決闘クラブはホグワーツに何か好影響を与えたのだろうか。ハリーに向けられる疑惑の目が強まり、ハリーの神経は緊張しっぱなしだ。口数が減り、ベッドの上で急に頭をかきむしる。イライラが止まらないハリーを見かねて、ハーマイオニーが提案した。
「そんなに気になるなら、ジャスティンに直接説明すればいいじゃない。」
何度か思案していたハリーが談話室を駆け抜けたころ、お互いにチェスをしていたロンと士堂はハーマイオニーを見つめる。
「何よ、あのままじゃ私たちまで変になっちゃう。」
「いやさ、とがめているわけじゃないけど。」
「うん、僕たちハリーがちゃんと説明できるか心配で言い出せなくってさ。」
士堂のナイトがマスを移動するのを眺めながら、ハーマイオニーは複雑な顔をしていた。
「そうね。でもハリーが言わなくちゃいけないことかもしれない。私達が何言っても聞いてくれなくなってきたものね。」
「ハリーが言ってもわからないけどさ。一理あるかな。」
溜息を同時についた時だ。非常に通る声で、どこからか声が聞こえてきた。続いて扉が勢いよく空いた音と、悲鳴が聞こえてくる。3人の体が飛び跳ねるように反応して、談話室を飛び出た。ロンの大事なチェスが床にぶちまけられるのも無視して、階段を駆け下りた。
騒ぎの場所にたどり着くと、そこは悲惨な状況だ。
ジャスティンが天井を見上げたまま、恐怖の顔で石化している。そして天井はもっと悲惨だ。
「ほとんど首なしニック」が恐怖のまま石化している。普段は透明な真珠色で奥が見えるのに、今は黒く透けて壁紙すら判別できない。
「襲われた、襲われた! 生きてる? 死んでる? 関係ない! みーんーな皆、おーそーわーレーター!」
「♪おー、ポッター、嫌な奴、嫌な奴― お前はなにした、お前は生徒を皆殺し お前はそれが大愉快♪」
ビーブズが大声で歌いだす。最初に聞こえた声はビーブズだったのだ。この騒ぎでうろたえる生徒が面白くてたまらない彼の歌は、ショックで静かな廊下では嫌によく聞こえた。
ジャスティンたちを検分するマクゴナガル先生が、我慢できないといった顔で一喝する。
「お黙りなさい、ピーブズ。」
ハリーにあっかんべーをしてから帰るビーブズは、文字どおり壁に消えていった。「ほとんど首なしニック」は奇妙な方法で運ばれる。マクゴナガル先生が作り出したうちわであおられながら、ホバークラフトのように空中を移動していく。死んでから与えられた移動の自由が、こんな形で奪われるとは。普段なら爆笑物のはずなのに、今は一つも笑える気がしない。
壁に張り付いて呆然とするハリーを抱きしめながら、マクゴナガル先生がどこかに消える。
そのころ、談話室で顔を寄せ合って3人は相談をしていた。今日起きたことは、それまでの前提自体を大きく変えるにふさわしい、重大な出来事だった。
「いい、まずは今日起きたことを整理するわ。マグル生まれのジャスティンと、ほとんど首なしニックが石化した。」
「さっき見たんだが近くの窓から蜘蛛が大量に移動していた。静かな時カサカサ言っていたから確かだ。」
「それは僕もわかった。どうしてあんなのがこんな時に…」
ロンがわなわな震えていると、談話室の窓の止まり木にフギンが止まった。窓を開けると口に手紙を、脚に小さな布袋を掴んでいる。荷物を受け取ってから、晩御飯の余り物の湯卵とビーフステーキを放った。器用に嘴で捕まえると、止まり木で御馳走にありつき始める。
その手紙を士堂が熟読する中、ロンとハーマイオニーが催促してきた。
「何が書いてあるんだい、その手紙?」
