ハーマイオニーはベッドに釘付けだ。生徒たちは新たな犠牲者の誕生と思い、恐怖した。マダム・ポンフリーが気を利かせて、彼女をレースで隠したことが原因だった。しかしロックハートからの、自己紹介の方が長い見舞いカードをもらって、満足そうでもある。
彼女を見舞ってからやれスネイプの宿題が多い、ハーマイオニーに聞いておくんだったと愚痴りあう。そんなことを言い合っていると、フィルチの金切り声が聞こえてくる。なんだと思って野次馬しに行くと、ぶつくさ文句を垂れる老人がいた。
「…また余計な仕事が増えおった。一晩中モップ掛けをして終わらない? これでも働き足りないというなら、もうたくさんだ。ダンブルドアのところに…」
足音が消え、遠くでドアの閉まる音がした。あたりを見回していってみると、水浸しだ。ミセス・ノリスの事件よりひどい量の水が流れている。その原因のトイレから、嘆きのマートルがなく声が聞こえてきた。
トイレは廊下以上にひどい。あまりに溢れた水のせいで、蝋燭まで消えている。鼓膜が破れるのではと思うほどの大声量で、マートルは泣いていた。裾を上げながらいつもの小部屋に近づくと、ごぼごぼと声が聞こえる。
「どうしたの、マートル。」
「誰なの、また物を投げつけに来たのね?」
「何だって? 僕は物なんか投げやしないよ。」
マートルが姿を見せると、もっと水が溢れる。士堂とロンが裾をさらに上げようと躍起になっている間、ハリーはマートルと話していた。
「本をぶつけられたのかい? でも本は通り抜けるんじゃないの?」
「さあ、マートル当てゲーム! 大丈夫、あいつは何も感じない! 腹なら10点、頭なら50点‼ 私は動く的なんかじゃないわ!」
「そんなこと思っていないよ。投げたりもしない。その本はどこにある?」
「知らない… U字溝のところに座って死について考えていたら、頭に急に…」
マートルが睨みながら手洗い台の下を指さす。3人がゆっくり近寄ってみると、確かに本があった。それはボロボロの黒い表紙の、小さい本だ。本というよりは手帳に近いそれを、ハリーがとろうとするとロンが制する。
「気は確かか。危ないかもしれないのに!」
「危険? ただの本だよ。」
「ハリー、油断しちゃだめだ。パパから言われたんだけど、危険な本は山ほどあるんだ。読んだら目が燃える、ばからしい詩を歌い続ける、読むのを止められない本― とにかく一杯あってそれから―」
「もういいよ、わかった。」
ハリーはロンの制止を無視して、本をとってしまう。士堂があっと声を漏らすが、気にしないとばかりに中身に目を通していた。本には一文字も書いておらず、真っ白な紙しかない。最初のページに小さく「T・Ⅿ・リドル」と書いてあること以外、何もなかった。
「この名前知ってる。T・Ⅿ・リドル。50年前、学校から【特別功労賞】をもらった人だ。」
「へえ~、もしかしたら何か隠れた魔力があるかもしれないわ。」
やっとこさ元に戻ったハーマイオニーが、トムの日記を詳細に調べている。だがロンは、いまだにこの日記に興味を抱くこと自体が、嫌なようだ。
「魔力を隠し通すなら、完璧すぎるね。恥ずかしがり屋なんじゃないか。ハリー、さっさと捨てちまった方がいいよ。」
「僕はなぜこれが捨てられたのか、それが知りたいんだ。【ホグワーツ特別功労賞】をもらった理由も知りたいしね。」
「そんなの決まってるさ。O・W・Ⅼ試験で30科目習得とか、大イカに捕まった先生の救出とかな。案外マートルを殺したことが表彰されたり。」
ハリーはじっと考え事をしているハーマイオニーは、自分と同じ考えだと思っていた。
ハリーがそれとなく合図を送ると、彼女は根拠を話始める。
「いい? 秘密の部屋は50年前に開けられたの。そうだったわよね。」
「ああ、マルフォイの野郎が言ってたもんな。それが?」
「そしてこの日記は50年前のものよ。」
「うん。」
見かねた士堂が助け舟を出す。手に持っていた本を投げ捨て、顎を黒の本に向けた。
「秘密の部屋を開けた人も50年前に追放された。リドルが表彰された。つまり考えられるのは、リドルがスリザリンの継承者を捕まえたってことだ。」
「そう。少なくとも当時の状況はわかるわ。部屋の開け方から怪物まで、継承者につながる情報を持っているかもしれないの。」
「そいつはすんばらしい。だがな、その日記には何にも書かれちゃいないんだぜ。」
ロンが白紙のページを指さす。しかしハーマイオニーは、鞄から杖を取り出した。軽く杖で3回、日記をたたく。
『アパレシウム 現れよ』
何も起きない。ハーマイオニーは予測済みだといわんばかりに、鞄から真っ赤な消しゴムのようなものを取り出した。
