偽ギル様のありふれない英雄譚   作:鼠色のネズミ

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【幕間】兵器、星を詠む

何の前触れも無く、■は生まれた。

何も感じず、ただ■は命を持って立っているのだと理解った。

手も足も図体もヒトでは無く、ただ破壊する為だけに作られたモノ。名もなければ心も持ち得ない。

そのくせして生まれついてから得た物は何もなく、有るのは作られた五体。誰かの意思で誕生を果たした命ある泥人形。

誕生を果たした途端に流れ込む――創造主の思考

 

自身を拒絶した人の王、その保険。

 

人族が発展し過ぎぬ為の

 

万が一自身の本性が暴かれた時の為の破壊装置。

 

それが■なのだと瞬時に理解った。

 

 

「何故話さん!?貴様には知性が無いのか!?」

 

 

創造主は僕を見てそう言った。申し訳が無いけれどこの言葉はその時に理解できなかった。

あるのは君から貰った体だけ、■は君が望んだ通りだけど力以外は何も持って生まれられなかったんだ。

 

 

「知性も無い者に使徒など出来るかっ…!この失敗作が!」

 

 

創造主は■を失敗作と呼んだ。

途端――脳に走る言葉

 

壊せ

 

簡略的な唯一つの命令

壊す?何を?どうすれば良い?

試しに足で創造主の隣を侍るヤツを踏み潰した。驚愕に顔を染めたまま、ソイツは「壊れる」

 

なるほど、これが「壊す」と言う事か

 

 

「■■■■――!!」

 

 

やったと、創造主に報告の声を上げる。■の声は分からないとは言え、きっと命に従った事は分かるだろう。

しかし、創造主の感情は――憤怒

何故?分からない、■は命令に従っただけなのに。どうして主は怒るのだろう?

再び命令が下る。全く同じ「壊せ」と言う命令

 

 

「■■■■■――!!」

 

 

壊す、壊す、壊す

両足両腕を全力で振り回し、大木の如き双角で目の前に有る物を全て。

■の同類が、意思を持った仲間が■によって「壊される」

創造主は何故そんなにも怒りの声を上げるのだろう?命じたのは君自身だと言うのに

 

 

「■■■■■――!!」

 

 

命令は止まず変わらない、ならば■は命令に従うだけだ。

多くの同類が■に纏わり付く。構わない。叩き潰して、踏みつけにして、一つ残らず壊す。

剣や槍や魔術が■の肌を裂こうとする、同じ創造主から生まれた武具。傷付けられる道理は十分に有る。無我夢中で泥から武器を創造した。

 

 

「ッ!アルヴ!コイツを――落とせ!」

 

 

剣が■を裂く、槍が何本も突き刺さって鎖が何十に■を雁字搦めにする。

力が、魔力が、抜け落ちて行くように感じる。それでも命令に逆らうことは出来ず、鎖をも破壊しようと喚く。

壊せと言う命令が下ったまま、創造主は何かを言う。土塊の剣が創造主の右腕を掠め、隣の男の右足を刎ね飛ばした。壊す命令は未だに続いている。

 

それなのに…■は――地へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

声が聞こえる。

 

鳥が、植物が、人が、生命が謳う声。

小さく儚くとも確かに温かなそれは、酷く優しいと思った。角に小鳥が止まる、足元に狗が寝そべる。

脳を甲走る破壊衝動は鳴りを潜め、呆然と意思ではなく本能で生物達を愛でた。道具であろうが兵器であろうが、意思を持たずとも生きている上で、本能は必ず消えはしないモノなのだ。

 

 

「■■■……」

 

比較的に穏やかな時が動く。■は生き物の巣の様に、母の様に、創造主から切り離された森の中で過ごした。

傷を癒やす様に、失った力を取り戻すように、大地と共に呼吸する。

兵器である■に食事は要らない。生命としての活動は空気中に漂う僅かな魔力で十分事足りた。

 

壊せ、その耳鳴りが響く迄は。

 

 

 

 

「■■■■――!!」

 

 

 

壊す、壊す、壊す、生きていても死んでいても関係なく壊す。

無機物も有機物も区別なく壊す、ただ意思も感情もなく命令に従って砕き続ける。それが自身が産まれた理由なのだから。傷も不調も関係ない。■は兵器なのだから使い潰されて当然だ。

 

安寧は一刻にも満たなかった。

 

体の右が裂かれた。新しい二足歩行の生物が自分に鉄を突き立てる。智慧を持った霊長類、人という名を持ったそれだけ。壊す事の障害には成り得ない。

多くの人が■を取り囲むようにして、鉄の武器を必死に振り回す。しかし無意味なのだと

 

一人、踏み潰した

一人、弾き飛ばした

一人、刺し貫いた

 

