ハリーポッターと代行者   作:岸辺吉影

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魔法薬学の後は、『闇の魔術に対する防衛術』の授業だ。呪われているともっぱら噂の ー実際士堂達は3年連続で教師が変わっているー 種な訳だが、少し期待感があるのは士堂達だけだった。列車内で見せた優れた危機管理能力から見るに、能力については問題視する必要はない。後は教師として大事な、教える能力があるかどうかだけだ。

 

ルーピン先生は、そんな疑問を吹き飛ばした。手始めに教科書を仕舞わせれると、実地授業をすると言ったのだ。不思議がる生徒を引く連れて移動していた先生は、運悪くビーブスに鉢合わせる。

悪戯好きの城付きの幽霊に対し、先生はこれ以上ない対応をしてみせた。

 

「ルーニー、ルーピン、ルーピンピン。バーカアーホドジマヌケ…」

「ビーブス、鍵穴にガムを詰め込むのはやめたほうがいい。フィルチさんが箒を取れなくなる。」

「なーに言ってんだこのタコガァ?! やっぱりルーピはドジマヌケ…」

「やれやれ… 見ててくれ、簡単な魔法だ。でも案外役立つものだから、覚えておくことをお勧めしよう。

 

『ワディワジ! 逆詰め!』」

 

先生は杖を鍵穴に向けてから、ビーブスに向き直した。するとチューインガムが勢いよく鍵穴から飛び出す。さながら弾丸と見間違えるほどの速さで、ビーブスの鼻の左穴に命中する。

もんどり返った幽霊が悪態をつきながらその場を離れると、生徒達は歓喜の声をあげる。期待感で胸を膨らます彼等だが、移動した先で顔を顰めた。スネイプ先生が、まるで何かを見張っていたかのように立っている。扉から出ようとした先生は、去り際に嫌味を言って消えた。

 

「ルーピン、一つ吾輩から忠告せねばなるまい。ここにいるネビル・ロングボトムは稀に見る生徒だ。」

「というと?」

「あまり難しい課題をこなせないようでね。ミス・グレンジャーの手助けがあったら、まるで見違えるような成績を残すだろうが。

ーでは失礼する、どうぞごゆっくり、授業を行いたまえ。」

 

苦虫を噛み潰したような顔の生徒達に、ルーピン先生はにこやかに笑ってみせる。頭がトマトになったと思えるようなネビルに、優しく声を掛けた。

 

「心配ないよ、ネビル君。僕は君に、初めての授業でのアシスタントを任せようと思っている。君ならきっと出来るはずだ。」

 

そう言って教室の奥にある、古い洋箪笥のそばに立つ。先生が着替え用ローブの保管に使っているものだ。先生が横に立った途端、1人でに箪笥が震えだす。

 

「心配はいらない。大丈夫、ジョーダン。大事なローブが千切れてしまうよ。ネビル、気を確かに。

さて、この中には真似妖怪が入っている。ボガートと呼ばれている。」

 

これは不味いのでは? 前年度の先生も、こうしてデモンストレーションをしてからあの様を見せてくれた。不安が伝わったのか、安心させるようにゆっくりとした口調の、解説がはじまる。

 

「ボガートは暗く狭い所を好む習性がある。例えば箪笥。ー正にこれだねー ベットの下、流し下の食器棚とかも候補に挙げられる。

さて質問だ。ボガートの生態は言った通り。では彼等の行動の特徴は?

ーミス・グレンジャー、どうぞ。」

「形態模写です。人間の一番の恐怖を判断し、その姿に変化します。」

「素晴らしい。私以上の解説だ。 

つまり、ボガートは一眼につかない場所ではどのような姿か、誰も分からない。一度一眼につけば、瞬時にその姿を変えてしまうのだ。」

 

そこで一呼吸置くと、チラリと士堂を見た。先生は少し意地悪するような、しかしスネイプ先生とは違う、試すような口調で質問をぶつけてくる。

 

「士堂君。私達と、ボガート。どちらが有利な立場にあるか分かるかな?」

「現在は僕達の方が有利です。」

「何故かな? 理由を聞かせてもらえると助かる。」

「複数人の人がいれば、一体のボガートでは、誰に化ければいいか分からなくなります。」

 

ハーマイオニーがずっと手を挙げていたが、先生は士堂に質問をぶつける。その答えを聞くと、何度か頷いた。

 

