機動戦士ガンダム 宇宙の渡り鳥    作:青色のラピス

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第二十五話

相手は動かない。

しかし、逃げ腰という訳ではなく、俺が動けないように牽制を忘れてはいない。

 

動きたい、動くべきなのだろう。

だが駄目だ。

説明は出来ないが……何かこう、動いた瞬間に両断されるし、こっちもできるという状態に陥っている。

 

集中もまた極限。センサーや直観が伝える情報に敏感に反応し、体力を削っている。

体力の低下は俺自身の能力の低下を起こし、何もしていないのに勝手に負けそうになっている。

 

余りの可笑しさに笑いが出そうになるが、笑って目線を外した瞬間に切り捨てられそうだと考えればそんな気の緩みが吹き飛ぶ。

 

高熱源反応だと? ……後ろからの反応、つまり援軍か?

パトロール艦隊でも来たのか。

 

「数で勝るのなら……!」

 

レバーを前に倒し、一気に全速力で接近する。

構える武器はサーベル一本のみ。

後ろから来たということは後方支援に徹するつもりだろう。

そっちの方がやり易いからな、お互いに。

 

相手は急に現れた増援に驚いているのかこちらへの注意が、一瞬だけ逸れている。

 

―――だから防御が一手遅れる。

 

そしてその一手が致命傷を呼ぶことになる。

相手の機体の前で、思い切り遠心力を付け、両断する。

 

例えシールドで防御しようも真っ二つになる程まで威力を高めたのだ。

当然、防御も回避も許すことなくゲルググは上半身と下半身が分かたれる。

 

……何て呆気ない結末だろう。

 

しかし、仕方が無い。

戦場というものは、こういうものなのだ。

 

『……誰かは分からないが、助かった――って何もいない、だと……!』

 

 

レーダーにMSの反応どころか人体の反応すらない。

メインカメラを動かし、()()をようやく発見した。

 

「まさか、これか……? この、ガンキャノンのビームライフルが飛んで来たっていうのか!?」

 

方向からして、ナイチンゲールだ。

まさか、カロッソか……?

俺が苦戦していることに気が付いて、こんな援護を?

 

「情けないな……。」

 

この戦場で主兵装をこんな形で使わせてしまうとは……。

 

「―――って待て待て! あいつかなりヤバいぞ!!」

 

すかさず脳裏によぎったのは、MSの残骸。

 

―――不味い、非常に不味いッ!!

 

『カロッソ、無事か!?』

 

幸い、ミノフスキーはまだ薄い。

レーザー通信は問題なく使える。

 

『ああ、無事だぜ! レン、そっちはどうだ?』

 

返ってきたのは何時もと変わらない友人のものだった。

 

……よかった、どうやらまだ死んで無かったみたいだ。

これで死んでいたら目覚めが悪いなんてものじゃないからな。

 

『連絡が来たってことは終わったのか?』

 

『ああ……お前のお蔭でな。……そっちもそうなんだな?』

 

『全機撃墜は無理だったけどな……。』

 

カロッソはそう言って気を落す。

しかし、あれだけの数から艦を守るのみならず全機撃墜を狙うとは……。

本当に頼りになる男だ。

 

……と、その前に帰投だな。

引いたということは軍艦の砲撃戦になる。

そうなればMSは帰投できなくなるからな。

 

―――いや、待て。今凄く嫌な予感が走ったぞ!?

 

 △▼△

 

「MS部隊が壊滅、だと……! 新型の撃墜もできていないのに……!?」

 

メディウス中佐は艦橋で呻き声を漏らす。

その動揺は艦橋全体に広がり、ざわめきを起こす。

 

「まさか、ゲルググ三個小隊が壊滅するとは……。」

 

「……不味い、不味いぞ。このことがギレン総帥に知られたら……!」

 

士官たちの呟きが零れ、メディウスの耳朶を叩く。

そのつぶやきが更なる動揺と焦燥を呼び、普段ではありえない決断を誘導する。

 

「……核だ……核ミサイルを使う!! 核ミサイルで纏めて破壊してしまえ!!」

 

「な、正気ですか! 核を使う、その意味を―――「うるさい!! 上官の命令に疑問を持つなァ!!」

 

核を使うと宣言したメディウス中佐に流石にそれは駄目だと一人の士官が諫言するも、殴り飛ばされてしまう始末。

そして他の士官たちも止める素振りを見せず、中佐の命令は再び下される。

 

「砲兵班に通達しろ! 今すぐ核ミサイルを使ってあの軍艦を吹き飛ばせとな!」

 

 ▼△▼

 

俺の嫌な予感は的中した。

チベから一発のミサイルが発射された。直感で理解した。

 

―――あれは核だ。

 

核ミサイル。爆発すれば俺達だけじゃなくてコロニーも巻き込むことは明白だ。

ライフル駄目だ。バルカンも駄目だ。

誘爆して辺り一面、ぶっ壊してしまう。

 

ならばサーベルで叩き切るしかない。

 

「着弾位置予測……! 信管の位置予測……!」

 

ジムのコンピューターは優秀だ。

俺が瞬時に入力した情報を基に最適解を算出する。

 

……要求されていることはアムロ・レイだ。

 

だが彼よりは難易度が低い。

まず、追い付く必要はない。こちらに向かっているのだから。

次に、数は一つだ。続けざまに二度も奇跡を起こす必要はない。

 

「ジム……。ガンダムの成り損ないよ……お前が、お前が命を救うために生まれたものなら、ここで! 今此処で! 人を救って見せろ!!」

 

漫画で見たことがある。

テム・レイの台詞だ。ガンダムは少年を殺さないためのものだと。

アニメで見たことがある。

心優しき少年の台詞だ。人が造ったモノなら、人を救って見せろと。

 