「爺さんにハリーのことと今までのことを簡潔に伝えた。その返事だな。」
ハーマイオニーに手紙を渡して、内容をロンと共有する。
「まずは怪物だが、心当たりなし。石化させる魔獣はそんなにいないし、現在確認できてはいないとのことだ。人間でもない、人の痕跡がなさすぎるし石化の魔眼はランクが高いからな。」
「能力的には魔獣というよりも幻獣より、てあるけど。」
「魔獣、いわゆるマグルの図鑑に載らない特殊生物のランクさ。魔獣・幻獣・神獣の三段階で、ここに竜種が最上位に加わるって感じ。」
「おいおい、真ん中じゃんか。大丈夫かよ、それ。」
「手紙には可能性が低いってあるわ。心配しないで、ロン。」
「いや、残念ながら幻獣だ。生あるものを対象にするだけなら魔獣でもありうるけど、生なき物まで対象に取れるのは幻獣の類だよ。」
そして士堂は、小袋の中身を手に出した。中から黒鍵の柄が何本も出てきたのをみて、二人が黙り込んでしまう。手紙の内容と袋の中身。一筋縄どころの騒ぎではなくなっているのだ。
「でもさ、どうやって手なずけているんだよ。そんな化け物。」
「知らん、爺さんでも分からねえのにわかるかい!」
「いらだってもしかたないわ。今はポリジュース薬でマルフォイから聞き出すことに集中しましょ。」
ハーマイオニーが話に区切りをつけたころ、ハリーが戻ってくる。校長室に行ったものの、おとがめなしの処分だったようだ。一同ほっとしたところで、ハリーに手紙の中身を伝える。
「そんなのがホグワーツに? 僕信じられないよ。」
「みんなの感想だぜ、ハリー。君が言うとしゃれにもならないから気をつけてくれ。」
今度の事件が生徒の恐怖を煽ったことは間違いない。いかに魔法使いでも、死んだものまで相手取るなんて聞いたことがなかった。冬期休暇のホグワーツ特急の予約は、過去最速を更新したらしい。教職陣にも、有効な手が思いつかない以上止めるわけがなかった。
いつになくがらんとするであろうホグワーツは、士堂たちにとっては幸運だった。まずハリーは、通常向けられていた疑惑の目がなくなる。次にポリジュース薬の生成に人の目を考えずに済む。幸い幽霊までやられたとあって、ビーブズすらいつもの半分ほどしかうろついていない。だから監視の目は、それまでと比べ物にならないほど緩くなっていた。
フレッドとジョージは、思う存分暴れまわっている。ハリーの前で行進しては、
「者ども下がれ、下がれ。邪悪なる魔法使いのハリー様だ。後継者の怒りに触れれば…」
などとやってパーシーに怒られている。無論ハリーではないと思っているからこその、いたずらなのだが。
士堂が心配になったのはジニーだった。誰よりもハリーを信じている彼女は、双子の冗談を冗談として対処できていない。毎度泣きそうになると、背中をさすりながら慰める羽目になった。
「大丈夫か、ジニー。最近なんか泣きっぱなしなような…」
「平気、ちょっとホグワーツの事件に慣れていないだけさ。」
ロンの能天気な考えは、本当に大丈夫かと我が事のように思う士堂だった。さらに反応していたのがマルフォイだ。双子が騒ぐのを目にするたびに、イライラを隠さずにいる。苦虫を嚙み潰したような彼を、ロンはこう評した。
「大方、本当の継承者は俺だといいたいんだろうね。悪行全てを君に奪われて屈辱なんだ。なんせクディッチでも、君に負けてるんだからなハリー。」
学期が終わり、冬期休暇だ。予想通りとはいえ、ここまで静寂が包むとは思っていなかった。グリフィンドールの寝室や談話室から、物音が聞こえてこないのだから。そうなればもう双子の独壇場だ。「爆発ゲーム」や「おなら爆弾」といったいたずらグッズが寮中に飛び交っても、誰も文句を言わないのだから。