「【現れ消しゴム】よ。ダイアゴン横丁で面白そうだから、買っていたのよ。」
ゴシゴシこすっても、うんともすんとも言わない。士堂も策はないという顔をするから、ロンは言わんこっちゃないと万歳をした。
「だから言ってるじゃないか。何も見つかりはしないよ。」
マンドレイクの生育が順調だという報告と、リドルが主席名簿に名を連ねる優等生だったことは何よりの朗報である。事件の解決策と、正体不明の青年の輪郭を捉えたからだ。
そんなハッピーな気分を吹き飛ばす事件が起きた。ロックハートが生徒を元気づけようと、バレンタイン・イベントを催したからだ。それはクリスマスの時とは違う、けばけばしいセンスのない飾り付けからも明らかだ。ギフト・カードを小人に配らせるという、愚行まで決行してみせる。
おかげでハリーはジニーからの詩を、公衆の面々の前で熱唱させられた。おまけにからかったマルフォイから日記を取り返すために、武装解除呪文まで使ったのだ。士堂には何も送られなかったが、これほど嬉しかったことはない。
その夜、眠りにつこうと士堂は寝室に入ろうとしていた。双子に散々からかわれたからか、ハリーは姿を談話室には見せなかった。ロンとともに、ハーマイオニーが持ってきた資料に目を通していても進展などなかった。体がだるいと感じる疲れを解消すべく、ベッドに入ろうとしていた。
「何かな、見落としている気がするんだがなあ。」
「僕もそんな気がするんだ。でもさ、士堂やハーマイオニーがピンとこないんじゃね。」
ガチャっと寝室を開けると、息を弾ませたハリーがこっちを見ている。パジャマに汗がぐっしょり滲んでいて、何かあったことは間違いはなかった。
「士堂、ロン分かったんだ。ハグリッドだよ。ハグリッドが50年前、秘密の部屋の扉を開けたんだ!」
「リドルが犯人を勘違いしたんじゃないかしら。怪物は別だったんじゃ…」
「ホグワーツにどんだけ怪物がいることになる?」
ハリーが夜に語った内容はこうだ。夢の中で50年前のホグワーツを覗くと、ハグリッドが毛むくじゃらの怪物を飼っていたことが分かった。その怪物を追い払ったのがリドルだったのだ。
ハグリッドの大きく危険な動物を愛する癖は、嫌というほど知っている。なにせ去年は、めったに見れないドラゴンの子供と三頭犬を拝めたのだ。彼が追放されたのは知っていたことだったが、まさか原因がこれとは。
「でもハグリッドが追放された後、被害者は出ていないんだと思う。じゃなきゃ、リドルが表彰されるはずがないもの。」
ハグリッドと一番仲のいいハリーは、がっくり肩を落として項垂れていた。なんだか惨めな気持ちになってきて、視界がぼやけてくる。だがロンからすれば別の見方もあった。
「リドルってパーシーみたいだよ。ハグリッドをわざわざ密告しろって、頼んだのは誰だ?」
「でもロン、人が死んだんだ。黙る方がおかしいぜ。」
「それにホグワーツが閉鎖されたら、リドルは孤児院に戻らなきゃいけなかった。リドルはホグワーツに残りたかったんだ、僕わかる気がする…」
ダードリー一家のもとで育ったハリーの意見に、皆言葉を出せない。重苦しい沈黙がしばらく続き、結局なし崩し的に解散となった。ハグリッドに聞きたいのはやまやまだが、追放の原因をおいそれと話すはずがない。誰かが襲われたら、それとなく聞くことになった。
そう決めてから暫くは何も起きなかった。ハリーのみが聞こえる、異様な声も聞かない。被害者が出なかったことで、徐々にだがホグワーツに平穏が訪れた。
異変が起きたのはクディッチの試合前日の夕方のことだ。士堂とロンは、シェーマスやデイーンと一緒に寝室に戻る途中だった。
「明日のさ、試合でのチップ。士堂、ちょっと弱気じゃあなかったかい?」
「そっちがおかしいんだ、4ガリオンは正気じゃないよシェーマス。」
「いうなよ士堂、シェーマスってば女の子の前で言いきっちゃったんだ。明日のウィーズリーの賭けで当てて見せるって。」
「デイーン、君も3ガリオンに5シックルだから大概だよ。」
バカ話で盛り上がりながら寝室に向かうと、一同言葉を失った。ハリーの衣服からなにやら、そこら中にぶちまけられていたのだ。小机の引き出しの中身からトランク、挙句にベッドの天蓋やシーツまで切り裂かれている。ハリーが必死に整理するのを、青白い顔でネビルが手伝っている。
「ぼ、し、知らなかったんだよ、本当だしんじて…」
「誰も疑わないよネビル。君がやるはずがない。」
「そうだ、ネビル。」
ロンは床に落ちているローブを、士堂に投げてきた。全部のポケットが裏返されている。
「何かを探していたんだ。ハリー、なくなっているのはないか?」