だから。

 

「―――跳べ、ジム!!」

 

奇蹟の一つくらい起こせるはずだ。いや、起こせる。そんな気がする。

 

 △▼△

 

「位置予測は完璧だな。」

 

カメラ越しの肉眼で視認できる位置にミサイルがある。

凄まじい速度で動いている。

その動きに合わせて、いや一手早く機体を動かす。

 

何もかもがスローモーションだ。

脳内麻薬が暴走し、現実を真面に認識できていないのかもしれない。

しかし、都合は良かった。

 

振り下ろされるビームサーベル。

限界まで威力を引き下げ、誘爆の危険性を減らしている。

それでもプラズマを放つ熱線の威力は凄まじく、鋼鉄の管を切断する位は簡単にできる。

 

交差は一瞬の事だった。

本来なら混乱と緊張で吐きそうになると思っていた。

だが、どうしてか俺の頭の中はすっきりしていた。

 

()()()()()()()()()()()()()()一瞬、頭の中を走ったような気がしたが、直ぐに眼前の状況に意識を割かれて直ぐに立ち消えていった。

目の前にある核弾頭を無力化する、それだけに思考を奪われる。

たった一つの目的のためだけにレバーを動かし、MSに命令を下す。

 

……始まるまでは、大仰だったがいざ終わってみると呆気ないものだ。

 

そんなことを俺は無力化され、無重力を泳ぐミサイルを掴んでそう思った。

 

『―――アマキ少尉、聞こえるか!? 早く帰投しろ! 核弾頭が爆発したらこちらもタダじゃ済まないぞ!』

 

「艦長の声……ああ、そういえば言って無かったっけ。」

 

ミノフスキー粒子が今は薄いが、ここは戦場。

レーザー回線が使えなくなる前に帰投した方がいいな。

 

……それはそれとして、この核弾頭をどうしたものかなぁ。

 

 ▼△▼

 

「馬鹿なァ……そんなバカなことがあり得るか!? MSが核弾頭を無力化するなぞ、あり得るかぁ!?」

 

艦橋でその艦の艦長―――メディウス中佐が慌てふためいた声を響かせながら狼狽している。

とても佐官に相応しくないみっともない様子だが、それを指摘する者は誰もいなかった。

 

ガンダム頭のMSが核弾頭をビームサーベルで無力化した、その光景を見て誰もがみな驚愕していたからだ。

 

「なぜだ、何故だぁ! 何故連邦のパイロットのあれだけの芸当ができる! そもそも正気か!? 核弾頭が誘爆する可能性の方が高いのだぞ!?」

 

「……まさか、『NT(ニュータイプ)』なのでしょうか? 噂では連邦のニュータイプが地上で同じ芸当をしたとか。いや、それではなぜ連邦にニュータイプが組する? ジオン・ダイクンの提唱したテーゼでは我らスペースノイドの進化の道だったはず。スペースノイドとアースノイドの聖戦であるのなら、連邦にスペースノイドは存在しないはずなのに……。」

 

「ええい、そんなことはどうでもいい!! ゲルググを十機失った挙句、核攻撃も失敗だと……!? くそ、不味い。このままではギレン総帥に殺されてしまう……。」

 

ギレン・ザビの恐ろしさを骨の髄まで叩き込まれているメディウス中佐は自分の未来を想像して、ガタガタと震えている。

周囲に居る士官や佐官も他人事ではなく、口にこそ出さないがどうしたものかと顔を白黒させている。

いっそのこと脱走して宇宙海賊にでもなるかと考えているといやに冷静な一人の士官が声を発した。

 

「―――いやぁ、杞憂ですね。いくらギレン総帥とはいえ将兵の粛清を簡単にはしませんよ。虐殺と粛清が十八番なのはキシリアの女狐だと思いますよ?」

 

場にそぐわない物言いは注目を集め、艦橋にいた全員がその若い士官を見ていた。

印象が薄く、パッとしない風貌の男だがメディウス中佐だけはその人物に気付いていた。

といっても数分前に忠告を受けただけの理由であるが。

 

「お、お前……何を言っている。仮にも佐官である私と士官でしかないお前にギレン総帥の心中が分かるものか……! 気休めも大概にしろ!」

 

「いや、確かにそれはそうですけど……ですが、私の肩書を知れば違うと分かりますよ。一応これでも閣下の親衛隊ですから。ほら、この徽章は閣下の親衛隊のものですよ。」

 

親衛隊という言葉に目を見開かせるメディウス中佐。

ギレン・ザビの忠実な配下にして、周囲の護衛から秘匿任務を行う部隊。

主のせいか、純粋な親衛隊ではなくギレンの私兵という側面を持つ。

 

「……親衛隊が何の用だ?」

 

「いやぁ、中佐が任務を真面目にするのかの判断ですよ。戦況が停滞し、人心がジオンから離れつつある今なら監視役はいるでしょう。あなたたちが本当に離れるなら対処しましたが……今回は重要なことが見つかったのでわざわざ口出しをすることにしました。」 

 

「重要なこと……?」

 

「ええはい。まあ、単刀直入に言いますが……メディウス中佐。あの連邦のパイロットを捕獲しましょう。そうすればギレン総帥とて納得するでしょう。」

 

「何……?」

 

思いもしない提案に思わず疑問を抱くメディウス中佐。

理解できないのは仕方がないと、若い士官は子供に諭すように艦橋にいる将校に延命策を伝える。

 

「ジオン、ひいては総帥閣下はニュータイプ研究に熱心だ。耳の速いあなたたちなら知っているでしょう? ニュータイプの戦争利用を。それにニュータイプというだけでも利用価値はある。何せニュータイプは数が少ないんですよね。幾らでも使えるニュータイプ、欲しがる人はどれだけいますかねぇ。」

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