ハリーポッターと代行者   作:岸辺吉影

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事件の幕開け

「…引き裂いてやる…八つ裂きにしてやる…殺してやる…」

 

ロックハートの部屋で聞いた冷たい冷酷な声。石の壁に張り付いて神経を耳に集中する。心臓の鼓動が速く大きくなり、額には汗が滲みだす。友人の奇怪な、さりとて無視できない緊迫した顔にロンとハーマイオニーも顔を合わせた。ハリーは2人を無視して玄関ホールに駆けながら、声の主を探し求める。

 

「…殺してやる…殺す時が来た…」

「また聞こえた!こっちだ!」

「待てよハリー!」

「聞こえるだろう、声が!」

 

二階に上がりハロウィンパーティーを無視して三階を目指すハリーを、友人たちは必死に追いかけた。状況を語らないまま何かを探すハリー。あちこちに目線を配りながら廊下を駆け回る彼は、一足先に人気がない廊下についていた。

 

「ハリー、なんだてっていうんだよ、本当に、」

「そうよ、ロンの、いう、とおり」

 

息も絶え絶えの2人にハリーは震える手で指をさした。その先の壁に30センチほどの文字が描かれ、松明の鈍い光に照らされている。

 

『 秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気を付けよ 』

 

奇妙かつ不気味な言葉にも意識が向くが、ゆらゆらうごめく影が目に入る。ゆっくり距離を縮めると、唐突な水音が廊下に響く。思わずこけかけたハリーを支えると、よく見えた。

松明の腕木に猫がぶら下がっている。フィルチの飼い猫ミセス・ノリスは目をカッと開き、何かにおびえた表情で硬直していた。

 

「ハリー、戻ろう。」

「でも、このまま、」

「戻った方がいい、ハリー。」

 

しばらく動けなかった3人だが、ロンが小声で肩をつついてきた。猫をほおっておけないハリーを、ロンは急かすようにいう。ロンらしからぬ強い口調に3人はその場を立ち去ろうとするが、もう遅い。

パーティーが終わり部屋に戻ろうとする生徒たちの声で、廊下はたちまち喧騒に包まれたのだ。その先頭に立つ生徒が後方の生徒としゃべりながら猫を見た瞬間、驚きの声が上がった。その後すぐに沈黙が廊下を支配し、ただならぬ気配を察知した生徒が前に出ようとしても3人に近づく人はいない。

 

重苦しい雰囲気を唐突に打ち破る、騒がしい声が聞こえてきた。

 

「 継承者の敵よ気を付けろ! 次はお前たちの番だ、この穢れた血め!」 

 

人混みの中から現れたのはドラコ・マルフォイだ。いつになく紅潮した頬とぎらついた目で、ピクリともしない猫を見て彼は笑った。

 

 

「何事だこれは… ああ、ノリス!ノリスじゃないか?!」

 

騒ぎを聞いたフィルチは、飼い猫の無残な姿に顔を覆ってしまう。その指の間からハリーを見定めると、金切り声を上げながらハリーに詰め寄ってきた。

「お前だ、お前だ、お前だ、お前だ! 私のノリスを、殺した、殺した、殺した!

お前が、ノリスを… 殺す殺してやるう、俺がお前を! 殺す!」

「殺す!!!」

 

ハリーに詰め寄ってきたフィルチはピタッと止まる。数人の先生とともにダンブルドア校長が駆け付けたのだ。3人をいったん下がらせてからゆっくり猫をおろす。彼はその長い指や杖で、ミセス・ノリスをくまなく観察していた。その背後でスネイプ先生が笑いをこらえたような奇妙な顔で立ち、ロックハートは舞台中かのように独白している。

 

「皆さん、猫を殺したのは【異形変身拷問】の一種でしょう!何度も見たことがある私さえ居合わせていれば、こんな惨状は起きなかったのに!」

 