「こんなに散らかってちゃ、わからないよ。」
散らばった本をトランクに投げ入れると、やっと元の状態に戻った。ハリーが無くし物がないかチェックしていると、声を上げる。
「リドルの日記がない。」
「「えっー!」」
慌てて士堂とロンも探すが、ない。3人は急いでグリフィンドールの談話室に駆けていった。
「魔術協会1992版基本学書」を読んでいたハーマイオニーに、事情を説明する。
「そんな―だってここはグリフィンドールの塔よ。つまりグリフィンドール生以外は入ることすらできないわ。」
「問題はそこだな。あの日記を欲しがる生徒がグリフィンドールにいることになる。」
士堂の言葉は、ハリー達ですら想像していないことだった。この事件は、単なるスリザリンの継承者を探せばいい話ではなくなった。
日記について知っているのは4人だけだ。心に暗雲が立ち込めていようとも、クディッチ当日は変わらない。ハリーが憂鬱そうにパンをかじっていると、ウッドが選手のさらに山盛りのスクランブルエッグを持ってきた。
「ハリー、緊張しているな。朝食をしっかり食べれば心配も吹き飛ぶぞ!」
ウッドは知らない。至極当たり前だから、ハリーは薄ら笑いを浮かべるだけだ。この長机を囲んでいる生徒の中に、日記を狙う人物がいる。つまりは一連の騒動の黒幕なのだ。
ハーマイオニーは先生に盗難届を出すべきだと助言してくれたが、ハリーは断った。話せば異質な日記やハグリッドの過去に触れなくてはいけない。それは避けたかった。
「ハリー、犯人は僕とロンが探す。ハーマイオニーは怪物について調べてくれるし、今はクディッチに集中したほうがいいよ。」
「士堂、そうは言ってもさ。」
「でも今のままじゃ勝てないよ。僕たちだってそこそこやれる。心配するな。」
士堂とロンが励ましてくれて、幾分か心がましになった。山盛りのスクランブルエッグにケチャップをかけて、胃袋に流し込む。ウッドの言う通り、腹に何かあると不安は消えていった。
大広間から会場に向かおうと4人で歩く。ハリーが箒を取りに戻ろうとしたとき、あの声が聞こえてきた。
「今度は殺す…引き裂いて…八つ裂きにして…」
「またあの声だ!」
大理石の階段場で大声で叫ぶ。皆はハリーのそばから飛びのいてしまった。だが、ハリーの顔を見てなにがあったかはすぐにわかる。
「まただ、聞こえたよね?!」
「…何も。」
「人の声は聞こえたけど。」
「そんな、はっきりといったよ。殺すって!!」
その時ハーマイオニーがハッと額に手をやった。何か見落としがあったことに気付いたかのように。
「そうだわ。
見たこともない速さでハーマイオニーは駆けていった。ハーマイオニーは何を探すのか気になるが、今は声が先決だ。ハリーが声のありかを探そうとあたりを見渡す。
「ハリー、君は闘技場に行った方がいい。さっき言ったろう。僕とロンで日記と一緒に探すよ。」
「でも、君たちに声は聞こえていない!」
「まあ心配だよ。でもこれで意味がクディッチで負けるのも嫌だからさ。」
士堂はハリーの肩に手を置いてから、ロンに目で促した。ハリーに軽くハグしてから、ロンが連れ立っていく。人混みがまし、にぎやかになる大広間でハリーは2人の背中を見ていた。
すぐに決心した面持ちで、ニンバス2000を取りに行く。駆け足で校庭を横切って更衣室に入った。紅のユニフォームに袖を通すと、次第に気分が高揚してくる。あの声がずっと頭の片隅に残っているが、友人を信じるしかないのだ。
万雷の拍手の中コートに入ると、選手各々が準備に入る。ハリーも箒にまたがって、スニッチを掴む姿をイメージしていた。ハッフルパフがスクラムを解除し、相対する。いよいよマダム・フーチが競技用ボールを取り出して笛に手を置いた時。
マクゴナガル先生が巨大な紫色のメガホンを持って、グラウンドの向こうからやってきた。行進歩調で半ば走るような先生の、虚ろな顔を見た瞬間ハリーの心が固まる。まさかという思いが頭をよぎる中、拡大された声がスタジアムに響き渡った。
「この試合は中止です。」
観客席から怒号やヤジが飛び交う。応援用のミニメガホンや旗がコートに投げつけられる中、ウッドが箒にまたがりながら駆け寄ってきた。
「先生、なぜです! 是が是非でも試合を…グリフィンドールの優勝はどうなります!」
「全生徒は各寮の談話室へ! 各寮監から詳しい説明があります。皆さん早急に! 監督生と上級生は誘導をしなさい!」
聞く耳の持たないマクゴナガル先生は、ハリーに合図してついてくるように言った。なぜかという思いと、頭に浮かぶ最悪のシナリオがむくむくと頭を出し始めた。城に向かう途中で士堂とロンが、不思議そうな顔をしていた。
