を明らかにするべく、幾多の戦場を潜り抜けて培われた観察眼を行使していく。

 

「……しかし、気に喰わん」

 

 そうして、二つの拳を縦横に振るい、放たれる弾幕を潜り抜けていく最中、苦渋に満ちた表情で、ジークはぽつりとつぶやいた。

 その呟きはあまりにも小さく、間断なく鳴り響く轟音に包まれているこの戦場においては、誰の耳にも届くことなく霧散していた。

 

 

――感じるのだ。

 

 

 一切の感情を見せることなく、自動機械の様に戦火を構築する正体不明の女。

 その無明の漆黒に塗りつぶされた仮面の奥、遮られた視線にさらされるたび、言いようのない感覚がジークを襲うのだ。

 知らない、自分はこの女のことなど欠片も知らない。

 その筈なのに、脳裏をよぎるこの感覚は、そう、懐かしいと、そう言えるようで。

 あぁ、それは、その懐かしいと感じてしまうその感覚こそが、酷く、不快な程に懐かしい。

 

 

「――――既知感、だったか」

 

 

 それを差して、デジャヴ、既知感と言っていたのは、戦友の裏面、自滅因子、あの道化者だったか。

 

「あぁ、確かにこれは、酷く不快だ」

 

 正真最後の三つ巴、その最中一瞬だけ共有した戦友という立場。そこから引きずり出した言葉が、正体不明の感覚に明確な形を与えていた。

 どうしてなのか、それに答えは無いが、これは、放置すれば毒になる、とジークの心の奥底、魂が訴えかけていた。

 その奥底からの希求に、僅かな、ほんの僅かな隙が垣間見えたのか、襲撃者は制圧射撃だけであった戦術に変化を加えて来た。

 

「結界、拘束、全種起動」

 

 封じ込める。拘束する。捕縛する。閉じ込める。足を止める。そうした諸々の、敵に停滞を与える多数の術式が一斉に起動する。

目標はジーク。本来ならば、これまで幾度も放ってきた制圧射撃と同じように、その拳で穴を作られ、回避される筈だったが、既知感を感じたが故の不快によってできた隙が、ジークの拘束という結果を生んだ。

四肢の全て、至る所を魔力で編んだ鎖や拘束具によって抑え込まれ、周囲を極小の多重結界によって阻まれてしまう。これで時間を稼ぎ、シグナムを倒そうという腹積もりなのだろう。敵戦力の各個撃破など、語るまでもない戦場の常套手段だ。しかし――

 

「止めるつもりか、俺を――」

 

 その手段は、よりにもよってその手段だけは、ジークリンデという少女に対しては悪手に過ぎた。

 なぜなら、既に止まっていたのがかつての彼女であり、形はどうあれ歩み始めたのが彼女なのだ。それを止めようとするなど――

 

 

 

 

停止(それ)はもう二度と必要無い。――――俺を止められるなどと、思わんことだ」

 

 

 

 

 条理ではなく、技量ではなく、静かな魂の咆哮が拘束の一切を打ち砕く。

 

「――――」

「理解ができんといった顔だな」

 

 それは正に重戦車。その理屈を超えた前進に、今度は襲撃者の方が僅かばかりの隙を見せ、

 

「貴様の様な傀儡には、理解はできんと知れ」

 

 ジークの拳が再び、襲撃者の胸元に突き刺さった。

 

 

 

 




 BGMと戦闘シーンで、大抵の人は襲撃者である彼女が今、いったいどういう状況なのかわすぐにわかると思います。
 現状、勝ち目は殆どないです。例えて言うなら真っ向からシュライバーと戦って魂の貯蓄を使いきらせろ、と言っているようなもんです。アルカンシェルでワンチャン、といったところでしょうか。
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