彼の名演説の合いの手は、フィルチのすすり泣きだった。一度として猫を見ない彼の姿は文字通り哀愁が漂っている。ダンブルドア校長は呪文を唱えてノリスの体に杖をあてるが、何も起きない。その間にも名演説は留まることを知らなかった。

 

「―のように危険な出来事も私にかかればこの通り。私の自伝に詳しく書かれているのですが、つくづく残念です!楽しいハロウィンの日の惨劇を止めることが出来たのは、この私」

「アーガス、ミセス・ノリスは死んではおらん。」

 

フィルチとロックハートが声を詰まらせて校長を見ると、にこりと笑って安心させようとしていた。

 

「死んでない? でもじゃあ、どうして―こんなに」

「石になっただけじゃ、何故かはわからぬがの。」

 

眉をひそめるダンブルドア校長に、フィルチは真っ赤な顔で訴えた。

 

「あいつです、あいつがやったんだ!」

「これは高度な闇の魔法じゃ。二年生では出来ん代物じゃ。」

「あいつがやったに違いない!」

 

震える手でハリーを指さしてから、ゆっくりと壁の文字に向ける。書かれている文言を苦し気に、だがどこか恐ろし気に見つめながら彼は吐き捨てるように言った。

 

「壁の文字―見たでしょう―あいつは、しっておるのです、わたしが、わたしが―」

「私がスクイブだと、出来損ないの【スクイブ】だと知っているんだ!」

「僕、何も知りません! 猫のこともスクイブのことも何も知らないし分からないんです!」

 

ハリーは大声で否定するが、視線が一斉に集まったことに驚く。壁紙の中の人までもハリーを見てくる中、ゆらりとスネイプ先生が歩みよってきた。嫌な予感が頭をよぎると、肯定するかのようににやりと笑っている。

 

「ポッター、君は偶々居合わせてしまったといいたいんだろう?」

 

スネイプ先生はかすかに首を横に振って否定する。

 

「ではなぜ君はハロウィンの日だというのに、ハロウィンパーティーに参加しなかった?

参加しておれば少なくとも第一発見者ではなかったのではないかな。」

「ぜ、絶命日パーティーに参加していました!」

「そうです!」

「首なしニックや他の幽霊が証言してくれます!」

 

3人の必死の弁解すら、先生は逆手に取った。黒目がギラリと光を帯び、唇がアーチ状に曲がる。

 

「ほうほう、心温まるハロウィンよりも心から冷える絶命日が好みとは。だからパーティーに参加しなかったのかね?」

「ええ、もう疲れているんです。僕たち部屋に戻ろうと。」

「夕食も食べずに?」

「お腹いっぱいなんです。」

 

タイミング悪くロンの腹が雄たけびを上げた。ロンとハリーの顔がほんのり赤くなってしまい、ますます蛇の寮監は得意げだ。誕生日を迎えた子供のような顔で校長に向き直った。

 

「校長、どうやらポッターの証言は信頼性に欠けますな。吾輩としては彼が告白するまで、グリフィンドールのクディッチチームから外すのが妥当でしょうな。」

「そう思いますか、セブルス?」

 

今まで会話に参加しなかったマクゴナガル先生が鋭く切り込んでくる。どうやらクディッチへの不参加がとどめだったのか。

「私にはクディッチまで止める理由が見当たらないのです。あくまでも猫は魔術によって石になったのであって、箒の柄でぶたれたわけでもないのですよ。」

「まあそうじゃな。」

 

ダンブルドア校長の青い目が、ハリーに向けられた。キラキラ輝く目が、今は心の中を覗かれたような気がして恐ろしい。そして校長はきっぱり宣言した。

 

「疑わしきは罰せず。今日は不問とする。」

「何故だ!」

 

思わずといった顔で、フィルチが叫んだ。セブルスも黒目をぎろぎろ光らせているから、両者とも憤慨しているのは火を見るより明らかだ。

それでも校長はニコニコ笑いながら、白ひげを撫でているだけである。

 