皆で決闘をしたり、黒鍵を投げたりして遊ぶ。ハリーは初めて黒鍵を手にしたとき、ズシリと感じた重さとは違う何かを感じた。腕にまとわりつくというか、何かが体を駆け巡る感覚だった。
「へえ、才能あるよ。黒鍵の魔力を感じてるんだ。」
「魔力? でも魔法を使う時とは違うね。」
「いった通り根本が違うからな。剣としてはみんな使えても、洗礼とかは僕らだけじゃないか。普通の魔術使いの黒鍵とも、操作系統が違うんだよ。」
双子が用意した的に向かって投げる。的にはデフォルメされた変顔マルフォイやらスネイプ先生やらが描かれていて、ランダムに動いている。投げ方を教わりながら、ダーツ感覚で遊んでみた。
「難しいよ、士堂。君こんなのよく投げていられるね。」
「物心ついた時から触れてるからな、いやでも投げれる。」
「それに士堂が投げたら地面がへこんだじゃないか。」
「あれを教えてくれよ、騎士様。」
フレッドが肩をもみながら、からかってきた。ジョージも士堂の前で手をもんで手下感をアピールする。だが、笑いながら士堂は首を振った。
「手甲作用は無理だ。ありゃ格闘技を学んだうえで、魔術的な【強化】が出来なきゃな。」
「手甲作用、ね。」
「もとは聖堂教会の裏の組織、代行者より強大な人間の集まる埋葬機関由来なんだと。でも爺さんが死に物狂いで習得したんだってさ。」
「士堂のおじいさん、そんなにすごい人だったの?!」
ジニーが大きく目を見開て驚くも、士堂はすぐに否定した。
「いや、爺さんは埋葬機関じゃない。詳しくは知らないけど、埋葬機関所属のある人をずっと見てて、独学で習得したんだって。」
「それもすごいよ、見ただけで覚えるなんてすごくない?」
「うん、教わっていないって。でもなぜかは知らないんだけど、この話になるたびに祖母さんが怒るんだよ。爺さんも肩を落とすし。」
こんなに賑やかでもパーシーは自室に引きこもるばかりだ。曰く子供っぽい、ばからしい、付き合えない。監督生として教師陣の手助けをしてこそ、監督生はその本領を発揮するだのと高尚な言い分をしてきた。士堂とハリーとハーマイオニーは、この兄弟の中でパーシーはどうしてこんなに真面目なんだろうかと不思議に思わずにはいられなかった。兄弟を持たない彼らにとって、もしかしたら永遠にわからないかもしれない。
クリスマスは見事に雪が降っていた。おかげで男子は暖かい布団で惰眠をむさぼっていたわけだが、早朝に起こされる。着替えを済ませたハーマイオニーが、3人へのプレゼントを持って部屋にやってきたのだ。
「メリークリスマス、さあ起きて。」
「ハーマイオニー、君はここに来ちゃまずいんじゃないか。」
ロンが目をこすりながら起きる。ぼさぼさの髪のハリーや、口によだれの跡がついた士堂も目を覚ました。覚醒前の彼らにプレゼントを渡しながら、ハーマイオニーは言った。
「もう一時間も前に起きたわ。クサカゲロウを煎じ終えた薬と混ぜ終えたの。ポリジュース薬は完成したわ。」
「本当?」
「本当よ。だから仕掛けるなら今夜よ。」
とたん目がばっちり覚めた。さすがにハーマイオニーだとやんややんや言っていたら、窓からヘドウィグがスーと入ってくる。ホグワーツに来る前に下敷きにされるなど散々だった鳥は、ハリーに大層怒っていた。その度にさみしそうだったハリーは、喜色満面の笑みを浮かべた。ダードリー一家の爪楊枝一本のプレゼントを無視して、談話室に届けられたプレゼントを見に降りていく。