「その通り。だから一番簡単なのは、誰かと一緒にいると言うことだ。私は半身死体、半身ナメクジのボガートを見たことがある。そうだね、恐ろしくも何ともない。

しかし1人の時はどうするか。退散呪文は存在する、難易度は低いよ。

重要なのは笑い、恐怖の反対だね。

では杖なしで唱えてみよう。

 

『リディクラス 馬鹿馬鹿しい!』」

『リディクラス 馬鹿馬鹿しい!』

 

一斉に唱えた声を聞くと、ルーピン先生はネビルを呼んだ。裁判にかけられると思っているのか、ネビルは顔面蒼白だった。

そんなネビルに優しく話しかけながら、最も怖いものを聞き出そうとする。

 

「スネイプ先生」

「すまない、聞こえなかった。もう一度、頼めるかな?」

「スネイプ先生。」

 

教室を笑いが満たした。ルーピン先生はそのなかで、1人真面目な顔をしている。

ネビルの祖母について尋ねると、そこから話を広げる。

 

「いいかいネビル。君のお祖母さんの格好を思い浮かべるんだ。

いつもはどんな格好をしているのかな?」

「どんなって… 帽子被ってる。たかーくて、ハゲタカの剥製付き。緑のドレスに、えーと、狐の毛皮の襟巻き。いつも同じだよ。」

 

どうも趣味がよろしくない格好だと士堂は思った。特に頭にハゲタカの剥製付きの帽子を被るのは、一体どういう趣向なのか。

正しく魔女と言うべきファッションセンスだと受け取れるが、周りの魔法族はそうは受け取っていない。ということは、年老いた魔女は皆そういう格好に行きつくのか?

くだらない事を考えていると、ネビルが洋箪笥の前で杖を構えた。恐怖から目が虚ろな彼の背後に、彼ほどではないにしろ、恐れ慄く生徒が並んでいる。

先生の指示でネビルが対処に成功すると、後ろの人が一歩前に出る。つまり代わり代わり、箪笥の中のボガートと対峙していくことになった。

 

士堂は列の中間地点付近にいた。前も後ろも、必死になってイメージトレーニングをしている。士堂の前のハリーもロンも、目を瞑りながら独り言をこぼしていた。

ロンの脚をもぎ取ってどうたらという、鬼気迫る独り言をBGMに、士堂も想像する事にした。何だろうか、自分の中の恐怖とは?

思いつくのは、ホグワーツ入学前に祖父と見た地縛霊だろうか。対魔の現場に慣れるための、一種の予行練習だった。そこで見た英国の幽霊。魔法省ですら干渉しない、とびきりのものだ。

初めては怖かったな、と邂逅しつつそれをどうにかする為に、更に思考の海に潜った。次は面白い格好。奇天烈な思い出を引っ張り出さなくては。

 

『り、り、リディクラス! 馬鹿馬鹿しい!?』

 

ネビルの上ずった声と共に、パチンと鞭がなったような高い音が響く。

目を開けてみれば、前方にとんでもない光景が写っていた。

あのスネイプ先生が、長いレースで着飾れられたドレスを羽織っている。趣味が理解しにくい、ハゲタカの剥製付き帽子と赤のハンドバッグ付きだ。

ハロウィンでもここまでの仮装はお目にかかれまい、教室は大爆笑の渦だ。1人スネイプ先生が ー 正確にはボガートだがー 途方に暮れたように立ち止まっている。本物のルーピン先生が声を掛け、次々別の生徒を試していく。

 

『リディクラス! 馬鹿馬鹿しい!』

パチン!

『リディクラス!馬鹿馬鹿しい!』

パチン!

『リディクラス! 馬鹿馬鹿しい!』

パチン!

「素晴らしい、ロン! さあ次は…」

 

ハリーが一歩前に出ようとすると、ルーピン先生が前に割り込んだ。

思わずハリーがえっ、と声を漏らすがボガートは銀白色の玉に変化している。先生はゴキブリに姿を変えてから、横にいたネビルに最後を託した。

今度は真正面からボガートに向き合ったネビルによって、ボガートは細い煙の筋となり、消え去った。

 

「よくやったネビル!! これは正しく君自身が掴んだ成果だ。

もちろん皆素晴らしい。ボガートに対峙したグリフィンドールの生徒全員に5点ずつ加担しよう!