「私の猫を石にされた! あいつがやったのに刑罰もないなんてアリエン!」

「校長、甘いのではありませんか?!」

「猫については問題はない。幸いスプラウト先生が、マンドレイクを手に入れられてな。成長し終えたら、薬の調合をしてもらいましょうぞ。必ずやミセス・ノリスは元に戻るでしょうな。」

 

フィルチの顔に安堵の色が浮かび、緊迫した場も少し緩和したように思えた。そういう時を狙ってしゃしゃり出ることが出来る男が、ここにいる。

 

「マンドレイク回復薬のことなら、おまかせください。眠ったって作ることが出来ますよ!」

 

嬉々としながら教師陣に自慢するロックハートは、この場にいる人の中にプライドが高い人物がいたことを失念していた。その人物はねっとりとした声でロックハートを問いただす。ハリーのことを忘れたかのように、冷たい声色だった。

 

「失礼ながら、この学校の()()()()()()()()()()なのだが。いかが?」

「もういい。さあ皆部屋に戻りなさい。先生方はもうしばらくお付き合い願おうか。」

 

ハリー達は限りなく疾走に近い早歩きで、ロックハートの教室の1つに飛び込んだ。詮索されるであろう彼らの為に、ありがたくも使用許可は下りていた。

その部屋でハリーは、魔法族の中で魔法を先天的に使えないスクイブと聞こえてきたうめき声について話していた。

 

「でもハリー。君お手柄だよ。これでフィルチのやつがあんなに僕らを毛嫌いする理由が分かったんだからさ。」

「でも知らなかった。まさかあの人が。」

「そんなもんさ。声については他の人には言うなよ。魔法界じゃ、幻聴は気狂いの前兆っていうんだ。」

「信じていないの?まあ僕も信じれないんだけど。」

「信じているわ。でもあなた以外聞こえない声を、証明するのは難しいわ。だからロンの言う通り、今は黙っておきましょう。」

 

人気がなくなったと思った3人が扉を開けると、目の前に誰かが立っている。思わず身構えた彼らに、人影は声をかけてきた。

 

「幽霊祭りに行ったと思っていたんだけどな。パンプキンケーキとチキンレッグ、コテージパイとカボチャパイ。冷めてはいるけど暖炉で暖めればいいさ。」

 

ため息交じりに士堂は、風呂敷に包んだパーティーの余りものを見せていた。深夜零時が近いこともあって、一行はすぐに談話室に戻る。暖炉の燃え盛る火でチキンなどを暖めてからベッドに戻った。久しく、正確には一日なのだがとにかくありがたかった。何せ匂いや味が五感を刺激してくるのだから、たまらない。ベッドの上で食べる背徳感は、ホグワーツの寮生活の中でも上位に入るだろう。

 

 

その後数日間は、ミセス・ノリス事件でもちきりだった。現場に張り付いているフィルチの犯人捜しが、話題を提供するのも一因だろう。ちょっとでも笑いを浮かべた生徒などを、処罰として部屋に連れていこうとする。当人の気持ちを考えたら当然だが、スクイブだと知られたからか笑いの種になりやすい。

だが、笑いばかりではない。血気盛んなフィルチを恐れる生徒も多いのだ。

 

「なあ、ジニー。考えすぎだよ。ホグワーツでは、こんなのめったないんだぜ。

きっと校長か誰かが、ちょちょっと捕まえるさ。まあついでにフィルチの野郎も…

冗談だよジニー。ほら水飲んで…」

 

猫好きのジニーをロンがからかいながら励ますが、顔の青白さは解決できない。彼女のように得体の知れない事件に恐怖する生徒も多い中、別の生徒がいるのも事実だ。

 

 

「ミス―、アー…」

「グレンジャーです。ビンズ先生、【秘密の部屋】について教えてください。」

 

