マゼランの砲が火を噴き、近くのパプア改を火達磨にする。
圧倒的な戦闘力を誇るマゼラン級と正面から撃ち合えるのは二隻のグワジンくらいだが残念ながらここには私の搭乗する一隻しかいない。
「アクィラ炎上! エルヘブンはもう駄目です!」
「ダナン・グー、応答せよ! ……駄目だ。やられたか…。」
オペレーターの絶叫が艦橋を木霊する。あれだけ優勢だった戦況から一変して劣勢になっていた。
まさか、大回りして後方から攻撃を仕掛けてくるとはな……。予想外とはいえ被害が大きすぎる。後方にいる艦隊はグワジン級戦艦が一隻、チベ級重巡洋艦が三隻、ムサイ改級軽巡洋艦が四隻、ムサイ級軽巡洋艦が七隻、パプア改級輸送補給艦改装空母が一隻、パプア級輸送補給艦が二隻だ。既にムサイは大半が沈み、パプアは炎上して空母としての役割を果たしていない。真面に戦えているのは私の乗るグワジンとチベくらいだ。
軍艦の能力に差があることは分かっていたがここまでとはな……。
「そんな、アルテナが一撃で……。」
比較的無傷だったムサイがマゼランの一斉射で爆沈する。
負けじとこちらもメガ粒子砲を放つが、マゼランの装甲を貫通するには至らない。ただでさえ装甲が分厚い上に対ビームコーティングも分厚いため碌なダメージを与えることができない。狙うならサラミスだが高いスピードを生かして乱戦に持ち込んでいるため狙いをつけるのが難しい。
頼みのMS部隊が連邦のMS部隊によって妨害されている以上、このまま艦隊戦をしていても意味がない。
『おい、マクリシミアン! 聞こえるか!?』
『―将!? どうし―――――! 戦況はど―――ている――すか!?』
くそっ、向こうはミノフスキーが濃すぎるな……。だが時間がない、伝えることは伝えてしまわねば。
『いいか! 後方の艦隊はもう駄目だ! 足止めをしているが無理だ! 艦の性能が違いすぎる! このままではルナツーの本隊と後方からの別動隊の挟み撃ちに合う! そうなれば我々は全滅し、目的を果たすことができなくなるッ! ここは撤退するのが正しい手なのだろうが、我々に撤退は許されていない…。そこでだ! うわっ!』
『――!? 中―――ッ!?』
凄まじい揺れが艦を襲い、通信が切断される。この振動は……上からか!
「連邦のMS部隊か……! こちらのMS部隊はどうした!?」
「全滅はしていません。しかし、かなりの損耗です。前衛部隊からの援軍も足止めを受けており……。」
「援軍は可能なら前衛に戻らせろ! ただでさえ我々の数は少ないのだ。余計な被害を出さないことを第一として行動させろ!」
「りょ、了解!」
さあて、ここからどう動いたものかな……。
△▼△
ザクのコクピットをサーベルで貫く。動力炉を破壊されたザクは爆発することなく、機能を停止する。この戦いの間だけでもかなりの数をこなしたせいか、かなりスムーズにザクを仕留めていく。
その時だった。ビーーッ! ビーーッ!と警告音が鳴ったのだ。
不調か…? 勘弁してくれよと思いながら計器を確認するとどうやら推進剤が切れかけているらしい。
仕方ない。宇宙で推進剤が切れれば動けなくなってしまうからな。
『隊長、推進剤が切れそうなので一旦帰投します。』
『レン、俺もだ。済まねえが帰投するぜ。』
どうやら部下たちも同じらしい。丁度良い。全員纏めて帰投してしまうか。
『いや、俺も推進剤がヤバい。一旦補給を受けに行くぞ。』
俺がそう言うと元気そうに了解と返って来る。彼らのジムは返事の元気さとは裏腹にかなりボロボロだった。
射撃戦をしていた彼等でこれなら俺の機体はどうなってるんだろうか……。まあ、自業自得なんだけどさ。
隊列から離れ、後方に位置するナイチンゲールへ帰投する。後部デッキは開いており、直ぐに着艦できた。
