ハリー達はフォークスの尾羽に捕まって、戻った。まるで箒で飛んでいるかのような疾走感を味わうも、すぐに行かなくてはいけないところがあった。
「ジニー!」
マクゴナガル先生の部屋に向かうと、戸口を開けたとたんウィーズリー夫人がいたのだ。泣き崩れていた夫人が真っ先にジニーを抱きしめ、ウィーズリー氏も続いた。
その奥でダンブルドア校長がにっこり微笑み、マクゴナガル先生が大きく深呼吸をしている。ハリー達を抱きしめた後、マクゴナガル先生が尋ねてきた。
「ポッター、教えてもらいましょう。今夜の出来事全て。」
ハリーは一部始終を語る。それこそ最初は声なき声を聴いた時からだ。大人は皆黙って話に耳を傾けている。何度も生唾を呑み込みながら、順番に話すが厄介な点があった。
ジニーのことだ。彼女は純血だから、襲われる理由を知りたがるのはわかっていた。
「ハリー、わしはな。ヴォルデモート卿がどうやってジニーに魔法をかけたか、それが知りたい。わしが知る限り、ヴォルデモートはアルバニアの森に隠れているはずじゃが。」
「ジニーが? なぜです、なぜ…」
「日記です。リドルが16歳の時書いた物です。」
ハリーはまるでパイプをくだったあと、フォークスが上に運んでくれたかのような気分になった。それとなく助け舟を出してくれた校長の配慮が嬉しかった。ダンブルドアがヴォルデモートの過去・トムリドルの頃の話をしてくれる。
「それは良い、問題は何故ジニーがヴォルデモートの日記なんかを…」
「私、その日記に色々書いていたのよ。学校生活のこととか悩み事を」
「ジニー! 冗談はよせ、あれ程強くいったのを分かっていないのか?
「ごめんなさい、でもママの用意した教科書の中に紛れていたから…」
「やはりのう。」
長い白髭を撫でながらダンブルドアは何度も頷いた。ジニーやロンの顔から見る見る血の気が引いていく。ハリーは過去自分のやってきた事を思い返していた。
「私、私退学なの? ヴォルデモートなんかの計画に加わっちゃって。」
「そんな、駄目、駄目だ!そんなの駄目だ…」
「ふむ、過去わしはこういった。次何か規則違反があった場合は退学と。覚えているなハリー。」
ハリーの口がパクパク動く。いつかの校長室で言われたフレーズに、恐怖が湧き上がってきた。毒蛇の毒を喰らった時と似た、視界の滲みを感じ始めたハリーだった。
「前言撤回じゃの。ハリー、ロン、士堂にはホグワーツ特別功労賞を与える。追加得点で1人につき、200点もな。」
一気にロンの顔が、薔薇が咲いたかのように明るくなった。ニコニコ微笑むダンブルドアはウィーズリー夫妻を見る。
「ウィーズリー君。ジニーは巻き込まれたのじゃな。恐らく何らかのタイミングでリドルの日記を、彼女の教科書の中に紛れ込ませた輩がある。それにリドルに魅了されたのは、熟練の魔術師もいたのじゃ。子供を責めるのは筋違いじゃろうて。
ジニーは医務室に行きなさい。ホットココアを飲めば、気分も落ち着くじゃろう。わしのお墨付きじゃ。ロンはジニーに付き添ってあげなさい。
士堂、君も医務室へ。そのままでは君は死んでしまう。」
全員が黙り込む士堂を見た時だ。士堂のローブから血が滴っている事に皆が気づく。彼が青白かったのは不安からではない、血が抜けていたのだ。だが彼は掠れた声で拒否した。
「…大丈夫です…」
「士堂、死んじゃ駄目だよ!」
「そうだよ早く行こう! 血が!」
「…校長に…どうしても…」
「分かった。ではウィーズリー家は医務室へ。マクゴナガル、大広間で盛大に祝う準備をしておいてくれ。今日は良いじゃろう。」
「ええ、勿論です。 士堂、ちゃんと医務室へ行きなさい。」
「後はロックハート。君は?」
「ん? あなたはずいぶん歳をいってますな。サンタクロースみたいだ、はは!」
ロックハートの現状を伝えると、皆悲しそうになる。彼は憎くはあったが芯からの悪人ではなかった。彼も医務室で治療を受けることになる。そしてウィーズリー家と共に医務室に行くロックハートの笑顔と、何か言いたがなロンの顔が見えなくなった。
ダンブルドアは彼らを見送ってから、微動だりしない士堂の胸から腹のあたりをじっと見分していく。
「大変じゃ。魔法使いではない魔術師、魔術使いはの。そう思わんかハリー。」
「先生、士堂はどうしたのですか?どうして?」
「まあ、大丈夫じゃけど。わしの手にかかれば。忙しいマダム・ポンフリーを助けても罰は当たるまい。」
杖を振って何かの瓶を出すと、ダンブルドアは中身を士堂の口に流し込んだ。無理やり飲まされる形だった士堂の目がカッと開く。
彼の腹から大量の破片がこぼれ落ち、床が銀色に見えた。声の出ないハリーに、ダンブルドアは飴を持ちながら説明した。