ハーマイオニーが立ち上がった瞬間、教室が揺れた。今行われている授業は「魔法史」である。

ホグワーツの授業の中で、最も退屈な科目として語り継がれてきたのだ。その理由は教師であるゴーストのビンズ先生による、教科書読み上げにあった。低音かつ一定の口調で、堅苦しい歴史を整然と読む。興味の湧かない内容でこの教え方では、学生がどうなるかは明白だった。

だからこそ、ハーマイオニーの行動はあり得なかったのだ。口を開けて窓を見ていたトーマスは目を見開いた。惰眠をむさぼっていたネビルの肘が滑りおち、ラベンダーの体ががくっと震えた。顔を机にぶつけようかというほど頭を揺らしていた士堂とロンも、額を打ち付けてしまう。

 

「私は魔法史の教師です。事実を教えるのが私であり、神話や伝説は他の幽霊にお尋ねなさい。」

「先生、世界の神話や歴史は事実をもとに創作されたものが数多いはずです。たとえ神話や伝説が空想だとしても、もとになった事実は存在するはずなのでは?」

「うほん、うほん。アー、同年九月のサルジニア魔法使いの…」

「先生、事実があるのでしたら知る権利が私たちにはあります。」

 

ビンズの魔法史史上、ここまで熱心な質問はなかったのだろう。教室の端から端をせわしなく漂う彼はあきらめたように頷いた。士堂たちはここ数日の彼女の行動を理解した。図書館にこもりがちな彼女だが、最近は図書館以外で見かけることがなかったのだ。

「秘密の部屋」なる伝説を調べるために、彼女は「ホグワーツの歴史」を借りようとしていた。だが、探偵に目覚めたのは彼女だけではなかったのか、借りるどころか予約すらできなかったそうだ。そこで教師に直接聞くという手段に走っているのだろう。

 

「はあ。まあ、一理あるでしょう。あなたの言う通り、数ある伝説や神話は何かしらの事実が元になっていると考える学者はいます。これはエウヘリズムと呼ばれているものですな。

例として挙げられるのは、トロイア戦争でしょう。骨董無形な伝説でありましたが、魔法歴史学者シュリーマン君は有名ですね、彼によって事実と認定されました。

彼の発掘した遺跡は時代がずれていたりしますから、トロイア戦争自体の確定はされていません。彼の功績は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にあるのです。」

 

そこまで言って先生は教室を見渡すと、全生徒が聞き耳を立てていた。初めての光景に気後れした先生は、彼らの知りたい話をし始める。

 

「そして彼はマーリン勲章を授与されました。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そう、【秘密の部屋】ですね。」

 

息をのむ声が聞こえ、教室にかつてない緊張が走る。聞いたことのない事実は、知的好奇心の薄い生徒でも関心を持つのだろう。

 

「皆さん知っての通り、ホグワーツは偉大なる4人の魔法使いによって創設されました。すなわちゴドリック・グリフィンドール、ヘルナ・ハッフルパフ、レオナ・レイブンクロー、サラザール・スリザリン。当時魔法使いとマグルは共存していました。しかし特別な力を操る魔法使いたちは、マグルから様々な目で見られたのです。友人や家族として、あるいは嫉妬の対象や武力として。後者の見方がマグルに広まりつつあった頃、創設者はマグルが来られないこの地に学校を造られたのです。」

「マグルから離れるとともに、当時の魔法の学び方も変えました。各家ごとに伝えられた魔法の秘儀を、同じ屋根の下で学ぶ。しかも当代最高たる4名にです。彼らは協力しながらホグワーツを発展させましたが、やがて袂を分かちます。

スリザリンはあくまでも、魔法使いのみに魔法は伝えようとしました。他の3名は数は多くなかったマグル生まれの魔法使いにも、教育の機会を与えようとしました。断っておきますが、スリザリンの発想は当時としては珍しいものではありません。()()()()

 

そこまで言って一息つくと、核心に迫ろうと話を続けた。

 

「結局スリザリンの意見は通らず、彼はこの地を去ります。その時彼はホグワーツに密かに部屋を設け、秘宝を隠したとされます。彼の後継者のみが部屋の鍵を開けることが出来、中に隠された秘宝―恐怖を解き放つといわれたのです。