勿論ネビルは10点。2回分だ。あとハーマイオニーと士堂。私の質問に見事に答えた。よって2人にも5点。」

「今日の授業はこれまで! 教科書を鞄から引っ張り出してボガートの章を読んでくるように。月曜日迄に内容をまとめてくる事!」

 

〜ホグワーツ新任教師の講義風景〜

「皆、レポートありがとう。よくよく読ませてもらう事にする。

さて今日はこいつだ! この生き物についてわかる事を聞きたい。

ハリー、何だと思う? おお、ロン分かるかな。そう赤帽鬼(レッドキャップ)だ。」

 

「……今日はレタス食い虫について教えちゃる……」

 

「赤帽鬼の生態は、血の匂いのする所を好むのが特徴的だね。例えば戦場跡の深い穴。こういった場所に隠れて迷い込んだ物を襲う。

では何で襲うか? シェーマス、お見事棍棒だ!」

 

「……まあ、レタスを用意してあるから、食わしてやれ。」

 

「対策は何があるか? 血の匂いがする所を好むということは…

ハーマイオニー、素晴らしい! そう、生肉を用意すれば良い。なんでも良い。酷いものは腐った魚の半身にすら、食いつくという報告もある。

その後は棍棒を取り上げれば良い。武装解除呪文、浮遊呪文なんでもオッケーだ。主にこの二つを駆使して、棍棒を取り上げてやれば忽ち逃げ帰る。」

 

「……レタスはそこにあるから、足りなくなったら出せばええ……」

 

「先週迄のレポートを読ませて貰ったが優秀な一言に尽きる。減点する所を探す方が大変だった。努力の成果が垣間見れるね。

今日はこの妖怪だ。そう妖怪、これはヒントだ。何故ヒントかまで分かると、喜ばしいね。

うん、その通り。士堂が言った通り、こいつは河童だ。アジア地域、特に日本と呼ばれる地域では、こうした怪物をしばしば妖怪と呼称する。

つまり妖怪なんて言葉が説明文にあったら、生息地は自ずと絞られやすい。…ハーマイオニーは察しがいいね。」

 

「……レタス食い虫が腹減っちょる。食わしてやれ……」

 

「生態について聞いてみよう。 パーバティ、惜しいな。

水辺に生息するのは正しい。ただ海では見られないか、もしくは大変珍しいと言える。大抵湖が生息地として挙げられる。後は川が住処とも報告があるかな。

さて河童は何をしてくるか… ラベンダー、よく教科書を読んでいた。

水中に引き摺り込んで、水掻きのある手で絞め殺そうとしてくる。」

 

「……レタスはここに置いちょる。」

 

「対処についてはどうするか? ハーマイオニー、完璧だ。

最も簡単な撃退方法は、お辞儀をすればいい。河童にとってお辞儀は、全面的な降伏に匹敵する、最大級の作法だ。

ではお辞儀するとどうなるか? 皿の水が溢れて、慌てて水中に飛び込むのさ。

水辺から離れ、冷静になれるかがポイントになるね。」

 

「……レタス、足しておいたら帰ってええぞ……」

 

新任2人に対する生徒の評価は全くの真逆だ。どちらも予想を大きく裏切ってくれた。

ルーピン先生は、いい意味でだ。分かりやすい解説と生徒を立てる講義は、一部生徒を除いて大変人気となった。

オドオドしがちなネビルなんかもこの講義ではイキイキとしているし、目が輝いていた。この講義を受けて以来、士堂達にとって最良の先生だろう。一部生徒のやっかみすら、ルーピン先生にはまるで効いていない。

対照的に悪い意味でハグリッドは裏切った。初回の失敗を引き摺り、なんとレタス食い虫についてしか、講義を行っていない。碌な説明もなく、ただ時間を潰す以外しないのだ。

レタス食い虫はレタスさえやってれば良いから、教えようがないとも言える。そんな事にすら気づかないハグリッドは、残念ながらダメ教師のレッテルを貼られてしまっていた。

 

他は概ね例年通りという評価に落ち着いたようだった。あえて言えば、2つ例外が挙げられる。先ずは以前にもましてネチネチと、特にグリフィンドールを虐めるスネイプ先生の魔法薬学だろうか。特にネビルは口から泡でも拭くのではと心配になる程、口攻撃の対象にされてしまった。ルーピン先生の時とは対照的に、文字通り蛇に睨まれた蛙のように自信喪失状態だ。