ハグリッドから糖蜜ヌガーと特製パンプキンジュースが全員に送られている。ロンは好きなクディッチチームの本を、ハーマイオニーは豪勢な羽ペンに士堂は高級インクを贈りあった。ウィーズリー夫人から手編みの新作セーターとブラムケーキが送られている。士堂の祖母からはそれぞれに贈り物があった。ハリーには高級眼鏡吹きと眼鏡ケース。ロンにはおしゃれなセーターピンとクディッチのプロマイド。そしてハーマイオニーには魔法の最新論文ともう一冊贈られている。
「魔術協会1992判基本学書? これロンドンの時計塔で使う教科書だ!」
「時計塔って何さ、士堂?」
「ロン、簡単にいや魔術師のホグワーツだよ。ここでは日夜魔術の研究と研鑽が行われている、そんな場所。」
「なんだって士堂のおばあさんはそんな物…」
ハーマイオニーは興奮したように教科書をめくりながら、理由を説明してくれた。
「私、魔術に興味がわいたからあなたの家に手紙を書いたの。そうしたらこの本が届いたのよ!これで研究が進むわ!」
「…ハーマイオニーは魔術を使えるんだっけ。」
「…いや、原則魔術回路がなきゃ使えないが、僕が使える形ならもしかしたら…」
「…というかハーマイオニーは魔法だけじゃ足りないのか?あんなに図書館に張り付いているのにまだ勉強するなんて正気じゃないよ。」
ロンの言葉に力なく頷く士堂とハリー。彼等のことなど気にも留めていないハーマイオニーは目を輝かせながら、本に目を通していた。
クリスマス・ディナーの御馳走はいつだって楽しいしおいしい。豪華絢爛な大広間は、綺麗に飾られたクリスマスツリーとヒイラギとヤドリギの小枝でいっぱいだ。魔法の暖かい雪が降りしきる中、丸鳥のオーブン焼きやローストビーフにビーフストロガノフ。ビーフステーキにチーズがかかったマッシュポテト。クリスマス・プディングにクリスマスケーキ、クッキーとともにカボチャやブドウなどのジュースが用意されている。
校長のクリスマス・キャロルをBGMにハグリッドがエッグノッグを飲み干していく。パーシーの「監督生」バッジが「劣等生」バッジに変えられていたから、グリフィンドールの席は大盛り上がりだ。気付かないパーシーがあれこれ訪ね歩くもんだから、皆腹を抱えて笑うしかない。御馳走を口いっぱいにほおばる間も、ポリジュース薬のことは頭の片隅から消えたことはなかった。
「おいおい、こんなのに引っかかるなんて。おったまげ~。」
ポリジュース薬の材料の最後の1つは、変身相手の体の一部だ。ハーマイオニーは、スリザリンのミリセントの髪の毛を手に入れている。決闘中につかんだ髪の毛から、抜きとっていた。ハリーとロンがマルフォイの腰巾着、クラップとゴイルの一部が必要だったのだ。
そこでカップケーキに眠り薬を混入し、こん睡させる作戦に出た。だが内容が人気のないところにカップケーキを浮かばせる、という前代未聞の計画だ。こんな作戦に引っかかるわけがないと思ったが、想像を超える薄ノロだったらしい。
今、目の前で口にケーキかすをつけて眠る巨漢2人を見て、ロンは心底あきれ返っていた。士堂が二人を抱えて物置に隠そうとするが、これがまた大変だった。鍛錬を怠ることはない彼でさえ、大粒の汗を光らせて運ぶのが精一杯だ。ハーマイオニーが浮遊呪文で少し浮かせてから、3人でやっとこさ隠した。クリスマス・プレゼントの小型の黒鍵で髪の毛を切っても、眠りから覚める様子がない。
ハリー達がクラップらの靴などを拐取しているころ、士堂は別のスリザリン生を探していた。透明マントで身を隠しながら、物色する。あらかじめ誰にするか決めるようには言われていたが、寮同士の関係もあってうまくいかない。息をひそめて対象を探していった。
