再会
ホグワーツの休暇を通して士堂は鍛錬の日々を送っていた。対クィレル戦において呪文をもろに食らい気絶したのが理由だ。とっさの攻撃に反応できるように、今は士柳の投げる疑似黒鍵を躱す練習に明け暮れていた。
「其処じゃ、気が抜けておる! わしの手を見てはならん、全体をぼんやりと見なくてはいかんのじゃ!」
繰り出される黒鍵は地面に突き刺さるたびに衝撃で周囲をくぼませる。士堂が手の大きさから一本しか持てないのに対し、士柳は片手に三本をかぎ爪のように指で挟みながら、次々と投擲するのだ。
「今日はここまで、まあこればっかしはのお。」
士堂の現在の課題は経験不足。これも実戦が増えれば問題はないのだが、実践が増えては危険が増す。そこで命を落としては本末転倒なのでジレンマが生じていたのだ。
「なるようにしかならんて。気長に待つしかないのお。」
「それじゃあなあ。」
息を整えながら祖父の答えに士堂は不安になる。 本当に大丈夫だろうか。
「ま、考えるのは飯食ってからにするか。」
そう一人つぶやいて士堂は背伸びを一つ下。
「ウィーズリー家に遊びに行く用意はできたのですか?」
夕飯後に柄を磨く士堂に道子が声を掛ける。
「出発は明日でしょう? それにそのまま学校に向かうってことは、学校の準備も必要になるじゃないですか?」
士堂は柄を置いてカラスのフギンに餌をやりながら答える。
「用意はできた。必要な教科書も向こうでみんなと買うから。」
「何も起こらないといいけど…」
「それはどうじゃろうなあ。一年生でこれなら今年はどうなることやら。」
祖父のどこか抜けた答えに苦笑いするしかない士堂だった。
次の日荷物をまとめた士堂は暖炉の前に立っていた。今日は煙突ネットワークなるもので迎えに来るとのことで、そのために暖炉の前にいるのだ。
「大丈夫ですか、忘れ物は?」
何回目かわからぬ祖母の心配にあきれながら合わせる。
「大丈夫、ハーマイオニーがリストを作って手紙で送ってくれたからその通りにしたんだ。」
「あなたが人様のうちに行くのは初めてですからね。失礼があったらと思うと…」
話しているうちに暖炉から火が上がり、パーシーがでてきた。
「はい士堂、元気そうで何より。準備はもうできてるみたいだな。弟たちも見習ってほしいよ。」
「そっちこそ元気そうで良かった。その様子じゃロンたちも大丈夫そうだな。」
パーシーは士堂と挨拶してから祖父母とも挨拶をする。
「パーシー・ウィーズリーです。弟のロナルドがミスター士堂と仲良くさせてもらってます。」
「私が士柳・安倍です。隣にいるのが妻の道子です。こちらこそ家までお邪魔するとはご迷惑をおかけします。どうぞウィーズリー夫妻によろしくお伝えください。」
「ええ、両親から顔見知りだと伺っています。両親もよろしくといっていましたから。」
簡単な挨拶が終わったパーシーが士堂に声を掛けて、二人は荷物とともに暖炉に消えた。
孫を見送った後に士柳が玄関の扉を開ける。そこには何もいないが誰かがはいったのを確認するかのように時間を置き、扉を閉めてから声を掛ける。
「相変わらずですな、ダンブルドア。教え子の見送りはよろしかったので?」
そこにはダンブルドア校長が立っている。苦笑しながら士柳と道子に話しかける。
「フム、今回は自信があったがの、ダメじゃった。二人とも久しいの。元気そうで何よりじゃ。」
道子が用意した緑茶と和菓子に舌鼓を打ちながらダンブルドア校長が士柳と談笑する。
「ホグワーツでは東洋のお菓子はなかなか手に入らん。東洋風のこの茶も飲めるやもしれんが大変での。」
「これは私らもめったに食いやしません。こんな時の為にと常備して、日がたってから余りを口にするぐらいですよ。日本はまだ遠いままです。」
大福を口に運び、ほのかな甘みを味わいながらお茶を飲む喜びを味わいつつ、やんわりと士柳が話を進める。
「今日はそんなことを話しに来たわけではないでしょう?」
そういわれたダンブルドアはピッと姿勢を正して士柳に向き合う。実力者が備える威厳を肌で感じる士柳は身震いを感じた。
「今回の賢者の石についてはわしらに不備があったことを伝え、謝罪しに来た。」
