ハリーポッターと代行者   作:岸辺吉影

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吸魂鬼との対面

ハリーがシリウスについて話している時から、外は俄かに曇りがちだった。ハリーの現状の様に薄暗く湿った天気は、今や本降りとなっている。列車の窓に大粒の雨が叩きつけては、ボタボタと音を立てる。

自然と薄暗くなる車内にランプが灯った頃。ホグワーツ特急の速度が緩やかに減速し始めた。

 

「やった。やっとこさホグワーツに着いたんだ、やれやれ。」

 

グッと身体を伸ばして欠伸をするロン。しかし急いで取り出した懐中時計と細長い紙を交互に見ながら、ハーマイオニーが被りを振った。

 

「いいえ、違う。まだホグワーツには着いていないはずよ。到着予定時刻はまだまだですもの。」

「じゃあどうして、」

 

止まろうとしているんだい。そう言おうとしたロンの言葉は、声にはならなかった。急にブレーキがかかり、皆前につんのめったのだ。戸棚から荷物が落ちて、周りのコンパートメントから悲鳴が聞こえてくる。ドアに近いハリーが咄嗟に廊下に出ると、不思議そうな表情の生徒が次々に顔を出してきた。

その時だ。それまで車内を照らしていた、ランプの火が突然消えた。

 

「きゃっ!」

「何だ?!」

 

車内はたちまち、不自然なほどの暗闇に落ちた。隣のコンパートメントどころか、隣の人の顔すら見えない。手探りで席に戻るハリーの裾を、誰かが引っ張ってきた。

 

「誰、引っ張ってるよ!」

「あ、ごめんハリー。そうか、窓はこっちか。

あ、ごめんなさい、多分先生だよな? うん、ごめんなさい…」

 

何かを叩く音が数回聞こえてから、キュッキュッと窓を拭う音が聞こえてくる。水滴を拭って外の景色を見ようとするロンが、目を凝らしながら叫んだ。

 

「あれ、なんだろう?! 何か乗ってくるよ!」

「私、車掌室に行ってくるわ。何があったか確かめないと。」

 

ハーマイオニーが立ちあがろうとするが、手元がよく見えない。自分の杖を探すものの、手元すら見えないのではどうしようもなかった。そんな時、車内に光が灯る。

 

【ルーモス 光よ!】

【天にまします我らの父よ。願わくば御前を崇めさせ給え。

ming lux】

 

士堂が発光呪文を唱えてから、文字が長々と書かれた紙を放り投げた。杖から灯された光は、眩い光を放つ紙が宙に浮く様を、幻想的に写し出している。何処か温かい光を放つ紙を、暫くボーと見ていた3人は、深い眠りについていたルーピン先生がモゾモゾと動き出した事に気がつかなかった。

突然、コンパートメントのドアが開いた。またマルフォイかと言い出しかけたハリーだが、足元に転がり込む人物を目にすると、思わず笑みが溢れてくる。

 

「大丈夫、ネビル? どうしてここに来たの? さあ、立って立って。」

「あれ、ハリー! そうだほらみんな、ほら暗くなったから僕怖くて、でもあれ、明るいや。」

「心配するな、明かりなら魔法を使えば…」

「うわわわ!!」

 

士堂の顔を見たネビルが、蛙のように飛び上がった。壁に頭をぶつけて蹲る彼を余所目に、ハーマイオニーが廊下に出た。光呪文で先頭車両に行こうとする彼女だが、廊下は予想以上の混乱振りだ。

 

「あいた、誰踏んでるの?!」

「あなた誰? もしかしてジニー?」

「その声はハーマイオニー? あたしロンを探しているの。」

「僕ここ。こっち来いよ、ジニー。他の皆んなは?」

「パーシー達は何処かに集まってるはず。他の子はよくわからないの。」

「ジニー、気をつけて、ネビルが、」

「ハリー!!!」

 

隣にいる人物を認識したジニーが、飛び上がった。ネビルよりも高く飛び上がりすぎて、彼女は壁どころか天井に頭をぶつける。決して広いとは言えないコンパートメントに激突音が響くと、隅にいたルーピン先生の意識が完全に目覚めた様だ。

 

「みんな、静かに。動かないで。と、この光は…」

 

あいも変わらず、顔色は見事な迄の灰色だ。だがその瞳は一寸の油断も隙もなく、現状を把握しようとする戦士の輝きを灯している。

先生の懐からとり取り出した杖から、光が放たれた。瞬時に周りを見渡しながら、簡潔に指示を出す。ルーピン先生は室内に浮かぶ光る紙と士堂を交互に見てから、ドアに視線を向けた。