もう一つ()()占い学は、ハーマイオニーのように胡散臭い目でしか見ていない生徒と、パーバティ達のように熱狂する生徒に二分された。熱狂する生徒は女子が中心で、まるで世界の全てを見透していると言わんばかりの態度を取ることが増えている。熱狂する生徒の代表例であるパーバティ・パチルの夢みがちな文言が聞こえてくると、必ずと言っていいほどハーマイオニーの教科書が音を立てて閉じられた。

 

 

波乱が巻き起こりそうな講義を無我夢中でこなしていくと、いつしか月日は10月を迎える事になる。

この頃になるとハリーはクディッチ練習に明け暮れていた。一週間に三度、みっちりと仕込まれるのも、キャプテンを務めるオリバーが今年で卒業だからだ。何年もグリフィンドールは優勝杯を獲得できていない。今年は是が非でも優勝しなくてはならなかった。

熱のこもる練習に、ハリーは講義のストレスをぶつけるかのように集中していく。士堂とロンも次のクディッチの予想掛け金を、想定し始めていた。学校中でクディッチ熱が燃え上がり始めているのだ。

そんなある日の夜、ホグズミード行きの掲示板について話し、天文学の宿題を解いていた時だ。談話室の机で課題をこなしていると、部屋の隅から頭を撫でるような獣声が、小音ながら耳に入ってくる。音の方向に視線を動かしたロンの機嫌が急激に悪くなった。

 

「おい、よりによって僕にそれを見せるのか?」

「そんな言い方やめて。クルックシャンクス、お利口さんね。」

「そいつを僕に近づけるな。なにせスキャバーズが僕の鞄で寝てるんだ。」

 

ハーマイオニーのペット、クルックシャンクスを見たロンが、顔をくしゃくしゃに歪めていた。そんなロンを嗜めると、ハーマイオニーはクルックシャンクスを飼い主として褒めてやる。

だがロンの嫌いな蜘蛛の死骸を、クルックシャンクスはその口に直接咥えているのだ。蜘蛛にいい思い出がないものだから、とびきりの嫌な顔をしたままのロンは、しっしっと猫を追い払おうとしていた。

結局追い払えないまま天文学の宿題、星座図をハリーに写させるために渡したロンが、嫌な顔をしながら片付けを始めた時に騒動が起きた。

 

「おい、止めろ!!!」

「クルックシャンクス!」

 

じっとロンを見ていた猫が、唐突にロンの鞄に爪を立てたのだ。ロンが慌てて離そうとしても、深々と突き刺さった爪は容易に剥がれようとはしない。

強引に鞄を離そうとロンが振り回すと、ハーマイオニーが悲鳴を上げた。それでも離そうとしない猫だが、振り回した勢いでスキャバーズが外に飛び出してしまう。

 

「誰かあの猫を捕まえてくれ!」

 

叫ぶロンの声も虚しく、鼠を追う猫は誰にも止められない。場所が談話室だったから、生徒が捕まえようと手伝ってくれた。

しかし悪戯坊主のウィーズリー兄弟の匠の手すら、クルックシャンクスはすり抜けてしまう。やっとこさ整理箪笥に隠れたスキャバーズと、その前で体を震わせて威嚇するクルックシャンクスを捕まえると、今度は飼い主同士の言い争いに発展した。

 

「おかしいよその猫は!! どうしてスキャバーズを狙うんだ?!」

「猫なのよ、しょうがないわ! 悪い事だと思っていないんですもの!!」

「そいつ絶対僕の会話を聞いていたんだ!」

「この子は匂いで嗅ぎ分けただけよ、言いがかりは大概にしてちょうだい!」

 

次の日の薬草学は、またも険悪なムードだ。ロンとハーマイオニーはむすっとしたまま、一言も会話を交わす事なく講義を受けている。2人に挟まれた士堂とハリーは、身体が一回り小さくなったと思えた。特に士堂は事件当時、図書館にいたもんだから巻き添えに近いのだ。

不幸ではあるものの、ハリーは次の変身術の講義の後、ホグズミード行きの書類についてマクゴナガル先生と話さなくてはならない。友人の喧嘩にホグズミード、頭が一杯なハリーだ。

