砲撃とミサイルの雨がジオンの艦隊へ襲い掛かる。
ジオン側の指揮官が素早く対応したようだが、こちらは不意打ち。回避や防御の出来なかった軍艦が沈んでいく。
『駄目です! パプア級とグワジン級の撃沈は確認できません! 沈んだのはムサイ級だけです!』
コクピットの中でクルーの絶叫を聞く。どうやら砲撃班は絶好の機会をドブに捨てたらしい。
しかし最低限の仕事はこなしたと言える。これからはMS戦だ。ザクの数は少ない方がいいからな。
『MS隊出撃! 目標は前方の敵艦隊の撃破! 失敗は許されない。それを心に刻んで行け!!』
艦長直々に俺達へプレッシャーをかけてくる。
ベテランなら兎も角、俺らみたいな新入りには結構きついぞそういうの。
おまけに戦場への恐怖で手が震えている。俺が戦場へ向かうのは今回で二回目だ。そして一回目で俺は死にかけた。そのせいかトラウマとまではいかなくてもどこか戦場へ向かうことへの抵抗を感じている。
それでもそんな我儘は許されない。俺は軍人なのだ。ここで戦わなくちゃいけない。
……くっそ、誰だよ
心の中で軽口を言っても心は軽くならない。というかむしろ重くなった。
そうこうしていると誘導の兵士が俺に合図をする。出撃の時間だ。
ジムをカタパルトに乗せる。カウントが始まり、そして―――――翔んだ。
△▼△
―――話は幾分遡る。
『しかし、我々はルナツーの防衛を―――しない。我々は別の作戦行動をとることになった。』
はあ?
おいおい、どういうことだよ。まさか逃げるっていうのか?
『現在ジオンの艦隊がルナツーへ向かっていることは知っているだろう。』
当たり前だろう。逆に知らない奴がいるならそいつの面を拝みたいくらいだ。
『これからの戦争はMS戦が主流になる。はっきり言って現在の連邦の艦隊はあまり役に立たないだろう。どれだけサラミスやマゼランが優秀でもザクには敵わないからな……。―――しかし、だからこそ我々は別行動をとり、奴らに艦隊戦を仕掛ける。』
待て、言ってることがおかしいぞ。艦隊戦は意味がないと言って艦隊戦を仕掛けるって何言っているんだ?
『この戦いは普通に考えればルナツーの内部へ敵をおびき寄せ撃破する、表層の砲門と戦艦の砲で相手を打ち落とすなど様々な方法がある。しかし、今あげた方法、いやおそらく今から上がるであろう方法はMSを主としたものになる。そうなれば我々が圧倒的に不利だ。仮に有利だっとしても相手へ損害を出すことができない。それでは駄目だ。ここで奴らを叩き潰さなければまた侵攻を企てるだろう。制地権を得たとしてもそれでは意味がない。』
艦長はそう言って続ける。熱に浮かせるわけでもなく、諦観にまみれ、諦めたわけでもなく。
『さて、作戦の方だがマゼラン級五隻とサラミス級が八隻とコロンブス級が一隻さらにネルソン級四隻、後はアメリゴ級駆逐艦十二隻とプリンス・エンリケ級ミサイルフリゲート艦が二隻だ。で相手の後方にいるであろう艦隊旗艦とその護衛の撃破だ。手順だがありったけのミサイルを敵艦隊に打ち込んだあと、こちらの戦艦と軽巡洋艦全てで突撃。MS隊は敵MSの撃破が役目だ。敵艦の攻撃を邪魔させないようにしろ。以上だ。』
▼△▼
宇宙は光で溢れている。普段は真っ暗で真っ黒な世界は目が痛くなるほどの光で一杯になっている。
それに目を奪われながらビームスプレーガンの引き金を引く。ビームはザクの装甲を容易く貫き光を生み出す。
現在の戦況は連邦優勢だ。意外だと思うかもしれないが連邦優勢だ。
やはりMSの性能で上回ったのが大きいだろう。流石はガンダムの量産機。ザクなど敵ではないな。既に俺だけで六機撃墜できた。
『レン、そろそろ終わるんじゃないか?』
ジムの一機が接触回線で話しかけてくる。少し身構えたがどうやら部下だった。少し損した気分だ。
部下に促されて周りを見ると沈みゆくジオンの艦隊が目に入った。
ジオンの艦隊深くへ切り込んだ連邦軍艦隊はルウムでの悪夢を晴らさんと言わんばかりに次々と血祭りにあげていく。抵抗しようとしても艦の性能が違う。旧式戦艦を改造したものなら兎も角、輸送船や客船を改造したものでは元々の土台が違う。意味もなくただ塵に変わっていく。
『そろそろ帰投しませんか? こちらの任務は完遂したと言っても過言ではありませんし。』
もう一人の部下が近づき、俺に意見を言う。確かにもう俺達の出番はないだろう。MSの反応はなく、敵艦もほとんどが殲滅された。他の部隊も帰投を始めている。
少し拍子抜けだが帰投しようか。
『よし、俺達も―――』
『少尉! 繋が――いま―か!?』
? ナイチンゲールからか…? しっかしミノフスキーが濃すぎて何言っているのか分からないな……。
『―ナツ――面からの―援部隊が接近してい―す! 迎撃を―願――ます!』
そう一方的に言うと回線は途絶えた。同時に敵がどこにいるのかという情報が送られてくる。肝心の内容は途切れ途切れだが何とか言いたいことは理解できた。
