「ああ、くそっ!!」
被弾を知らせる警告音と恐ろしいまでの揺れが俺を襲う。
被害は……どうやら左腕とシールドがスクラップになったな。後はバランサーもイカレたか……。
俺が被害を確認していると前方から指揮官機用のブレードアンテナをつけたザクが一体突っ込んでくる。
「接近戦か…! ならば…!」
ガンキャノンの時では手も足も出なかったが機動兵器のジムならば……!
ビームサーベルを抜き、切りかかる。向こうの振ったヒートホークとぶつかりプラズマがほとばしる。
パワーは……互角…! ならば、鍔迫り合いに意味はない。
ザクを蹴り飛ばし、距離を取る。そして向こうが体勢を直す前に接近する。
バランサーがイカれて真っ直ぐ進むことも難しい。
しかし、そこまで距離が離れていなかったため直ぐに接近できた。
向こうがもう一度振り下ろそうとする前にサーベルをコクピット目掛けて突き刺す。
ビームで構成された刃は容易くザクの装甲を貫く。いくら装甲が厚くても意味がない。ビーム兵器に壊せないものなどないのだから。
△▼△
「いやあ、見事ですねえ。少尉。シミュレーターとはいえS型を倒すなんて。腕上がりました?」
シミュレーターを出ると外にいた技術士官が声をかけてくる。
彼の言う通り(機体がガンキャノンであったとはいえ)今までは通常のザクⅡにも苦戦するありさまだった。
そんな奴がいきなりS型を倒したとなればこうも言われるだろう。
「まあな。……前回の作戦の二の舞はごめんだからな。」
「実戦では無茶しないでくださいね。少尉のジムは貴重ですから。」
「分かってるさ…。そっちこそ機体の整備はしっかりしといてくれよ? 急造とはいえ結構欠陥が多いぞ。」
「……耳が痛いですね。とりあえず了解しましたよ。」
▼△▼
「よお、レン。」
「? ああ、カロッソか。どうしたんだ?」
シミュレーター室から出て個室へ戻る途中、カロッソが声をかけてきた。
今からシミュレーター室へ行く途中なのだろうか?
「いや、最近互いに忙しかっただろ? 少し、駄弁ってかないか?」
言われてみればそうだったな…。作戦で全滅しかけたり、小隊の隊長になったりと結構大変なこと続きだ。
おまけに部下二人は階級こそ下でフレンドリーかつ取っ付き安いが年上のベテランだからな。
愚痴を言ったり、アホみたいな会話もできなかったし丁度いいな。
「そうだな。
△▼△
休憩室はあまり広くない。中にジュースや煙草、軽食類の自販機があるくらいだ。
喫煙室はないのか?という質問が来るかもしれないが、実は意外と喫煙可となっている所は多い。それだけ空気清浄機の性能がいいのか、倫理観がおかしいのかは分からないが……。
因みに俺もカロッソも煙草は苦手だからこの情報は結構ムダだったりする。
どうやら先客が一人おり、ジュース片手に黄昏ている。
「……おい、あいつどこかで見なかったか?」
カロッソがそう言って、指をさす。
……確かにどこかで見たことがあったけ…。
「……ああ、前の作戦で生き残ったやつ、ってあれ?」
カロッソの疑問へ答えようとするとそこにカロッソはおらず件の男のところにいた。
しかもフランクに挨拶までいている。
記憶ではコミュ力と行動力がある奴だと分かっていたがここまでとはな。
……上官だったらどうするつもりなんだろう。
「よう。どうしたんだい? そんなに黄昏てさ。」
「ええと、あなたは?」
まあ、そりゃ困惑するよな……。
いきなり初対面の奴にグイグイいかれたら誰でも驚くからな。
「おい待てカロッソ。いきなり行ってもそういう反応しか返ってこないに決まっているだろう。……失礼しました俺はレン・アマキ少尉です。こいつはカロッソ・ケリィ少尉です。」
「ああ、ご丁寧にありがとうございます。僕はオルガ・コーウェル少尉です。僕も少尉で同じ階級なのでそんなに丁寧じゃなくても大丈夫ですよ。」
「そうですか、いやそうか。じゃあオルガと呼ばせてもらおう。お前も俺達のことはレン、カロッソと呼んでくれ。」
「ええ、レンそれにカロッソ。……ところで何の用があったんですか?」
「いや、何か悩みがあるのかなーって思って声かけただけだぜ。」