「それは黒鍵じゃ。正確には砕けた、と言える。砕けた破片が服を引き裂き皮膚にめり込んでおった。一個一個の出血は大したことはなくても放っておいたらあの量になる。」
「何を飲ませたんですか。破片が一杯落ちました。」
「ハリーはゴドリック・グリフィンドールを知っておるな。彼は剣を使って魔法を使役した魔法剣士じゃ。彼の時代はそれなりにいてな、彼らの剣での戦闘は凄まじいものじゃったそうな。
剣と剣がぶつかるとき、刃こぼれした破片が額や頬に突き刺さる。その破片を直ぐに取り除く為の薬じゃよ。今は虹色ハリネズミの癇癪で身体中トゲだらけになった人用じゃがな。」
「でも何でこんなに砕けたんですか?」
ハリーの疑問に、血の気の戻った士堂が答えた。校長から渡された飴を舐めながら、思い出すように目を閉じている。
「リドルの魔法を食らったとき、黒鍵が自動的に反応して身代わりになってくれた。お陰で魔法の効果では傷一つついてないんだけど。
こんなこと今まで無かったし教えられたこともなかった。ただただローブの中で破片が溜まっていってさ。ほら、大量に黒鍵を入れる為にちょっと袋みたいになってるだろ?そのせいで破片が中で食い込んできてな。」
「偶然の産物じゃろう。リドルの悪意ある魔法に反応した黒鍵が、展開した。魔法一つに黒鍵が左様、5、6本は身代わりになっておる。それを複数回受ければまあ、そうなるな。」
ダンブルドアは代わりの飴を手渡しながら、本題に切り込む。その目は強い危機感を覚えていた。
「何故、君がそこまで魔法を食らう。ジニーの魔力では大した速さの魔法は打てんはずしゃが。」
「彼は古代ルーン、恐らく神代のものを使いこなせます。ジニーの少ない魔力でルーンを描き、それを六角形に配置することで魔力を生成、魔法を使っていました。俺が一刻も伝えた方がいいと思ったのはこれです。」
飴を受け取りながら報告した士堂を、ダンブルドアは何とも言えない顔で見ていた。その目は彼ではなく別の人物を投影しているようだ。
「リドルはホグワーツ有数ではない。史上最高の天才じゃ。16歳で魂を変哲もない本に閉じ込めるだけでなく、古代ルーンの中の神髄まで復活させてあったとは。少々、見くびりすぎていたかもしれん。」
「古代?神代?」
「ハリーは来年度からかの。古代ルーンは文字を刻むだけで効果を発揮する、優れた魔法じゃ。その起源はケルト神話の神々が使っていたものじゃが、今の古代ルーンはそれの複製でな。本当の古代ルーンはとうの昔に歴史に埋れてもうた。」
「魔術世界では、復活しているんだよ。それを復活させた魔術師は爺さんの顔馴染みでね。その人が爺さんに残した論文や研究成果やらが家にあるんだ。なんでも分かったからもういらない、とさ。こっちではまだ分かっていないと聞いていたんだが。」
ダンブルドアは2人の肩に手を置きため息をつく。憂を帯びた表情で考えを伝えた。
「ハリーは分かったかの。ヴォルデモートはお主が考えているよりずっと強大じゃ。彼の全盛の時ホグワーツが無事だったのは、創設者達から積み重ねられた護りがあったからじゃ。わしの力は微々たるもの。」
「そんなことはないでしょう! 先生はこの世で一番…」
「ハリー。嬉しいがこれだけは伝えよう。魔法は不可能すら可能に変える力を持っておる。だがそれに溺れれば、全てを失うじゃろう。決して魔法に頼りすぎてはならん。」
「先生…」
「ならばこそ、ホグワーツは存在する。互いに足りないものを補うことができれば、それは魔法を超えた奇跡じゃ。ホグワーツの創設者から続く護りの要じゃよ。」
腑に落ちないハリーを先生は責めなかった。まるでいつか分かると言わんばかりに。その時、雑なノックの後に来客がやってきた。
ルシウス・マルフォイはドビーを連れて、仏頂面のままダンブルドアと相対する。
「おお、ルシウス。よくぞ来てくれた。この少年達が全てを解決してくれた。老いぼれも無用だったよ。」
「それは、それは。全く素晴らしい、ことですな。」
「どうした、ルシウス。表情が固いじゃないか。もっと喜びたまえ。」
ハリーはドビーがルシウスを指差したあと、日記を指差してから自分の頭を殴る様をじっと見ていた。士堂は飴を舐めながら、ルシウスの杖を持つ手の震えを観察している。
「ところでルシウス、風の噂じゃがの。わしがここに戻って来れたのは理事会からの要請があったからじゃ。その時理事から興味深い話を聞いた。
ある理事から更迭に賛成しないと、家系そのものに呪いをかけてやると脅されたというのじゃ。その数は半数を超えており、その脅しがなかったらわしの更迭はなかったらしいの。」
「興味深い、話ですな。」.