ですが、確認できたものはいません。シュリーマン君始め何人もの優れた魔法使いが探索してもなお、その痕跡すら見つかっておらんのです。」

 

生徒の顔に眠気や惰性などない。今自分たちは伝説の一部と相対しているかもしれないのだ。

 

「先生、恐怖とは何でしょうか?」

「何かしらの魔法動物といわれていますが分かりませんな。」

「スリザリンの後継者以外見つけられないのなら、誰が探しても無意味では?」

「オッフラハーティ君、歴代の優れた校長方が発見できなかった時点で」

「ビンズ先生、闇の魔術が使われていたら?」

「ミス・ペニーファイザー、闇の魔術を使えないと使わないでは天と地の差があるのです。」

 

ハーマイオニーのみならず、シェーマスやパーバテイが矢継ぎ早の質問を浴びせる。が、ビンズ先生は取り合おうともしない。事態が事態だから仕方なくいった、といった具合だ。

だが、我らのハーマイオニーがこんなことで屈するはずがなかった。

 

「先生は魔法では見つからないといいました。では魔法以外の、そうホグワーツでは習えない魔術が使われていたとしたら?」

 

ビンズ先生は少し驚いたようだが、士堂を見つけると彼の近くに漂いつつ首を振った。

 

「ないでしょうな。確かにこの部屋には、皆さんの知らない術を学んだ人がいるかもしれない。ですがそれを使ったとしても、優秀な魔法使いの前では無力です。

―さあ、わかりましたね。つまり君たちが思うものは全て確証がないのです。私は確固たる事実のみを教えるのが、職務であります!」

 

 

「どう思う? 本当にあると思う? 伝説の隠し部屋。」

「さあね。ただ一つ言えるのは、猫がやられたってことだな。」

「校長先生ですら、マンドレイク回復薬を待たなくちゃならないのよ。ただの魔法じゃない。」

 

4人は事件現場近くで、痕跡を探していた。ビンズ先生は笑い事だと切り捨てたが、生徒は誰一人そうは思っていない。現にこうして士堂たちは何かないか、探っていた。

 

「まあ、そうだけどさ。士堂、君の魔術で石にできるかい?」

「僕は無理だな。石化は呪いとかそういった類に分類されるんだ。しかも金縛りの上位の呪いだ。あの猫は金縛りじゃなく、完全に石化しているってことは相当のやり手だな。」

「つまりは君でも分からないんだね。」

 

ハリーの言葉に頷いた士堂は、窓に目を向けた。何十匹もの蜘蛛が列をなして逃げていった。するとロンが泣きそうな顔で、目を覆っている。死体でも見たかと見間違うほど、極端な反応だ。

 

「僕、蜘蛛は嫌いなんだ…」

「どうしてまた。」

「昔フレッドのおもちゃの箒の柄を折ったとき、テディベアを蜘蛛に変えられてさ。それ以来あのうじゃうじゃした脚とか見ると、ああもう僕…」

慰められていた時のジニー並みに顔を青白くするロン。慌ててハリーが話の方向性を変えた。

 

「そういえば床が濡れていた。あの水はどこから?」

「確かそこの部屋から。あの時遠くから見て確認した。」

 

ロンが指さす方向には、修理中と書かれた紙が貼られた扉があった。その真下あたりが湿っているのを見つけると、ハーマイオニーがノブを掴みながら言った。

 

「ここ、みんな知っているところよ。入りましょう。」

「お、おい大丈夫か…」

 

ハーマイオニーが中に進んでいった後を、慌ててついていく。そこはトイレであったが、陰気で憂鬱な印象が強い。ひび割れた鏡に壊れた石製の手洗い場は、長い間放置されているらしい。そしてトイレの小部屋を見て、彼らはここがどこかと誰がいるかが分かった。

 