 

マクゴナガル先生の厳格な雰囲気を初めて気にする事なく、終業のベルが鳴った。喧嘩中の2人に挟まれた緊張感からか、深々と溜息をついた士堂は、暫く席から離れられなかった。

目も合わせない2人も、ハリーを待っているからか席を離れない。士堂が年季の入った机の滲みを、動物に見立てて時間を食いつぶしていた時だ。

 

「…そんな…」

「…ポッター、これは…」

「だめそうだなぁ。」

「そりゃないぜ、マクゴナガルは血が通っていないのか?!」

「危ないからに決まってるわ、当然の判断よ。」

「その言い方は何さ、ハリーはどうする?」

 

またも言い争いを始める2人に、士堂は床の埃すら愛おしいと思えてきた。

 

4人が、特に2人がわいわい言い合いながら教室を後にすると、マクゴナガル先生は暫く動かなかった。ホグズミード許可証の束を握りしめたまま、憂いを帯びた瞳を紙に向けている。

そんな折、教室の扉が開いてスプラウト先生が入ってきた。

 

「マクゴナガル、少しご相談が。…何かありましたか?」

「ええ、ポッターがホグズミード行きの許可証が保護者から貰えなかったと。そう言ってきましたので。」

「まぁ何と、それは酷な。このご時世では行けないのはしょうがないにしろ。」

「そんな気遣いがあの家にあるとは思えません。何も危険がないなら、私の方でどうにかしてもいいのですがね。」

 

悲しげに首を振ったマクゴナガル先生は、一枚の紙をスプラウト先生に見せた。その紙に目を通したスプラウト先生は、思わず口を押さえてしまう。

 

「やはり、校長の懸念通りという事ですかマクゴナガル?」

「ええ、アルバスが学期前に話した、避けるべき事態ですよ。何とも言えません、無力な自分が恨めしい。」

 

その紙にはこう記されていた。

 

私、士柳・安倍は保護者として士堂・安倍のホグズミード行きを、許可するものである。

追記 この度私、士柳・安倍は保護者として士堂・安倍のホグズミード行きの許可を、急ぎ取り下げる事をここに記す。」

 

 

ハロウィンの日がホグズミード行きの日だ。その日ハリーにとって憂鬱な朝を迎えたのだが、勿論表情に出さないようにしていた。

玄関ホールまでロンとハーマイオニーを見送って、嫌なマルフォイの目を逃れる。

熱心なハリーファン、2年のコリンをかわしつつぶらぶらと城内を彷徨いていた時だ。

 

「ハリー、何をしている?」

 

同じ言葉をフィルチにかけられたハリーだが、声の主はルーピン先生だった。先生のそれは、優しいものだ。

 

「ロンたちは?」

「ホグズミードです。」

 

その言葉を聞いた先生は、ハリーをジーと見つめる。そのまま教室にハリーを誘い込むが、ハリーを入れてから廊下の奥の方に大声をかけた。

 

「君も来たければ、来て良いぞ!」

先生の声は誰もいない廊下に響き渡るが、反応する音は聞こえてこない。それでもルーピン先生は、扉を閉めずに自室へと足を踏み入れた。ハリーは部屋の中で、水槽に入った怪物を繁々と調べていた。鋭い角が特徴の緑の怪物は、顔をガラスに押し付けて百面相をしている。

 

「そいつはグランデロー、水魔だ。あまり難しくはない、何しろ河童の後だ。

ー特別だよ。こいつ特徴はやはり長い指だね。一度掴まれると厄介だが、工夫次第では脆くもなる。

…勿論講義で正解しても、点数はあげられない。」

 

片目で不器用なウインクをしてから、ルーピン先生は杖を一振りした。教室の食器棚から、3人分のティーセットが瞬く間に用意される。小汚いが手入れの行き届いたそれが、几帳面にテーブルに並んだ。

 

「あの、僕たちだけです。一つ余分では?」

「僕もいるんだ、紅茶ぐらい飲んでもいいだろ。」

 

ハリーは心底驚いた。横にいるのは士堂ではないか? しかし彼はロン達とホグズミードへ…

そんな疑問は、一枚の紙切れで吹き飛んだ。そこには見慣れない文字と英語の一文が書かれている。

[分かるな。 安倍家66家宗主 安倍 士柳]

