夜中になってからハリーとロンは私服に着替えて行動を開始する。透明マントと杖を持って談話室に向かおうとすると、目の目に士堂が立っていた。
「ハリー、本当に行くのか?」
「当り前じゃないか、スネイプが賢者の石を狙っているのは君も知っているだろ?」
ハリーが反論しても士堂が納得していないことにロンが腹を立てる。
「なんだって君はハリーを疑うんだ。あんなに怪しいのに何が不満なんだい。」
「本当にスネイプ先生だと思っているのか?」
ハリーとロンが訝しげに眉を顰めると、士堂が自分の考えを話す。
「君はハグリッドからフラッフィーの守りについて聞いたのはスネイプ先生だと思っているんだろ?」
ハリーが頷くのに合わせて話が続く。
「つまりそれが本当なら、スネイプ先生はフラッフィーの守りは対処できるはずだ。ならなぜ足に怪我を負うんだ?」
どうやらこの考えはハリーらにはなかったらしい。ハリーらを無視して士堂は話を進める。
「へまをしたとは考えにくい。あの人はスリザリン贔屓のくそったれかもしれないけど、ダンブルドア校長が信頼するほど優秀な人材なことには間違いないからな。」
実際授業中のスネイプ先生は贔屓を抜きに見てみれば、その知識の豊富さと解釈の深さ・実践的なアドバイスを送る。彼の能力に疑問を持つ者はホグワーツにはいないだろう。
「誘導にトロールを使うのもおかしいんだ。野生のトロールを操るには専門的知識が必要だし、わざわざトロールを使わなくたって得意の魔法薬を生かせばいいんだから。」
自分の想定通りに動くか定かでないトロールよりも、魔法薬を使った誘導の方をスネイプ先生は選ぶだろう。あの人は痕跡を残さずに事を進めることが出来る能力を持っている。
自分の考えの盲点を突かれたハリーだったが、彼には止まる選択肢はなかった。
「そんなこといったって石が狙われているのは本当だ! ダンブルドア先生もいないし今がチャンスに違いないんだ! 僕らで止めるしかないだろ!」
ハリーが頑として動く気がないことが分かった士堂は、ロンに目を向ける。ロンも自分たちで守ることには変わらないと見えた。ため息をつきながら士堂は降参のポーズをとる。
「わかった、僕も行こう。君らだけよりかは戦力になるだろうから。」
そういって談話室に向かう士堂に2人は歓喜の表情でついていく。
談話室に出ると、先に来ていたハーマイオニーとなぜかネビルがいる。
「遅かったじゃない、時間はないのよ。まさか怖じ気づいていたの?」
「そんなんじゃないよ、ただ僕の考えをぶつけただけさ。」
それよりもと3人がネビルに目を向けると、おびえながらもネビルは4人の前に立ちはだかるようにして立つ。
「き、君たちまたなにかするんだろ? そ、そうなったらグリフィンドールの点数がまたひかれちゃう。」
ネビルの必死な声にハリーは優しく反論する。
「ネビル、僕らはいかなくちゃダメなんだ。通してくれ。」
「ネビル。これはマジにやばいんだ。頼むよ。」
ロンも続くが、ネビルは首を振って似合わないファイティングポーズをとる。
「こここは通さない。僕戦うぞ!」
ハリーに負けないぐらい頑固なネビルにハーマイオニーが杖を向ける。
「ごめんなさい、ネビル。こんなことはしたくないんだけど。」
『ペトリフィカス・トタルス 石になれ。』
ネビルに青白い光が走ると、気をつけの姿勢で硬直しながらその場に倒れこむ。
「君って時々おっかないよね。そりゃあさ、すごいけど。」
でもこわいよと杖をホルダーに納めるハーマイオニーにロンがささやく。
「行こう。」
ハリーの声とともに4人はネビルの横を通って談話室を出る。
透明マントを使って4階の扉までたどり着いた4人は、フラッフィーが寝ているすきに、下に続く扉に飛び込む。そこには悪魔の罠が設置されており、もがけばもがくほど締め付ける植物だった。身を委ねることで脱出するも、いまだに捕らわれたロンをハーマイオニーが太陽の光で救い出す。
次は空飛ぶ鍵が大量に飛び回っていた。古びたカギをその場にあった箒でハリーがキャッチして突破する。次は巨大なチェスが待っていた。チェスが得意なロンの指示でコマを進めるが、ナイトにいたロンが自らを犠牲に3人を進める。
「君たちが先に行って賢者の石を守るんだ! 行け!!」
ロンの覚悟をうけたハリーが先に進み、泣き出すハーマイオニーに士堂が寄り添って先に進む。
次は論理パズルと魔法薬の試練だった。ここはハーマイオニーが得意の知識を生かした分析で正解の薬を引き当てる。
「私はロンのところに行って助けを呼ぶわ。あなたたち二人が賢者の石を守るのよ。」