「ねえ、本気?ほかにいたでしょう?」
「まあ、悪手なのはわかっている。でもこんなにいないとは思わなかったんだよ。」
ぼさぼさの茶色の毛を握った士堂を、ハーマイオニーが問い詰めている。彼が選んだのはパンジー・パーキンソン。女性だった。
眠ったような彼女をゴイルたちと隣の物置に詰めながら、ハーマイオニーは首を振る。
「どうする気?! 確かにポリジュース薬に男女差は関係ない。変身だけなら問題ないわ。でも服はどうする気なの。返答次第なら…」
「お、落ち着け落ち着け。要はさ、脱がさなきゃいいだろ? スリザリンの紋章入りのカーディガンだけ、脱がそうや。な?」
「脱がさなくていいのよ、ちょっと考えたら?」
グラップたちを担いだ時よりも汗をかきながら、何とか答えを絞り出す。納得していないようだが、今はそんなことを問い詰めている時間がないことを、彼女は理解していた。パンジーのカーディガンやローブの裏を見て、頬を膨らましながら去っていく。少し遅れて、トボトボと士堂は後を追った。
その後嘆きのマートルのいる3階のトイレで、最後の調整が行われていた。ブクブク音を立てて、黒い煙を吐く大鍋が小部屋で大忙しだった。遅れてきたハリー達も、異様な色の煙に顔を顰めながら入ってくる。
「はい、二人のローブ。士堂、あなたのも洗濯物置き場から調達しといたわ。」
「こいつはどうも。」
泥っとした煎じ薬をタンブラー・グラスに注ぎながら、ハーマイオニーは「最も強力な魔法薬」のページを読み込んでいた。タンブラー・グラスを鼻に近づけて顔を顰めたりしていると、ハーマイオニーは自分のグラスに髪を振り入れる。
すると沸騰音に近い音がしたと思ったら、煙とともに薬が黄色に変化していた。むかむかするような色を一目見たロンが、胸糞悪そうに舌を出す。梅干を口いっぱいに頬張った顔でハリー達も、自分の薬に髪を入れた。ゴイルは鼻くそカーキ、クラップが濁り暗褐色、パンジーはくすんだ灰色に変化する。
「じゃあ、一気に…」
「ちょっと待って。ここでいっぺんに飲んだら狭くなる。皆変身後は大柄な体型ばかりだよ。」
「よく気づいたな。」
ハリーがそういって止めると、ロンが戸を開けて同意した。それぞれ小部屋に移動すると、ハリーが呼び掛けてきた。
「いいかい?」
「「「いいよ。」」」
「1…2…3!」
合図とともに薬を呑み込む。色が一番ましだった士堂の薬は、匂いが一番強烈だった。腐りきったチーズと魚を、腐った牛乳で煮込んだような匂いがする。一気に呑み込んでから口に広がる発酵臭と腐敗臭に、こめかみがずきずき痛み出した。
体が変わる奇妙さは、筆舌に尽くしがたい。便器の上で体を九の字に曲げると、焼けるような熱さが全身を覆いつくす。皮膚が内側に巻き込まれ、全身が溶けていくようだ。思わずローブを噛みしめて声を出さないように、踏ん張ることしかできない。その間自分の体が細くなり、あるべきものがなくなっていく感覚がした。
息が乱れるまま、顔にかかる髪の毛を払った。その時初めて、髪の毛で視界が遮られたなと思う。普段は短髪と長髪の中間ぐらいだが、髪の毛のことなど考えたことがなかった。
急いでハーマイオニーが用意した服に着替えた。着方が分からないブラジャーなどはつけずに、見てくれだけを整えた感じだ。
ふらふらになりながら部屋を出ると、両サイドの醜い巨人が驚きの声を上げた。
「ひゃー、士堂かい? いやーすっかり女の子だよ、うらやましいな~」
「冗談じゃないよ、大事なもんがなくなっちまったんだぞ。もとに戻れなかったら大惨事さ。」
