毎度のごとく盛りのいいウィーズリー家の食事が終わると出立準備が始まる。ハリーと合流したことを知ったハーマイオニーが、教科書準備その他もろもろを一緒にしないかと誘ってくれたのだ。
暖炉前の椅子に腰かけながら学校の制服にローブを羽織り、杖や黒鍵の柄を磨きつつ士堂はあくびをかみ殺していた。買い物するだけなのにウィーズリー家の面々が階段を何往復もしている。なんともにぎやかな家庭だな、とあきれながら見ていてもハリーが楽しそうに笑う姿を見ていれば、いいかと思う士堂だった。
なんとか荷物をまとめたウィーズリー家の面々がそろってから、煙突飛行を始めた。待ち合わせの時間にぎりぎりなことからパーシー、ジニーが次々に飛び込んでいく。士堂も煙突飛行粉を掴んで少し咳ばらいをしてから、粉を暖炉に投げ入れて大きくはっきりと答えて見せた。
「ダイアゴン横丁!」
一気に世界がねじ曲がったかのように移動する感覚に身をゆだねる。姿現しよりも気持ち体感時間が長いそれは、それでも一瞬だろう。地面に足がついたことを確認するとすぐに暖炉から出ていく。行きつく暇もなく各々が到着する中、ハリーの姿が見えないのに気が付いた。
「ああ、ハリーがいないわ貴方! なんということでしょう、どこにいるのかしら!」
「落ち着け、母さん。そんな遠くには行っていないはずさ。まあ一戸奥あたりの暖炉にいてくれるさ。」
手分けして探すことにした一行の中で、ロンと士堂はペアになるが相方の表情が曇っているのが気になった。
「僕ハリーに煙突飛行粉の使い方を伝え忘れちゃったんだ…。 ちゃんと前の日に行っておけばこんなことに。」
「死んじゃいないさ、なんたって生き残った子だぜ? そんな顔しなくても、さ?」
ロンの肩に手をまわして励ましながらハリーを探すが見つからない。どこに行ったか分からないことでいよいよモリーの情緒が不安定になってきたころ、士堂はハーマイオニーのことを思い出す。ハーマイオニーは恐らくハリーの迷子を知らないだろうから、このことを伝えなくてはいけない。
そこで一足先に士堂が集合場所のグリンゴッツ銀行に向かうと、玄関の純白の階段で件の人物たちを見つけ出した。ふさふさの栗色の髪をなびかせながら、ハーマイオニーが走り寄ってくる。あいさつ代わりのハグをしていたら、ハリーがなぜかハグリッドと一緒に駆け寄ってきた。
「ハリー、どこ行ったんだ?! 僕ら皆で君を探していたんだぜ!」
「ごめん士堂、僕なんか途中で噛んじゃったみたいで…。」
「ハリーは裏手の
ハグリッドが豪快に笑いながら強烈なハグをしてきたが、わけのわからぬ異臭に思わず顔がゆがんでしまった。肉食なめくじの駆除剤の匂いだとまたも笑うハグリッドが通りの向こうに手を振っている。そこにウィーズリー家の面々が息を荒くしながら走ってくるのが見えた。ハーマイオニーがハリーの手を引っ張って顔を見せると、安どの空気があふれてくる。
「ハリー、心配したよ、無事だったかい!」
「はあ、はあ、よかった。せいぜい一つ違いだと思っていたからね、モリーも安心するだろう…。」
ウィーズリー家の面々がハーマイオニーやハグリッドと挨拶を交わす間に、モリーも到着した。財宝を見つけた探検家のように狂喜するモリーは、ハリーの煤をはたいて髪を直してからハグリッドと猛烈なハグをしていた。
グリンゴッツ銀行にて必要な金をおろしてから、自由行動をとることになる。ハーマイオニーの両親に質問の雨を降らせるアーサー。悪友のリー・ジョーダンと悪い顔でどこかに走り去る双子に、新しい羽ペンを探すといってフラッとどこかに消えるパーシー。モリーとジニーは中古の制服を買いに行った。
「マルフォイに会ったって? 夜の闇横丁で?」
「しかも父親みたいな人がそのボージン・アンド・バークスってお店で何か売っていたんだ!」
自由行動の最初に、ピエロの格好のアイスクリームの露店で士堂が4人分のアイスを購入した。ハーマイオニーとロン、特にロンが遠慮するが誘惑に負けたのか普段は買えない味とサイズのアイスを注文すると、みんな思い思いの味を選んでいく。ウィンドウショッピングをしつつ苺とピーナッツバターのアイスにかじりつきながら、ハリーが先ほどまでの出来事を解説して見せていた。バニラとチョコチップのアイスを食べる士堂が、登場人物の名に眉をひそめてしまう。
「ハリー、それは怪しい。マルフォイの父親のルシウスってやつはパパが大っ嫌いなやつなんだ。」