その言葉に士堂とハリーは薬を飲むことで返事をする。最後はトロールの試練だった。だが以前のものよりも大きいトロールは頭に強打を食らって失神している。誰かが先にいるのは明白だった。
先に進むとそこには古代の祭儀場を思わす広間があった。古代ギリシャ風の柱が立ち並びすり鉢状になった中央の平らな場に、みぞの鏡がおいてある。鏡の前にはハリーの予想した黒髪の嫌味な魔法薬の先生ではなく、ターバンを巻いた臆病な防衛術の先生が立っていた。
「来たなハリー・ポッター。待ちわびたぞ。」
いつものオドオドしたクィレル先生はいなく、落ち着き払った様子で淡々とハリーに声を掛ける。
「やはりスネイプ先生ではなかったか。あなたとは考えませんでしたが。」
自分の杖を向けながら士堂が声をかけると、意外そうに反応して見せた。
「おやおや、スネイプに疑いを持っていたのはハリーだけだったのか、これは意外だ。勝手に執着していたから好都合だったのだがな。いかにも怪しいスネイプ先生がいれば、ここんなおお臆病ななクィレル先生、には目を向けまい。」
「どうしてあなたが? クディッチの試合でスネイプは僕を殺そうとしていた。」
ハリーの疑問にクィレルが忌々しそうに答える。
「いいや、あの時殺そうとしたのは私だ。スネイプが反対呪文を唱えて私の闇の呪文に抵抗していたのだ。突然の発火に驚いて目を離さなければ暗殺できたものを。」
「じゃあトロールを入れたのも?」
ハリーの問いにさらに忌々し気にクィレルは答えた。
「そう私だ。皆が地下室に行く中、あいつだけが4階に向かっていた。いつもいつも私を一人にはしなかったのだ!」
その時ハリーの額の傷が疼く。今までない痛みに顔をしかめるのを見た士堂が一歩前に出てハリーを守るように立つと、鏡を向いたクィレルはつぶやく。
「だが私は一人ではない。皆は気づいていないが決して一人ではなかった。さあ鏡には何が写る? ああ見えるぞ。私が賢者の石を手にする姿が! ご主人様に手渡し、褒美をもらうさまが! なのに手に入らない。なぜだ。」
そう一人でしゃべるとハリーに声をかけてくる。
「さあハリー。私の横に立て。立てば何かが見える。」
「そんな誘いは受けれないな。」
強く杖を向けながら士堂が前に出る。
「ほう、ただの一年生が私に逆らうか。愚かな。」
「それはわからないだろう? こっちもなめてもらっちゃ困るんだよ!!」
『ラカーナム インフラマーレイ!!』
ハーマイオニーが使っていた呪文を力強く唱えると杖から勢いよく炎が上がる。本来は対象物を燃やす呪文であるが、どういうわけか炎が生成されてクィレルに向かう。その呪文はこれまたどういうわけかとてつもない速さで、クィレルに襲い掛かった!
クィレルは無言で炎をかき消すも予想外の速さに対応が遅れる。そのすきに士堂は自分の知る呪文と魔法をぶつける。
『アグアメンティ 水よ!』
勢いよく出てくる激流に打ち消すのが精一杯のクィレルにさらに攻勢が続く。
『グリセオ 滑れ!』
足元を狙った呪文に反応出来なかったクィレルに士堂はあえて距離を詰める。
魔法や呪文ではいつか通用しなくなる。呪文を無言で捌かれている以上それはそう遠くはない。だから突っ込むのだ。魔法を学ぶ前から身に刻まれた術を叩き込むために。
杖をしまいながらクィレルから4歩近くの距離になると、士堂は右足で強く地面を蹴る。加速する勢いのまま右足をそのまま前に出しつつ、引いてあった右拳をねじりながら突き出す。右足の着地と同時にクィレルの肋骨の下に右拳をねじりこむと逆手である左拳をフック気味にみぞおちに叩き込んだ。口から苦悶の声が出てくるのを無視し、クィレルの肩をつかんで左足膝蹴りを肋骨になおも食らわせる。
体を九の字に曲げるクィレルを地面にたたきつけ、その顔を思いっきり蹴り上げると、士堂はすぐに距離を取って杖を構えなおす。感触は良かったが、油断はできない。相手が戦闘不能になる寸前まで気を抜かないのは戦闘における基本である。
士堂の武術は中国拳法が主体の独自のものだ。普通の拳法と違い、己が魔力を手や足に集めることで威力を上げている。魔力の集中は魔術回路が認識できなかったころから士堂にはできたのだ。クィレルは体を鍛えているわけではなさそうであったから、いかに大人でも士堂の攻撃は効いているように見える。
見たことのない士堂の体術に動けずにいたハリーが思わず駆け寄る。
「すごいや、今の何? もしかしてカンフーてやつ?」
「バカ、近寄るな!! まだ何が起きるかわからな」
駆け寄るハリーを突き飛ばした士堂は赤色の閃光をもろに食らって吹き飛ぶ。突き飛ばされたハリーが目を向けるとクィレルが立っていた。