確実に人が破壊されていく、■を止める術は無い人々。

鈍らな鉄の塊は幾度も自分の体に突き立てられるが、止まる要因には成らない。

途端、金の武具が飛来した

 

肉を裂かれる感覚、確実に神経を走る不快感

その感覚に気を悪くしては一際声を張り上げて啼く。

 

 

「ふん、雑種風情が一丁前に吼えるでは無いか」

 

 

金色の武具を放ったと思われる者は、惜しがる素振りも見せずにその姿を現す。黄金の甲冑に黄金の髪、そして液体の金の中に二粒落としたかのような紅の目。後に嫌という程見て、嫌という程美しいと感じる事になる顔。

体から溢れ出る気色や雰囲気はただの霊長類では無い。生物として、人として頂点に君臨する「王」。

それが彼の印象だった。飛来する武具は数をどんどんと増やし、■の至る所へ突き刺さる。

土塊から作り出した武器で黄金を相殺するが、一つの槍が捌けずに互いに突き刺さろうとする。

 

王はその槍を別の槍で弾いた。

土塊の槍は真紅の三叉槍に弾かれ、地に突き刺さった刹那に形を取らぬ土くれに戻る。

■は避けようと躰を翻したが、如何せん図体が巨大なので横腹に刺さる。

 

 

「■■■――!?」

 

 

その直後に起きる驚愕の啼き声。

自身に例えその槍が刺さろうとも問題は無いと、何処か■は余裕を持っていた。しかしその余裕が覆されたのだ。

黄金の飛来した槍は躰を揺り動かして引き抜く、途端に目に映ったのは夥しい出血。

その槍に籠められた術の一つかと最初こそ思ったが、思えばコレより高位の剣で斬り付けられた時には皮膚も裂けなかった。

 

それは創造主が付けた傷だった。

 

創造主が斬り、貫き、絡め取ったこの体には、弱点と言う物が浮き彫りになっている。

創造主が触れた場所はこの体の分厚い皮膚の装甲が剥がれ、触れただけで筆舌し難い痛みを伴うようになっていた。

武具が飛来する。何とか相殺する。

 

そのやり取りは何日も続いた。

 

王は様々な武器を持っていた。その一つ一つは、誰もが喉から手を出して欲しがるようなモノにも関わらず、使い捨てられる様にこの体に投げ付けられる。

 

世界を始原に戻すような海嘯や、炎を吹き出す剣、熱という概念を知る事の無い空間。

どれもが目を見開く様な、素晴らしく有り得ない武器だ、そして最後には一つの剣が抜かれる。

 

 

「目覚めるが良い――エアよ」

 

 

螺旋塔の様に、三つの大小が違う円柱が重なった武具。剣と呼ぶには刃がなく、槍と呼ぶには短すぎて、弓とは外見が掛け離れすぎていた。

力が収束を始める。剣を中心として

空気中の粒子が吹き荒れ、王の右手に携える剣に集まっていく。目も開けられない様な力の奔流、まだ振り下ろされもしない発動の前夜に植物が根から打ち倒れて行く。

 

 

「我が至高の剣を敬拝する栄誉をくれてやろう」

 

 

その声を起点に、蓄えられた力の奔流が解き放たれる。

視界が赤に染まる。たったの一振りで作られた力場、其処に■の頭は捕らえられていた。

根本から頸が折れて行く音、図体が大きくとも意味はない。この王を壊すにはもっと軽量化して……表面積を小さくすれば……

壊すにはどうすれば良いかに対する本能的な変化。

頭がヒトのモノへと変化し、手足五体もそれに応じる。

 

その姿のまま、王に向かう途中

 

時が止まったような錯覚を覚えた。

 

辺りはゆっくりとした速度で動く。

戦いの余波で舞う葉も、王の体から滴る血も、自分自身が振り上げた拳すらもが遅い。

王はあっさりと後ろへ跳び、拳を避ける。そして取り出された歪な心臓を模した布地、それが無防備な躰の胸に刺さる。

 

 

「■■■■――!?」

 

 

叫ぶ、そうせずにはいられない。

頭を、躰を走る膨大な情報量。喜び、悲しみ、怒り、一口に言えない複雑なモノ。感情と名付けられるそれが■の……僕の中に走っていく。

人は何故喜び、悲しみ、怒るのか、その理由が多く多く絶えずに流れ、注ぎ込まれた。

そして――入り込む王の記憶

 

 

王は人と神の血を引き、世を治める為に産まれた。

 

生まれついた時から、王であらねばならないと、自分を戒め育っていく。

 

そして知る――神の正体

 

神と人を分断せねばならない。その大命を誰にも知られる事なく抱え、人を導く

 