「ああ、士堂にウィーズリー。ええ、あなた方も一緒の方がいいでしょう。私についてきなさい。」
ハリーの両側で肩を並べながら、3人は小声で会話をする。
「試合はどうした?」
「中止。マクゴナガル先生が急にね。そっちは?」
「全然。君以外に怪しい声どころか、音すら聞いていない。幽霊たちにそれとなく聞いても一緒だった。」
肩透かしの報告に肩を落とす暇もないまま、大理石の階段を上がった。誰かの部屋に連れていかれるわけでもなさそうだったが、医務室前に来た時だった。
「少しショックを受けるかもしれません。少しならばいいですが、いや違いますね。」
驚くほど優しく、少し悲し気にマクゴナガル先生が言った。
「また襲撃です。そしてまた2人、
ハリーの頭によぎったシナリオは、当たるかもしれない。まさかと思いながら、中に入る。士堂とロンもハリーと同じ予感がしているようだ。ゆっくり、一歩一歩進むとマダム・ポンフリーが女学生の上にかがみこんでいる。スリザリンの談話室に行く途中見かけた学生だ、とハリーが思い出した瞬間だった。
「ハーマイオニー!!」
ロンのうめき声が上がる。士堂の唇からさっと色が引き、ハリーの箒を持つ手が震えだした。
ハーマイオニーは身動きもせず、大きく見開いた目はガラス玉のようだ。石化した彼女を見ながら、マクゴナガル先生が状況を説明する。
「二人は図書館の近くで発見されました。そして近くにこれが。」
小さな丸鏡を手に、3人に見せてきた。力なく首を横に振ると、ため息を漏らす。
「あなたたちでも分からなくては、どうしようもありません。ではグリフィンドール塔には、皆で帰りましょう。説明しなくてはなりませんから。」
かつて聞いたことのない、重苦しい口調だった。
「全生徒は夕方6時に寮に絶対帰宅、外出禁止です。教室へは、先生が必ず一人引率者として着きます。トイレに行く時も、先生と一緒に行くため集団で行くことになります。クディッチの練習と試合、一切のクラブ活動は当面休止です。」
先生は羊皮紙を重苦しい口調で読み上げていた。超満員の談話室に、羊皮紙を巻く音と暖炉の火の音だけが聞こえる。
「いうまでもありませんが、これほどの落胆を覚えたことはありません。最悪ホグワーツは閉鎖されるでしょう。犯人の心当たりのある生徒は些細なことでも、申し出るよう強く望みます。」
少しぎこちない足取りでマクゴナガル先生が去ると、一気にボルテージが上がった。
ウィーズリー兄弟の友人、リージョーダンが熱弁する。
「どうして先生は動かない? 今までやられたのはスリザリン以外だ。スリザリンの継承者に怪物、被害者。追い出すのはスリザリン生じゃないか!」
大拍手が起こる中、パーシーが腑抜けた顔で座り込んでいた。青い顔で何も考えられないといった感じだ。ジョージがハーマイオニーと一緒にいた生徒が、レイブンクローの監督生だったことが原因だと教えてくれる。3人は肩を寄せ合い、ハグリッドの件について話し合った。
「どうする? ハグリッドは疑われるかな。」
「そりゃな。2人もやられたら前の被疑者は怪しまれる。」
「うん、リドルは孤児院に戻りたくなかったんだ。僕犯人が分かったら、すぐ密告したいもの。」
「でもハグリッドがやったと思う?」
ロンの疑問にハリーは首を振った。
「ハグリッドがやったとは思わない。でも50年前何があったか、それは知らなきゃいけないと思う。だからハグリッドに会おう。」
「でも監視はきついぞ。先生たちが夜中廊下に張り付くみたいだ。」
士堂の目を見ながら、ハリーは言った。
「透明マントを使う。なんとしても、ハグリッドに話を聞かなきゃ。」
ネビルたちの秘密の部屋討論が終わり、寝静まったころ。ローブを来た3人は、透明マントで姿を消した。夜中に抜け出したことは何回もあるが、こんなに人気がある城は初めてだ。先生や幽霊が、脱獄者を探すかのようにくまなく目を光らせている。音を消せない透明マントだから、必要以上に音を忍ばせなくてはいけない。抜き足差し足で正面玄関の菓子のとびらをくぐった時、3人はほっとしたものだ。そこからハグリッドの小屋までは全速力だったが、マントはぎりぎりまで脱がなかった。
ハグリッドの小屋の扉をたたく。ハグリッドは戸を開けるや否や、石弓を突き立ててきた。
後ろでボアハウンド犬のファングが威嚇している。ハリー達と分かると、拍子抜けした顔をしていた。
「何じゃお前さんら。一体何しちょる。」
「用があってね、ハグリッドは何でそれを?」
「何でもねえ、何でも…」
ハグリッドはあからさまに動揺していた。3人にケーキとお茶を出そうとしてくれているのだが、満足にやかんに水を入れられない。そのはずみで暖炉の火をけしかけるは皿を割るわ、ティーバッグを入れ忘れるわ散々だ。