頭を下げる校長に士柳が問いかける。
「そちらの不備、とやらは?」
「お孫さんを巻き込んだことじゃ。これは計画には入っておらん出来事じゃった。」
「詳しく聞きましょう。」
そういった士柳に校長は今回の全体像を説明した。
「そも今回は賢者の石を狙う輩をあぶりだし、ハリーを成長させる意図があったのじゃ。」
「何と?」
話を聞きながらダンブルドア校長の発した言葉に思わず聞き返す。
「知っての通り、ハリーは狙われておる。ダドリー家におれば安全じゃが、それでは魔法について知るすべがない。ホグワーツはわしがおるから他よりも安全じゃが、それもいつまでかわからぬ。」
「なればこそハリーには困難に立ち向かう術を学ぶ必要があった。これはハリーのための仕掛けだったのじゃ。一年生でも突破は可能な仕掛けでハリーに学ばせつつも、賢者の石を狙うやつもおびき出せる。」
そこまで言うと目線を下げて、校長が話す。
「じゃが上手くいかんかった。わしはホグワーツから離れるスキを作り、ハリーのもとに駆け付けるのが遅れた。駆け付けたときは二人とも気を失っておった。一歩、いや半歩間違えとったらわしらはあの時と同じく葬儀場で顔を合わせることになっとった。」
「では士堂は想定外、だったとでも?」
短い士柳の問いは、とげを帯びてダンブルドアに突き刺さる。
「まあ、そうじゃな、うむ。本来はハリーが単独で突破することを想定しておった。むろん友人が手助けしても問題はなかったが、そこに士堂は入るとは思っていなんだ。」
「では、元凶のクィレルとやらは?」
「そこが大問題じゃ。」
校長は大きくため息をついて頭を抱えた。まるで自分の力のなさを悔いるように。
「怪しいと感じてはおった。挙動不審なところは学生時代からあったが、立派な人間ではあった。
じゃがホグワーツに闇の魔術に対する防衛術の先生候補として面接した時、闇の魔術に触れた痕跡が感じられた。本人は吸血鬼探しのためといっていたが、疑念は晴れぬ。
そこでわしの目の届く位置で監視しようと考えたのじゃ。」
「よもやヴォルデモートが憑依していたとはわからなかった。考えなかったわけではないが、ここまで大胆に潜入するとは。
憑依したのは魂か魔力かの相性が良かったからだと推察しておるが、これがもっと戦闘経験が豊富なものに憑依しておったらわしらも危うかった。」
自らの見落としに肩を落とすダンブルドア校長に道子が話に加わってきた。
「このことは他の人たちにも話しておられるのですか?」
「全員ではないが、御友人の両親であるウィーズリー家とグレンジャー家には話しておる。ウィーズリー家は知っての通りこういうのには耐性があるが、グレンジャー家は正真正銘のマグルの家系じゃ。会って話せねばなるまい。幸い寛大に許してくれたのじゃ、ありがたいことに。」
士柳はじっと考え込むように目を閉じていたが、やがて絞りだすように話す。
「私らは士堂の保護者です。あの子が平穏に暮らすことを望んでおりますが、それがかなわぬことも覚悟しております。」
「おそらく、ヴォルデモートがことを起こしたということは平穏に暮らすことは無理でしょう。士厳のこともありますゆえに、あの子も巻き込まれるのはハリーの友人である以上は必定。」
古くからの友人の言葉は保護者というよりも、魔を断つ代行者としての言葉でもあった。そこにある悲壮な覚悟は、歴戦の勇士でもある学校長にはわかってしまう。
「この年になって少ない友人にこんなことを話させるとは情けない、稀代の大魔法使いが聞いてあきれるわ。」
その覚悟にこたえるかのように、手をとって誓う。
「わしも、君たちを悲しませるようなことを起こさせないことを約束しよう。君らの孫はわしらがしっかりと育てて君たちのもとに届けて見せようぞ。」
時間がたち、ダンブルドア校長は玄関に立って別れの挨拶をしている。
「今度会うときはいい話がしたいのお。先が長くない仲なのでな。」
「全く本当ですよ。今度はそちらのお菓子をお願いします。」
士柳の言葉にうなずきながら、ダンブルドア校長は跡形もなく消え去った。
時系列的には賢者の石と秘密の部屋の間。
ダンブルドアは事件について説明するんじゃないかと思って書きました。