偽ギル様のありふれない英雄譚   作:鼠色のネズミ

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王、来訪者を知る

揺れている。

 

ぐわんぐわんと、波を打つように上下左右に激しく揺れている。

地震かと思い、逃げようと思ったのだが体が重い。まるで重石を括り付けられたかのように身動きが取れない。

体を嫌な汗が覆い尽くし、不快感が動揺に混ざる。何が起きているのだと頭を悩ませた途端に、声が聞こえる。

 

 

「起きろ〜!ギル〜!今日はピクニックの日だぞ〜!」

 

 

男とも女とも付かない中性的な美しい声。甘さと爽やかさをしつこくない位に混ぜた、形容の難しい温かい香り。

ぼやけた意識が覚醒し、我に抱き着きながらベッドを揺らす緑髪の人が見える。

……もしかしなくてもエルキドゥだ。

 

 

「あっ、起きたんだねギル。」

 

 

そう言って無邪気に笑う親友にほんの少しだけ可愛いと言う感情を抱く。

しっかりしろ我、此奴は無性だぞ……あれ、有り寄りの有りでは?

まあ嘘だが、そんな馬鹿げた茶番的な思考を持ちながら体を起こす。

 

今日は、何年ぶりかの休日だ。

 

ギルガメッシュの体となってから、幼少期以来の完全な丸一日の休日。勿論、なにか緊急の事が有れば休日は返上だが、大抵の事はシドゥリが正しい判断をしてくれる。

だから、もしも休みが潰れるとするのならエルキドゥみたいなのが再来する事くらいだ。

その事をエルキドゥに話した時に、エルキドゥがピクニックに行きたいと言い出したので、前から約束したのだ。

どうやら遅く起きてしまった様で、エルキドゥが起こしに来てくれた。

 

 

「すまんな、我とした事が」

「構わないよ、僕も少し早起きしすぎたみたいだ」

 

 

そう言って伸し掛かったエルキドゥが横に避けて、体が幾分か楽になる。

生前は寝っ転がる事にすら憧れていたベッドから起き上がり、伸びを一つする。無駄に豪華な天蓋を掻き分けて我は絶句した。

 

まだ陽も昇っていない時間帯だった。

 

懐かしい記憶で、清少納言が言っていた「春は曙」の丁度曙の時間帯。民達の家では早起きな商店の人々も恐ろしい程少ない。

……恐らく時間帯は4〜5時と言った所か

 

 

「エルキドゥ、我に何か言うことは無いか?」

「あっ……おはよう、ギル」

 

 

違う、そうじゃない。挨拶は確かに大切だけどそうじゃなくて。

そう言おうとすると、エルキドゥが我のベッドにもぞもぞと入り込んで……何してる?

 

 

「はぁ…はぁ…ギルの匂い…」

「今度から部屋に鍵掛けるぞ」

「扉を壊せば良いんだね?分かるとも」

 

 

そんな軽口を叩き合うと、コイツも遠慮がなくなって来たなぁと思う。

宮殿に来て最初の方こそ、遠慮してご飯も食べなかったりしてたのに、今じゃ大分自由奔放になっている。これが元来の性格なら好ましいが。

 

 

「ごめんよ、そう言うのは冗談でね。僕のよりギルのベッドの方が大きい気がして」

「そうか?同じ物だと思うが」

「い〜や、絶対大きいよ。僕のヤツこのスペース無いもん」

 

そんな意味のない会話をしていると、次第に部屋の中が明るくなってきた。何時の間にか日は昇り、小さいながら日の光が差し込んでいる。

我のベッドに頭を突っ込んだ体勢のエルキドゥを引き摺り出して、着替える為に部屋から少しの間追い出す。「僕は気にしないよ」じゃなくて、我が気にする。

 

 

 

結局、我とエルキドゥはギリギリ人が起き出す時刻に出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すやぁ……」

「うむ、絶対こうなると思っていたぞ」

 

 

宮殿で飼っている中で、最も靭やかで美しい白銀色の馬。その上でエルキドゥはしがみつく様に眠っている。

あんなにも早起きするから眠いだろうなぁ。と思っていたら案の定と言うべきか、すっかりと眠ってしまっていた。馬の上は快適という事は無く、ただ座っているだけでも振動が来て体力を使うのだが、エルキドゥを思ってか馬は平らな道を選んでいる様だ。

我はエルキドゥが起きない事にはどうしようも無いので、馬を手で引いて歩く。

気分は張り切って家族サービスをした父親が、行きの車で眠っている家族を見ている気分だ。

 