 

「この文字は? 筆記体みたいだけど英語じゃないよね?」

「日本語。見ての通り、僕たちは日本人の家系だから。僕なんかは英語の方が親しみあるけど、祖父さんは家族間の手紙じゃ、どうしても名前は日本語で書いてしまうんだな。

字は筆で書いているんだ。動物の毛で作った筆で、一筆で書くイメージ。もう日本人でも書ける人は多くないし、読めない人も多いよ。」

 

異国の文字に驚くハリーだが、大事な事はこんな事ではない。何故士堂が城に居るか、そこだった。

 

「つまりハリー、君を1人にしない為さ。祖父さんはよっぽど、シリウス・ブラックを警戒しているみたいだ。マクゴナガル先生に朝言われたよ。直接取り消しの文書が届けられていたんだと。」

「先生達も気をつけてはいるよ。それでも近しい人がそばにいる方が、より安全だ。何より安心するからね、君が。

ティーパックで入れたものだが、紅茶には違いない。」

 

ルーピン先生が入れてくれた紅茶を飲み、用意されたパウンドケーキを齧る。洋菓子に奪われた口内の水分を紅茶で補いながら、先生の話を聞く事になった。

 

「さて、何か話そうか。何でもいい、質問をしてみてくれ。」

 

ハリーは何かを考え込むかのように、紅茶のカップを見つめていた。やがて決心がついたのか、おずおずとルーピン先生に尋ねる。

 

「先生、その。何故真似妖怪の授業の時、僕の前に立ったのですか?」

「えっ?」

「僕が戦えない理由がありましたか?」

 

意外だとばかりに、ルーピン先生の眉が上がる。

 

「ハリー、言わなくても分かると思っていた。」

「何故なんです?」

「それはだね… ボガートが君を見たら、ヴォルデモート卿に変化すると思った。理由はそれだけだよ。」

 

今度はハリーが眉を上げる。ハリーにしてみれば、考え付かなかった答えだ。何故なら。

 

「僕はヴォルデモートよりも吸魂鬼の方が思い浮かびました。」

「そうか… そうかそうか。 いやね、僕は感心している。

つまり君自身の恐怖は、吸魂鬼 ーすなわち恐怖そのものだという訳だ。 うんうん…」

 

ケーキとお茶のお代わりを渡しながら、先生は何度も頷いた。その姿からは、どこか嬉しそうというか感慨深いという言葉が似合う、そんな印象を見受けられた。

先生は話の矛先を士堂に切り替えた。

 

「君はどうかな? 何か疑問や悩みなんかは?」

「そうですね。それなら僕からもハリーと似た事を。

ホグワーツ特急で吸魂鬼と会ったとき、僕の前に立ち塞がったのはハリーと似た理由ですか?」

「それも答えは簡潔だ。吸魂鬼に立ち向かえる力は君にはない。」

 

その言葉に顔を顰めたのは士堂だった。心外だとばかりに眉と眉をくっつける士堂に、ルーピン先生は講義のような話し方で説明してくれた。

 

「僕は君の魔術について多少知識があってね。吸魂鬼を君の魔術で排除出来るか? 出来るかも知れない。しかしそのとき、君自身も危険な目に遭う事は避けられないんだ。

あの時、吸魂鬼を追い払おうとは考えていなかっただろう? 君は排除しようとしていた。」

「そうです。浄化しようとしました。」

「吸魂鬼は存在自体が魔法なんだ。例え彼らを浄化出来たとしても、正の感情を抜き取ろうとする、魔法というより呪いに近い現象はその場に残る。

無論、カスに近い。が、危険な代物だ。何せ感情を吸い取ろうとだけする、台風みたいなものだからね。」

 

つまりだ、と言ってルーピン先生は一呼吸置く。

 

「あの時私が止めなかったら、君は吸魂鬼の浄化には成功していたかも知れない。しかし吸魂鬼を浄化出来たとしても、そこに残る残骸に英気を吸い取られる事になっていたね。

廃人とまでは行かなくても、聖マンゴ病院に半月は縛り付けられていた可能性は、十分高いと言えるよ。

いいかい、奴等に通用する術。それは近づかないか、ある魔法以外ないんだ。」

 