「悩みですか……。いえ、特にありませんよ。」
「嘘つけよ。……なあ、お前MSパイロットだろ? それに最近小隊の隊長になってなかったか?」
「そうですけど……。なんで知っているんですか?」
「俺達も一緒だからだよ。あの作戦の数少ない生き残りさ。」
オルガは目を丸くした。
まあ、俺達の母艦はナイチンゲールで確か彼の母艦はシラヌイだったからな。
母艦が違えば普通は顔合わせなんてしてないからなぁ……。それに唯一の機会はもうお通夜だったし……。
「そうですか…! ではあなた達も小隊の隊長に…?」
「そうだな。俺のところは部下二人は階級こそ下だけど年上のベテランだな。結構頼りになるぜ。」
「へえー。レンのところはそうなのか…。俺なんて二人とも階級も年も下の奴ら、つまりは少年兵だな。まあ、学生気分が抜けてない以外は結構いい奴等だと思うぜ。……ってどうしたんだよ。オルガ。そんなに泣きそうな顔してさ。
「いえ、なんでもありません……。」
「いや、どう見ても泣きそうになってるじゃないか……。」
「そうだぜ、何かあるなら言ってくれよ。相談相手くらいにならなれるぞ。」
その後も何でもないというオルガと何かあるんだろうという俺達の言い合いは続いた。
なんで続けていたのかは単にお互い意地を張っていたからだろう。
十年後の未来の俺がいたら「若いな……。」とでもいうような光景だった。
「実は……、ですね…。」
根負けしたのかオルガが自身の境遇を語る。
▼△▼
「そもそも今回の人事が一体どういうものかあなたたちは分かっていますか?」
俺とカロッソは首を横に振る。
正直面倒くさいなーくらいの感想しかない。
だって手当変わらないし、階級変わらないし、仕事増えただけだし。
「今の連邦に時間は残されていません。宇宙基地はルナツーのみ。地球の約半分はジオンの勢力圏下にあります。……最近は各部隊の活躍で切り返しているところもありますが、ごく少数です。
「この不利な状況を挽回する方法はただ一つ。MSの普及を進めることだけです。」
「連邦はジオンにあらゆる面で上回っています。」
「資源、人員、艦艇の性能、生産拠点など上げていけばきりがありません。しかし、数少ない我々が劣っているものがある。MSパイロットの練度と数です。」
「だから私たちは一刻も早くMSパイロットを増やさなければいけない。しかし、そのノウハウを持っていない。」
「なので我々に白羽の矢が立つことになりました。ある程度の操縦技術を持ち、一回だけとはいえ実戦経験を持つ僕たちが教官役としての。」
「つまり今回の人事はMSパイロットを増やすためのものです。僕ら以外にも隊長になった人結構多かったでしょう? 彼ら全員MSパイロットですよ。」
「そして現在の連邦の宇宙軍主力は戦闘機のセイバーフィッシュⅡとMSのガンキャノンです。現在の割合としては戦闘機であるセイバーフィッシュⅡの方が上ですね。そんな訳で現在上層部は必死こいてMSパイロットへの転向を進めているんですよ。」
「そんな訳で中には部下ができた人には部下が上官だ、という事例が結構あるんですよ。僕もその一人です。」
△▼△
傍から見れば俺とカロッソはさぞかし微妙な顔をしていただろう。
いや、上官が部下になったって聞いたことがねえよ……。
見ろよカロッソの顔…。
殺せ〇せーみたいなことになってるぞ…。
ちくしょう、何ていったら良いのか分からねえ……。
「それで僕の部下なのですがバラス・メグラサ大尉とエドワルド・ジェーン准尉ですね。」
パラス・メグラサ大尉って戦闘機でザクを墜としたエース中のエースじゃん……。
っていうかオルガの目がドンドン死んでる…。
その後もオルガの身の上話は続いた。
部下が訓練を真面目にしない、嫌がらせが酷い等々。
時間にして僅か30分もなかったが、体感として2、3時間はあったと思う。
「うおっ! どうしたんですか隊長?!」
「いや……。部下があなた達でよかったなあって。」
「「いきなりどうした?!」」
少しばかり次の日の訓練を少しばかり優しくしたら驚かれた。解せぬ。