興味を強く含んだ民達を残して景色は少しずつ、しかし確実に移り変わっていく。

そんな光景は長々と続くが、数時間で人はだんだんと減って、遂に我達を見つめる人は居なくなって木々が人の代わりに我達二人を見つめる。

ピクニックに行きたいと言い出した本人は、未だに目を覚まさないが、開放的な空気を吸っていると来て良かったと思う。ミスが許されない職場でギリギリに生きていると尚更だ。

 

 

「もう良いぞ、大儀であった」

 

 

馬からエルキドゥを下ろし、馬にそう言って宝物庫内に導き入れる。

人の言葉を馬は知る事が出来ないが、王の言葉も感じ取れぬ程、この馬も愚かでは無かった。

エルキドゥを抱え、宝物庫の中からシートを取り出して地面に敷く。そしてその上にエルキドゥを寝かせる。

暇なので森の中を適当に散策する。濃い土のにおいや、葉を踏み付ける乾いた音を楽しみながら歩いていると緑色の髪がみょんみょんと、動いているのが見えた。何時の間にか一周してしまった様だ。

 

 

「起きていたか、エルキドゥ」

「ギル!?駄目だよ、もう少しどっか行ってて!」

 

 

エルキドゥが起きていたなら、そろそろ弁当でも開こうと思っていたが、何かタイミングが悪かった様で戻るのを拒否られる。しかし悲しいかな、この付近は殆ど歩いた。

手持ち無沙汰とはこの様な事を言うのだろうか。

 

あまりにも暇なので宝物庫に適当に手を入れて色々と出してみる。

 

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』と呼ばれるギルガメッシュの宝具は、殆どの財宝や宝具を収納する能力が有る。

公式では、宝物庫からモノを取り出す時は、何を取り出すかを明確にイメージする必要があるし、ギルガメッシュ自身も完全には中身を把握していないと言う。

だから取り出す時には前世の記憶にある、宝具の姿を思い起こしているのだが……

 

 

「マジか……普通に出たぞ」

 

 

素の口調が出る程驚き、思わずそう呟いて出したモノを見る。

名前がうろ覚えの船の宝具。モーターボートみたいな近代のモノではない、帆船。確か本当にちょっとだけ使ったサーヴァントの宝具だった。

とは言え、移動手段としてはヴィマーナが有るので恐らく死蔵される事になるが、割と出るものは出るんだと分かった。

こんな立派な帆船を死蔵するのも惜しい気はするが、物理法則を無視した飛行が出来るヴィマーナが優れすぎているのであって、船が劣っている訳では無い。

 

 

「そろそろ()いか」

 

 

そう思って再び、エルキドゥの元へと戻る。

船を宝物庫内に押し込み、歩き出すと考えるのは不思議と執務の事ばかり。そんな自分が少しだけ可笑しく、まるでワーカーホリックだと自嘲する。

大して舗装もされていない原始的な道が、酷く雰囲気的で心を落ち着かせる。

 

 

「エルキドゥ、良いか?」

「あっ、ギル今度は遅いよ」

 

 

エルキドゥの緑色の髪は少し乱れていて、額が僅かに湿っている。何かをして汗をかいた様だ。

森の中とエルキドゥと言うのは酷く絵になる。近付けば飛び立ってしまう小鳥がエルキドゥの肩の淵に立ち、ふわふわとした触り心地のリスが足元で丸くなっていた。

 

 

「じゃあギルに問題ね、僕は何をしてたと思う?」

「それまた急だな…暫し待て」

「残念!惜しいね、ギル」

「まだ何も言ってないが」

 

 

答えさせる気のないエルキドゥの八百長問題を非難し、隣に座った。

我が居ない間に何が有ったかは知らないが、エルキドゥは上機嫌な様子で我の目の前に近付くと両手を広げた。

 

 

「プレゼントだよ、花の王冠!」

 

 

エルキドゥが我に差し出したのは、野花が規則無く、葉が輪っかの形を取った被り物。所謂花冠だ。

良く良く見れば形は結構歪つで、我の手に渡った時に花が落ちそうにもなった。器用な者が見れば、良い出来とは言わないだろう。それでもエルキドゥの誇らしげな顔を見ていると、あまり出来の事は気にならなくなる。

 

 

「良く出来ている、器用なのだな。エルキドゥ」

 

 

お世辞が何割か入ってるのは、百も承知だ。

だが友が作ったモノに対して出来栄えを求めるのは違うだろう。作って貰ったと言う事が大事なのだ。

穏やかな時間が流れる。リスを撫ぜたり鳥に菓子を分けたりして、精神的な疲労がだんだんと和らいでいく。

ギルガメッシュになってから数年、もしかしなくとも最も楽しい時間だ。

 