士堂は彼の瞳が、自分を写し見た時見開いた様に思えた。そして何処か安心する、見知っていると直感する。どうしてそんな事が頭をよぎったのか分からなかったが、考える暇もなく直ぐに別の出来事が起こった。

 

「何だ、何だ何だ? 急に胸が…」

「ネックレスよ。ネックレスが光ってるわ!」

 

廊下にいるハーマイオニーと、席の真ん中に座るロンが同時に叫んだ。ハリーが胸に手を当てると、一昨年クリスマスプレゼントととして貰って以来、肩身離さずつけてい十字架のネックレスが光っている。

去年も悪戯幽霊のビーブスと相対した時、勝手に追い払ってくれた。ほとんど首無しニックお墨付きの、除霊のネックレスだ。そのネックレスがかつてないほどの光と、跡がつきそうなくらいの熱を帯びている。

 

「皆んな動かずに、頭に部屋の光を思い浮かべながら目を閉じなさい!」

 

切羽詰まった様なルーピン先生の声に、反応できたのは僅かだ。ネビルとロンは、もう大分前から目を閉じていた。廊下にいたハーマイオニーとハリーの横でアップアップしていたジニーは、すぐさま言われた通りにする。

問題はハリーだ。次から次に起こる怪奇現象に翻弄され続けていた。ならばロン達の様に目を瞑り続けるか、ハーマイオニー達の様に指示に従えばまだ救われただろう。

しかし怪奇現象に翻弄されていても、それまでの経験から身体はそこまで混乱していなかった。ハーマイオニー達は恐怖から咄嗟に指示に従ったに過ぎない。対してハリーはというと精神は混乱、反対に身体は危機的状況に適応してしまっているという、相反する状態だった。

 

だからだろう、ハリーはドアを開けて入ってきたそれを、完全に直視してしまう。

それはホグワーツで見る、幽霊だとかお化けなどとは根本から違う霊だった。マントを頭から被り、顔をはっきりと見えない。マントから覗く手は、灰白色の肌に汚れた瘡蓋が点在する、骸骨の手だ。思わず息を飲むが、更なる追い討ちが迫る。

それが息を長く細く、しかしはっきりと吸い込んだ。部屋の気温を、一気に氷点下に下げる様な冷気が、全員の肌に張り付く。特にハリーは息が胸の途中でつっかえ、寒気が肌と鼻と口を通して、体中に染み込んできた様に思えた。

 

そこから突然、彼の記憶が曖昧になる。薄れていく意識の中で、誰かの声が聞こえた様な気がした。

底なし穴に落ち続ける様な感覚の中、ハリーは叫び声が遠くで聞こえた気がする。何処か懐かしい気分になったから、彼はその声の方向に手を伸ばすが、何も掴めない。

このまま、落ち続ける。そんな考えが脳内を占めた時だ。

ロープで身体が引っ張られた。今度は逆に天高く飛んでいる様だ。思わず叫び出したくなる、愉快な気分だ。一瞬で、漆黒の闇夜から澄清の青空に飛び込んだ、ハリーはそう思えた。

 

「…リー…」

「…リー!」

「ハリー!」

「う、うーん?」

 

ハリーは頬を誰かが叩いている事に気がついた。目に入ったのは、薄汚れた天井だ。天井は不規則に揺れていた。力の入らない身体を起こしながら、汗を拭う。額から顎まで、冷や汗がびっしょり伝っていた。

横を見ればロンとハーマイオニーが、心配そうに側に座り込んでいる。ハリーは床に寝そべっている事に、この時初めて気がついた。ホグワーツ特急も無事に運行を再開している様だ。

席ではネビルとジニーが、青白い顔で肩を寄せ合って座っている。開いているドアの向こうで杖を片手に持つルーピン先生と、何かを呟く士堂が立っていた。

 

「大丈夫かい。気分は?」

「最悪。ねえ、誰か叫んだ? 僕どっからか声が聞こえたんだ。」

「叫ぶ? 誰が叫ぶっていうんだ。」

「でも僕聞いたんだー」

 

パキッと乾いた音がした。ルーピン先生が巨大な板チョコを一口大に割りながら、ハリーに大きい欠片を渡してくる。

 

「チョコだ。食べると気分が落ち着くはずだ。さあ。」

「あの、あれは一体…?」

 

ハリーがチョコを頬張りながら、ルーピン先生に訪ねる。他の面々にチョコを配りながら、淡々と先生は教えてくれた。

 

「ディメンター。吸魂鬼ともいう。」

「えっ?」

「悪名高き、アズカバンの看守の一体さ。」

 

