入学
目の前がゆがむ感覚が収まると、どこかについたことが体感できた。恐る恐る目を開けるとそこは暗く、みすぼらしい場所であった。にもかかわらず人が大勢いるのが不思議である。
「今のは姿現しという魔法です。見たところ気分は害していないようですね。」
そうマクゴナガル先生に問われた士堂は首を回しながら答えた。
「ええ、びっくりしたのは確かですがこんくらいは大丈夫ですよ。」
鍛えていますからという答えに満足したのか、マクゴナガルはすたすたと歩いていくので慌てて士堂も後に続く。店の裏手にあるレンガの壁を数か所マクゴナガルがたたくと微笑みながら士堂に声を掛ける。
「ようこそダイアゴン横丁、魔法の世界へ」
そこには摩訶不思議の一言では語れぬ世界が広がっていた。見たこともないお菓子や器具に動く写真などの魔法道具はどれも士堂の心を離さない。そんな士堂に合わせるかのように歩みを緩めながらもマクゴナガルは目的地に向かった。
そこはグリンゴッツ銀行と呼ばれる魔法使いの銀行であり、ゴブリンが経営しドラゴンが守護している銀行だ。これに驚く暇もないままマクゴナガルから自分の金庫があることを聞かされる。聞けば両親が残してくれたのだというが、両親は魔術使いであったはずで魔法使いではないはずだ。その疑問にはマクゴナガル先生から答えがなかったものの士堂は必要な分のお金をおろして新入生に必要なものを買いそろえていく。
ローブのサイズを図るときや物を取り寄せるのに魔法がつかわれているのは、これからの生活がどのようなものかを十二分に感じさせるものであった。
教科書や服を一通りそろえると次に魔法動物ペットショップに連れていかれた。なんでも学校生活にはペットが必要で主にふくろうやネズミが人気だという。学校の校則ではフクロウにネズミと猫が指定されているが、ほかの動物でも問題はないとのことだった。
「いらっしゃい、ここは魔法動物なら横丁一ですよ。」
そういった店員から説明を受けながら探しているがピンとこない。ペットが欲しいと思ったことがない士堂は決め手になるものがなかった。
「魔法使いにとってペットはただの主従関係にとどまらず、互いに助け合う相棒のようなものです。 後悔がないようにするためにも時間はかかって当然ですよ。」
そう店員に励まされながら店を回っていると離れたスペースにぽつんと鳥籠がおかれていた。その鳥かごに入っていたのは片目に傷のついたカラスがいた。そのカラスは前を横切る人々に一々にらみを利かせ、時には声を上げて威嚇している。
「へえ、面白いカラスだな。」
そう言った士堂はそのカラスの前に立っていた。例外なくカラスが鳴き叫ぶが、士堂は動じることもなく逆に挑発して見せた。
「そんだけしか鳴けないのか? 期待外れだな。」
そういって士堂が目を閉じると息を小さく吸う。そして臍下丹田に意識を置きながらカラスに向かって気を放つ。
「ムン!」
小さい声ながらも体の内側から放たれる“気”にカラスは抵抗せずに黙ってしまった。当然ただならぬ気配に店員やマクゴナガル先生も気づくが、店員がカラスを見てびっくりする。
「あのカラスを黙らせるとは! 私達はともかく闇払いに対しても鳴いていたのに!」
すると士堂は店員に餌を持ってくるように頼んだ。もらった餌をカラスに与えるとカラスは美味しそうに食べていく。
「このカラスにしたい。いくら払えばいいでしょうか?」
すると奥の方からグリンゴッツ銀行にいたようなゴブリンが出てきた。
「代金はいりませぬ。」
びっくりする士堂にゴブリンは笑いながら籠を渡す。
「そのカラスはフィンランドの方から来たカラスでしてな、正直手に余っていたのですよ。見るとカラスは貴方を信頼しているようですしね、あなたの技にも感心しました。」
籠を手渡しながらゴブリンが大声で笑った。
「あなたが代行術を習得したとは聞きましたが、本当のようでしたね。」
店を出てからそうマクゴナガル先生が士堂にいうと、苦笑しながら士堂が答えた。
「祖父はもっとすごいですよ、おそらく気を発現しなくても同じことをして見せますから。」