3人にケーキを出した後も、ちらちら外を見てはピクっと体を揺らしている。
「ハグリッド、大丈夫? ハーマイオニーのことは聞いた?」
「ああ、聞いた、確かに。」
ハグリッドの声の調子が落ちたとき、戸を強くたたく音がした。はっとなったハグリッドが、姿を隠すようジェスチャーする。とっさに3人は、部屋の隅にある木材の山の陰に隠れた。
入ってきたのは深刻そうな顔のダンブルドア校長と、悩み事を抱えた顔のちんけな男だ。細縞のスーツに真っ赤なネクタイ、黒長のマントを羽織った彼を見たロンがささやいた。
「魔法省大臣コーネリウス・ファッジだ! パパの仕事写真に写っていたよ。」
士堂は黒鍵を展開すると、椅子の近くにあった透明マントを手繰り寄せる。幸いなことに、大人たちは顔以外に視線を配らなかった。
「ハグリッド、残念ながら状況は良くない。」
「俺はやってない! 先生、ダンブルドア先生様。俺は、俺は…」
「わかっておる、ハグリッド。コーネリウス、これだけは確かじゃ。ハグリッドをわしは全面的に信頼し、それに彼もまた応えた。」
「しかしな、アルバス。」
コーネリウスは言いにくそうに、視線を床に落とした。そのタイミングで何とか透明マントを手繰り寄せ終えて、3人は姿を完全に隠した。
「士堂、傷はついていないよね?」
「大丈夫だ、できるだけ優しく扱ったつもりさ。」
少し安心する子供たちとは裏腹に、大人達の会話は一向に良くならなかった。
「…ハグリッド、わかってくれ。君の無実が晴れれば、すぐに釈放する。これは約束…」
「アズカバンにいれるのが? 気は確かか?」
その時戸を強くたたく人が来た。ダンブルドアが戸を開けたとき、ハリーは思い切り横腹をつかれる羽目になった。ルシウス・マルフォイが大股で小屋に入り、冷たい微笑を浮かべた。
ファングがうなると、ハグリッドも嫌な顔をする。
「もう来ていたか、ファッジ。よろしい。」
「お前が何の用だ、さっさと出ていけ!」
「汚犬が吠えておる。言われずともこんな物置小屋からは、すぐにおさらばするさ。」
狭い丸太小屋を一瞥してから、手に持った長い羊皮紙の巻紙の止め具を外す。止め具についた小さな紋章を見たダンブルドアの目が、火を放つかのように輝いた。
「ルシウス、君の要件とは何かね。」
「全く嘆かわしい、実にね。アルバス・ダンブルドア校長。先日我らホグワーツ理事会は正式に、校長の役職を停止することにした。ここに12人の署名が揃っている。
理由としては、今回の事件に対する後手後手の対応だ。生徒が何人被害を被ったのか。今日もまた二人、何とも嘆かわしい… このままではホグワーツからマグル出身者が一人もいなくなる、嘆かわしい未来が見えるのですよ。」
「おお、聞いていないぞルシウス!」
コーネリウスの子には驚愕の二文字が浮かんでいる。士堂は大臣が、ホグワーツ理事の決定を知らないことに驚愕した。
「ダンブルドアが停職になったら… 誰が解決できる?一体全体…」
「校長の任命権と罷免権は理事会の特権。忘れたわけではありませんな。」
「いや、わかっておる。だが、だが、アルバスが無理なのにだが…」
「優秀な教師はホグワーツには、大変多い。誰かが、このお痛ましい事件を解決してくれましょう…」
我慢できないといった感じで、ハグリッドが立ち上がる。ぼさぼさの髪が天井をこするが、お構いなしだ。
「聞いておれん! ええ、ルシウス。何人だ、何人の理事を脅した。ダンブルドアを超える先生がいるものかい!!」
「おうおう、吠えるな吠えるな。そう荒っぽいとアズカバンでは苦労するぞ。私と違い、あそこの看守は気が短いからな。忠告しておこう。」
「ダンブルドアを辞めさせるなら、やってみろ! マグル生まれは本当に死んじまうぞ!」
「ハグリッド、もういい。」
ハグリッドにつられて荒ぶるファングをなだめながら、ダンブルドアはルシウスに言った。
「理事の決定に逆らう気は毛頭ない。わしは校長を退こうぞ。」
「校長!」
「しかしだ。」
ダンブルドアは悠然と、だが確かな口調で言葉を紡いだ。それはまるで、オペラの独白の場を見ているようだ。
「覚えておくがよい。わしが本当にこの学校を離れるのは、
ダンブルドアは3人を一瞬見た気がした。一瞬だったが、見れれた3人は確かにそう思った。ルシウスが白々しく別れの挨拶をしてから、小屋の戸を開けた。ダンブルドアが去り、ファッジがハグリッドを先に送り出そうとする。
「あー、そうだな。もし誰かが何か知りたきゃ蜘蛛を追え。そうすりゃ知りたいことの、糸口はわからあな。あとファングに餌やってくれたら助かるがなあア。」
