黒いザクが凄まじいスピードで接近する。
そのスピードは凄まじく、青いリック・ドムよりも早い。
―――だが、しかし何故奴は大気圏スレスレを這うようにして進んできているのだ?
MSは大気圏突入能力を備えていない。
だから少しでも下へ動けば消し炭になること間違いなしだ。よって奴の回避行動は自然と限られていく。
それに俺達は奴よりも上空に位置することになり、地の利を失っている。
上から降り注ぐ弾丸を回避することは難しい。
距離を取ってやり過ごすのが一般的だが、大気圏スレスレではそれができず、こちらに向かってくるしかない。
しかし物量差は勿論、低練度とはいえ接近すれば射撃は当たりやすくなる。
だから下へ下がることはどうしようもない下策のはず……。
『何を考えているのか知らないが……! 散開しろ! その後は蜂の巣にしてやれ!』
『ジムが牽制する! しっかり狙えよ!』
『『『『了解!!』』』』
俺とカロッソが部下へ指示を出し、一斉射を行う。
ビームと砲弾が一直線に黒いザク目掛けて襲い掛かる。
―――それと同時にザクの姿が掻き消えた。
いや、違う、消えていない。マシンが錯覚するほどの加速をしただけだ!
「って! どういうことだ!? いくらR型でもそこまで早くないだろうに!」
バルカン砲も使い、弾数を増やすが欠片たりとも意味を成さない。
六機からの集中砲火をここまで巧みに躱すとは流石エースというべきか。
『止まるなよ! 同時に離れすぎるな! 一人で止まったら死ぬと思え!』
『止まるなって言われても……! うわっ!?』
そうしていると後方からの攻撃を受け、ジムの一機が中破する。
攻撃された方向からMSが三機やって来る。
どうやら敵エース側の援軍だ。
『!? 少尉! 動けるか!?』
『……駄目だ…! バックパックがやられて満足に動けない…!』
クソッ……! 不味いな……。増援は期待できないうえに増援までやってきやがった。
あのエース一人でも手に余るというのにこれ以上増えられたらどうにもできないぞ……!
『レン! 増援は俺達キャノンが相手する! だからお前達ジムはエースの相手を頼む!』
『カロッソ!? キャノンじゃ無理だ!』
『なあ、レン!! 俺は、そんなに信じられないか!?』
『ッ!?』
『確かにお前に助けられてばかりだったかもしれない! でも俺だって強くなった! それに俺達は友人だろう!? 少しは、頼ってくれよ!!』
『……何言ってるんだよ。ずっと、頼もしいって思っているさ……! 分かったよ!! 頼む、カロッソ! 俺達がエースを抑える! だから―――!』
ずっと、頼もしく思っていた。
知ってるか? 俺だって心細かった時があったんだぜ?
気楽に付き合える、学生のノリが通じるお前がどれだけ頼もしかったか分かるか?
……本当にいい友人だよ。
"レン・アマキ"ではなく、"俺"も胸を張ってそう言えるくらいには。
『ああ! 任せておけ! お前たちは来るなよ! レンの援護を頼む!』
『『りょ、了解!!』』
そう言ってカロッソが機体を加速させ、敵MSに突撃していく。
重装型とついているはずなのにかなりのスピードで加速し、あっという間に距離を詰めていく。
『隊長…? カロッソ少尉は大丈夫なんですか……?』
『あいつが大丈夫って言ったんだ。なら信じるさ。』
二等兵が不安を吐露する。
確かにその心情は理解できた。
でも、あれくらいの数は勿論、更に増援が来ても乗り越えるはずだ。
『二等兵! 少尉を母艦へ連れ帰ってくれ! 満足に動けない以上流れ弾で殺られる! キャノン二人は援護頼むぞ!』
『『了解!』』
部下たちが俺の指示に威勢よく返事を返す。
それを聞いた俺はエンジンに火をつけ、黒いザク目掛けて突っ込んでいった。
△▼△
カロッソは高揚していた。
新しい機体での出撃での出撃、友からの信頼。
様々なものが一体化し、彼の戦意はかつてないほど高揚していた。
目前に迫る機体は全てザクⅡ。
特に目立った改修は施されておらず、パイロットの腕前が多少良いという位だろう。
ザクが手に持つマシンガンの引き金を引き、銃口が火を噴く。
三機からの集中砲火。通常のガンキャノンならこれだけでスクラップと化すであろう攻撃。
しかし、其処にいたのは唯のパイロットと機体ではない。
攻撃を巧みに回避し、よけきれない弾はシールドと装甲で防ぐ。
軽快な動きだった。とてもガンキャノン、それも重量の増加した重装型とは思えないくらいには。
攻撃を回避しながらビームライフルで正確に射撃を放つ。
放たれた光線は二条。どれも寸分たがわずザクのコクピットを貫通し、鉄屑へと変える。
最後の一機が仲間が殺されたことに動揺せずヒートホークに持ち替えて接近戦を挑む。
中遠距離の砲撃戦を十八番とするガンキャノン重装型にとって接近戦とは鬼門である。
とは言ってもそれは唯のパイロットの話。
カロッソは十分手練れと言える技量を持っていた。
年若くとも実戦を経験し、ここまで生き残ってきたことは伊達ではないのだ。
盾を用いてヒートホークの斬撃を防ぐ。
高熱を帯びた斬撃はシールドに食い込むが、完全に両断することは敵わず途中で攻撃が止まる。
勿論、その隙を逃すはずもなく、強烈な蹴りを見舞う。
超重量の鉄塊の高速の一撃を受け、ザクの装甲はひしゃげ、後ろへ吹き飛ばされる。
吹き飛ばされている間は当然、無防備であるためコクピット目掛けてビームライフルを放つ。
妨げるものが無い以上、ビームはコクピットに吸われるように進み、機体を貫き、爆散させる。
一瞬の攻防、そして決着。それを終えた彼は仲間たちが戦う場所へ戻っていく。
「さあて、あっちはどうなっているんだ……?」