マクゴナガル先生はピクリと眉を挙げながらも小声でそうでしたね、とつぶやいて士堂を次の目的地に誘う。
到着した店は古めかしい店の多いダイアゴン横丁の中でも特に歴史を感じる店であった。看板には「オリバンダーの店 紀元前382年創業の高級杖メーカー」と書かれている。するとマクゴナガル先生は入るように促すので一緒に店内に入る。外観同様に歴史を感じる店内には所狭しと杖が置いてあり、一人の老人が同学年ほどの少女に杖を渡していた。
「最後にここで杖を買いましょう。杖はこのオリバンダーで買うのが一番です。」
マクゴナガル先生の説明に反応して老店主が声をかける。
「おお、マクゴナガル先生。ということはそちらの少年は新入生でよろしいか?」
士堂が頷くと手で近くに来るように老店主がジェスチャーをする。
「オリバンダーの杖は一本一本、強力な魔法を持った物を芯に使っております。一角獣のたてがみ、不死鳥の尾の羽根、ドラゴンの心臓の琴線。一角獣も、ドラゴンも、不死鳥もみなそれぞれに違うのじゃから、オリバンダーの杖には一つとして同じ杖はない。もちろん、他の魔法使いの杖を使っても、決して自分の杖ほどの力は出せないわけじゃ。」
そういうとオリバンダーは手を差し出してこう聞いてくる。
「杖腕を見せてもらおうかの。」
ピンとこない士堂にマクゴナガル先生が利き腕を、と助言する。士堂が右手を差し出すとオリバンダーは腕を観察した後裏手に消え、いくつかの杖を持ってきた。
「まずはこれ、ヒイラギの木にドラゴンの琴線、29センチ」
試しに振ってみろといわれて振ってみても反応しない。
「杖が魔法使いを選ぶのじゃ、魔法使いが杖を選ぶのではなくな。だから心配せんでもいい。」
そういうと次の杖を差し出す。
「ぶどうの木にトロールのひげ、30㎝。固めにできております。」
だが反応しない。
「ふむ、普通は合わなくても物を落としたり魔法が勝手に発動するのだが…。珍しいお客さんだが心配せんでも、私が杖を必ず探し当てて見せますぞ。」
何本合わしても反応しないことに士堂とマクゴナガル先生が心配になってきたころ、オリバンダー氏は次の杖を持ってきた。
「ちと珍しい組み合わせなのだが…。ここまで合わないとすればもしやもある、試してみてくだされ。」
もらった杖は茶色身のかかった杖であった。それを手にすると士堂は今まで感じたことのない力が内側から巻き起こってくるイメージが湧いた。同時に杖からは水や火・風に土に雷が飛び出てくる。それもおさまると代の下に隠れたオリバンダー氏が杖について説明する。
「どうやらその杖のようですな。トネリコの木にサンダーバードの尾羽の杖、40㎝でしなやかですぞ。芯に使われているサンダーバードの尾羽はあまり出回らんもんで、アメリカの方にこの素材を使う杖づくりがいると聞いています。私も使ったのはこれだけですから…不思議なこともありますな。」
「手間をかけてすみません、どうもありがとう。」
代金を払って待っているマクゴナガルに合流すると、紙を渡される。
「杖が決まって何よりです。これで入学前の準備は大丈夫でしょう。この手紙にホグワーツ魔法学校入学に使う列車の乗り場が書いています。よく読んでおくように。わからないことがあったら手紙に書いてある住所に送ってください。送り方も書いていますよ。」
そういうと士堂の手を取って姿現しをした。
そしてホグワーツ魔法学校入学の日、用意を済ませた士堂は士柳とともにキングス・クロス駅に向かっていた。歩きながら9と3/4番線を探していると士柳が会話をする。
「いいかい、ホグワーツでは黒鍵は使ってはならん。いいかね?」
「魔法と魔術は違うから、だろ?」
この忠告は想定していたものだから特段驚きはなかった。
「うむ、使うことは起きないと思うが念のためな。」
分かっているよと答えながらホームを歩くと通路にある柱の前で大勢の人がたむろしている。同じ年ごろの子供らが壁に向かって走るのを見るとここがその場所のようだ。
「じゃ行ってくるよ」
「気を付けてな、連絡待っておるよ。」