銀の包み紙をポケットに押し込めながら、先生はチョコを食べる様促す。車掌と話すと言ってどこかに消えた先生のことを、ぼんやり見る友人達に、ハリーは恐る恐る尋ねた。

 

「僕、訳が分からなくて… 何があったの?」

「ええ、そうね、でもね。ハリー、私目を瞑っていたの。

それで物音がー そう音がしてー 私目を開けたら、あなたが床にー」

「僕も、その時目を開けたんだ。そしたら君がこう、引きつけ? 起こしたみたいにー」

 

青白い顔で語る2人の体は、まだ震えていた。ハリーの肩に添えられた手が、肩越しに分かるほど震えていたからだ。

 

「君は床に倒れちゃった。そしたらまず士堂が君に声をかけた。何かを取り出そうとしたらー」

「ルーピン先生が止めたのよ。そのままあなたと吸魂鬼のに間に入ってこう言ったわ。

『シリウス・ブラックをマントの下に匿っている人は1人もいない。立ち去れ』って。

でも動く気配もなかったの。先生、小さく呪文を唱えたら杖から銀色の光が出てきて、そしたら吸魂鬼は去っていったのよ。」

 

席で半べそをかいていたネビルが、泣きそうな声で付け加えた。

 

「僕怖かった… あいつが入ってきた時の寒気といったらありゃしないよぉ〜…」

「他に何もなかった?」

「他は、ジニーが転んじまったみたいだけど、詳しく…」

 

ということはハリーだけか。彼だけが半ば気をうしないかけたという訳だ。ひどい風邪をひいている様な、倦怠感と吐き気を覚えながら、情けなくて恥ずかしさまで込み上げてくる。

 

「気にすんな。あんなのに襲われて普通な方がおかしいんだ。」

 

士堂が戻ってきて、ハリーに声をかける。反対側からきたルーピン先生が、まだチョコに手をつけていない生徒達に、チョコを食べる様促した。士堂の口端にチョコがついているのを見たハリー達は、やっとこさチョコを口にする。すると今までの鬱な気分が嘘の様に、スーと消えていった。まるでそんな事を考えてもいなかったかの様に。

 

その後は誰も喋らないまま、ただホグワーツに向かう時間を過ごすしかない。吸魂鬼による気分の悪化は無くても、記憶がこびりついているのだ。チョコを食べた時の様な落ち着きは、既に無くなっている。彼らにとって、ここまで憂鬱なホグワーツ特急の旅路は、初めてだった。

 

 

折角ついたホグワーツは、吸魂鬼が通り過ぎたかの様に凍てつく寒さだ。氷の様な雨が地面を叩く音と、生徒のペットの鳴き声が狭いプラットホームを埋め尽くす。その騒音に負けない、あの野太い声が奥から聞こえてきた。

 

「いっち年生はこっちだ!! さあさあ並んだ並んだ!」

 

ホグワーツの森番にしてハリーの親友、ルビウス・ハグリッドの声が聞こえた時の、ハリー達の喜びは大きかった。やっとこさ、ホグワーツに来たのだと実感できる。彼は毎年、不安に駆られる生徒を湖からのルートで、ホグワーツの城に送り届ける仕事をこなしているのだ。

 

「元気にしとったか、4人ともおぉぉ〜!!」

 

モジャモジャの口髭から聞こえる声が響き、人混みでも分かる巨体が大きく手を振ってくれる。士堂を除く3人は、あらん限りに手を振って応えるが、雪崩れ込んでくる生徒達に巻き込まれて、その場を離れざるを得なかった。

士堂は3人ほどのリアクションを取らなかったが、手を高く上げて、サムズアップだけして彼らの後を追う。ハグリッドはそれを見逃さなかった。人混みに紛れた士堂がチラリと視線を向けた時、その大きな手でサムズアップを返していたから。

 

ホグワーツの校舎に行くのには、馬車を使う事になっていた。馬車といっても籠車のみしか見えない。それでも乗ったら一人でに動くから、見えない馬車だと思うしかなかった。カビと藁の匂いが充満しガタガタ揺れる車内では、ロンとハーマイオニーがハリーが倒れるのではと、ずっと側に寄り添っている。ハリーも普段なら恥ずかしがるだろうが、今はそんな余裕すらない。

 

馬車道を進んで豪勢な城が近づくと、手前に大きな鉄の門が見える。その脇に猪の石像が載った石柱が2本、聳え立っていた。その周りを警護しているかの如く、2体の吸魂鬼が漂っているではないか。

咄嗟にハリー達が目を瞑るが、小声で士堂がこう言ってきた。

 