全員が去ってから、ロンがかすれ声で言った。
「大変だ、学校は閉鎖だ。ダンブルドアがいないホグワーツなんて、無法も同然だ。」
学校は静かだ。誰もダンブルドアが去るなんて、考えてもいなかった。笑い声も聞こえなくなり、ハーマイオニーの面会すら危ないといわれるぐらいだ。学校周りの自然が夏の訪れを告げているのに、どんよりとした空気が漂っていた。ハリー達も手掛かりとなる蜘蛛を探すのだが、一匹も見つけられなかった。
そんな学校の中で、溌溂と活動する若者がいた。マルフォイは水を得た魚のように、生き生きとしている。皆理由をわからずにいたが、魔法薬学の教室で理解できた。
「父上はやってのけたよ。常々言っておられた、ダンブルドアが最悪の校長だって話さ。次の校長はしっかりとした人が選ばれる。秘密の部屋を閉ざそうなんて考えない、優れた指導者がね。スネイプ先生は、校長職に立候補されますか。」
「これこれ、マルフォイ。ダンブルドア先生はあくまでも停職だ。いずれ、復職されると吾輩は信じておる。」
「それはどうでしょう。先生が立候補すれば、父は指示投票なさいますよ。僕が父に、スネイプ先生は最高の先生だと言ったら賛同します…」
「それはありがたいな。お世辞として聞いておこう。」
薄ら笑いを浮かべながら繰り広げられる会話は、スリザリンには心地いいようだ。おかげでグリフィンドール生たちが、一斉に吐きマネや舌出しをしたことに気づいていない。
マルフォイは声高らかに、おしゃべりを続けていた。
「しかしまだ【穢れた血】が荷物を纏めないのに、驚くね。金貨5ガリオン賭けてもいい、次は死ぬ。まあグレンジャーじゃなかったのは残念だ。」
彼は幸運だった。いったと同時に終業のベルが鳴ったのだ。生徒が教科書を抱えて出口に向かう中、ロンを抑えるのにハリーと士堂は必死だった。
「やらせてくれ、杖がなくったってやれる、頼む…」
「駄目だロン、抑えろ。校長がいない今は耐えなきゃ…」
腕を振り払ってでも殴り掛かろうとするロンは、結局教室間の移動でも手を掴まれたままだ。次の薬草学の授業では、ハリーを疑っていたアーニーが謝ってきた。ハリーが犯人なら、ハーマイオニーを石化するはずがないからだといっている。3人は彼女の犠牲で疑いが晴れたことが、なんとも言えなかった。
そんな気落ちした気分のハリーが、唐突に声を上げた。急いでロンと士堂に声をかけると、蜘蛛が数匹這っている。蜘蛛は禁じられた森に、姿を消していったようだ。
「もう一度、透明マントを使おう。ファングも一緒だ。」
「まあ、そりゃあ、うん。」
「ロン、僕たち3人だ。心配しなくてもいい。」
その夜、ハリー達はまた抜け出した。ロンは最後まで嫌がっていたが、ハーマイオニーがいない椅子を見ると決心した。ロックハートが場違いな陽気さを見せてくれたことも、後押ししてくれた。彼はハグリッドを捕まえた以上、安心だといったのだ。逮捕について詳しいといったとき、ロンが反論しようとするからひやひやした。あの時、公には生徒がいたはずがないのだから。
双子の爆発ゲームにつきあったせいで、12時を回るまで動けなかった。ハグリッドを訪ねたときのように慎重に歩くが、3人だとなかなか困難なのだ。滴る汗すら鬱陶しくなる。
校庭を月明かりを頼りに歩く間も、ロンはぶつくさ何か言っている。よほど嫌だったのかと、士堂はトラウマに恐怖してしまう。
ファングに糖蜜ヌガーを食べさせて鳴き声を抑えてから、いよいよ散策だ。ぬっちゃぬっちゃと音を立てながら歩くファングのリードは、ハリーが持つ。
『『ルーモス 光よ』』
杖の先に、小さな灯がともる。やっと蜘蛛の動きが終えるぐらいの光量が、二つだけだ。淡い光を蜘蛛を頼りに30分ほど進む。小枝が折れる音や落ち葉がかすれる音だけが響き、暗闇の深さはぐっと増した。
暫く歩くと蜘蛛が脇にそれた。ハグリッドから、脇にそれるなと言われていたのを思い出す。
もう助けてくれる人はいないんだと、ハリーは不安になった。暗闇の中で、友人に判断を仰ぐことにする。
「どうする?」
「行くしかない、ここまで来たら。」
「僕も賛成。怖いけど。」
こわごわ森を歩いて30分は経っただろうか。道は道でなくなり、足のローブやズボンには無数の穴が開いていく。そんな道を照らしながら歩いていると、ファングが大声で吠え始めた。ロンがハリーと士堂のローブを掴みながら、あたりを見渡す。耳を澄ませると、遠くの方から声だが折れる音が聞こえてきた。
「もうだめだ、おしまいだあ!」
「ロン声が大きい!」
「大きいだって? ファングの方が大きいよお!」