そういって士柳は士堂を抱きしめて、笑顔を浮かべる。
祖父との挨拶も終わると安倍士堂はホグワーツ魔法学校に向かった。
列車に乗った士堂が空いているコパーメントに腰を下ろして窓の外を眺めていると一人の少年が声をかけてきた。
「あーその、いいかな、となり?」
その少年は黒髪に眼鏡をかけたやせ型の少年であった。
「どうぞ」
その声を聴いていそいそと荷物を入れる少年を士堂が手伝うと、目を伏せながらありがとうという。ずいぶんオドオドしているなと士堂は思った。少年は話したそうにしているのだが会話が切り出せずにいた。こっちから切り出そうと士堂が口を開こうとした時、赤毛の少年が入ってくる。彼の荷物を載せ終わると赤毛の少年が口火を切ってくれた。
「僕ロン・ウィーズリー、こっちはネズミのスキャバーズ」
末っ子のような少年は黒髪の少年とは対照的に声をかけてくる。
「士堂 安倍だ」
「僕はハリーポッター」
お互いに自己紹介をするとロンは大きく目を見開く。
「君があのハリーポッター? じゃあ・・もしかして額には・・」
ロンの問いにハリーが髪をかき上げるとそこには稲妻型の傷があった。
「有名なのか、ミスター・ハリーポッターは?」
「有名なんてものじゃないよ、もしかして君はマグルかい?」
ロンのあきれたような言葉に、そういえば非魔法族をマグルというのだったなと士堂が考えながらうなずく。今度はハリーから声を掛けられる。
「ハリーでいいよ、君はイギリス人なの?なんか聞いたことがない名前だけど。」
「ああ、日本人だ。といっても国籍はイギリスだけどね。祖父母が若い時にイギリスに来てからも名前は日本式なんだ。僕も士堂と呼んでくれ」
通りがかった販売車から魔法界のお菓子を買いながら3人で話をする。士堂とハリーは魔法について詳しくないから、実際にロンが魔法をかけようとしていると栗色の髪をした少女が声をかけてきた。
「ネビルのカエルを見なかった?」
見ていないとみんなで答えるとロンが魔法をかけようとしているのに気づく。
「あら、魔法をかけようとしているのね。やって見せて。」
そういわれたロンはスキャバーズに魔法をかけようとしたが、上手くいかない。少女はそれを見てからハリーの眼鏡を魔法で直して見せた。
「私ハーマイオニー・グレンジャー。あなたは…ハリーポッターね! 入学前に読んだ教科書に載っていたわ。あなたは…東洋の人ね?」
やはりハーマイオニーもハリーの傷を見て判断することからかなり有名らしい。こんなことなら教科書を読んどくべきだったと士堂は後悔しながら自己紹介をした。
時の有名人と顔見知りになった頃、列車はホグワーツ魔法学校についた。にぎやかな道中を過ごすことになったがいざホグワーツを目の前にするとそんなことは忘れてしまうものだ。城の規模や外観は今まで見たことがないものだ。列車を置いてから乗った船の上で士堂はタイムスリップしたような錯覚を覚えた。城の外観は1990年代では見ることが難しい中世風の巨大な城であった。正確に言えば今でも中世風の城は現存しているが、人が住んでいる城は限りなく少ないだろう。目の前のホグワーツはまさしく今、人々がそこで生活しているのが感じ取れた。船の案内人であった大男のハグリッド含め、ここが魔法学校だと実感するには十分なデモンストレーションであった。
学校につくとマクゴナガル先生が寮と注意事項の説明をして一年生を引率していく。途中でドラコマルフォイという白髪の少年に声を掛けられるがマグル出身だといったら顔をしかめられる。それまでどこか偉そうな態度をとっていたことからも士堂はドラコなる少年にいいイメージを持てなかった。
城の中はもっと圧巻である。天井にはプラネタリウムのように天体が移っており、シャンデリアもろうそくの火は思えないほど神秘的な光を放っていた。在校生らが長机に座っている奥に黒い帽子と先生たちが並んで座っている。真ん中にいる白髪の老人が長いひげを揺らしながら挨拶をのべる。アルバス・ダンブルドア校長を見た士堂はこの人物が自分の祖父と旧知の中であることが信じられなかった。