ストロベリーチーズケーキにクリームブリュレのビッグサイズにむさぼりつくロンが、鼻にアイスをくっつけながら疑心の意を示す。
「ロン、鼻についてるわよ。 でも何を売ったのかしら? あんな危ない場所で売るなんていかにもすぎやしない?」
ラズベリーパブロバとチョコレートブラウニーのアイスを、一人行儀よくスプーンで食べるハーマイオニーは半信半疑の感じである。言われれば確かに、というやつだが詳しいことなど11の少年少女では想像できる代物ではなかった。
アイスを食べ終わってから、横丁においてある自動販売機で飲み物を買った。といってもマグルのものとは違い、ポッドやティースプーンが勝手に動いて紙コップに注いでくれる魔法製。紅茶以外にもサイダーなんかも売られていて、硬貨を箱の中に入れるとビンから注いでくれるのだ。そのビンも宙に浮いていて、どこにストックがあるんだ?と考えるのは野暮というもの。
4人でちびちびサイダーを飲みながら思い思いの店を回る。ロンはクディッチ専門店で贔屓のチャドリー・キャノンズに夢中になっていた。ハーマイオニーがインクと羊皮紙を買うのにハリーと士堂を引き連れていったせいで、ロンは一人でガラスに顔を押し付ける姿をしばらくさらし続けてしまったのだ。
ロンの首根っこを掴んで横丁を歩いていくと時間が近づく。双子とチャーリーとも合流し、目的のフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店につくがそこは異様であった。人、人、人。密集具合ではキングズ・クロス駅に匹敵かそれ以上である。帽子やマフラーのカラフルな色がひしめきうごめいていた。ロンが苦虫をかみつぶしたかのような顔を見せて来るが、それは他の面々も同様だろう。
【サイン会 ギルデロイ・ロックハート 自伝『私はマジックだ』】
上階の横断幕が風になびくのをぼんやり見ていると、書店から黄色い声が上がる。モリーと同年代の女性が本を抱きしめながら出てくる隙に、学生らしき人が書店に入っていくのが見えた。本は中で買うしかないらしい。
「ああ、楽しみ! 本物の彼に会えるなんて夢のようだわ!」
ずいぶんモリーさんも若い声を出すんだな、と士堂が視線を送ると横でハーマイオニーが恋する乙女のように目を輝かせている。祈りを捧げるように手を組んで、奥にいるであろうロックハートに熱烈な感情を抱くハーマイオニー。
「おいおい、マジか? 僕が見ているのは魔法か幻覚かい?」
「残念だけどロン。あれは僕たちの友達で一番頼りになるハーマイオニーだよ。」
ハリーとロンも初めて見るハーマイオニーに驚きを隠せない。そうはいっても教科書を買わなくてはならないので4人は本を掴むと、先に並んでいたモリーの場所にこっそり割り込んだ。やがて奥にロックハート本人がいた。自分の写真で周囲を囲みカメラから漏れる紫の煙に囲まれる彼は、草色のローブを羽織り三角帽が粋に映える美男子だった。
「もしや、ハリーポッター? なんという幸運でしょう! さあハリー、私の横に…」
ロックハートは目ざとくハリーを見つけると、その手を強引につかんで写真を撮らせる。何度かハリーが離れようとしても、がっちり肩をホールドして離す気はない。
周りのファンはこの有名人コンビにわっと拍手で湧き上がる。ハーマイオニーやモリーがちぎれんばかりに拍手するも、士堂やロンの顔にはあきれがはっきりと浮かんでいた。
ロックハートはファンに手を挙げて拍手に答えていたが、口に人差し指をあてて静かにさせる。
「皆さん、この記念すべき日は永遠に刻まれることでしょう! このハリーポッターは私の本を求めてこの書店に足を運んだのでしょう。そこで私は無償で著作すべてを提供することにします。 これは彼の想像を超える驚きでしょうが、まだまだですよ。
えへん。んん、ん。 私ギルデロイ・ロックハートは、ここに大いなる喜びと誇りをもって発表します。
この9月から私はホグワーツ魔法学校にて、【闇の魔術に対する防衛術】担当教授職の名誉を承る旨を、アルバス・ダンブルドア校長先生に報告した次第にあります!」
それまでで一番の拍手と歓声が上がる中で、書店は大混雑だ。士堂はハリー達と一緒に会計するつもりが、みんなとはぐれてしまう。人混みが周りを無視して何とか会計を済ませると、部屋の一角でハリーたちを見つけるが、状況に眉をひそめた。そこでは顔を真っ赤にしたロンとジニー、得意げで嫌味な笑みのドラコ・マルフォイをにらみつけるハリー。