小枝が折れる音が大きくなり、ゴロゴロと奇妙な音が聞こえた瞬間、静寂が訪れた。しばらくあたりを照らしていると、右の方から強烈な光が目に入ってきた。
「うわあ?!」
「何?!」
ファングが今まで聞いたことのない声で喚く中、ロンの顔が変わった。なぜか彼は、嬉しそうだった。
「ハリー、士堂見て! 僕たちの車だ!」
「本当だ…」
「嘘だろ…」
車は少し開けた場所にあった。誰も載っておらず、泥や傷まみれの胴体がそこにある。車はロンにヘッドライトをこすりつけるように当てているが、まるでファングがじゃれているみたいだ。
ロンによると、野生化しているらしい。自動運転という魔法が一種の自我として、機能しているようだった。蜘蛛じゃなく嬉しそうなロンをしり目に、士堂は蜘蛛を探していた。
「蜘蛛は… つ、伏せろ!」
3人の頭上でカシャカシャと音がした。士堂の声に反応できなかった2人が天を見上げると、胴体を掴まれた。何か黒くてもじゃもじゃしたものが掴んでいる。するとあっという間に体は宙を舞い、森を駆け巡った。逆さまな状態で、ハリーは何が自分を掴んでいるかを理解した。
蜘蛛だ。夢で見た蜘蛛の一回り大きいサイズが、3人を2本の脚で掴んでいる。耳元で風が横切る音と、一対の鋏がぶつかる音が聞こえてくる。あまりの驚きに叫びたくても叫べないまま、連れられていた。そして窪地に投げ飛ばされると、そこは大量の蜘蛛がいた。星明りの下で、もっと恐ろしい蜘蛛を見る。馬車馬かと思うほどの大きさで、ハリー達を連れてきた蜘蛛の仲間だろう。仲間の帰還に興奮しているのか、鋏をガシャンガシャンとぶつけている。
ロンは半ば気絶しかけている。ハリーやファングも声を上げられない中、士堂はロンの肩を抱きながら睨みつけていた。ハリー達を連れてきた蜘蛛が何かしゃべっている。聞くと、人語であることが分かった。
靄のような蜘蛛の巣ドームから、小型象ほどもある蜘蛛がゆらゆらと現れた。「アラゴグ」なる蜘蛛の体毛には白い毛が混じり、目も白濁している。
「盲目…か。」
士堂がつぶやいた時、あら互具が鋏を鳴らしながら話始めた。その声は他の蜘蛛と違い、どこかかすれた音質だ。
「何用だ。眠っておったものを。」
「人間です。」
「ハグリッドか?」
「知らない人間です。」
「では殺せ。」
「ちょっと待って!」
ハリーが震える声で叫んだ。足は見るからに震えており、目は虚ろだ。あざ笑うかのように蜘蛛が鋏を鳴らすと、空気が波打つようだ。アラゴグはハリーに近づいてから、歩みを止めた。
「ハグリッドはこの窪地に人をよこしたことは、一度もない。」
「ハグリッドが大変なんです。」
「ほう?」
アラゴグの声に、若干の気遣いの色が見えた。そう士堂は感じ取った。ハリーがアラゴグと対峙する間、ロンとファングをなるだけ近くに呼び寄せていた。
「しかし、なぜハリウッドは来ない?」
「は、ハグリッドは疑われています。学校の皆は怪物を生徒にけしかけたのは、ハグリッドだって。それでハグリッドは逮捕され、アズカバンに。」
「アズカバン!」
アラゴグが鋏をかき鳴らすと、周りの蜘蛛も呼応する。その音色はどこか、悲しさとやるせなさを感じた。この蜘蛛の種類は、鋏を鳴らすことで感情を表すのだと士堂は気づく。
「しかしはるか前の話だ。忘れるはずがない、私がここに来たのもハグリッドが退学したのも。すべてわしが、秘密の部屋の怪物だと信じ込まれてしまったからだ。」
「では、秘密の部屋から出てきたのでは?あなたがいた部屋は…」
「違う!わしはこの城で生まれたのではない。ハグリッドが卵の状態から、育ててくれた。城の物置に隠し、食事の残り物を与えてくれてな。冤罪を被った時も殺される前に逃がしてくれ、妻のモサグまで見つけてくれた。ハグリッドがいなくては、今のわしはない。ハグリッドは親友だ。」
「では人を襲ったことは?」
「一度もない、誓ってな。襲うのが本能だとしても、ハグリッドの為に我慢してきた。殺された少女はトイレで発見された、だがわしは物置から外に出たことも出ようともしていない。わしらは暗くて静かな場所を好むゆえに。」
「では、誰が。何が襲ったのか…」
今までで一番の音が響く。怒りと恐怖が入り混じった協奏曲が、深い森で奏でられるのだ。ロンが士堂のローブをぎゅっと握るが、その顔は涙と涎まみれだ。士堂はロンの姿に苦笑しながら、何か引っ掛かりを覚える。
「城の化け物のことなら、知っている。それはわしら蜘蛛の仲間全てが、恐れ忌み嫌う。
はるか太古からの、化け物だ。そいつが城内を動き回っている気配を感じたとき、外に出せと何度頼んだか。ハグリッドに必死に懇願したことを覚えている。」