「またな、今回の主犯はジニー・ウィーズリーじゃった。知っておろう、アーサーの娘じゃ。可哀想に、あのヴォルデモートの魂に操られて事件を起こしたそうじゃ。ここにその証拠がある。」.
「ほう…」
「彼女は母から貰った教科書類の中に入っていたと言っておる。だがそれは有り得ん。では誰が入れたのか。
もしもじゃ。マグル保護法の制定に携わるアーサーの娘が、マグルを襲ったとしたら。マグル保護法に賛同するか迷いかねている人達を含めて大多数が、制定に反対するじゃろう。そうすると得する、或いは好ましい人物が意図的に日記を忍ばせたと考えられんかね。」
「そうですか。それは大変なことで。」
何とか平静を保つルシウスの頬は、ビクビクと痙攣している。その顔を見たハリーは、日記を彼に手渡した。
「どうぞ、マルフォイさん。これはあなたのものでしょう。」
「何? 何故それが私の物だと?」
「ジニーの教科書に紛れ込ませることは、あなたにしかできない。あの本屋での喧嘩の時ジニーに教科書を渡しましたね。その時バケツに忍ばせた、違いますか?」
「証拠は、あるのかね?」
「いいえ。でもさっきから日記が気になっていたようですので。」
苛立ったように日記を受け取るとドビーに投げ渡した。さっと戸口に向かう彼の耳は、真っ赤に染め上がっている。ドビーは渡された日記をおずおずと開いていた。
「何をしている?早く来い!」
「ご主人様が…ご主人様が衣服を下さった!ドビーは自由だ!」
「小僧、小癪な真似をしおって!!」
日記には靴下が挟まれていた。小さくハリーが舌を出して笑う。
赤鬼のようなルシウスが杖をハリーに向けて呪文を放とうとすると、ドビーが打ち消した。指パッチンをするとルシウスの体は5メートルは吹っ飛んだだろう。誰もいない廊下に叩きつけられた彼は、絵本の中の悪役顔負けの顔で睨んでいる。
「もしハリー・ポッターに手出ししたら命は無い!」
「…許さん。いつかこの借りと屈辱、晴らしてくれるわ!」
ズンズンと大股で去るルシウスを見送ることなく、ドビーはハリー日記別れを告げた。士堂ががりっと飴を齧りながら無造作な拍手を贈る。
「よく気づいたなハリー。相当意地が悪い誘導だったのに。」
「いいさ、なんたってホグワーツ特別功労賞だよ僕たち。」
「ほっほっほっほ。なんのことか老人は察しが悪くて叶わん。
では体を休めなさい。今日の夜はちょっと違うわい。」
ハリーと士堂はマダム・ポンフリーから薬を貰って部屋に戻る。談話室にも寝室にも誰もいなかったが、2人は薬を飲んだ後倒れるように眠りについた。2人が目が覚めると日はとっぷりと暮れている。ベッドの上でロンも目を擦っているではないか。
「僕君達ほどじゃないけど頑張ったんだ。寝させてくれてもいいじゃないか。」
「何も言ってないよ。」
そのままお風呂に3人で入り、パジャマに着替える。丁度着替え終わったタイミングで、拡声器で大広間に呼び出された。
3人が大広間に向かうと、割れんばかりの拍手と歓声が聞こえてくる。それはリドルのゾッとする笑いとは違う暖かい拍手だ。席に座る間拍手をしていると、ハーマイオニーが席を空けて待っていた。
「ハーマイオニー、元気になったんだ!」
「やったわね。3人がやったのね!」
「ハーマイオニーのメモがなかったら、どうにもならなかったよ。」
「まあMVPはハーマイオニーだな。」
彼女とハグをしてから席に座ると、校長の祝辞が始まる。その中でホグワーツ特別功労賞の贈呈と特別加点が発表され、2年連続のグリフィンドールの優勝が決まった。
クリスマスとハロウィンと新学期に終業式。ホグワーツのイベント毎の限定の品々が所狭しにテーブルに並んでいる。例えばケーキでも、イチゴやパンプキンにマロンと何種類も揃っていた。皆がご馳走を腹に収めていくと、ハリーはジャスティンの謝罪に苦笑いしていた。士堂がチキンフィレとポークジンジャーを交互に口に運んでいると、肩をつつかれる。
「ヤッホー。やっぱり帰ってきたね。」