何よりまずいのはマルフォイの父親とアーサーが対面していることだ。
「これはこれはアーサー・ウィーズリー」
「―ルシウス」
「仕事の方は忙しそうですな。この前も抜き打ちが数件ばかりあったとか。だがその報酬がこれでは、魔法使いの面汚しになる甲斐がないというものでしょう。」
「―マルフォイ、この際はっきりといわせてもらう。我々には魔法使いの面汚しという認識に、どうしようもない相違があるようで。」
表面上では紳士的にふるまいながら、じりじりと距離を詰める二人。アーサーの顔は熟れたリンゴよりも真っ赤だし、ルシウスも眉間の皺がこれまでかというほど深くなっていた。
冷戦状態のままで済むように双子以外が願う中、ゴングは唐突かつ必然的に下ろされる。
「アーサー、こんな連中と付き合うとは君も落ちるところまで落ちたとは思っていましたがね…」
「ルシウス…!!」
ジニーの大なべが宙に舞うと同時に、大の大人による取っ組み合いが始まる。本棚に体をぶつけながらお互いにはなれる気はない。双子が口笛と歓声で父親を応援し、モリーが悲鳴を上げる。店員やハリーらはおろおろするしかない中、人混みをかけ分けてきたハグリッドがルシウスとアーサーを引きはがした。
お互いに小さい傷を顔に着けていたが、大きなけがにはなっていなかった。ルシウスがジニーの本を無造作に返して書店を出ると、ハグリッドがアーサーに忠告する。
「アーサー、あんな奴ほおっておけい。骨の髄まで腐ったやつに付き合う必要はねえ。あそこは家族全員、根性曲がりのくそ野郎だ。
―さあ、皆。とっとと出ようや。」
「ええ、本当に。子供たちにいい手本を見せてくれました。ギルデロイが見ている前でなってことを! 彼がなんということやら…」
隠れ穴に戻った一行は学校までの日々を、やはり賑やかに過ごした。相も変わらずいたずらグッズが部屋中に飛び交ったし、アーサーのマグル探求は隙を見せては行われる。ハリーにとっては人生初の楽しい長期期間の休暇であったのは間違いない。
ウィーズリー家での最終日はモリーお手製の料理がふるまわれ、双子のいたずら花火が部屋中色鮮やかに飛び回る。ココアを寝る前に飲みながら、ずいぶん余裕があるもんだなと士堂はぼんやり考えたりしていた。
余裕などはなかった。鶏の声で起きたから時間はたっぷりあったはずである。
「ママ、僕のパンツはどこだっけ・」
「ジョージ、外に干してあるはずよ。さっき伝えたでしょう!」
「ママ、僕のローブを知らないかい?」
「ジョージ、ベッドに置いておきましたよ、早くなさい!」
「僕フレッドだよ、ママ。僕のやつが見当たらないんだ。」
「ああ、大変だハリー! 僕の杖がどっか行っちまった、探してくれないか?!」
「ロン。君の右手に握られているものを、僕は杖と呼んでいるんだ。 やあ、ジニー。準備は終わったの?」
「母さん、私のネクタイは乾燥呪文を…。 ジニー、君が手にしているボロボロの布切れはお気に入りのハンカチに似ているのは気のせいかな?」
「フレッド、それは僕のローブだ。…いや、だから士堂と名前が入っているじゃないか…」
やっと準備できた大量の荷物と人間が一度にどうやって移動するか。車のトランクと座席を拡大呪文で広げたアーサーは、得意満面で士堂とハリーにウインクしてきた。
だがウィーズリー家の面々が忘れ物を取りに次々戻ったせいで、時間の余裕が最高にない。脂汗を顔じゅうに光らせた親にせかされたウィーズリー家の面々が、キングズ・クロスの9と4分の3番線に消えていく。士堂もジニーの後にくっつくようにカートとともにはいると、ホグワーツ特急に文字通り飛び込んだ。ちょうど士堂が飛び込んだタイミングで汽笛が鳴り、乗車口のドアが閉まる。荷物をもって乱れる息のまま空いているコパーメントを探していると、横から肩をつつかれる。
「あら、ずいぶん息が乱れているわね。私、乗り遅れたんじゃないかって心配していたんだから。」
「…ハーマイオニーか。席、とっといてくれたんだな。」
「当り前でしょう、待っていたのよ。ハリーとロンは?」
「あとからついてきたはずだから、別のコパートメントにいるんじゃないか?」