お互いに顔を触れ合い、鏡でのぞき込む。意地の悪さが見て取れるような、そんな顔つきにため息が漏れそうだ。
「急ごう、効果は一時間しかない。スリザリンの談話室の場所さえ分かればいいけど…」
「士堂、ハーマイオニーはまだかな? おい、行かなきゃ。」
ロンがハーマイオニーのいる部屋をどんどんたたくと、妙に甲高い声が返ってくる。
「私行けない―3人で言ってちょうだい―」
「ハーマイオニー、ミリセント・ブルストロードのブスさなんて知ってるよ。誰も君とは思わないって。」
「駄目―ほんとにだめ―いけないわ―早くいって、時間はないの。」
当惑したハリーは、まさしくゴイルだった。そんな悠長なことも言っていられないのも事実だから、急いでトイレを出る。ハーマイオニーのことを気にしながら、スリザリン生を探すが困ったことになる。
今は事件の影響で人がほとんどいない。故にハリー達は誰にもばれずに、ポリジュース薬を製造できた。だが頼るべきスリザリン生を、発見できなくなっていたのだ。彼等がたむろする場所に心当たりなどあるはずがないから、朝食会場に向かう時に彼らが出てくる地下に行くことにした。
石階段が下に続く中、ひんやりした空気が頬をかすめる。15分も歩いていると時間ばかっりが気になってきた。心配が頭を支配してきたころ、意外な人物に会う。
「そこにいるのは―クラッブかな。」
「やあ、こんなところで何の用かな。」
パーシー・ウィーズリーは目の前のクラッブが、弟のロンだとは思ってはいない。そっけなく対応するのは当然だが、ロンには癪に障ったようだ。
「暗い通路でうろうろしない方がいい、早く帰れ。」
「自分はどうなんだ。」
「僕は、監督生だ。恐れるものも、襲うものもない。」
スリザリン生とグリフィンドールの監督生の小競り合いは、兄弟げんかである。だがパーシーはそんなこと考えたこともないから、はたから見たら本当の小競り合いに見えるだろう。
背後から声をかけてきた少年は、だからこそ違和感を覚えることはなかった。
「お前たち、こんなところにいたか。」
マルフォイのきざった声がこだまする。
「二人とも、今まで大広間でバカ食いか? 面白いものがあるんだ…、パンジーか珍しいな。」
「ええ、あたしもお茶してたから。それで一緒に。」
「なら来いよ、君も見ればいいさ。」
マルフォイとパンジーは遠い関係ではなさそうだ。特に疑われもなく誘われた3人が、ばれないようにほっとする。そのころ、マルフォイはパーシーを威圧するかのように見ていた。
「ウィーズリー、何の用かなこんなところで。」
「監督生に敬意を払いたまえ! 君の態度はなんだ!」
カンカンのパーシーに、申し訳そうな顔をハリーが向ける。ロンがそっと腕をつねって注意すると、意識して嫌な顔をした。マルフォイが談話室まで先導する中、勝手に話をしてくる。
「ピーターだっけか。」
「パーシー。」
「何だっていい。この頃こそこそ嗅ぎまわっているが、フン。大方、スリザリンの継承者探しで駆けずり回っていたんだろう。」
マルフォイの言葉にドキドキしながら、3人はついていく。正直な話、通路の蝋燭が10本でも多かったら怪しまれたかもしれない。ぎりぎりの橋を渡る気分のまま、隠された石の扉についた。
「新しい合言葉は、えーと、純血。」
細長く天井の低い地下室は、粗削りの石造りだ。天井からぶらさがった緑のランプが、壮大な彫刻の施された暖炉を照らす。暖炉周りに彫刻入りの深椅子が並び、数人の生徒が団らんを楽しんでいた。