在校生への注意事項の後に組み分けの説明がされる。頭の上に帽子を載せるだけらしいが士堂は半信半疑であった。実際に目にするまでは。
組み分け帽子と呼ばれたそれは真ん中ら辺に口ができて、4寮を讃える歌を歌って見せた。奇怪なものだが自分の将来があの帽子にかかっていると考えるとあまり笑えないのが士堂の実際の感情だった。
いよいよ組み分けの時間になるとどこか浮かれていた新入生の顔から笑みが消える。それまで騒がしかった会場に静寂が走る。友達同士で腕をさすったり目を閉じて考えないようにする同級生と同様に、士堂も落ち着きはなかった。一見落ち着いているようだが何度も深呼吸しているから緊張しているのだろう。
大丈夫?とハリーに声を掛けられるも頷くぐらいしかできない自分が情けなくなる士堂だった。
「ハンナ・アボット!」
マクゴナガル先生が名前を呼ぶと女子生徒が前に出て帽子をかぶる。
すると帽子を何事かつぶやきながら考えていると大きな声で寮の名を叫ぶ。
「ハッフルパフ!」
ハッフルパフの在校生らから拍手と口笛が鳴り響く。その姿を見ていた士堂はマクゴナガル先生の声に体を揺らすことになる。
「士堂・安倍!」
思わずビクッと反応する士堂に、近くにいたハリーやロンが声を頑張れと声をかけてくれる。椅子に座ろうとしたらハーマイオニーも頑張れと口を動かすのが見えた。
「ほう…」
後ろでダンブルドア校長が声を漏らすのを聞きながら士堂は椅子に掛ける。
『ふむふむ。珍しい生徒が入る。君の体に刻まれるは別種の魔法ともいえる代物だな。』
士堂にしか聞こえないような声で話す組み分け帽子に士堂は心を揺さぶられる。
『ああ、心配せずともこのことを話すことはしない。そこらへんの分別は出来ている。』
ホグワーツの案内が来た時のように自分がおいていかれた気分の士堂をよそに組み分け帽子は士堂を計ろうとする。
『君はまず知識を求めている。友情も無駄にはしないが興味がないことには動こうとはしない。だが臆病かといえばそうではなく、かといって勇敢かといえばケチがつく。』
何やらけなされている気がするが、周りがざわざわしているのが耳に入ってきた。杖の時と同じく自分は時間がかかるのだろうか?
『時間がかかるのは悪いことではない。それだけ多様な人格と将来があるといえる。いい意味でも悪い意味でも。では一つ質問をしよう。君は困難と冒険、知恵と平穏のどちらを選ぶかね?』
なんだ、その問いはといいたくなるが組み分け帽子は既に答えを得ているようだ。
『そうかそうか。君の未来は困難であろうが、必ず道は開かれよう。
ならば答は一つ。グリフィンドール!』
帽子の声とともにグリフィンドールから拍手が起きる。机に向かうと上級生が出迎えてくれ、隣りに座らしてくれた。周りの人と握手をしていると年長者らしき赤毛の人が握手してきた。パーシー・ウィーズリーと名乗ったことでロンの兄弟だとわかった。
「君、行きの列車でロンと一緒だったんだろう?弟と仲良くしてやってくれ。」
そういや列車で兄弟家族皆グリフィンドールだという話をしていたな、と思い出していると何かが飛んでくる気配がした。とっさによけると赤毛の双子が感心したように口笛を吹く。
「ああ、すまない。あれは弟のフレッドとジョージなんだ。手にかかるいたずら好きだ…」
とまでいってパーシーに液体がかかる。怒ろうとするパーシーに組み分けが始まると笑う双子に士堂はひっそりと笑みを浮かべた。その後ハリーたちもグリフィンドールに入ることが決まり各々近くに座ることになる。
全部の組み分けが終わるとダンブルドア校長の合図で目の前にローストビーフやケーキといった御馳走が並んだ。イギリス流の食事に疑問を抱いていた士堂であったが食事の質は高かった。どれもそんじょそこらの店では出てこないレベルであることに安心した。
今後の学校生活に楽しみを見出せそうな予感を抱きながら、手元の大きなフライドキチンにかぶりつく士堂であった。
ペットショップの店長はオリ設定です。
オリバンダーのうたい文句はwikiから持ってきたんですが大丈夫なのでしょうか?