「あー、マートルごきげんよう。」

「ここは女子トイレよ。どうして男子がいるの。」

「まあ、その、素敵でしょうここ。だからみんなに紹介したくて、」

「嘘ね! どうせ私のことバカにしに来たんでしょう! 知ってるわよ、私のことなんて言ってるかぐらい! バカだと思っているんでしょう?!」

 

ハーマイオニーが無理な笑顔で何とかしゃべりながら、肘でハリーを小突く。何を言わんとしているのかわからないハリーだが、マートルの眉間の皺が増えたことで慌てて話を繋げた。

 

「あー僕たち、そのー、ああ、猫が襲われたとき、そう何か見なかった?」

「そんなのわからない。」

 

興奮気味のマートルはあたりをぐるぐる漂い続ける。

 

「私ビーブズにいろいろ言われて、あの後ここで閉じこもったの。そしてね、もう嫌になって死んじゃおうって、でも、でも…」

「もう死んでたって?」

 

強烈なすすり泣きとともに、彼女は便器に飛び込んだ。噴水かと思うぐらいの水しぶきが、4人に降りかかった。ぴちゃぴちゃと水滴の垂れる音とともに、奥の個室からすすり泣く声が聞こえてくる。ハーマイオニーがやれやれといった具合に、首を振る。

 

「これでもいつもよりましなのよね、あの子。さあ、行きましょ。」

 

ゆっくり扉を閉めて談話室に戻ろうとする4人は、階段上から聞こえた声にびっくりした。パーシーが信じられないといった表情で、こちらに向かってくる。どすどす音を立てながら近づくと、ロンを捕まえた。

 

「ロン。そこは女子トイレだぞ!」

「パーシー、僕たちちょっとばかし、探し物をしてただけさ。」

「早く帰るんだ! 今の君たちを見たら他の人はどう思う?!」

 

パーシーが強い口調でロンをたしなめると、反抗するかのようにロンが反論した。売り言葉に買い言葉で、どんどん論争はヒートアップするばかりだ。

 

「僕たちはやっていない、無実だ!」

「僕もジニーにそういったさ! でもジニーは自分のことのように悲しんでいるんだ。あの子があんなに思い詰めることなんてなかった!」

「兄さんはジニーじゃなく、その胸のバッジのように輝く自分の将来が心配なだけだろ?!」

「グリフィンドール、5点減点!」

 

怒りで顔を紅くし、頬や胸が膨らんでいるパーシーはいつぞやのウィーズリー夫人のようだ。士堂とハリーが親子の血筋というものを感じていた時、パーシーは大股で階段を上がっていく。怒りで首筋まで赤いロンをなだめながら、皆で談話室に帰った。

 

 

「闇の魔術に対する防衛術」は、動物を使わなくなった。代わりにロックハートの著作から、寸劇で対処法を学ぶという内容に変わった。だが具体的な魔法につて教えられることはなく、只々自慢話を聞かされる始末だ。たいていはハリーが指名されたが、単に有名人だからだろう。

つまりはくそなわけだが、ハリーとハーマイオニーはいつになく緊張していた。このくそな(ハーマイオニーはそうは思っていない)授業終わりが、ここ数日の中でも重要な瞬間であることは間違いなかった。

 

「今日はここまで。宿題としてワガワガの狼男が私に敗北したことについて、詩を書くこと!優秀者にはサイン入りの本を差し上げましょう!」

「皆が行ってからよ。」

 

宿題を告げたロックハートが使われなかった杖を、丁寧に机に置いた。その時ハーマイオニーが、紙きれを持ってササっと近づく。紙切れを渡しながら、ロックハートに説明した。

 

「先生、実は図書館で本を借りたいのですが【禁書】なんです。先生にサインをいただきたくて。」

「ミス・グレンジャー!君のような秀才がまたどうして?」

「先生の『グールお化けとのクールな散策』に出てくる、ゆっくり効く毒薬について、」

「ああ、あの本ですか!」

 