『どうしたんだ? 何かあったのか?』
『ああ、問題発生だ。敵の増援が来る。 二人ともエネルギーと推進剤は大丈夫か?』
『俺は問題ねえぜ。そっちは?』
『僕も大丈夫です。』
『よし、行くぞ。他の連中に後れを取るわけにはいかないからな。』
△▼△
俺達が指定されたポイントに到着すると既に戦闘は始まっていた。
そこには援軍を加えたジオンの艦隊と連邦軍の艦隊がぶつかり、その周りでは艦隊戦を邪魔させないようにMSが戦闘をしていた。戦況はギリギリ五分五分といったところだろうか。
『隊長! 何ですか!? アレ!?』
新兵の方の部下が半狂乱になって示した方には凄まじい勢いで連邦のMSを駆逐していくジオンの新型がいた。
なるほどな……MS開発が早いのはジオンもか…。スカート付きの重MSで思い浮かぶのはただ一つ。
「リック・ドムか…。これはまた厄介な…。」
ゲルググまでのつなぎとして量産された機体だが、その性能はピカイチだ。
分厚い装甲のせいで重量が増加しているにも関わらず、スカート下と脚部に設置されたロケットエンジンのおかげでその推進力はザクⅡの高機動型にも匹敵する。操縦も比較的容易であるためつなぎでありながら一年戦争中ジオンの主力として戦場で活躍してきたMSだ。
新型ということもあり、搭乗しているのはおそらく手練れだろう。
『どうすんだよ! レン! このまま行ったら全滅だぞ!』
『分かってるさ……。しかしなぁ……。』
不味い。何も手がない。今のジムの性能じゃあカモも良いところだ。……せめて後衛がいればマシなのだが。
そう考えていると回線がつながった。後ろの方らしく機体を回頭させるとガンキャノンが三機こちらへやって来ていた。
『おうい、レン。繋がってるか?』
『! カロッソか! 丁度いい、援護を頼む!』
『勿論だぜ。俺達のガンキャノンじゃあ後衛しかできないからな。』
△▼△
戦場は混沌としていた。敵味方が入り乱れ、銃弾とビームが飛び交い、時折眩い光が生まれる。
さっきまでのお気楽な雰囲気は何処えやら、本当の戦場が此処にはあった。
ドムは僅か9機ほどだが、やはり高い練度を持つパイロットが操縦しているらしくいい動きをしている。
『近づくなよ! あいつらの機動力はジムよりも上だ!』
『ビームをばら撒け! ひるむなよ!』
先に戦闘をしていた小隊の隊長達が無線で指示を出していく。それに従い、距離を取って応戦する。
ドムの主武装はジャイアント・バズであり、対艦用装備だ。ジャイアント・バズに関わらずジオンの武装の多くに言えることだがでかくて遅い的を狙うことを前提としているため如何せん弾速が遅い。そのためある程度距離を取れれば避けることができる、避けることはできずとも盾を構えて防ぐことはできる。しかしこれは一定の練度がなければ成り立たない。お世辞にも練度が高いとは言えない連邦のパイロットには難しい話だ。その証拠として気が付けば隣にいたMSが鉄屑に変わっていく。
爆風の音と危険を知らせるアラームが引っ切り無しに鳴っている。奥歯がカチカチ言って五月蠅い。
恐慌に負け、発狂しないように引き金を引く。
しかし、当たらない。奴らは嘲笑うかのように攻撃を避けていく。
ああ、奴らの声が聞こえてきた。幻聴だなか? それにしては嫌にリアルだ。奴らの笑い声が聞こえるたびにイライラが募っていく。
「ふざけるなよ…! 忠義面した戦争屋がぁ!」
気が付けばそう声が出ていた。レバーを思いっきり前に突き出し、戦列から外れる。
他のパイロットの絶叫するような声が聞こえるが知ったものか。
スプレーガンでは意味をなさない。ならば―――!
『なあっ、接近戦だと!』
『あいつ馬鹿だろ! っていうか誰だ!?』
『レン! 戻れ! 死ぬぞ!』
―――サーベルで接近戦を挑むのみ!
確かに今のジムの性能ではリック・ドムに敵わないかもしれない。
しかし、相手の機体も早期の完成。ならば元々よりも性能は低いはずだ。
青色ではないドムの一機が片手でジャイアント・バズが火を噴く。器用なものだ。
しかし、ジャイアント・バズは両手持ちの武装。片手での正確さなどたかが知れている。
バズーカの弾をそのまま無視し、直進する。予想通りバズーカの弾はそのままジムの横を通り過ぎていく。
「そこだッ!」
すれ違いざまにサーベルでドムを裂く。分厚い装甲を持つはずだが、容易く両断される。大量に残ったプロペラントに火が付き断末魔を上げ爆散する。パイロット達の歓声が回線を通じて喧しいほど聞こえてくる。
『まだだッ! まだ相手は残っている。油断するなッ!』
気が付けばそう叫んでいた。戦場の熱気のせいかかなり荒々しい。しかし、それは俺だけではない。
士気の上がった連邦兵が次々と突撃する。盾と飛び道具を捨てるような短気な奴は流石にいないが、それでもかなり積極的に攻撃を始める。
しかし、ジオンも負けていない。武器を構え、攻撃を始める。
さて、ここからが大詰めだ。油断するなよ、俺。