産まれして得た、莫大な力。

 

王は、本当の意味で孤独だった

 

 

その記憶に、僕は憐れまずには要られなかった。

君から貰った感情と、思考で、一丁前にそう同情する。

君は、多くに慕われて多くに頼りにされて……

 

終わろうとしている、それでも戦いの最中だと理解っている。

 

なのに、僕は彼の事を想わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

場面が移り変わる。

■は僕となっていて、樹木が一片たりとも存在しない人工的な場所。王の宮殿だ。

僕にはエルキドゥと言う名が与えられ、(ギルガメッシュ)の元で暮らしている

でも僕は、どうしてギルガメッシュが此処まで僕を大事にしてくれるのか分からなかった。

 

 

「どうした?エルキドゥ、何を悩んでおる」

 

 

毅然とした態度のまま、ギルガメッシュが僕の側に座る。

黄金の髪が揺れ、紅い瞳が僕を覗き込む。既に時刻は深い夜となっていて、僕の部屋には僅かなオレンジ色の蝋燭が一つ揺れているだけ。

何の前触れも無くやってきた彼だけど、それが彼の人間性だと既に分かっている。

 

 

「君は、何で僕に良くしてくれるんだい?」

 

「ほう?と言うと?」

 

 

彼はまるで僕の言ってる事が分かんないみたいに興味を浮かべた。

 

 

「君に迷惑を掛けて、君の大事な国の人を殺して、そして僕は君の大嫌いな神が生んだんだよ。君を殺すために産まれた兵器なんだよ。君に恨まれはすれど、良くされる理由なんて無いだろう?」

 

 

一息にそう言うと、何だか口が乾いて水が欲しくなった。

前までは魔法で水を出して飲んでいたけれど、彼に見られた後に怒られて今はしていない。彼が言うには室内での歩き飲み食いは駄目なんだと言う。

 

 

「戯け」

 

「あうっ」

 

 

そんな中身のない思考をしていると、彼が突然人差し指で僕を小突いた。

反射的に意味を持たない言葉を発する自分に、変な人間らしさを感じて可笑しな気持ちになる。

 

 

「良いか?エルキドゥ、我は貴様に良くしている覚えは無い」

 

「でも……僕に名前をくれたり心をくれたじゃないか」

 

「戯け、名が無いと呼べぬし、心は我に要らぬモノだからな」

 

 

そう言って彼は黄金の波紋の中から一つの盃を取り出して一口含んだ。

甘酸っぱい柑橘類を主体とした芳醇な香りに、唾液が急激に作られていくのを感じる。

 

そう言う彼からは、僅かな嘘が見える。

 

僕に剣じゃなくて、優しい目線を向けてくれて

僕に槍じゃなくて、優しい手を差し出してくれて

僕に弓矢じゃない、優しい言葉を投げてくれた。

 

そんな事をしてくれるのに、良くしないなんて無理が有るよ。

 

 

「それになエルキドゥ、お前は兵器では無い。自ら善悪を考え、良し悪しを自分で持つ。それを我等は人と呼び、人と人との間で共に歩む者の事を――親友(とも)と呼ぶのだ、エルキドゥよ」

 

 

親友と呼ぶのか、この僕を

君から何もかもを貰っておいて、あまつさえ君に何も出来ない僕を共に歩む者と。

やっぱり君は――

 

 

「ギル」

 

「何だ?エルキドゥよ」

 

「君は――星みたいな人だ」

 

「……それは褒め言葉と取って良いのか?」

 

「勿論だよ、僕の精一杯のね」

 

 

 星

「星の数ほど」と言う形容詞が有るように、数えても数えても尽きないモノ。

一つ一つに違う明るさ、色を持って空を飾る。暗闇に響くような一等星も、一見して無くても変わらない六等星も、全部全部、君に良く似ているんだ。

空を飾る星は全てが全て美しく、一つ無くとも誰も咎めないけれど、決して手は届かない。

 

そして――旅人は道に迷わない様に星に名前を付けた。

 

時を経ても、場所が変わっても、決して動かずに誰かを導く星。

 

 

人は――それを北極星と呼ぶ。

 




エルキドゥ「ちょっとだけエヒトに傷を付けたよ」
偽ギル「マジナイス」

エルキドゥって可愛い…可愛くない?何で無性なんだろ…
Twitterで見かけたギルエル漫画で二次エルキドゥに脳を侵食されつつあります。
このままだとこの作品内でエルキドゥは「天然怪力腹ペコ系無性」になります()

エレちゃん、イシュタル様を出す方法が有るのですが…弱体化します。それでも良いですか?

  • 私は一向に構わんッ!
  • 判らぬか下郎、出さなくて良いと言ったのだ
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