ドカッと席についてから息を整えた。その間にもハーマイオニーが荷物を上にあげてくれて、持参してきたらしい水を手渡してくる。それをグイっと飲み干すと、やっと心身ともに落ち着いた士堂は、通りがかった販売のおばさんから手当たり次第にお菓子とジュースを買い込んだ。
「…なるほど。つまりあなたが知っていた魔術と、私たちが習う魔法は似ているようで違うということね。」
「理解が早くて助かりますよ。っていうか驚かないんだな。」
「あなたのその剣が、学校の図書館のどこにも載っていない時点で怪しいとは思っていました。」
「調べていたのかよ。」
「当然。後訂正しておくと、こっちの魔法使いにもあなたの言う根源を追い求める人はいると思うわ。何人かの著名な魔法使いの研究内容が、なぜかあいまいな記述しか残されていないの。てっきり闇の魔術のような禁忌に該当する類だから、なんて考えていたんだけど。」
「それは知らなかったなあ。まあいても不思議ではないかも。」
「そもそも闇の魔術自体、その根源への到達が目的かもしれないわ。意図的に秘匿されているのも、危険だからという理由だけではない可能性はある。」
カエルチョコレートを器用につかみながら、ハーマイオニーが自分の考えを説明する。同い年とは思えない考察力に、ただただ感心しながら士堂はカボチャジュースを口にした。
今彼らは休み中に、ハリー達にした魔術について議論していた。ハーマイオニーが席を取っておいてくれたおかげで、ここには2人しかいない。声に一応気をつけながら、魔術について説明したが、逆に彼女に教えられる形にもなっている。
「でもおかしいわ。あなたの使う魔術はキリスト教が基盤じゃなくて?」
「そうだよ。」
「さっき言ったじゃない。魔術には秘匿性が必要だって。矛盾しているわ。」
「矛盾はしていない。秘匿性が必要なのはあくまでも根源に至るため。別に聖堂協会はそんなもの求めちゃいない。」
「それじゃあ、魔術協会と聖堂教会はぶつかるんじゃないの?」
「うん、表面上は仲良くしているらしい。例えるならテーブルの上でニコニコ握手しながら、その下で脛を蹴りあっているという表現を祖父さんは使っていたな。」
根源に至るためなら
まるで水と油のような関係性すら、実社会から外れている魔術の世界だからこそ生れるのだ。
「大変ね、そちらも。もう一ついい? 魔法の世界にはキリストなんていないじゃない。
あなたの魔術の基盤がないのに、どうして魔術が使えるの?」
「それはちょっと複雑でさ。こっちに確かにおおよそ
「うーん、なぜかしら。 ―そうか、マグルの方だとキリスト教を信じていない地域もあるし他の宗教の力が強いこともある。でもこっちだと神様という大雑把なものを基盤とする分、一神教に近い効果が得られる可能性があるのね!」
「ご明察。」
魔法界ではマグルのように、宗教が存在しない。だが占い学がホグワーツにあり、魔よけの十字架の効力が発揮されるように、不明慮ではあるが「神様」や「祈り」という概念は死んではいないと解釈できる。
士堂はこの「神様」や「祈り」という大雑把な、だが確実に刻まれた信仰を基盤として魔術を行使していたのだ。魔法で占いや祈祷がマグルより頻繁に行われる分、マグルの世界よりも魔術的な基盤としてはこっちの方が強い可能性は高いと士柳と道子は分析をしている。
「そんなあいまいなものを基盤にできるなんて、あなたの魔術ってもしかしたらマーリン勲章級の異業なんじゃない?」
「うーん。この魔術に関しては、祖父さんと父さんが研究していたからな。僕はおこぼれをもらっているだけさ。そもそもこんな話はハリー達にはしてないよ。つくづく感心するな。」
「あら、そう? お褒めの言葉として聞いておこうかしら。」
そういうとハーマイオニーは、顔を少し赤くしながら葡萄サイダーを勢いよく飲んだ。
彼らは知らない。よもやちょうど真上で、ハリー達が空飛ぶ車でホグワーツ特急を追いかけていたことを。
少し間が空きました。テスト期間ということで書き溜めていたものをちょくちょく書き出す形になります。甲申頻度が落ちますが、ご了承ください。
ダイアゴン横丁に出てくる食べ物描写はオリジナル。魔法使いでもマグルのような自動販売機的なやつがあってもいいのでは? ということです。
魔術についても、自分なりの解釈。ハリーポッターに宗教が出てこないことからこのような発想にしました。でもあいまいな魔術基盤は本来脆弱というのが型月設定で在ったと思いますが、物語の進行上でありにしました。