マルフォイが何かをとってくる間、3人はできるだけ寛いだように振舞っている。士堂は嫌に細い指で椅子をなぞりながら、あたりを観察していた。ホグワーツの内装は豪華だが、スリザリンのものはさらに高級感がある。雰囲気も厳かというか、形式ばっていた。ふと、スリザリンは貴族階級、お金持ちが多いことを思い出しているとマルフォイが戻ってきた。
彼が見せてきた新聞の切り抜きを見たとたん、ロンの顔が驚きで満ちる。無理な笑顔でハリーに渡すと、彼も沈んだ表情になった。グラッブたちと一緒に見るほどの中ではないと見て、士堂はじっと待っていた。震える手で渡された紙面に目を通す。
『―日刊預言者新聞― ミス・ペーメーの今日の政治コーナー
魔法省での尋問
マグル製品不正使用取締局局長、アーサー・ウィーズリーはマグルの自動車に魔法をかけた容疑で今日、金貨50ガリオンの罰金が言い渡された。
ホグワーツ魔法魔術学校理事の一人、ルシウス・マルフォイ氏はウィーズリー氏の即刻解雇を要求している。
マルフォイ氏はわが社の記者に対し、魔法省への信頼を損ねたと非難したうえで、ウィーズリー氏が制定に関与している【マグル保護法】の廃棄を要求すると発表した。
ウィーズリー氏のコメントは入手できなかったが、彼の妻から記者に対し、屋根裏お化けをけしかける等のコメントが取れた。』
「どうだ、面白いだろう?」
「え、ええ…」
全く笑えないが、無理して笑うほかない。士堂たちの必死の演技に気づかないか、気にしていないのかマルフォイは楽しそうだ。
「アーサーなんちゃらはマグルびいきなんだから、杖をへし折ったって文句はないさ。大体純血かどうかも怪しいね。」
クラッブの顔が怒りで歪む。士堂がわき腹を小突いても、我慢できないようだ。
マルフォイは医務室に行って「穢れた血」でも蹴っ飛ばせと笑う。
「それにしても、いまだ事件の報道がされていないことに驚くな。」
「多分ダンブルドアだ。マグルびいきの校長がいる限り、この学校は最悪だと父上はおっしゃっている。父上は相応しい人物を校長に任命し、あのおべんちゃらなクリービーとかいうやつを退学させるね。」
マルフォイはコリンそっくりの物まねをするが、悪意に満ちていて笑えない。彼はカメラの格好を解いて首をひねった。
「何だい二人とも。パンジーまで。」
慌てて口角を無理やり上げると、満足気に背もたれによりかかった。普段の彼らのどんくささに感謝しなくてはならない。
「聖ポッター。彼があのグレンジャーと付き合う愚か者でなければね。どうも知能が足りていないと見えるね、僕には。しかし皆は、あいつがスリザリンの後継者と思っている!」
ついに来た。3人が固唾をのんで見守る中、マルフォイは口惜しそうな表情をした。
「一体だれが継承者なのか僕が知っていたらなあ。」
「えっ。」
「手伝うのに。」
ロンの顎ががくっと下がったせいで、より愚鈍な見た目になった。士堂も口をあんぐり開けたまま、腑抜けた顔をさらしてしまう。ハリーがかばうように、質問をした。
「誰が影で糸を引いているんだろう…、君は知ってるんじゃ」
「いやない。ゴイル、君にはいったはずだ。」
「父上は前回の事件について、全く知らせてくれない。最も50年前だから父上の前の時代だが、すべてご存じだ。でも今は全てが伏せられているから、かえって僕が知りすぎると怪しまれるというんだ。一つ言っておられたのは、前回一人のマグルが死んだ。だからいつかは死ぬのさ、【穢れた血】がね。」
「グレンジャーだったら最高だな。」
ロンの両腕をばれないように、士堂とハリーがつかむ。今にも殴り掛からんとするロンの気持ちはわかるが、今は抑えなくてはならない。