そのまま上機嫌で彼は紙切れを受け取る。ハーマイオニーが熱のこもった口調で活躍について褒めると、嬉しそうに笑っている。サイン用という大きな羽ペンでサインをするとき、彼は何の本か見もしようとしなかった。上機嫌のまま、クディッチの試合が近いハリーを激励する。

 

「―私の個人レッスンが必要でしたら、いつでもご遠慮なく。ナショナル・チームも見惚れた私のシーカーの実力、能力と才能に欠ける若き人に伝授しましょう!」

「ありがとうございます。いつかまた。」

 

ハリーのあいまいな咳ばらいを合図に急いで部屋を出た。パーシーに叱られた後話し合った結果、怪しいのはマルフォイだというのが結論になったのだ。マグル生まれを憎み、スリザリンと縁が深く歴史も長い。この騒動で得をする人物を上げていった結果だった。

彼らはハーマイオニーが提案した作戦に必要な薬の生成方法を入手するために、禁書が必要になった。マルフォイをだますために使う薬だ。だが簡単に見せることが出来ないから禁書なのであって、そうは許可は下りない。よって簡単に騙せそうな教師を見繕ったのだ。

 

「もっとも強力な魔法薬」を図書館で手に入れた後、3階のマートルのトイレに逃げ込んだ。図書館秘書マダム・ピンスを何とかはぐらかしながら手に入れた本は、題字に負けないおどろおどろしいものだ。いわゆる闇の魔術に該当する人体実験や、非道徳的な薬や魔法薬が詳細に綴られている。

 

「これが【ポリジュース薬】よ。ほら、人が変身しているわ。」

「おう…」

 

挿絵の痛々しい表情を見た瞬間、誰かが声を漏らす。本来授業で類似する内容を学ぶはずだったが、ありがたいことに触れられてはいなかった。

 

「工程も複雑だけど、問題は材料ね。クサカゲロウ、ヒル、満月草にニワヤナギ。まあここは簡単だけど、問題はこれね。二角獣の角の粉末に毒ツルヘビの皮の千切り。」

「どこで手に入る・」

「スネイプ先生の保管倉庫以外心当たりはないわ。後は変身対象の一部。」

 

士堂は頭を抱えたくなった。ただでさえ危険な賭けなのに、賭ける前の段階で大博打を打たなくちゃなんないのだ。

 

「おいおい、無理だろそりゃあ。髪の毛や爪ならどうにかなるけどな。 いくら何でも先生の個人倉庫なんて…」

「何よ、士堂。」

 

ハーマイオニーが本を閉めてにらみつけてくる。赤みの増した顔で不満げではあるが、その瞳は爛々と輝いていた。

 

「私は規則を破りたくはない。だけどこのままじゃ、マグル生まれの生徒は皆殺しよ。ならちょっとぐらいの違反なんかでビビっちゃいられないの。継承者が誰か、マルフォイに聞かなくていいんだったらそれでもいいわ。」

「ここまで来たらそうはいかねえだろ。」

「まさか君に規則違反を促される日がこようとはね。」

「やるよ。でもどのぐらい時間がかかるの?」

「そうね、満月草は満月の時に収穫しなきゃいけなくて。クサカゲロウが21日間煎じるし。」

 

ざっと見積もっても一か月はかかるといわれたロンが、ハリーの背中を小突いた。

 

「君がマルフォイをやってくれりゃあ、早まるぜ。」

 

 




なんとか投稿できました。原作の細かい描写等は書いた方がいいと思うんですが、省くことが多くなりがちですね。

エウヘリズムは、僕の好きな考え方です。アトランティス大陸の伝説も、もとになる古代文明を参考にプラトンが後世への忠告として書いた的な。

シュリーマンが魔法使いでホグワーツ出身なのは、書いている途中で思いつきました。今後も偉人が数人出るかもしれませんが、フェイトクロスなんでよろしくお願いします。

設定等不自然な点は教えていただけると、ありがたいです。
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