「ルーピン先生からの伝言だ。ネックレスを手に取りながら、好きな事を思い浮かべつつ、目を瞑ってろってさ。」

 

ハリーは慌てて首元からネックレスを取り出して、また強くギュッと目を瞑る。

ブツブツ呟く士堂の声と、微かに聞こえる吸魂鬼の声というか音をBGMに、ハリーはクディッチの試合風景を思い浮かべる事に集中する。彼の両肩に、ロンとハーマイオニーが頭を寄せて同じ事をしていた。

 

門をくぐって城の入り口までは、それなりに長い距離がある。ハリーは丁度半分くらいまできた時、ポンポンと肩を叩かれた。吸魂鬼が近くに居なくなった事を、士堂が教えてくれたのだ。城の尖塔や大中の塔がはっきりと見え、壁の微かな汚れや苔が視認できる距離になった頃。

大きな揺れとともに、馬車が停止した。

 

やっとこさ着いたと一息ついたハリーだが、背後から頭にくる声が聞こえてきた。

 

「ポゥッター! ロ〜ングボトムが言ってたぞ〜。君気絶したのか? 分かるかい、き、ぜ、つ。」

 

気取った、だがとてつも無く嬉しそうな声だ。マルフォイはハーマイオニーを肘でどかしながら、ハリーの目の前にたつ。怒りで顔を赤くするロンが、しっかりと反撃した。

 

「うるさいぞ、マルフォイ!!」

「なんだいウィーズリー。その反応から見れば… 失礼、列車で気絶したのは1人ではなかったのか!! 数の換算を間違えたよ!!」

「マルフォイ…!!」

 

今にも飛びかかりそうなロンを止めようと、士堂が一歩踏み出そうとした時だ。背後からまた声が聞こえてくる。今度は穏やかな、知性を感じさせる声だ。

 

「どうした? おや、君は…」

「ああ、いえ、別に。何もありませんよ、先生。」

 

ルーピン先生だとわかったマルフォイは、和やかに笑みを浮かべた。しかしその瞳は、明らかに嘲笑を込めている。視線が先生の薄汚れた格好を、舐め回す様に動いていた。

マルフォイが配下と共に城に消えると、後ろから来た生徒達が次々に城に入る。他の生徒と樫の門から玄関ホールを抜け、今日の夜空を映す天井が特徴の大広間についた時だ。

 

「ポッター、グレンジャー! 私の所においでなさい!」

 

厳格な声が大広間に響き渡る。4人が所属するグリフィンドールの寮監、ミネルバ・マクゴナガル先生は声から分かる厳格な性格だ。ハーマイオニー以外の3人は、厄介な事がある時必ずといっていいほど会う人物である。

 

「大丈夫です。今回は少々、事務的にお話したいことがあるだけです。あなた方は皆と一緒に行きなさい。さあ、着いてきて…」

 

ハリーとハーマイオニーが先生の後を付いていった。生徒の波に乗りながらも、残された2人はじっとその後を見ている。

 

「なんだと思う? ハリー、また何かしたのかな?」

「何もしてないだろ? それに怒ってる感じはしなかったし…」

 

とはいえマクゴナガルの名を聞くだけで、ドキッとするぐらいに厄介ごとを起こしてきたのだ。グリフィンドールの席に着くまでは、ハリー達が気になる2人だった。

姿を見せないまま、新学期の催しが始まった。まずは恒例の新入生の組み分けだ。今年は知り合いがいないから、2人は初めて野次馬的視点で、組み分けを見る事になる。新入生が期待と不安に苛まれながら古ぼけた椅子に腰掛け、これまた古ぼけた帽子によって将来を決められる。傍観者としてこの儀式を見てみれば、ちょっと面白いものだ。グリフィンドールに入ってきた新入生と握手と挨拶を交わしていく。

 

「あなたがたがあの!」

「あの?」

「いえ、なんでもありません、よろしくお願いします!」

 

概ねこんな感じで挨拶されるもんだから、士堂とロンは度々顔を見合わせた。考えられるのは、やはり今までの出来事だ。

新入生の組み分けが終わり、組み分け帽子と椅子が片付けられた頃に、ハリー達は戻ってきた。身を顰めながら席に座る2人だが、ハリーの事を新入生がゴニョゴニョ囁きあっている。

 

「僕のことどうして見るんだろう。もしかして、吸魂鬼のことがもう知られているの?」

「そんな早いの? もうやになっちゃうわ。」

「諸君!」

 

ダンブルドア校長が立ち上がった。彼はマクゴナガル先生の厳格さと、ルーピン先生の穏やかさと知的さの両方を感じさせる。まるでサンタクロースの様な、立派な白髭を蓄えた老人が放つ穏やかなオーラはハリーにとって心休まるものだ。