 

『王よ、御耳に入れたい事が』

 

 

だから、突然の伝達は嫌なのだ。

シドゥリの連絡用に開けていた王の財宝から声が響く。少しビックリして、エルキドゥとその場で10センチ程飛び上がる。

 

 

『何事だ、大筋で良い』

 

『はい、畏まりました』

 

 

連絡を寄越したシドゥリ。

余程の事で無ければ処理してくれると言っていたので、恐らくその「余程」が起きてしまったのだろうか。

声は逼迫している様子がないが、シドゥリが動揺を悟らせない様にしているのかもしれない。

 

 

『先程、神託が下りました。内容は魔人族と人間間の戦争、それの勝利の為にこの星より上位の世界から多くを喚ぶと言うものです』

『中々に壮大だな、既に喚ばれたか?』

『まだです、ですが間もなくと思われます。教会側は王と面会を望んでおられるのでご連絡致しました』

『分かった、すぐ戻ろう』

 

 

嫌な日に重なってしまった物だ。ギルガメッシュの幸運値は【A】とかなり高い部類な筈なのだが……まあ運が良いと言うだけでは回避できない事もあるだろう。

花冠を宝物庫の中にしまって立ち上がると、不満そうにエルキドゥが我を見上げる。

 

 

「むぅ……折角のお休みなのに仕事かい?」

「止むを得んな、エルキドゥも戻るぞ。帰りはヴィマーナだ」

「お弁当は帰ってから食べよっか」

 

 

怒らないどころか、不満も言わないエルキドゥは本格的に聖人な気がする。

ニコニコとした、優しさを昇華して聖母の域に達した笑顔で、リスや小鳥と別れを告げる。その姿が酷く絵になっている。

 

――少しだけ、良いか

 

そう思い、リスの丸々とした尾を撫ぜているエルキドゥを見て心を和ませる。

 

途端、景色が歪んだ。

生まれてから二度目となる眼の暴走。

 

 

眼に映った景色は、近代的だった。

鉄鋼の高層ビルが立ち並び、農民が極端に少ない。

その一箇所、切り開かれた場所へと視線は移る。

 

――学校か

 

そう知覚すると、視線は高速で移動し、教室の中へと導かれる。

一人の黒髪の、覇気のない少年。

赤髪の小悪人とその取り巻きに責められ、黒髪の少女に振り回される。お世辞にも楽とは言えぬ生活。

教室が突如として光り、一人も残らず消えるが視界だけは残る。

視界に映し出されたのは、少年の持ち物と思われるスマートフォン……そこに映るのは…

 

 

(オレ)。いや、ギルガメッシュだった。

 

 

 

 

 

「ギル?大丈夫かい?」

「王よ、ご無事でしょうか」

 

 

気が付けば我は王宮へと戻っていた。

眼が酷く痛む。例えるのであれば、真水に顔を付けて目を開いた時に感じるような染みる様な痛さ。

首を振って部屋を二、三度見渡すが、我の部屋には何時も通り鉱物類と金銀の豪華な物で、規則正しく並ぶ机や簡素な床では無かった。

声を掛けてくれたエルキドゥと、シドゥリに軽く応じて光景を必死に思い出す。

 

現代、高校、教室、光、そして――ギルガメッシュ

 

「Fate/Grand Order」だ。あの画面は何度も、もはや日常の一部と言っても差し支えがない程に見た。

そして光が現れる前、教室には一面の魔法陣が描かれていた。これもまた見覚えが有る、今度はこの世界でだが。

……ここから導き出される結論なのだが、恐らくあの少年少女がエヒトに召喚されるのだろう。

 

だとしたら不味い、非常に不味い。

 

戦争の「せ」の字も知らない少年や少女が戦力になる訳が無い。ましてや、情操教育が行き届きすぎて、他国から「やり過ぎじゃね?」的な事すら言われてる日本だったら特に。

十数年、平和を恒久とする世界で生き続けた少年少女よりは、徹底的に訓練した兵や魔術の研究者の方がまだマシだ。ディンギルの普及が上手く行けば戦線も有利になる見込みだし、魔獣処理を上手い口実を付けて押し付けられない物か。

 

そう思慮の渦に入ろうとした途端、声が響いた。

 

 

「ご報告です!王よ、勇者様方が召喚されました!」

 

 

どうやら、我の幸運値は良くとも、今日の運勢は悪い様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 




アンケートは第六話投稿時に締め切ります

エレちゃん、イシュタル様を出す方法が有るのですが…弱体化します。それでも良いですか?

  • 私は一向に構わんッ!
  • 判らぬか下郎、出さなくて良いと言ったのだ
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