その時、スネイプ先生が教室に入ってきた。何やら煙が立っている、怪しげな薬をルーピン先生に手渡す。苦味が酷いのかしかめ面で薬を飲むルーピン先生を、スネイプ先生は瞬きもせずに見つめていた。

 

 

日が暮れて談話室に戻ると、ホグズミードに行った生徒が戻って来ていた。ロンとハーマイオニーは喧嘩のことなど忘れたかのようで、矢継ぎ早に村の詳細を教えてくれる。

魔法用具のダービッシュ・アンド・バンクス、悪戯専門店のゾンコ、有名なバー「三本の箒」、お菓子屋のハニーデュークス。2人の為に買ってきた大量のお土産をぶちまけながら、さながら日刊預言者新聞の「今日のお勧めスポット inロンドン」のようだ。

ロンとハーマイオニーはその後のハロウィンのご馳走も、全部お代わりしている。去年食べられなかったからか、もしくはホグズミードで飲んだというバタービールの影響か。

 

マルフォイの取り巻き達のような腹をさすりながら、ゆたゆたと歩くロンと共に、談話室に帰っている時だった。談話室の前でグリフィンドール生が、すし詰めになっている。

どうやら門番の役割をしている肖像画が、扉を閉め切っているらしい。パーシーが偉そうに胸のバッジを見せつけながら、先頭に向かっていった。

まるでこういうトラブルを待っていたかのように、自信に満ち溢れている。肖像画の前に着いたパーシーの生徒に注意する声が、聞こえなくなった瞬間だった。

 

「誰か、ダンブルドア先生を呼んでくれ、早く!」

 

パーシーの叫び声が、廊下に響き渡る。その声は悪戯とかではなく、緊迫した状況である事を示していた。その声を聞いたグリフィンドール生が、一斉に騒ぎ始め、周囲に戸惑いと混乱の声がひしめき合い始めた。

その時、音もなくダンブルドア校長が現れる。生徒が自然に道を開けると、後ろの方にいたハリー達も、肖像画を目にすることが出来た。

 

「ああ、なんて事なの?!」

 

ハーマイオニーが隣にいるハリーの腕を、がっしり掴んで叫ぶ。

肖像画は無残な姿を、あられもなく晒している。絵は滅多切りに、かなりの部分が切り取られていた。キャンパスの切れ端が床に散らばり、凄惨さを強調している。

ダンブルドア校長がもの悲しげに視線を落としていると、マクゴナガル先生始め数人の先生が、階段を登って校長に駆け寄ってきた。眉を顰めつつ、校長はマクゴナガル先生に指示を出すが、その顔色からするに彼自身ショックを受けているようだ。

 

「マクゴナガル先生、すぐにフィルチを呼んでくれたまえ。婦人を探してもらわなくてはならん。」

「ええ、勿論です。すぐに。」

「おお〜 ふとった、太ったレディはぁ〜 門番失格失格、見つかったら〜 お慰み〜」

 

神妙に頷いたマクゴナガル先生が来た道を戻ろうとした時、ビーブスはここぞとばかりにやってきた。大惨事や心配事をこよなく愛するポルターガイストは、先生達の上をひょこひょこ漂い続けている。

 

「ビーブス、詳しい話を聞かねばならんようじゃの。」

 

さしものビーブスでも、校長となれば例外である。特に今の校長の問いには、いつもの融和な声色は一切なかった。ポルターガイストはねっとりとした作り声で、嫌味ったらしく会釈する。

 

「校長閣下、恥ずかしいのです。ズタズタのあの女は、5階の風景画まで一目散に逃げていきましたよ。

ええ、ひどく泣き叫び、枝木を掻い潜ってね。ご愁傷様です。本当に。」

「婦人は誰にやられたか、何か言っておられたかの?」

「ああ確かに言ったました。そいつは婦人が中に入れないもんだから、酷くお怒りでしたねぇ。昔から何も変わっちゃいない。」

 

ビーブスは空中で宙返りすると、脚の間から校長を覗きつつ、なんとも言えない顔でニヤついていた。

 

「癇癪持ちのやる事は怖いですねぇ。あのシリウス・ブラックって奴は。」

 

 




講義に出てくる生物の一部説明は、オリジナルを加えさせてもらいました。
赤帽鬼の撃退方法、河童のお辞儀をする理由がオリジナル設定になります。
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