「その生物の名は?」
「わしらはその生物の話はしない! 何度ハグリッドが訪ねても、これだけは言わなかった。」
ハリーはここが潮時だと思った。アラゴグは疲れたかのように、蜘蛛の巣のドームに帰っていく。だが、周りの蜘蛛はじりじり距離を詰めてきた。
「それじゃあ、帰りますね。」
「帰る?」
ハリーは後ろに下がりながら、何とか声を出した。だがアラゴグは、ハリー達をみて愉快そうに言う。
「なるまい。わしはハグリッドを傷つけようとすることは、固く禁じた。しかし、わざわざ歩いてきた新鮮な生肉を無視するほど、愚かではない。さらばだ、ハグリッドの友人。」
「伏せろ、ハリー!」
ハリーが瞬間的にしゃがみ込む。士堂はローブから黒鍵を取り出すと、一か八かの賭けに出た。彼が使える魔術は、この黒鍵を利用した洗礼魔術ぐらいだ。最近、徐々に他の魔術が使えるようになってきたが、未知数な点も多い。今から使う魔術も、過去成功したことがないものだ。
『sanna kika lux dies re sheng (聖なる光は輝き、日はまた昇る)』
『主よ、この不浄を清め給え!』
『火葬式典!』
投擲された黒鍵が着地すると、炎が巻き起こった。襲い掛かる蜘蛛が次々に燃え、連鎖的に広がっていく。苦しみと怒りで、蜘蛛たちの鋏は鳴りやむ気配がない。士堂が第2弾を放った時、窪地にまばゆい光が差し込んだ。
ウィーズリー氏の車が、荒々しく斜面を駆け下りてきた。ハリー達の前でドアが開くと、それっとばかりにハリーが乗り込む。ファングの腹を抱えたロンが、後部座席に犬を宝利昆田助手席に乗り込んだロンが、窓から叫ぶ。
「士堂、早くこっちにこいって!」
「今行く!」
士堂が後部座席に乗り込んだ瞬間、誰の操作も受けずに車が走り出した。猛スピードで坂を駆け抜け窪地を抜け、森の中に進む。見知った道を走るかのように、巧みに広いスペースを潜り抜けていた。
「大丈夫?」
ハリーが心配げにロンに聞くが、力なく頷くだけだ。だが執拗な蜘蛛は、ハリー達を付け回し続ける。屋根に張り付いた子蜘蛛が窓にまで来ると、ロンが絶叫する。
「ハリー、援護頼む!」
「了解!」
士堂が背後のミラーと屋根を、黒鍵で吹き飛ばした。暗闇でうごめく集団に照準を合わせると、二人は椅子に立ち上がる。
『火葬式典!』
『アラーニア・エグズメイ! 蜘蛛よ去れ!』
まばゆい光と鋼が、闇に突き刺さった。燃え広がる炎に呪文が同調して、蜘蛛を散り散りに吹き飛ばしていく。手持ちの黒鍵を使い果たした士堂が杖を取り出すと、二人同時に叫んだ。
『『アラーニア・エグズメイ!! 蜘蛛よ去れ!!』』
うごめく影が見えなくなったころ、背後から光が差し込んだ。入口についたのだ。ファングはすぐに出ようと、吹き飛んだ屋根をよじ登って小屋に駆けていった。今だ硬直するロンを抱えて、2人は急いで小屋に戻る。車に手を振ると、嬉しそうにエンジンをふかして森に帰っていった。
小屋につくとファングは毛布にくるまり、ロンはキャベツ畑で盛大に戻していた。
士堂とハリーも一言も話せない中、ロンが戻ってきて愚痴をこぼし始めた。
「蜘蛛を追いかけてみろだって? 僕たち生きてるのが奇跡だ。」
「アラゴグは傷つけようとしないって思ったんだよ。」
「ハグリッドはそれだ! いつも怪物を悪者扱いするのは皆だって! 怪物は怪物なんだ! あんな目にあって僕たち、何もわかりゃしなかった。」
「あるよ。」
ハリーが透明マントをかぶせながら、歩くように促す。士堂はポットに水を入れると、一思いに飲み干していた。
「ハグリッドは無実だ。」
なんとかベッドに帰ってこられたといっても、頭には今日の出来事が駆け巡っている。寝返りの多さから3人一緒だった。ハグリッドの無実はわかった、では誰が?あの蜘蛛
全てが名を出さない怪物とは? リドルは間違いだった。
事実を頭で考えては消して、また考える。ずっと同じ調子だったハリーは、アラゴグを思い返していた。あの盲目の蜘蛛は、ハグリッドが育てた。そして追放されるとき、ハグリッドが逃がした。その時彼は城では歩いたことはない。そして…
月明かりが顔を照らした瞬間だった。ハリーは体をがばっと起こした。まだ聞かなくちゃいけないことがある。急いでロンと士堂を起こした。
「いい―アラゴグは言っていた。死んだ女子生徒はトイレで見つかったって。」
「ああ、言っていた。」
「士堂、いいかい。もしも、もしもだよ。死んだその子がまだトイレにいて、住み着いたとしたら?」
士堂は目を見開き、ロンはピンと来たように手をたたいた。
「もしかして、50年前の犠牲者は嘆きのマートル?」
何とか書けました。続けて投稿します。