「パンジー、なぜグラッブの腕なんか掴んでいるんだ。」
「え、まあ、グラッブの袖にゴミが…」
「フーン、君がグラッブをね…」
何やらマルフォイの中のパンジーに、新たな情報が追加された気がする。だが、そんなことは士堂には関係なかった。
「前の事件の首謀者はどうなったんだっけ?」
「ああ、それか。誰かは知らないが、追放されたと聞いた。アズカバンだろうね。」
「アズカバン?」
魔法界に疎いハリーがいつものように聞き返してしまう。マルフォイがあきれたようにゴイル―ハリーを見た。
「ゴイル、お前の薄のろ加減だと後ろ向きに歩き出しかねないな。魔法使いの牢獄だよ。」
「なんにせよ、父上は後継者の好きにさせておけばいいといっておられる。粛清が必要なのさ、この学校には。でも父上は家のことで手一杯だから、関わることはよせって。僕の館に魔法省の立ち入り検査が入っただろう?」
マルフォイの館自慢を聴いていた時、問題が発生する。ロン雄髪の毛が赤くなってきたのだ。ハリーが恐怖の顔でロンを見ると、ロンも士堂を恐怖の顔で見ている。一時間が経過したのだ。急激な変化で形を変えたのだから、急激に戻るのが通りだった。
「胃薬だ、腹がちょっと、」
「わ、わたし課題のことでちょっと…」
3人はあっけに捕らわれたマルフォイに、目もくれずに走る。長い通路の途中で完全に元に戻ったため、走りづらい。何せぶかぶかの靴やローブ、スカートまで履いているのだから。士堂が隠し持っていた透明マントで姿を隠しても、服が無駄にこすれる音は隠せない。なんとかトイレに逃げ込むと、一同疲れはてていた。
「まあ、時間の無駄にはならなかったな。」
ロンがゼイゼイ言いながら、トイレの鍵を閉める。
「襲う犯人はわからなかったけど、明日パパに手紙書いて応接間の床下を調べるよう言っておく。」
普段着に着替えてからハーマイオニーを呼ぶことにした。なぜかハーマイオニーは、一歩も外に出ていないようだ。小部屋のドアをたたきながらロンが呼び出すも、中からすすり泣く声が聞こえてくる。
「ハーマイオニー、出てこいよ。僕たち話すことが山ほどあるんだ…」
「帰って!」
「もう変身は終わったんじゃないのか?」
頑なに開けることを拒むハーマイオニーに、疑問がわいてきた。すると嘆きのマートルがするりと現れる。楽しくてたまらないといった感じの彼女は、けたけた笑っている。
「おおおお、見てのお楽しみよ。」
「ひどいから!」
観念したかのように、ハーマイオニーが出てきた。頭までローブを被った彼女を見て、さらにはてなマークが浮かぶ。ロンがゆっくりローブを外すと、背後の洗面台まで飛び下がった。
顔が黒毛で覆われ、黄色の目に長い三角耳。顔を覆って泣き喚く彼女を、士堂が背中をさすりつつ慰める。
「あ、れね、猫の毛だった!」
「み、ミリセントは、ね、猫を、飼っていたのよ! そうに、ちがい、ないわ!」
「そ、それに、この薬は、動物の毛を使っちゃダメなの!」
狼狽するハリー達の周りを、マートルは嬉しそうに漂っている。彼等は、何とかハーマイオニーを励まそうとしていた。
「大丈夫だ、ハーマイオニー。」
「そうだよ、医務室に行こう。マダム・ポンフリーは追及する人じゃないし。」
「あんた、ひどーくからかわれるわよ。皆があなたのしっぽ、なんていうのかしらー!」
ポリジュース薬まで来ました。こうして読んでいると、マルフォイが結構くずなんだなと思います。
手甲作用については、公式でも詳しい解説がなかったので想像です。
おじいちゃんがまねした埋葬機関の人物は、一番埋葬機関の中で有名な人です。