そんな校長だが、毎年恒例の新入生歓迎の言葉と注意事項を述べると、細い眼鏡の奥の眼を細めた。

 

「今年は良いニュースと悪いニュース、両方あるのじゃ。重要かつ危険なこと故、先ずは悪い方を話させてもらおう。

知っているものも多いと思うが、吸魂鬼が今年はホグワーツの警護を担当する。理由は簡潔。脱獄犯を警戒してじゃ。」

 

ここで一呼吸入れると、声のトーンを少し落とし始めた。

 

「吸魂鬼は、大変恐ろしい。ホグワーツに住んだおる幽霊達と、同じに考えては相ならん。話が通じる事はない、化け物じゃ。決してホグワーツから無断で外に出ぬ事。また出ることが許可される事はない、と考えてもらいたい。

彼等から身を守る術は、誰でも扱えるものではない。だから君達が知りうる、逃走・回避の手段は通用しないと肝に銘じて欲しい。たとえあの透明マントを使ったとしても無駄じゃ。」

 

校長がそれとなく、ハリー達の方に視線を向ける。ハリーはおもわず、ローブに置いた手を握りしめていた。

 

「そこで監督生、男子女子の新たな主席の諸君。下級生をよろしく頼みたい。吸魂鬼とのいざこざが起きぬよう、気を張ってもらいたい。」

 

遠くでパーシーがこれでもかと胸を張っていた。だがそんな事をしているのは彼ぐらいで、皆事の深刻さに表情が暗い。校長はやけに真剣かつ深刻な面持ちで、生徒たちの表情を観察しているようだ。

 

「まあ、暗い話はこれぐらいにしようかの。さて楽しい話題じゃ!

闇の魔術に対する防衛術は空席じゃった。そこでリーマス・ルーピン先生が、この教科を担当してくださる。」

 

パラパラと拍手が起き、先生席にいたリーマス先生がぺこりと頭を下げた。彼の知識を知るハリー達数人は、拍手喝采だ。そんな薄汚れた先生をある人物が見ている。

 

「ねえ、士堂。スネイプ先生を見てみて。ルーピン先生を睨んでるわ。」

「知ってるだろ? あの人の担当したい講義は魔法薬学なんかじゃないって。有名じゃないか。」

「そうだけど、あんなに睨む必要あるかしら。ルーピン先生は優秀でしょう。なのに殺しそうなぐらい、睨んでるのよ。」

 

件の人物 セブルス・スネイプ先生は、ルーピン先生を確かに睨んでいた。手だけは義務的に拍手しているが、その眼はハリーに向けるものに匹敵するほど、悪意に満ち溢れている。狙うポストを奪ったライバルに向けるには、少々やり過ぎだろう。

 

「そしてもう一つ、空席が生じてあった。『魔法生物飼育学』じゃ。手足のあるうちに余生を楽しみたいと、ケトルバーン先生は退職なされたのじゃ。そこでここにいるルビウス・ハグリッドに、後任を任せる事になった。森番と並行して、皆の授業を受け持ってくれる。」

 

まさしくサプライズだろう。生徒から拍手が、特にグリフィンドールからは歓声すら上がっている。4人は割れんばかりの拍手をしながら、ハグリッドを見上げた。ハグリッドは顔を真っ赤にしながらゴニョゴニョしているだけだ。最後まで拍手を続けた4人は、スネイプ先生のスの字も忘れ去っていた。

 

「では食事じゃ!!」

 

ダンブルドア校長の声と共に、絢爛豪華な食事が始まった。ご馳走にありつきながらも、やはり4人はハグリッドが気になってしょうがない。

かつてハグリッドは、無実な罪を押し付けられて杖を奪われた。不憫に思ったダンブルドア校長が森番にしなかったら、どうなっていたか。紆余曲折を得て彼が手にした職の意味は、言葉では言い尽くさないものだ。

 

ハグリッドと会話できたのは、食後のデザートのカボチャパイがすっからかんになり、会がお開きになってからだ。4人がハグリッドの近くに駆け寄ると、テーブルクロスで涙を拭っているではないか。

 

「お前さん達のお陰だ… ダンブルドアはお偉い… 真っ直ぐだ。ケトルバーン先生の退職が決まったその晩… 真っ直ぐ来てくだすった…」

 

彼が本当に望んだ職なのだ。涙が止まらない彼にエールを送ると、マクゴナガル先生から部屋に戻るよう促された。

波乱に満ち溢れるホグワーツが、また始まりの刻を刻んだ。

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