「…ニーナか。こっち来ていいのか?」
「ン、皆席移動してるもん。気にしないの。」
辺りはなし崩し的に無礼講の雰囲気だ。寮関係なく行き来しながら、騒ぎまわっている。先生達は何も言わずに、嬉しそうにワインを口にしているだけだ。
「士堂は強いんだネ。幽霊倒したんでしょ?」
「まあ幽霊じゃないんだけど。話すとややこしくて長いんだよこれが…」
「そういえば私何も知らないの。詳しく聞かせてちょうだい。」
ハーマイオニーが身を乗り出すと、隣にいたシェーマスとディーンも参加してきた。次々に他の生徒達もヤンのヤンのと言ってくる。
「そうだ、何があったか教えてくれ!」
「ドラゴンを倒したらしいな?」
「壁を埋め尽くす蜘蛛を召喚したって本当?」
「士堂は石を投げつけるらしいな、僕本当だって言ってかけちゃったんだ。本当だよな?」
士堂の周りは生徒で一杯だ。ハリーとロンもご馳走を片手に、経緯を話しているように伺える。彼も友人達に習って最初から話し始めた。
英雄譚に会場がどっと湧くが、最高潮はマクゴナガル先生のサプライズ発表だった。わざわざ鈴を鳴らしてまでの告知とは、今学期の期末試験の特別免除だ。一斉に帽子が宙に舞い、あちこちで踊り狂う人が続出する。
そんな中で面白くなさそうなのは、マルフォイとその取り巻き。そして。
「そんな、せっかく勉強してきたのにそんなのって無いわ!」
楽しかった晩餐会から帰省まであっという間だ。ホグワーツ特急のコパーメントを、パーシー以外のウィーズリー兄弟と4人で占拠して遊び惚ける。爆発ゲームに一区切りついた頃、ロンが思い出したかのようにジニーに尋ねた。
「そういやさ、ジニーが話してくれそうだった時あったろ。なんでパーシーは止めたんだ?あの時はジニーの行動なんて分かってないはずじゃ無いか。」
「ああ、それ?」
持っていた冷製カボチャジュースを飲みながら、ジニーは真相を語った。
「パーシー恋人いるの。レイブンクローの監督生の女の子。今回被害者だった。」
「えっ。:」
フレッドが手に持っていた本を、ジョージの頭に落としてしまう。ジョージは怒ることなく妹を眺めるだけだ。ジニーはコパーメント中の視線を受けて、恥ずかしそうに補足していく。
「パーシー、学校に来る前から文通をずっとしていたの。授業が始まってからも人目を忍んで会っていたらしいんだ。私がそれを偶々見ちゃって、キスしてるとこ。口止めされたから言わなかったんだけど、気が気でなかったみたい。だから石になった時あんなに落ち込んでいたのよ。」
「あのパーシーがねぇ。」
「朴念仁に春来たる。こりゃ畑の作物が豊作になるぞ!」
「ねぇ揶揄うのはやめてあげてよね。」
「「もちのロンさ。」」
双子の信用できない返事に苦笑しながら士堂は外を眺めていた。するとハリーが羊皮紙になにかを書き殴ってロンとハーマイオニーにも渡してくる。
「これ、うちの電話番号。頼む、せめて電話でもしてくれないと気が狂いそうなんだ。」
「いいけど。今回のあなたの活躍で、少しは待遇をマシにしてくれるんじゃ無いの?」
「まさか。蛇に襲われたなんて言ったら、そのまま噛まれていればよかったなんて言うに決まってる。ねえ、電話してくれるよね。」
「するよ。約束する。」
「ハリー、心配するな。パパが気電を引いて話電を使えるようにするって、いってたんだ。」
ロンは多分無理だろう。ロン以外がそう思っていると、列車は駅に近づいていた。各々荷物を持ってフォームに降りると、家族のもとに帰る。
「祖母さんただいま。」
「おかえり。また大変でしたね。ウィーズリー家に偉く感謝されましたよ。」
「まあ、だろうね。」
「積もる話は家でしましょう。何が食べたいですか?」
「カレーかな。」
「作ってあります。今日はトンカツとスクランブルエッグも用意してありますよ。」
やっと秘密の部屋終了。申し訳ありませんが、次のアズカバンはまた日数が開くことになります。それまでは過去の小説の手直しなどをするぐらいです。
それでは次の作品までまた。