ハリーは立ち上がったクィレルに違和感を覚える。目の前の人物はクィレルにしてクィレルにあらず。そう本能が答えを出していた。
額の傷がまた痛む中、クィレルは頭のターバンをゆっくりと外す。後頭部をハリーに向けると、そこには何かが憑依していた。蛇のような皺が顔中に走り目は赤く光っている。見たことがないはずの生物にハリーは、その正体を本能的に理解した。
「ヴォルデモート。」
「そうだ、ハリーポッター。また会ったな。」
ささやくようにしながらヴォルデモートは話かけてくる。
「今の私は誰かを宿主にしなくては生きられぬ体だ、まるで寄生虫のように。ユニコーンの血を吸わなくては生きられぬ体だが、ある物さえ手に入ればそれも解決する。」
「さあハリーポッター、私の横に来るのだ。立って鏡をのぞいてみるのだ。 さもなくばあの者の命はない。」
ハリーは横たわる士堂に目を向けながらゆっくりと鏡の前に立つ。鏡には死んだ両親の姿は見えなかった。ハリー自身が写っていたのだ、赤い石を手にして。
たじろぐハリーをよそに、鏡の中のハリーは赤い石をこれだよとばかりに掲げてからポケットの中にいれる。ハリーは自分のポケットに何かが入るのがはっきりと分かった。
「見える、見えるぞ。体を取り戻して再び返り咲く私の姿が!! ダンブルドアも魔法省も打ち滅ぼし、私が君臨するさまが!!」
鏡をのぞくヴォルデモートの体が不自然に揺らめくのを、ハリーは見逃さなかった。先ほどの士堂の攻撃は予想以上にクィレルの体にダメージを与えているようだ。
もうすぐハーマイオニーが呼んだ先生たちも来るはずだ。ハリーは透明マントで歩く時のようにゆっくりと音をたてないように下がりつつ、士堂のそばに近づく。彼を見捨てる選択肢はなかった。
「さあハリーポッター、その手にある賢者の石を渡すのだ!」
だがヴォルデモートは賢者の石を手に入れたことに気づいていた。手を振って広間の周りに炎を発生させて逃げ道をふさぐ。そしてハリーを素手で捕まえようと跳躍してきた。
喉元を絞められたハリーは必死に逃れようとするが、子供と大人の力では対抗できない。手に持っていた賢者の石を手放すほどに力が抜けていたハリーは必死の思いでクィレルの手をつかむ。
するとクィレルの手がハリーが触れた場所から燃えるようにしながら崩れていく。
「ぐああああ?! 何だ、これは?! 何が起きているのだ、からだが、く、崩れ、」
それを見たハリーはとっさにクィレルの顔に手を押しつける!
ハリーが触れたそばからクィレルの体は崩れ行く。砂状に崩壊するその様にハリーが座り込むようにして離れるのを砂状の何かが手らしきものを伸ばすが、触れぬままに崩れ落ちた。
衣服と砂が残った地面を見ていたハリーは疲労が押し寄せる中で士堂に近づく。
「しっかりして、士堂! 目を開けるんだ!」
そう体を揺するハリーの背後から何か禍々しいオーラを感じた。
そこには霧状のヴォルデモートが苦痛の声を上げながらハリーにめがけて突っ込んできていた。
ハリーは近くで何かが動くのが分かった。目を向けるとそこには士堂が立っているじゃないか!! 起き上がった士堂は霧状のヴォルデモートを目にしたとたん両腰につけていた柄を両手に取る。
『告げる(セット)』
その声とともに柄から青白い光とともに一瞬にして剣が伸びていく。およそ30㎝ほど伸びたそれを体の前でx上に交差してから、士堂は剣を振り払うようにヴォルデモートに向けて投擲する!!
右手から放たれた一本がヴォルデモートに刺さるとヴォルデモートは恐怖を感じるような絶叫を上げる。左手の黒鍵を投擲する溜をしつつ士堂は詠唱を開始する。それは世界で一番浸透した宗教の力を根底にする魔に対しての死の勧告であった。
『私が殺す。私が生かす。私が傷つけ私が癒す。』
だがそこで終わる。力尽きるかのように左手に黒鍵を握ったまま士堂が倒れこむと、黒鍵から逃れるようにヴォルデモートはその場を離れていく。
魔法でも呪文でもない、何かを殺すものを士堂が使うのを呆然と見ていたハリーは慌てて士堂に駆け寄る。だがハリーはうつ伏せの士堂を起こしたところで力が抜けるのが分かった。
まるで寝落ちするかのように意識が消えていくハリーは、意識が消える直前誰かがこっちに駆け寄ってくるのを見た。
例のごとく試練の方は駆け足気味に。
原作読んだのがだいぶ前で映画をもとに作っています。その中でなぜ魔法が使えるクィレルがハリーに素手で近づいたのかという部分を自分なりに理由付けしました。
次回詳しく考察したいと思います。
不自然なところがあったら教えてくれるとありがたいです。