『再出撃にはどれくらいかかる?』
「これだけダメージがあれば15分はかかりますね……。それまでパイロット自身の補給でもしておいてください。」
俺が近くに来た整備兵に聞くとどうやら相当時間がかかるみたいだ。仕方ない、少し疲れたか休憩にしよう。確か直ぐ近くに
▼△▼
「あーー……。疲れた……。」
「あの、いくら何でもだらけ過ぎですよ……。」
「おい、いくら何でもだらけ過ぎだ。戦闘は続いているんだぞ。」
「そうですよ。隊長もそう言ってますよ少尉。」
「別にいいじゃねえか…。今は休憩するのが任務だぜ? じゃあ、こうやってるのは間違いねえさ。」
「15分後にはまた戦場だぞ…。そんな調子じゃあ殺されちまうぞ……。」
学生の休憩時間を思い出した。同年代でついこの前までは学生だったことと15分という非常に短い時間のおかげかくだらない話題に花を咲かせた。テスト前と同じ感覚だった。どうしようもないことから現実逃避するあの感じだ。少し前までは熱に浮かされていたため理解出来ていなかったが、少し冷静になった今ならはっきりと理解できる。敵を殺した、仲間を殺された。名も知らぬ有象無象ではなく、顔と声を知っていた。訓練を一緒に行った程度の関係だがそれでも頭から離れない。俺が殺したパイロット達も同様だろう。顔も、声も分からない断末魔しか知らない彼等だが、俺達と同じく誰かと関わり、生きていた。
戦場での死は正にふっと消えるという言葉が当てはまる。この世界に来る前にも人の死は体験している。
しかし、戦場の死は勝手が違う。違い過ぎる。電子音が鳴った瞬間、人間が一人消える。
選考基準などなく、死神の気まぐれであの世への直行便へ乗せられる。
考えれば考えるほど、戦場への抵抗が生まれる。部下二人も同様だ。明るい声で誤魔化しているが腕が震えており、顔色が悪い。
『アマキ隊、補給と応急修理が終わりました! 再出撃してください!』
アナウンスが入り、補給と修理が終わったことを知らされる。
それを聞いた後、頬を叩き、気合を入れる。
そうだ、まだ戦闘は終わっていない。怯える時間ではないのだ。
絶対に生き残る。まだ死ぬ気はないのだ。
「よし、行くぞ。……二人とも、絶対に生き残るぞ。」
そう俺が言うと彼等は、勢いよく首を振る。まあ、当たり前だろうな。死にたくないのは皆一緒だ。
▼△▼
再び戦場へ出たが戦況は連邦優勢へ傾いており、あれだけ自分を追い込んだにも関わらずかなり拍子抜けだ。
ジオンは何でか守りを固めており、攻めあぐねているが遅かれ早かれ全部沈むだろう。
『マジかよ……。こんなことなら別に再出撃しなくてもよかったじゃねえか。』
『そうかもしれないが俺達は軍人だ。戦場で戦うことが仕事だからな。』
と言うが実際のところ俺達は必要ないだろう。
援軍は何でか、引っ込んでどこかへ行ってしまった。残っている奴等は多少腕が立つが数が少ないので連邦の物量で十分押し切れる……はずだ。
『少尉! アマキ少尉! 聞こえているか!?』
『艦長? どうしたんですか?』
『ジオンの奴等がルナツーへの攻勢を強めたらしい。 どうやら目の前にいる連中は俺達の足止めが目的だ。だから戦艦の火力で薙ぎ払うつもりだが……。』
『……多分、無理ですよ。いや絶対無理です。遠くから見ているから分かります。ジオンのMS連中、艦にピッタリくっついて離れませんよ。それに腕が良いからMS部隊を下げたら、逆にこっちが防戦一方になっちまいます。』
『だろうな……。少尉、前線部隊に早く終わらせるように通達を頼む。ここからだとミノフスキーの都合で上手く通信ができん。勿論前線へ参加することも忘れるなよ。』
『了解です……。』
はあ、憂鬱だ。
仕方ない。指名を食らった以上、頑張るとしますかね。